積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録。

松本清張『松本清張傑作短篇コレクション 上』あらすじと感想

2020-12-06 11:55:54 | 紙の書籍
文春文庫 松本清張『松本清張傑作短篇コレクション 上 ー宮部みゆき責任編集』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次とあらすじ】
はじめに 宮部みゆき
第一章 巨匠の出発点
 前口上 宮部みゆき
 或る「小倉日記」伝 失われた森鴎外の『小倉日記』を探し求める男の話。
 恐喝者 洪水の濁流から助けた女と再会した、拘置所から逃亡中の男がとった行動とは…。
第二章 マイ・フェイバリット
 前口上 宮部みゆき
 一年半待て 甲斐性のない夫に、愛想を尽かした女の冷静な完全犯罪計画。
 地方紙を買う女 やむを得ず殺人を犯した女が、地方紙で時代小説を連載している作家に追い詰められていく。
 理外の理 時代遅れになった執筆家が出版社に切られ、編集長に復讐を企てる。
 削除の復元 森鴎外の『小倉日記』にまつわる真偽を考察する小説家。真実は…。 
第三章 歌が聴こえる、絵が見える
 前口上 宮部みゆき
 捜査圏外の条件 自分の妹と不倫旅行中に、妹を見殺しにした男を完全犯罪で殺そうとするが…。  
 真贋の森 日本画の権威者から嫌われたため、その後の人生が惨めになった男が復讐のため目論んだのは…。
第四章 「日本の黒い霧」は晴れたか
 前口上 宮部みゆき
 昭和史発掘ー二・二六事件
 追放とレッド・パージー「日本の黒い霧」より
コーヒーブレイク 担当者の思い出


【感想】
短篇集で作品数が多いのでかなりざっくりと。

「或る『小倉日記』伝」
第二十八回(昭和二十七年下期芥川賞受賞作品)。直木賞ではなく芥川賞。知らなかった…。無知だな~自分。
過去も現在も生きづらさを抱えた若者の苦悩はあるもの。田上耕作が亡くなった翌年に、東京で『小倉日記』が発見された。この事実を知らずに亡くなったのは幸せだったのかもしれない。

「恐喝者」
尾村凌太が飯場で偶然に再会した施工会社社員の妻は、脱走時に濁流から助けた女だった。女は尾村に陵辱されていたと思い込み、恐れ怯えてお金を渡して来ないで欲しいと懇願するが、尾村は勝手に女に好意をもちつきまとう。
男の身勝手さに腹が立ち、最後の呆気なさに失笑する。

「一年半待て」
DV夫を図らずも殺したとして罪に問われている須村さと子。夫殺しの罪から逃れるために、さと子が考えた計略は成功した。だが、再婚したいと願った愛しい男はさと子の元を去ってしまう。
[一事不再理]という法律を初めて知った作品。なんというか…。完全犯罪を良しとするわけではないが、糾弾する気にはなれない。離婚にも応じない甲斐性のないDV夫から、どうやって逃れればいいというのだろう?DVという言葉やシェルターもない時代に。

「地方紙を買う女」
潮田芳子は抑留から帰る夫を待つ女給。ある時、万引を疑われ、警備員の庄田のいいなりになってしまう。別れてくれない庄田を心中に見せかけて殺してしまうが、その後が心配な芳子は地方紙を購読する。理由を杉本隆治が連載する小説が読みたいとしてしまったのがつまづきの始まりだった。
自分の作家としてのプライドが傷ついたことで、芳子を執拗に追い詰める杉本。芳子を遺書を残して自殺に追いやったのは杉本だ。
不運で哀れな弱い女の芳子が哀しい。。

