積ん読の部屋♪

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宮部みゆき『天狗風 霊験お初捕物控』あらすじと感想

2020-09-22 12:16:43 | 紙の書籍
講談社文庫 宮部みゆき『天狗風 霊験お初捕物控』を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。

※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
第一章 かどわかし 朝焼けの怪/御番所模様
第二章 消える人びと おあきの足跡/ささやく影/魔風/再び、ささやく影/明けない夜
第三章 お初と鉄 姉妹屋にて/浅井屋脱出/夢の娘/矢場の男
第四章 武家娘 吹き矢/鉄と御前さま/御前さまと和尚
第五章 対決 しのの涙/桜の森/お初と御前さま
解説 吉田大助


【あらすじ】
真っ赤な朝焼けの中、娘が一陣の風とともに忽然と消えた。居合わせた父親が自身番に捕らえられるが、自ら命を絶ってしまう。
不自然な失踪に「神隠し」を疑うお初と右京之介。探索を始めた二人は、娘の嫁ぎ先に不審な点があることを突き止める。だが、その時、第二の事件が起こった。


【感想】
『霊験お初捕物控』の2作目。このままシリーズ化していくと思われたが、何故かここで休止中。『三島屋変調百物語』を始めたから?かもしれない。
正直、『三島屋変調百物語』のほうを先に読了していたので、こちらのシリーズは同じ長編でも少し物語がもたつく感じがした。主人公のお初のキャラクターも単純に思えて、あまり感情移入できないのも少々気になるところだった。
事件が幾つもほぼ同時に起こるので混乱しやすい。これはこれと繋がって…と、頭の中で整理しつつ読みすすめていかないと訳がわからなくなる。最終的にはきっちりわかるようにはなっているのだが。この絡まり具合は横溝正史作品を思い出す。

最初から不穏でオカルト風な始まりを見せる。『霊験お初捕物控』シリーズなのだから当たり前といえば当たり前なのだが…。人の心の奥底にある本音の部分を、なにかで増幅させて見せつけられている気分になる。正直、軽く吐き気さえした。

人には見えないものが見えるお初が、同心を退いた右京之介、岡っ引きの兄の六蔵、御前こと奉行の根岸肥前守鎮衛(実在した人物で『耳袋』の著者)、どこからか現れた猫の鉄、すず、和尚と共に幾つも重なった事件を紐解いていく。事件そのものは嫌な事件だが、猫とお初の場面は可愛らしい。お初は何故か猫と会話できるし。

疾風と共に現れる天狗は、亡くなってもなお妄執を抱いたままの女、御家人柳原家の娘 真咲だった。夜毎、娘たちの夢枕に立った観音様も真咲だった。若く美しい娘に嫉妬し妬み、桜の咲くこの世とあの世のあわいに連れ去ってしまうのだ。

物語は一応の解決をみて、娘たちも無事に家に帰れたが、ここからが始まりだよな…と。自分の縁談絡みで自害した父をもつおあきは、これからどう気持ちを整理して折り合いをつけていくのだろう…。めでたし、めでたしとはいかないはずだ。そこは、さらっとしか触れてないけど。

それにしても、物の怪より亡霊より、人の心が一番怖いのだと心底思う。


【余談】
1作目は読了したもののブログにアップし損ねた。読了したらすぐにアップしないと感想は薄れていくので、後からアップする気がなくなってしまうのが原因。
やっぱりさかさかとアップしないとね~。
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宮部みゆき『おまえさん(下)』あらすじと感想

2020-08-17 11:30:46 | 紙の書籍
講談社文庫 宮部みゆき『おまえさん(下)』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
おまえさん(十九~二十一)
残り柿
転び神
磯の鮑
犬おどし


【あらすじ】
父親が殺され、瓶屋を仕切ることになった一人娘の史乃。気丈に振る舞う彼女を信之輔は気にかけていた。一方、親兵衛の奉公先だった生薬問屋の当主から明かされた二十年前の因縁と隠された罪。
正は負に通じ、負はころりと正に変わる。平四郎の甥っ子・弓之助は絡まった人間関係を解きほぐすことができるのか?


