珍友*ダイアリー

管理人・珍友の書(描)いた詩や日記、絵や小説をご紹介☆

サークルの後期新歓会合&夏休み最後の日*

2006-09-29 17:07:07 | 今日の出来事☆
今日は13:00から、サークルの後期新歓会合がありました今のままでは、1年生が一人という危機的状況なので、ふんばらなければいけません一番動きやすい日の担当者になりました。ランチ会やケーキ会、まちあるきなど盛りだくさんです

明日から学校が始まりますずっと夏休みモードだったので、ユウウツです3年生なので、そろそろ卒論計画書も提出しなければなりませんできるだけ穏やかに日々を過ごせることを祈りつつ、がんばっていこうと思います

       (今日の天気:)

孤独を包む手

2006-09-29 16:54:14 | 詩…*恋・愛の詩*
ひび割れた指先に
染み込んだ血の雫
頬にこすりつけて思う
この手を君と繋ぎたい

荒れたままでいい
もっと近づけば
痛みと引き換えに 知れるものがある

君の悲しみの涙 そっと拭えば
乾いた僕の手を 優しく包んでくれた
顔を上げ 泣きながら微笑んだ
それぞれの孤独に すこしだけ触れた夜

Tomoky

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第二十四話

2006-09-29 16:51:02 | 第四章 おそまつな花火
4.おそまつな花火

「マナ、ちょっと来いよ。いーモン見せてやる」
 そう言って、太一はマナの病室の片隅に準備していた車椅子を押してきた。
「え、なにーーー?」
 マナは不思議そうに首を傾げたけれど、『いーモン』と聞いて、わくわくしている。
 午後八時5分前。消灯時間の9時まで、あと約1時間。マナは明日の出発にそなえて、ベッドで安静にしていた。
 太一はマナを乗せた車椅子を押しながら、そっと、病室を抜け出した。そのまま少し歩いて、海に面した大きな窓の前で立ち止まった。
「ついたよ」
「ここ?え、なんもないよ」 
 マナはまわりをキョロキョロ見回している。
「いいから。窓の方よく見て、もうちょっと待ってな。ちょっとビックリするかもしれないけど…しっかり見とくんだぞ」
 おれたちは、今夜のことを、あらかじめ医者や看護婦や他の入院患者たちに話して、了解をもらっていた。それでも、マナが突然目の前で花火を見せられて、ビックリしすぎないか、と心配していた。打ち上げ花火の大きな音に、マナの心臓が耐えられるか。それが不安だった。
 その時、ドンッという音とともに、夜空に大きな花が咲いた。
「うわぁーーーーーっ!?」
 マナは初めこそ驚いたが、すぐに目を輝かせた。ガラス越しのおかげか、通常の花火より少し小さいせいか、思ったより音が小さい。 
 火の粉が夜空に散らばり、次の花火があがる。次々あがる花火を、マナは車椅子から身を乗り出して、くい入るように見つめている。
「よかったな」
 おれは、マナのその顔を見るとほっとして、隣にいる鉄平に小声で話しかけた。今、おれと鉄平だけが、少し離れた場所で、マナにバレないように壁に隠れて、こっそりと様子を窺っている。
「うん」
 鉄平も小声で答えた。だが、その後、急に踵を返して走り出した。
「鉄平?」
 おれは驚いて、鉄平の後を追いかけた。

 鉄平は屋上にいた。おれが追いついたときには、屋上の鉄柵に手をかけて、黙って花火を見つめていた。
「マナちゃんの顔、見なくていいのか?すっごい喜んでたぞ」
 後ろから声をかけると、鉄平は顔だけこちらを振り向いて言った。
「いーよ。オレ、コレが言いたかったの。たーまやーー」
 再び花火に向かって、声をあげる。
「…お前、素直じゃないねぇ」
 はしゃいでいる鉄平を見て、苦笑した。
 おれたちより一回り小さい体で、昼間、すごい頑張ってたくせに。
 その時、夜空にひときわ大きな花が咲いた。おれと鉄平は、その花火に目が釘づけになった。
 息を呑むほど美しい、8発目の花火だった。
                                ≪つづく≫