「理外の理」
とある出版社のJ誌は売れ行きが悪くテコ入れとなり、従来の作家がほとんど切られる。その中に、江戸時代の古い話を得意にしていた須貝玄堂という随筆家がいた。生活に困窮し、若い妻にも逃げられ、逆恨みから事故に見せかけた殺人を実行する。ターゲットは担当の細井だったが、やって来たのは編集長の山根だった。
山根は玄堂が背負ってきた蔵書を代わりに背負い、玄堂はそこにおぶさり窒息死させる。事故死扱いになった…。静かに淡々と、お遊びの延長のように殺人を実行する玄堂が怖い…。
逆恨みの矛先になった編集長が気の毒だった。玄堂を切ったのも致し方ないのに、それが彼の仕事なのだから。

「削除の復元」
小説家の畑中利男は、小倉の工藤徳三郎という未知の人物から手紙をもらう。森鴎外の『鴎外全集』の決定版(昭和五十年一月発行)の「後記」にある削除の件、『小倉日記』にある鴎外の女中だった元とその夫、婚家についての嘘の理由を尋ねてきたのだった。
鴎外と元の関係は本当はどうだったのか?早世した平一は隠し子だったのか?平一にまつわる真偽を探るミステリー仕立てがおもしろい。虚々実々。真相は藪の中。

「捜査圏外の条件」
里井忠男は東京の某銀行に務め、戦争未亡人の妹 光子と借家住まいをしている。亡夫の墓参りに行くと言って、出かけた光子はそれきり失踪してしまう。既婚の同僚、笠岡勇一と不倫をしていて、すでに温泉旅館で急死していたのだ。
直接手を下したわけではないが、光子を保身から見捨てて逃げ帰り、しれっと自分に慰めの言葉をかけてきた笠岡に憎悪を燃やし、完全犯罪計画を七年かけて実行する。青酸カリで見事、完全犯罪を成し遂げたかに見えたが、小さなことから自分に捜査の糸が繋がってしまった。
虚しい結末。「上海帰りのリル」という流行歌が鍵。

「真贋の森」
宅田伊作は相当な学歴と日本画についての学識があるのに、大学の師匠で美術界の権威でもある本浦弉治・湛水庵に嫌われたため、将来を潰された不遇な男。本浦は亡くなったが、その弟子で同期の岩野祐之が跡を継いでいる。岩野を陥れる贋作計画を、出入りの骨董屋たちと練る。作戦は成功に見えたが、贋作を描かせていた酒匂鳳岳の一言から露見してしまう。
名家や旧家と骨董品。帝大に連なる官立、宮内省系大学、アカデミズムの地縁、血縁、学閥、政治力がものをいう世界に唖然とする。権力者の不興を買えば先はない。学問に限らず、仕事や趣味、地域や子供関係でも一緒だ。溜息が出る…。

「昭和史発掘ー二・二六事件」
有名な昭和十一年二月に起こった軍事クーデターの二・二六事件を扱ったノンフィクション。当時のこの国には“報道の自由”ななく、“国民に知る権利”もなかった。だから、昭和四十二年~四十六年にかけて書かれた現代史ノンフィクションは「発掘」。
詳細な調査と考察には頭が下がるのだが、当時の調書や手記などの引用が多く、表現が古くて読みづらいのが本音。やっぱり、ノンフィクションは苦手。

「追放とレッド・パージー「日本の黒い霧」より」
戦後のアメリカ進駐軍GHQによる日本国内の共産主義者を一掃する方針がどう行われ、犠牲になった者、何故か追放もされず重用された者などの矛盾について詳細に書かれている。ノンフィクション。
この指令はトップシークレットであり、日本側首脳陣も容易に知ることはできなかったとある。
ノンフィクションは現実の歴史の1ページなので、矛盾や理不尽や不公平に読んでいてぐったりしてくる…。自国の歴史だから知らなくてはいけないとは思う。思うのだが、本音を言えば楽しくない。読書の楽しみを感じられないので、読んでいて結構辛いものがある。
これからもノンフィクションは苦手なのは変わらないと思う。


