はやいもので、もう2月を迎えてしまいました。ほんとにあっという間に春になってしまいそう・・。
母がブログをいつものように、最初に読んでくれるのですが、私にこう提案してくれました。
母「ねぇ、チコちゃん、ブログのタイトル、思い切ってこの、
【新・台所太平記】に変えてみたらどうかしら?」
私「え?そうかな?」
母「うん、そっちのほうがわかりやすいし、いま書いてる内容に合ってるかもよ。タイトルも短くて覚えやすいし、もともとの『台所太平記』は名作だから、このタイトルでピンとくるオールドファンも読みやすいと思うよ♪」
私「そっか!うん、じゃさっそくやってみる!」
母「せっかくだから、ブログのデザインも季節ごとに変えてみたら?もっとアクセス数のびるんじゃない?」
私「うんうん。いまの季節だと、やっぱり”梅”だよね。やってみよっか」
母「わぁ、梅のデザインのほうが綺麗だし、上品な感じがするわね~(^_-)-☆」
と、母もすっかりゴキゲンです。母もだんだん、自分がブログづくりに参加しているメンバーとして、やる気満々になってくれていて、うれしいですね(^_-)-☆
タイトルも、ひょんなことから思いついた、【新・台所太平記】ですが、意外にピタッとおさまりがよかったので、ビックリしています。これで思い出したのは、東宝宣伝部時代、ポスターの制作の勉強をしに、「宣伝会議」のコピーライター養成講座にかよったときのこと。
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宣伝部でお世話になった先輩の中で、もっとも影響を受けた一人に、新聞広告制作を担当していた女性の先輩・Yさんという方がいらっしゃいました。(現在は、東宝東和で、洋画の宣伝ウーマンとして活躍中です)
彼女は大変優秀な才女で、熱心な宣伝ウーマンでしたが、当時の宣伝担当役員である、中川敬さん(現・東京楽天地社長)から命ぜられて、「広告批評」のコピー塾に通っていました。大変刺激を受けた様子で、いつも私にランチをたべながら、力説されました。
「ながたちゃん(とわたしのことをこう呼びました)、あなたもポスターやちらしをつくるのだから、コピーライティングをちゃんと勉強したほうがいいとおもうわ。広告批評では、電通の岡康道さんというすばらしい方に授業を受けているけど、ほんとに勉強になるわ!」と言った具合に、Yさんは熱心にすすめてくれたのでした。
私もぜひ行きたいと思いましたが、広告批評の塾はYさんが既にいっているので、せっかくだから、ほかのコピーライター講座に行ったほうがよかろうと思い、目についたのが、宣伝会議のコピーライター講座でした。週に一度、会社の業務が終わってから、東京・表参道にある同会議の講座に、一生懸命通いました。ちょっと体はきつかったですけれど、非常に勉強になりましたし、その後の私の劇評や評論家としての人生に、大きな影響を与えることになりました。
特に、ポスターのコピーライティングの授業では、本当にためになることばかりでした。広告代理店やグラフィックデザイナーの第一人者の方が授業を担当してくださるのですが、もっとも印象に残った言葉に、こういうフレーズがありました。
「ポスターは、
たった3秒間のメディアである。」
ポスターを見る機会は、みなさまもいろいろあろうかと思います。いちばん目にする機会があるのは、やはり電車で駅を利用した時の、駅貼り(いわゆるB全ポスター、あるいはB倍ポスターと呼ばれるものが中心です)のポスターですね。でも、そこで目にするポスターで、印象に残るポスターって実は少ないですよね?
それはなぜかと、先生が解説してくださいました。
「ポスターの宣伝コピーが、だらだらしすぎていると、だれもお客さんはコピーを読まない。」
ということなのです。駅貼りポスターなどは、たった3秒ぐらいしか、通りがかりのお客様は読む時間がありません。だから、そこで使われるポスターは、情報も盛り込むことが大事ですが、メインポスターは、ずばり「インパクト」が求められるというわけです。
この言葉は大変印象にのこり、ランチの時間に、Yさんに相談しました。Yさんは目を輝かせて
「ぜひ宣伝プロデューサーの会議で、ながたちゃん、みんなにそのことをレクチャーしてみたらどうかしら(^_-)-☆ 絶対みんな知りたい情報だし、勉強になると思うわ!」
と、すすめてくださいました。
そこで、当時の宣伝プロデューサー室の室長だった、矢部勝さん(のちに宣伝部長。東宝アド常務を経て、現・東京現像所社長。スタジオジブリの名作『平成狸合戦ぽんぽこ』や超大ヒット作『もののけ姫』の宣伝プロデューサーを歴任)に相談し、宣伝プロデューサーのみなさんに、不肖わたしが初レクチャーを行いました。矢部さんを始め、みなさんはとても熱心に、講義をきいてくださいました。
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すると、みなさんが口々にいいました。「宣伝コピーは、キャッチーで、短くて、インパクトのあるものがいいということだね」「そうだね。いままでは映画の内容を説明しようとしすぎて、肝心のお客さんがよまない、ということを考えてなかったかも」・・・矢部さんは、「とてもいいレクチャーだったよ、ありがとう!」とニコニコしながら、私に言ってくださいました。
それから1年後。矢部さんが『もののけ姫』の宣伝を手掛けることになり、わたしやYさんたちに、宮崎駿監督のお描きになった、400頁にもわたる、絵コンテ集のコピーを読ませてくださいました。
わたしは徹夜しながら、大興奮して、絵コンテを読みました。まさに文字通り傑作になる予感がしましたし、宮崎監督が随所に書き込まれている、スタッフへの愛溢れる指示に感動したのです!