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第二十五話

2006-09-29 16:50:38 | 第四章 おそまつな花火
 キャハハ
「スゴーーイ」
 澄んだ夜空に、空音の甲高い声が響く。ロケット花火を発射する度に、おれ達は歓声をあげた。細い花火は、パシュ―ン、という高い音をたてて、次々に、真っ暗な海に吸い込まれていく。
 おれ達は、マナの花火を見届けたあと、海辺で手持ちの花火をしていた。みんなで金を出しあって、コンビニで買った花火セット。花火を始める頃には、京一や刃も仕事を終えて、リズも京太郎を連れてやってきた。
「ビール飲むか花火するか、どっちかにしなさいよ」
 岩陰で1人、こっそりとビールを飲みつつ、片手で皆にあまり人気のない線香花火をしていたら、せいあに声をかけられた。
「じゃ、ビール飲む」
 そう答えたとき、線香花火の火の玉が、ポテッと落ちた。
「あ」
 かすかな明かりが消えて、辺りは真っ暗になった。
「もー。今から打ち上げ花火するから、武蔵、呼んできてくれってさ」
「なんでここにいるって分かったの」
「『どーせ、そこら辺で酒飲んでんだろ』って、ヨースケが。『せいあちゃんが行くと、武蔵、喜ぶだろーから』って」
「あ、バレバレ?」
 おちゃらけて笑うと、ふと気づいた。 
 こいつの声、顔が見えないと、余計、感情が読みとりにくい。
「あれーー?打ち上げ、ねぇぞー。あっ、ラウ、テメー、返せっ」
 岩陰から出て、みんなの方を見ると、マサキが打ち上げ花火の筒をくわえたラウを、慌てて追いかけていた。
「あーらら。ありゃ当分捕まんねーぞ」
 おれはラウにタバコを取られたときのことを思い出して、笑いながら言った。横を見ると、せいあも笑っている。
「せいあー、武蔵なんかと何してんの。こっち来なよー」
「うっせ、樹里」
「うん。じゃー、あたし行くわ」
「あ、待って」
 おれは、せいあを呼び止めて、岩陰から棒の花火を2本拾い上げると、
「せっかくだから一緒にやろーよ」
 と、言った。
 するとヤツは例のごとく、
「…何、そんな持ってきてんの。あんたネクラ?」
 と、しらけた声を突き刺した。
「ばかやろう」
 お前の名前の頭文字は、サドのSか。
 ちなみに、おれの名前の頭文字は、断じてマゾのMではない。

 100円ライターで火をつけると、花火は勢いよく火を噴き出した。
「ねぇ」
「ん?」
 せいあが隣で、自分の花火を見つめたまま、言った。
「あんた、なんでこの街に帰ってきたの」
「へ!?」
 思いがけない問いに、ちょっと考えた。 
 少し離れた場所では、みんなが思い思いの花火をして、はしゃいでいる。ラウは逃げ回るのに飽きたのか、今はもう、何も口にくわえていなかった。

                           ≪つづく≫

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第二十六話

2006-09-29 16:49:45 | 第四章 おそまつな花火
「別になんもない」
 考えてもこれといって思い浮かばなかった。ラウの姿をぼんやりと目で追ったまま、つぶやくように答えた。
 …生まれ育ったこの街に、帰ってきたのに、別に理由はない。3年前、この街を出ていったときと同じように。
「じゃー、お前はなんでここにいるんだよ」
 おれは、せいあの方を見て逆に聞いてみた。
 すると彼女も、少し考えて、
「ここが…好きなんだよね」
 と、下を向いたまま、ぽそっと答えた。
「え?」
 思わず聞き返すのと同時に、手から花火が奪い取られた。
「あっ」
 声をあげた時には、すでに、彼女は両手に2本の花火を持って、かけ出していた。少し走ったところで止まり、深呼吸をするように両腕を広げて、夜空を仰ぎ見ている。
 え、何、こいつ。照れてんの?
 もの言わぬ後ろ姿が、そう感じさせた。
 彼女の両腕の先から、オレンジ色の花びらみたいな火花がこぼれ落ちる。
 おれは、『なんか、CDジャケットの写真みたいだな』と思って、その後ろ姿に見とれていた。
 って、何だ、ソレ。誰だ、自分。
 打ち上げ花火の準備ができたらしく、太一が、おれとせいあを呼ぶ声で、我にかえった。