【余談】
人気実力とも当代随一の作家 宮部みゆきが責任編集した短編集の(上)。何故か(中)を先に購入していて読了済みだけど、もたもたしているうちに感想をアップし損ねていた。苦笑。
ほとんどの作品が過去に映像化されていて、ドラマにいたっては「何度目だ!ナウシカ!(日テレ)」並に多い。ケーブルの各チャンネルで今もよく放送されているので、その気になれば結構観られる。
そういえば、古いドラマのエンドクレジットに「霧企画」とある作品が多く、随分と松本清張作品ばかりを手掛けている制作会社なんだな~と思っていたら、ご自分の作品を映像化するための会社だったらしい。納得。

松本清張作品は過去が舞台なので、文化的なことやトリックには、現代では成り立たないことも多い。それはそれとして、逆にある距離感をもって読むことができるので、生々しさがなくストレスなく作品として楽しんで読むことができる。
それに、時代を越えた普遍な人というものをしっかりと描いているので、飽きがこず読み続けられるのだろう。ラストがびっくりするくらい呆気なく終わってしまうのは、多分、作家本人が謎解きそのものにはあまり関心がなく、そこに至るまでの人の心理や犯罪計画の過程のほうが書きたいのだと思う。
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まとめて文庫本を購入しました♪

2020-12-02 12:07:09 | 紙の書籍
ネットの書店hontoで文庫本などを購入しました♪ まとめて26冊~♪
いつもまとめて購入しては、半年とか一年かけて読んで、また購入するのが私のスタイルなんです。蔵書は新品が好きなので、古本は基本買いません。苦手なんです、古本の匂いと雰囲気が。図書館で借りるのはまた別なんですけどね~。
調べてみたら前回、購入したのは今年の6月でした。まだ積ん読も残っているのだけど。苦笑。
ふいに思い立って、「お気に入り♡」に入っている本をほとんど購入しましたよ~。全26冊、21,450円(税込)。
高いといえば高いかもしれないけど、自分にとっては必要なので、本とか観劇や展覧会のチケットにお金は惜しまない主義。心が豊かになるからね♪


※作家の方々の敬称は省略させていただきます。

文豪な方々。井上ひさしは違うと思うけども。
川端康成『掌の小説』はず~っと欠品していて、Amazonでも楽天でも新品がなく、中古品しかなかった本。出版社のどういう風の吹き回しなのか?今回、ラッキーなことに新品が手に入りました~♪
「片腕」がどうしても読みたかったんです。以前に映像化されていたのを観てから気になっていたので。放送されたのは確か…NHKだったと思います。




最近、松本清張にはまっているので。歴史物も読んでみたい♪




松本清張の作品だからか「おすすめ」に出てきて、「お気に入り♡」から購入したら…。右側の『徳川家康』はなんと子供向けでした~!フリガナとイラスト付きだったよ…。泣く。現物をチェックできないネットならではの痛恨のミスですね。まぁ、仕方がないので読みますよ、ええ。




宮部みゆきにもはまっているので♪ それにしても、宮部みゆきは一体、幾つの出版社から出版しているのだろう?売れっ子作家は違うね~。



好きな女性作家のお二人♡ 角田光代と恩田陸♪



何かで「おすすめ」されていたので、カーソン・マッカラーズ。
カレル・チャペックはガーデニング好きとしては必須だと思っていたので。帯のお言葉はやはり、「園芸王子」こと三上真史ですか。(タレント)になっているけど、(俳優)が本業なのだけどね。明治座で二度も座長を務めているんだけどな~。NHKで「趣味の園芸」、TVKで「猫のひたいほどワイド」のMCをやっているけども。




『怖い絵』で一躍有名になられた中野京子。新書は3冊持っているけど、文庫本もあるんだね~。



さてさて、どれから読もうかな~♪ 楽しみ楽しみ♪♪



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宮部みゆき『荒神』あらすじと感想

2020-11-24 12:11:48 | 紙の書籍
新潮文庫 宮部みゆき『荒神』を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。

※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
序 夜の森
第一章 逃散 
第二章 降魔 
第三章 襲来
第四章 死闘
第五章 荒神
結 春の森