【感想】
弓之助が大方の謎が解けたので、関係者を集めていざ謎解きをすることになる。おとく屋の二階に平四郎、弓之助、本宮源右衛門、真島信之輔、政五郎、おでこ、大黒屋藤衛門、佐多枝、おとしが一同に会した。エルキュール・ポワロの謎解きのシーンのようでもある。
弓之助の推理した話が長く一向に着地しないので、さすがに謎解きを引っ張るにしても冒頭から冗長気味。
誰かが話す、また誰かが合いの手を入れる。エンドレス。
話が回想という名の枝葉を茂らせ剪定が必要なのに、どんどん逸れていって話が長くなる。ちょっとイライラ。

同心の平四郎は瓶屋の後添え佐多枝のことをよく思っていなかった。佐多枝がおとく屋の二階に呼び出されたとき、初めてちゃんと対峙してそれが間違っていたことに気がつく。「つまり、人が人をどう思うかということなど、何かの拍子にころりと変わるのだ。掌を返せば雨、掌を返せば雲。今まで見くびってていて、相済まぬ。」と心の中で詫びる。
まぁ。。そんなものだろうとは思う。それでも、自分の非を素直に認めるところは偉い。できそうでできないことのひとつだから。

ご隠居の源右衛門が言った「余分の命」という言葉が深く哀しい…。自分も武家の長男ではなく冷や飯食いの身から婿入りし、数年で訳あって出戻り、親戚をたらい回しにされてきた身の上なのだ。どこにも自分の居場所がなかった人生だった。
長男に生まれなかったのは自分のせいではない。だが、武家に限らず跡取りの長男以外は皆、無駄飯食いで長じれば厄介者になる。さっさと婿入りするか、自分でなにがしかの生きる道を見つけなければならない。生きていかなけばいけないからだ…。
自分の身の上を憐れみ、人を妬み、恨みを募らせた者が他者に刃を向けてしまう。哀しいがそれはやっぱりだめだ…。辛くてもだめだ…。

瓶屋の一人娘史乃が最初から怪しい匂いがしていると思っていたら、案の定ビンゴ! 史乃と医者の見習いだった秋川哲秋が犯人だった。思ったより意外性のない結末。
追ってをかけられ手傷を負い、川に飛び込んだ哲秋こと哲次は水死体となり発見される。その筵を掛けられた遺体に対面した史乃は、身も世もなくすがりついて泣きわめく。「おまえさん!おまえさん!」。
裕福な瓶屋の一人娘、まだ十五歳の小娘は祝言も挙げぬうちに女になっていた。史乃の佐多枝や哲次の馴染みの夜鷹に対する嫉妬が、女だな…と溜め息が出る。
作品のタイトル『おまえさん』はこの史乃の魂の叫びだったのだな。。

ラスト、平四郎が胸の中で呟く。「人は何にでもなれる。厄介なことに、なろうと思わなくても何かになってしまうこともある。柿になったり、鮑になったり、鬼になったり仏になったり、神様になってみたりもする。それでも所詮は人なんだ。人でいるのが、いちばん似合いだ。」
そうだなぁ。。としみじみ思った。











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宮部みゆき『おまえさん(上)』あらすじと感想

2020-08-15 11:14:00 | 紙の書籍
講談社文庫 宮部みゆき『おまえさん(上)』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
「おまえさん」(一~十八)


【あらすじ】
痒み止めの新薬「王疹膏」を売り出していた瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺された。本所深川の同心・平四郎は、将来を嘱望される同心の信之輔と調べに乗り出す。検分にやってきた八丁堀の変わり者“ご隠居”源五右衛門はその斬り口が少し前に見つかった身元不明の亡骸と同じだと断言する。
両者に通じる因縁とは…。