 花火を終えた帰り道、京一たちと分かれると、おれは、せいあと2人きりになった。いや、ラウもいるから、正確に言えば2人と1匹だけど。鉄平は花火の途中で帰って、樹里はヨースケ、マサキ、刃と、『ガーリック』に酒を飲みに行った。空音は太一と、どこかに行ってしまった。 
 仕事の行き帰りで、十分慣れているとは思うけど、おれは一応、せいあを家まで送ってやることにした。
「それにしても、太一と空音、どこ行ったんだ?」
 歩きながら、傍らのせいあに聞いてみた。
「告ってんでしょ。空音、ずっと太一のこと好きだったから」 
 彼女は、ケロッと答えた。
「へっ?」
 そうだったのか。
「って、お前、いいのかよ。お前と太一、その…昔、つき合ってたんだろ」
「別に。そんなの、昔の話だし」
「ふーん」
「何、ヤキモチ?」
「バカ」 
 呆れた。
 彼女が小さなくしゃみをした。
「お前、そんな格好でいるからだろ。ほら、コレ着とけ」
 半ソデの上着を脱いで、彼女の頭にバサッとかぶせた。途端、
ぶしっ」
「…やっぱ、いらない」 
 彼女が上着をつき返す。
「…」  
 黙って受けとる。
 おれって、何。

 サラ婆の家が近づくと、おれ達は不意に足を止めた。
「え、何あれ」
 サラ婆の家の前にある橋の欄干の上に、見知らぬ少女が立っている。両手でバランスをとりながら、フラフラと歩いていた。下には海に続く川が流れている。 
 少女がバランスを崩した。
「わーーーーーーっ!」
 おれ達は慌てて、その少女にかけ寄った。
 ヤベエ、落ちるっ。
 おれは咄嗟に、少女に手をのばした。
                                 ≪つづく≫

*            *            *


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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第十五話

2006-09-29 16:46:43 | 第三章 手ぬぐいと明かり
3.手ぬぐいと明かり

 翌日。昨日の家づくりと、昨夜の疲れのせいで、おれは昼すぎまでぐっすり眠っていた。 
 床に転がったまま眠りこんでいたので、起きたとき、体が痛かった。
 のそのそと起き上がって、バスの窓を開けると、潮風が入り込んできた。汗ばんだ体には気持ちよく、目を細めて海を見る。 
 今日も日差しは暑そうだけど、いい天気だ。 
 ふと、昨夜の出来事を思い出し、サイフを開けてみた。 
 小銭しかなかった。 
 どうしよう。バイトでも探そーかな…。
 
 とりあえず昼食を済ませ、海沿いの道を歩いていると、波打ち際の方で何かしている、4,5人の子供たちが見えた。その中に1人、少し年上の少女がいる。ストレートの長い髪。おれは彼女達に近づいていった。