【あらすじ】
時は元禄、東北の小藩の山村が、一夜にして壊滅した。隣り合い、いがみ合う二藩の思惑が交錯する地で起きた厄災。永津野藩主の側近を務める曽谷弾正の妹・朱音は、村から逃げ延びた少年を助けるが、語られた真相は想像を絶するものだった…。
太平の世にあっても常に争いの火種を抱える人びと。その人間が生み出した「悪」に対し、民草はいかに立ち向かうのか。


【感想】
宮部みゆきの時代小説の到達点といわれる長編作品。全674p。登場人物紹介と地図も載っている。
以前にNHKのドラマで観た記憶があり、調べたら2018.2.17(土)放送のスペシャルドラマだった。作中の登場人物に、その役を演じた俳優の顔が浮かぶのはあまり好ましくないな…と思ったが、順番が逆なので仕方がない。

登場人物が多く、その都度、舞台が永津野藩と香山藩を行ったり来たりするが、文章はわかりやすくて読みやすい。前述の人物紹介と地図もありがたい♪
後半まではどんどん怪物の怖さと登場人物の描写に釘付けになり、最後は一気に終わっていく。呆気ないくらい。
それにしても、宮部みゆきはどうしてこうも、人の心の奥底を覗いて描くことができるのだろう…? 朱音が兄・曽谷弾正や周囲の人々の心情を冷静かつ客観的に読むのは、肉親の情を越えた諦念のような哀しさがある。

香山と永津野を襲った怪物は<つちみかどさま>というもの。かつて永津野を恐れて、香山・瓜生分家の柏原瓜生氏が作ったものだった。
だが、<つちみかどさま>は出来損ない、醜い土の塊となり果て、山神様のおわす大太良山に埋められ祠を建てて封印された。それが目覚め、終わりのない底なしの飢餓のため、目の前にいる人をただひたすら食らう。人の都合で作り、打ち捨てられ、起き上がった<つちみかどさま>。その芯にあるのは、敵を平らげようと欲する人の業の塊。哀れな怪物。
この<つちみかどさま>と対峙できるのは、柏原瓜生氏に連なる者であり、術者になり得る力を秘めた者のみ。彼らが生まれ落ちるとき、大太良山の頂上で雷光が閃く。それが双子として生まれた、曽谷弾正こと市ノ介と朱音だった。
長い年月を経て、二人は<つちみかどさま>と対峙する。朱音は、飢えて暴れ騒ぐ子を母のように鎮めるため、自らを食らわせる。弾正も食らわれ、怪物は朱音の白、弾正の黒の鱗を持つものに変化する。怪物の急所は後ろ首の付け根、ここへ続けざまに発砲されて倒れる。白黒半分に染まった体を横たえ、怪物は瞳を閉じた。
朱音は仮にも武家の女人、覚悟の最期に相応しく、怪物は介錯を受ける。青白い炎がその身から燃え上がり、灰になる怪物。灰は風に乗り、ふわりふわり。。と舞い上がり天に昇っていった。

呪詛、お山の怪物、曽谷弾正の人狩り、養蚕、薬草作り、永津野も香山もそれぞれ誰も悪いことをしたとは思っていなかった。藩のため、領民のためよかれと思っていたことが哀しい。
「だから、追求すればするほど、悪事は消えていってしまう。残るのは悲しみと不信ばかりだ」この言葉のなんと重くて哀しいことか…。
それでも人は生きていかなければならない。明日も明後日も。時代も国も越えた普遍のテーマだとしみじみ思う。


【余談】
NHK公式サイトにドラマの詳細がまだ載っていたので、よろしかったらどうぞ。 → スーパープレミアム「スペシャルドラマ 荒神(こうじん)」

解説は映画監督・特殊技術監督の樋口真嗣。文学畑ではない、映像制作者の視点から観た、「ここはこうしたい!でも、予算と日程が、技術が…。」云々と綴られている。実際の制作現場を覗き見したような感じでおもしろい!
この解説が書かれた日付が(平成二十九年四月)とあるので、NHKでドラマ化され放送されたのが(平成三十年二月)。ご本人はこのドラマをご覧になったのだろうか?もし、観たのならどんな想いで観ていたのか…。感想をお聞きしたいと思った。