矢部さんは、「ながたぁ~(と矢部さんは私のことをこう呼びました)、もののけ姫の絵コンテ読んで、どう思ったかレポート書いてくれる?それで、糸井重里さんが書いたコピー案なんだけど、どう思う?」といろいろ意見をもとめてきてくださったので、私はうれしくて、どんどんレポートを書きました。宣伝プランを書くのは初めてに近かったけれど、張り切って書きました。
糸井重里さんが出したコピーの中で、私が最も惹かれたコピーがありました。それが、これです。
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みんなは、「ええ?あれだけの大作のコピーが『生きろ。』ってこれだけですか?」とビックリしたのですが、矢部さんは、力強く
「うん。あの400頁の情熱を、一言で言い表して、インパクトあるものにするには、この『生きろ。』がいちばんいいと思うんだ!」
と、おっしゃいました。私もまったく大賛成でした。まさに「たった3秒間のメディア」であるポスターにふさわしい、強烈なインパクトを残す名コピーだと思ったのです。
そして、これが当時のスタジオジブリ史上、また当時の日本映画史上、記録的な興行収入を叩き出したのは、いうまでもありません。いまだにこの作品のポスターの話になると、「あの、『生きろ。』というコピーはすばらしかったですね!」といろいろな方からおっしゃっていただくので、大変にありがたいですし、私も宣伝会議のコピーライター講座に通ってよかったなと思いますし、矢部さんの慧眼にも拍手したいと思います。
このほかにも、短い、インパクトの大きな邦画のポスターの代表例として、「梟の城」という時代劇作品が挙げられます。これも大変思い出深い作品のひとつです。
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これは、宣伝プロデューサーは先日も登場した、市川南さん(現・東宝㈱常務取締役 東宝芸能社長)でした。
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市川さんは数十社のコンペの中から、こちらを選びましたが、そのときに、私の意見をずいぶん尊重してくださいました。プロデューサーは映画「南極物語」の大プロデューサーである、角谷優さんで、角谷さんとともに、このビジュアルを選び出しました。
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※向かって右が角谷プロデューサー。現在も早稲田大学のエクステンションセンター、武蔵大学などで教鞭をとって、後進の映画人の育成に奔走されています。
このビジュアルの優れているところは、B2ポスターでは色数と予算の都合で、4色の黄色が地色になっていますが、B全ポスターでは、特色中の特色、黄金のポスターをつくりあげました。
宣伝コピーはずばり「時代と戦え」。司馬遼太郎のもつ雄大なスケール感と、安土桃山時代の豪奢さをストレートに表したいと、私も考え、提案したのが、このポスタービジュアルでした。
そのときにお世話になったのが、当時博報堂にいらした山本和宏さん(「午前十時の映画祭」のプロデューサーでもいらっしゃいます)。いまだに、FB友達として、親しくさせていただいて、本当に感謝しております。
「梟の城」は当時の「時代劇映画はヒットしない。」という映画業界のジンクスを破る大ヒット作となり、時代劇映画復活ののろしを上げる、牽引力となりました。篠田正浩監督も、ますます巨匠として君臨されたのでした。
もちろん、ポスターのコピーの場合は、短いほうがいいというのが私の持論です。が、新聞広告などでは、またコピーラインティングの仕方がかわってきます。新聞広告や雑誌広告は、読者の方がじっくり読んでくれますので、内容面をより深く伝えるのに効果的です。やや長めのコピーを用意して、読者の、映画への興味と鑑賞意欲を沸かせるようにすればいいわけです。それは、先述のYさんが中心となって、コピーを新たに作成するという作業をしていたのでした。
近年話題になっている、WEB広告については、どうなるのか、ちょっと正直、よくわかりませんが、やはり、WEBのホームページを見る時間というのは、立ちあげる時間を考えると、ポスターに近く、3秒間ぐらいではないかと思います。そうすると、だらだらと長いコピーよりも、インパクト大の、キャッチ―なコピーが求められるのではないかと、私は思っています。
ともあれ、宣伝部時代は、いろいろ大変でしたが、勉強することの多い、充実した映画マン人生を送れたなと思い、いまではとても感謝している私です!