「何やってんの」
 その集団に声をかけると、皆、一斉におれを見上げた。子供たちはみんな、手に小枝の棒きれを持っている。
「武蔵」
 少女がちょっと驚いたように言った。せいあだ。ストレートの髪が潮風に揺れる。
「漢字の練習してるの」
「せいあちゃんに教えてもらってんだ」 
 子供たちが口々に言う。
「へ?」
 彼らの足元をよく見ると、確かに、砂の上にいくつかの漢字が書かれていた。
「武蔵、ちょうどよかった。ちょっと待って」
 せいあはそう言うと、砂の上に置いてあるバッグの側にしゃがみこんだ。サイフから千円札を1枚取り出すと立ち上がって、「ハイ」と、おれに向かって差し出した。
「え…なに?コレ」
 ちょっと戸惑った。すると彼女は、
「昨日のお金。後でよく見たら、1万円札の下にもう1枚コレがくっついてたの」
 と、さらりと言った。
「え!?…なに、お前、そんなんわざわざ返してくれんの?」
 驚いた。変わったやつ。
 昨夜の彼女のふるまいとのギャップに、思わずぷっと吹き出した。 
 彼女は不思議そうな顔をしている。
「いらないんだったらいーわよ」
 少しツンとして、サイフに札を戻そうとする。まだ笑っていたおれは、
「わーっ、いりますいります」
 と、慌てて彼女の手を止めた。
「ラッキー、おれ今、超金欠でさぁ。助かったわ」
 千円札を受けとって笑う。 
 あー、昨日ぼーっとしてたから、二枚くっついてんの気づかなかったんだ。
「別に。もともとあんたのだし」
 彼女は、相変わらず無愛想。
「せいあ…」
 話しかけようとすると、いきなり背後から何かがどんっとぶつかってきて、思わず前につんのめってしまった。
「ぶっ、何だコレ!?」
 振り向くと、腰に、白くて長い毛のかたまりが吸いついていた。よく見ると…犬?
「ラウ!」 
 せいあが声をあげた。
「ワンッ!」 
 その犬がおれの腰にぶら下がったまま、彼女の顔を見て元気よく吠えた。
「これ、あんたの犬?」
 長い毛に、青い、きれいな色の首輪が見え隠れしている。
「うん」
 彼女は答えて、ラウを抱え上げようとした。だが、ラウはおれの腰にしがみついたまま離れない。
「ちょっとラウ、どーしたの?」
 彼女がラウをひっぱった。
「イデデデデデデ」
 まじ、いてーよ。
 子供たちが、ざわざわしはじめた。その時、
「わっ!」
「ぶっ!」
 急にラウが腰からはがれた。その反動で、おれは砂に足をとられて、不様(ぶざま)に前にこけてしまう。子供たちが笑った。
「ごめん、大丈夫!?」 
 頭の上で、せいあの慌てた声がする。
「…」
 温(ぬく)い砂の上にうつぶせになったまま思う。 
 おれ、こいつに痛い目にあわされてばっか。
 釈然としないまま、顎についた砂を手で払って起き上がった。
「あ」
 振り向いて、見上げて、小さな声をあげた。せいあの腕に抱かれたラウが、タバコの箱をくわえて、こちらを見ている。おれが、ジーンズの後ろのポケットに入れていたやつだ。    
 目が合うと、ヤツは、せいあの腕をすりぬけて砂浜に飛び降りた。
「あっ、待てコラ、返せっ」
 おれは子供たちを掻き分けて、ラウを追いかけた。
 だが、波打ち際で、はねるようにして走るラウは、すばしっこくてなかなか捕まえられない。
「くあ、このやろっ」
 ようやくラウの体を捕まえた。ラウはおれの手から逃れようとして、ジタバタ暴れた。
「タバコ返せ、コラっ、…あ``――――っ!」
 隙をつかれて、タバコが、ぺっと吐き捨てられた。
 タバコの箱は、ぽちゃん、と海に落ちて、波打ち際で漂った。
「あーあー、テメー、何すんだよ」
 おれはラウを砂浜に放り投げて、水浸しになった箱をつまみ上げた。 
 中身もぐしょぐしょ。使いもんにならない。 
 うぅ。ねぇ、今日、厄日?
 恨めしそうにラウを見ると、ラウはブルブルッと体を振るわせ、おれを見て、へっへっと笑った。 
 かっ、ムカつく犬。
「オメー、べんしょーしろよ」
 ラウの傍らに立つせいあを、軽く睨んで言った。
「は!?なんであたしが」
「お前、飼い主だろ」
「ラウ、男の子だからヤキモチやいてんだー」 
 子供の1人が茶化すように言った。
 オスか、あいつ。
「おにーちゃん」 
 別の子供が、恐る恐る、声をかけてきた。
                                           《つづく》



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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第十六話

2006-09-29 16:46:17 | 第三章 手ぬぐいと明かり
「あ?」
「ひどいよ。おれ達、まだ練習途中だったのにー」 
 ふてくされて、おれの足元を指差す。
「あ」
 見ると、たくさんの靴の跡が、砂の上の漢字を踏み荒らして、消してしまっていた。ラウを追いかけるのに夢中で、気がつかなかった。
「悪(ワリ)ィ、悪ィ。…あ。おれのとっておきのやつ教えてやるから許してくれよ」 
 ピン、と思いついて言った。
「なになにっ?どんなの?」 
 子供たちが目を輝かせて見上げる。
「ちょっと貸して」
 おれは彼らの1人から小枝を借りて、砂の上に漢字を1つ書いた。
「ほら、これ。何て読むか分かるか?」
「えー。分かんなーい」
「何、鮫(サメ)、とか?」
 おれの手元をのぞきこんでいた子供たちが、口々に言った。
「ふっ、これはなー、『鮭』って読むんだぞ」
 ちょっと得意げに言った。
「へーーっ」 
 子供たちが感心する。が、
「そんな漢字、ないわよ」
 と、頭上から、せいあの冷ややかな声が降りかかった。
「へ?んなことねーだろ」
「ちょっと貸して」
 せいあは、おれのすぐ側にしゃがんで、手から小枝を取ると、鮭と書いた。
「みんな、こっちが本当の『鮭』だからね」
「あー、そうなんだぁ」
「どこが違うんだよ。…あ」
 二つの字を見比べて、違いに気づいた。おれの字は、鮭ではなく、『魚王』と書いてある。ヤベ、恥ず。
「バカじゃないの、あんた」 
 せいあがからかう。
「…」
 本当(ホント)、バカ、おれ。