文庫を購入した際に同封されていた小冊子に、「宮部みゆき作家生活30周年記念インタビュー」というのがあった。ここで作家本人が「大魔神をやりたかったんです」と話している。「大魔神」そう、昭和四十年代の大映特撮映画のことだ。
正しい生き物ではなく、呪物であり、人間とは意思の疎通がないものにしようと考えたそうだ。映画「シン・ゴジラ」を観たとき、『荒神』を思い出したとのこと。映画館で三回も観て、BRでも観ているらしい。
>「文学的資産」は持ち合わせていないけれど、「サブカル的資産」は持っているということですかね。
という件があるけれど、いやぁ~ものすごい謙遜。大作家でなくしては逆に言えないと思う。





まだ宮部みゆき作品は読み続けるつもり。次はどれにしようかな~。
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宮部みゆき『天狗風 霊験お初捕物控』あらすじと感想

2020-09-22 12:16:43 | 紙の書籍
講談社文庫 宮部みゆき『天狗風 霊験お初捕物控』を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。

※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
第一章 かどわかし 朝焼けの怪/御番所模様
第二章 消える人びと おあきの足跡/ささやく影/魔風/再び、ささやく影/明けない夜
第三章 お初と鉄 姉妹屋にて/浅井屋脱出/夢の娘/矢場の男
第四章 武家娘 吹き矢/鉄と御前さま/御前さまと和尚
第五章 対決 しのの涙/桜の森/お初と御前さま
解説 吉田大助


【あらすじ】
真っ赤な朝焼けの中、娘が一陣の風とともに忽然と消えた。居合わせた父親が自身番に捕らえられるが、自ら命を絶ってしまう。
不自然な失踪に「神隠し」を疑うお初と右京之介。探索を始めた二人は、娘の嫁ぎ先に不審な点があることを突き止める。だが、その時、第二の事件が起こった。


【感想】
『霊験お初捕物控』の2作目。このままシリーズ化していくと思われたが、何故かここで休止中。『三島屋変調百物語』を始めたから?かもしれない。
正直、『三島屋変調百物語』のほうを先に読了していたので、こちらのシリーズは同じ長編でも少し物語がもたつく感じがした。主人公のお初のキャラクターも単純に思えて、あまり感情移入できないのも少々気になるところだった。
事件が幾つもほぼ同時に起こるので混乱しやすい。これはこれと繋がって…と、頭の中で整理しつつ読みすすめていかないと訳がわからなくなる。最終的にはきっちりわかるようにはなっているのだが。この絡まり具合は横溝正史作品を思い出す。

最初から不穏でオカルト風な始まりを見せる。『霊験お初捕物控』シリーズなのだから当たり前といえば当たり前なのだが…。人の心の奥底にある本音の部分を、なにかで増幅させて見せつけられている気分になる。正直、軽く吐き気さえした。

人には見えないものが見えるお初が、同心を退いた右京之介、岡っ引きの兄の六蔵、御前こと奉行の根岸肥前守鎮衛(実在した人物で『耳袋』の著者)、どこからか現れた猫の鉄、すず、和尚と共に幾つも重なった事件を紐解いていく。事件そのものは嫌な事件だが、猫とお初の場面は可愛らしい。お初は何故か猫と会話できるし。

疾風と共に現れる天狗は、亡くなってもなお妄執を抱いたままの女、御家人柳原家の娘 真咲だった。夜毎、娘たちの夢枕に立った観音様も真咲だった。若く美しい娘に嫉妬し妬み、桜の咲くこの世とあの世のあわいに連れ去ってしまうのだ。

物語は一応の解決をみて、娘たちも無事に家に帰れたが、ここからが始まりだよな…と。自分の縁談絡みで自害した父をもつおあきは、これからどう気持ちを整理して折り合いをつけていくのだろう…。めでたし、めでたしとはいかないはずだ。そこは、さらっとしか触れてないけど。