 漢字の練習をおひらきにして、おれ達は波打ち際に座った。
「お前、いつもここであいつらに漢字教えてんの?…あ、昨日、樹里が言ってた用事ってこれか」
「そうだよ、いつもってわけじゃないけど」 
 傍らで、せいあが答えた。
「漢字、どこで習ったんだ?」
「…小さい頃、学校に通った」
「え。じゃ、お前、中央から来たの?」
 中央とは、この街の真ん中にある都市である。周りを川に囲まれ、中洲のように孤立して存在しているため、おれたちは、そう呼んでいる。地図上では、同じ1つの街として記されるのだが、実質的には、別の街も同然である。高層ビルやマンションが立ち並び、役所もある、その「街」は、会社員や政治家の家庭が暮らしていて、この「街」とは、全体的に雰囲気が違う。だが、この街に、夜毎(よごと)、娼婦を求めてやってくる人間のほとんどが、その街に住む男達だ。
 この街には学校がない。いや、正確に言えば、個人が開いている、小さな塾のような、簡単な読み書きや計算を教える場所が、あるにはあるが。
「…うん」
 せいあは、ぎこちなく答えた。その様子に、おれはなんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまった気になった。
 黙っていると、彼女は気を取り直すように言った。
「あの子ね、将来、医者になりたいんだって。友達がずっと病気で苦しんでるから、自分が治してあげたいって」
 少し離れた場所で、ラウと遊んでいる子供たちのうちの1人を見て、彼女は微笑んだ。髪が少し、潮風に揺れる。
 なんだ、こいつ、結構カワイーとこあんじゃん。 
 おれも彼らの方を見た。その子は、皆の中で、ひときわ元気にはしゃぐ、悪ガキっぽい少年だった。



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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第十七話

2006-09-29 16:43:49 | 第三章 手ぬぐいと明かり
 彼女が、おれの方を振り向いて言った。
「知ってるでしょ?友達って、太一の妹のマナちゃん」
「ああ。…そうか。医者か。…すごいな」
 素直に感心した。自慢じゃないけど、おれは自分の名前でさえ、「武蔵」か「武歳」か時々分からなくなる。いや正直に言えば、むしろ、この世に存在しない漢字を生み出してしまう可能性の方が高い。幼い頃通わされた、その塾のような場所にだって、ロクに通わず、さぼりまくっていたんだから。
 ふと視線を落とすと、彼女の左腕に巻かれているバンダナが目に入った。白いTシャツの袖からはみ出している、鮮やかなオレンジ色。 
 なにげなく見ていると、その視線に気づいた彼女が言った。
「見たでしょ、昨日」 
 軽く、おれを睨んでいる。
「そこの傷痕?…ごめん。やっぱ、気づいた?」
 ちょうちょ結びは、やっぱり失敗だった。
「…別にいいけど」
「その傷痕、どしたの」
「教えない」
 彼女は、おれの左肩の方に少し目を逸らした。
「…それ、ホンモノ?」
「この刺青?うん。おれ今18だけど、2年前に知り合いの彫り師に彫ってもらったの。無理言って。軽い気持ちで彫ったけど、今でも結構気に入ってるよ」
 笑いながらそう言うと、彼女は、
「…ふーん」
 と言って、目を伏せた。そしてすぐに子供たちの方を振り向いて、立ち上がった。
「あたし帰るわ。ラウーー!帰るよーー!」
 子供たちの中のラウを呼んだ。
「えーーっ、もう帰るの?」 
 おれは不服そうに言った。
「あたし、あんたみたいにヒマじゃないの。ちょっとは寝とかなきゃ」
 ああ、夜、仕事行かなきゃいけないもんな。
「ここで寝れば?」
 おれは、にんと笑って、自分の腕をぽんぽんっと叩いた。
「…バカ」 
 彼女が心底呆れたように言った。その時、
「せいあーー!武蔵!みんなも!」
 海沿いの道から、おれ達を呼ぶ、空音の大声がした。
 息をきらして走ってきた彼女は、おれの服を掴み、泣きそうな顔を上げて言った。
「大変なの、マナちゃんが…っ」
「え…!」
 空音の説明を聞くと、おれ達は、病院に向かって一目散に走り出した。

 病院にはすでに、太一、マサキ、樹里、そして京太郎を抱いたリズがいた。
「武蔵さん!」
 病院のロビーにかけ込んできたおれ達の姿を見ると、太一がおれにすがりついてきた。
「マナが…っ、急に発作起こして…もうダメかもって…医者が……」
 声が震えている。
「落ち着け、太一…」
 震える太一の両肩を押さえて、おれはそれしか、言えなかった。

                                         ≪つづく≫


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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第十八話

2006-09-29 16:43:19 | 第三章 手ぬぐいと明かり
 だいぶ長い時間が経った。 
 3時すぎから始まったマナの手術は、まだ終わらない。 
 太一と、あの後ほどなくかけつけた太一の母親は、手術室の側で待ち、おれたちは、病院のロビーで待った。 
 張りつめた空気の中で、皆、無言で、祈る。
 すると突然、おれの目の前に、タバコの箱が差し出された。顔をあげると、そこに、せいあが立っていた。
「こーゆー時って、普通コーヒーかなんかじゃない?」
 おれは力なく、少しだけ頬をゆるめた。 
 なんだよ、こいつ。こんな時に。 
 でも、おれだって、なんか、どっかズレている。
「分かってるけど、これ、さっきの…」
「ああ…」
 タバコを受けとった。 
 みんな、どうしたらいいか分からないんだ。
 その時、手術室のドアが開き、ストレッチャーが運び出される音がした。ロビーにいた者は皆、その音の方にかけ寄った。 
 目の前を、マナが通り過ぎる。 
 長い手術を終え、麻酔で眠っている顔を、確かに見た。 
 ほっとした。
 母親と子供たちは、マナに付き添うようにしてストレッチャーについていった。 
 太一が手術室の前で、床に膝をついて座っていた。
「太一…」
 おれたちは太一にかけ寄って声をかけた。 
 彼は下を向いたまま、擦れた声でつぶやいた。
「よかった…」
 太一は泣いていた。

 
 それから数日後。おれとヨースケと京一は、3人でマナの見舞いに行った。
「よぉ」
 おれ達が病室のドアを開けると、ベッドから身を起こしていたマナの顔が、ぱっと輝いた。太一もすぐ側にいる。
「ヨーちゃんっ、京ちゃん、武蔵ちゃんもっ。うわぁ、久しぶりー」
 嬉しそうに、コロコロ笑う。 
 3年ぶりにちゃんと会ったマナは、それなりに大人びて見え、髪が少しのびていた。明るい表情が時々つり合わなくなるほどの、澄き透った白い肌の色は、昔のままだったけれど、思ったより元気そうだ。
「お前…“ちゃん”付けはやめろって、いつも言ってるだろ」
 太一がマナに向かって少し怒ったように言う。すると京一が、
「いーって。オレら、そんな風に呼ばれること他にないし」
 と、ニカッと笑って言った。そんな彼に言ってやった。
「お前、リズに呼ばれてっだろ」
 すると、即、 
「だってこんな若い娘(コ)に呼ばれたら、なんか嬉しーじゃん。新鮮っつーか」 
 デレデレ、とまではいかないけれど、笑顔。マナも笑う。
 おれら、18ね、まだ。一応。
「マナちゃん、これ、お見舞い」 
 ヨースケがマナに、りんごの入ったかごを差し出した。
「ありがとう」 
「ありがとうございます」 
 太一も椅子から立ち上がり、おれ達に礼を言った。
「食べるだろ?マナちゃん。オレが剥くよ」
 そう言って京一は、マナの膝の上のかごからナイフを取り出した。レストランでコック見習いとして働く彼が、あらかじめかごに入れてたマイ・ナイフ。
「かわいく剥いてやるから~」
 彼は鼻歌混じりにりんごを剥きだした。
 マナが、京一がりんごを剥き終わるのを待ちながら、おれに話しかけてきた。
「お兄ちゃんから聞いてたけど、武蔵ちゃん、ホントに帰ってきたんだね。3年間もどこ行ってたの?」
 本当に懐かしそうに目を細める。
「おう、いろんな街に行ってきたぞ」
「いいなぁ、私も、行ってみたいな…」 
 ちょっと寂しそうに笑った。
「お土産、買ってくればよかったな」
 ちょっとしまったと、思いながら言った。その時、3曲目に突入していた京一が、
「できた」 
 と、嬉しそうな声をあげた。
「白鳥―っ」 
 と言って、掌に乗せておれ達に見せたのは、白鳥…ではなく、カモ?つーか、もはや鳥ではない。
「…ふつーに、ウサギとかでいーよ」 
 マナが冷たく言った。
「なっ!なんでっ、なんでっ!」
「言われてら」 
 ヨースケが、ギャハハと笑った。