それにしても、物の怪より亡霊より、人の心が一番怖いのだと心底思う。


【余談】
1作目は読了したもののブログにアップし損ねた。読了したらすぐにアップしないと感想は薄れていくので、後からアップする気がなくなってしまうのが原因。
やっぱりさかさかとアップしないとね~。
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宮部みゆき『おまえさん(下)』あらすじと感想

2020-08-17 11:30:46 | 紙の書籍
講談社文庫 宮部みゆき『おまえさん(下)』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
おまえさん(十九~二十一)
残り柿
転び神
磯の鮑
犬おどし


【あらすじ】
父親が殺され、瓶屋を仕切ることになった一人娘の史乃。気丈に振る舞う彼女を信之輔は気にかけていた。一方、親兵衛の奉公先だった生薬問屋の当主から明かされた二十年前の因縁と隠された罪。
正は負に通じ、負はころりと正に変わる。平四郎の甥っ子・弓之助は絡まった人間関係を解きほぐすことができるのか?


【感想】
弓之助が大方の謎が解けたので、関係者を集めていざ謎解きをすることになる。おとく屋の二階に平四郎、弓之助、本宮源右衛門、真島信之輔、政五郎、おでこ、大黒屋藤衛門、佐多枝、おとしが一同に会した。エルキュール・ポワロの謎解きのシーンのようでもある。
弓之助の推理した話が長く一向に着地しないので、さすがに謎解きを引っ張るにしても冒頭から冗長気味。
誰かが話す、また誰かが合いの手を入れる。エンドレス。
話が回想という名の枝葉を茂らせ剪定が必要なのに、どんどん逸れていって話が長くなる。ちょっとイライラ。

同心の平四郎は瓶屋の後添え佐多枝のことをよく思っていなかった。佐多枝がおとく屋の二階に呼び出されたとき、初めてちゃんと対峙してそれが間違っていたことに気がつく。「つまり、人が人をどう思うかということなど、何かの拍子にころりと変わるのだ。掌を返せば雨、掌を返せば雲。今まで見くびってていて、相済まぬ。」と心の中で詫びる。
まぁ。。そんなものだろうとは思う。それでも、自分の非を素直に認めるところは偉い。できそうでできないことのひとつだから。

ご隠居の源右衛門が言った「余分の命」という言葉が深く哀しい…。自分も武家の長男ではなく冷や飯食いの身から婿入りし、数年で訳あって出戻り、親戚をたらい回しにされてきた身の上なのだ。どこにも自分の居場所がなかった人生だった。
長男に生まれなかったのは自分のせいではない。だが、武家に限らず跡取りの長男以外は皆、無駄飯食いで長じれば厄介者になる。さっさと婿入りするか、自分でなにがしかの生きる道を見つけなければならない。生きていかなけばいけないからだ…。
自分の身の上を憐れみ、人を妬み、恨みを募らせた者が他者に刃を向けてしまう。哀しいがそれはやっぱりだめだ…。辛くてもだめだ…。

瓶屋の一人娘史乃が最初から怪しい匂いがしていると思っていたら、案の定ビンゴ! 史乃と医者の見習いだった秋川哲秋が犯人だった。思ったより意外性のない結末。
追ってをかけられ手傷を負い、川に飛び込んだ哲秋こと哲次は水死体となり発見される。その筵を掛けられた遺体に対面した史乃は、身も世もなくすがりついて泣きわめく。「おまえさん!おまえさん!」。
裕福な瓶屋の一人娘、まだ十五歳の小娘は祝言も挙げぬうちに女になっていた。史乃の佐多枝や哲次の馴染みの夜鷹に対する嫉妬が、女だな…と溜め息が出る。
作品のタイトル『おまえさん』はこの史乃の魂の叫びだったのだな。。

ラスト、平四郎が胸の中で呟く。「人は何にでもなれる。厄介なことに、なろうと思わなくても何かになってしまうこともある。柿になったり、鮑になったり、鬼になったり仏になったり、神様になってみたりもする。それでも所詮は人なんだ。人でいるのが、いちばん似合いだ。」
そうだなぁ。。としみじみ思った。











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