「武蔵さん、ちょっといーっすか?」
 笑っていると、太一に声をかけられた。
「何?」
 おれと太一は病室を出た。
                               ≪つづく≫


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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第十九話

2006-09-29 16:42:54 | 第三章 手ぬぐいと明かり
 おれ達は少し歩いて、角を曲がったところで立ち止まった。
「…何?」
 言いにくそうにしている太一を少し促した。すると太一は、堰を切ったように喋り出した。
「あいつね、元気そうに見えるでしょ?実際、だいぶ元気になってきてんすよ。医者も、おれらも驚くぐらい。だけど…。また…いつ、どーなるか、分かんねーから…今度、中央のでかい病院に移ることになったんすよ。体力が回復してきてる、今のうちに」
「…そうか」
 確かに中央の病院は、ここより設備がしっかりしている。だけど…その分、入院治療費もかかる。太一も同じことを考えていたらしく、
「今まで、おれとおふくろとで、なんとかやってきたんスけどね。今度ばかりはちょっと…。で、親父から金借りよーと思って」
 つとめて明るく喋った。
 太一とマナの父親は、マナが生まれて、すぐにこの街を出ていった。彼はどこか遠い街で、新しい家庭をつくったらしい。そんな父親の、養育費の支払いの申し出すら断り続け、彼らの母親は、太一とマナのために、ずっと必死で働いてきた。太一も、働けるほど成長すると、はじめはバイトで母親を助け、今は就職していた。
 おれが太一の口から、親父という言葉を聞くのは、本当に久々のことだった。その明るい口調とはうらはらに、彼と彼らの母親は、相当な決意でこの決断をくだしたに違いない。悔しかったに、違いない。
「ま、そんなことはどーでもいーんスけど」
 疲れのせいか少し痩せた顔をあげて、太一が笑顔をつくった。
「それより、マナが中央の病院に移る日って、ちょうど…この街の花火大会の2日前なんすよ」 
 笑顔はもう、しぼんでいた。
「あいつ、それ知った時一言、『今年は、花火見れないね』って…。それから一度もそんなこと言わねーけど、時々すごい寂しそーなんすよ」
「マナちゃん、花火、好きだもんな」
 毎年、夏祭りのときに、海から打ち上げられる花火は、この街にいれば病院からでも見られるが、中央に行けば、高層ビルに邪魔されて、見ることができないのだ。
「そう…。で、おれ、どーしてもあいつに花火見せてやりたくて。でも、そんなのどうやって用意したらいいか分かんなくて…。武蔵さん、昔、花火大会のバイトやってたことありますよね?そん時のツテとかなんかありません?」
「うーん…」
 確かに昔、この街の花火大会の筒運びのバイトは、何回かしたことがある。その時のツテが、ないことはないが、ここ3年は、そのバイトもやってないし、ましてや1人の少女のために、花火をあげてもらうとなると、
「難しーかもしんない」
「ですよね…」
「でも、なんとかしてみる」 
 なんとか、したい。
「おねがいします」 
 太一は申し訳なさそうに頭を下げた。
 おれにできることは、それぐらいしかない。
 おれたちは、悲しいぐらい、無力なんだ。

                                        ≪つづく≫

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