【感想】
『ぼんくら(上)(下)』、『日暮らし(上)(下)』に続く江戸時代もの。『日暮らし(上)(下)』は読了したのに、もたもたしていて感想をアップし損ねた作品。やっぱり、感想は読了直後にさかさかとアップしないといけないな~。
どちらもNHKでドラマ化されていて、読みながら演じていた役者の顔が浮かび、本所の岡っ引き政五郎を亡き大杉漣が演じていたことを思い出したりした。

宮部みゆきの時代ものには、①艶っぽいが性格に難のある女、②利発で健気な子供、③酒毒で頭がいかれた乱暴者がよく出てくる。この作品では、①はおでこの生みの母親おきえ、②はおでこと平四郎の甥の弓之助、③は包丁を振り回してお縄になった仙太郎。
よく登場するということは、これらのキャラクターは物語を作りやすく、話を転がしやすいのだろうか?

主人公の平四郎は昼行灯のようないたってやる気のない御仁。口癖は「めんどくせぇなぁー」だ。読んでいてイライラすることもしばしば。
とはいえ、律儀な働き者の小平次やお徳、しっかりものの妻、やり手の政五郎などがいて、一人くらいは気の抜けた者がいたほうが、読んでいてほっ。。とできるのかもしれない。この性格が暴力や殺人、差別や偏見、嫉妬や妬みなどの重さから、作品全体を軽くしてくれるのだと思う。

弓之助は恐ろしいほどの美形に生まれついた少年だ。あまりに美しいので、「この子は町屋で育つのは剣呑です」と平四郎の妻(弓之助の母親は姉)に心配され、武家である井筒家の養子にしたいと願っている。
「弓之助のように生まれつくこと。その違いはどれくらいのものなのか?人生の道のりは、どんなふうに異なるか?」と、平四郎は己の馬面は棚上げにして考えるのがおかしかったりする。
本人の預かり知らぬところの容姿の美醜が、人生をどう転がすのか興味があるのだろう。もっともだと思う。

事件を探索していく件はわくわくする。幾つもの些末な事柄がひとつひとつ集まってきて、ピースがぱちぱち!とはまっていくようで小気味よく楽しい。
身元不明の死体だった男は、「両足の中指が長い」ことが決めてとなって身元が判明する。これは…。横溝正史の『悪魔の手毬唄』と一緒だよ~と思ったのは、私だけではないと思う。宮部みゆきが知らぬ訳はないので、横溝正史へのオマージュなのだろう。

人間関係、過去の因縁が絡んで絡んでもつれきった糸を、ひとつひとつ丁寧に解いてゆく小気味のいいミステリー。
下巻はどう展開していくのか楽しみ♪





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宮部みゆき『あかんべえ(下)』あらすじと感想

2020-08-06 10:44:48 | 紙の書籍
新潮文庫 宮部みゆき『あかんべえ(下)』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
あかんべえ 下巻
解説ー理想像について 菊地秀行


【あらすじ】
料理屋「ふね屋」には五人の亡者が迷っていた。あかんべえをする少女、美男の若侍、婀娜っぽい姐さん、按摩のじいさん、宴席で暴れたおどろ髪の男。亡者と心を通わせていくうちに、おりんは、ふね屋の怪異が三十年前にここで起きた忌まわしい事件に関わっていることに気づく。
幾重もの因縁の糸はほどかれ、亡者は成仏できるのだろうか?
ファンタジーとミステリーと人情話が溶け込んだ江戸時代もの。


【感想】
下巻のほうがするすると読み進められた。上巻では亡者絡みの騒動が次々に起き、訳がわからず??となっていたから。

亡者のおみつが言う台詞、「ああ、嫌だ嫌だ! 人ってのはどうしてこう、汚いんだろうね。どうしてもっと潔くなれないんだろう?」。同じ亡者の玄之介が「それがわかれば苦労はないさ」と答える。刺さる台詞だ…。

白子屋たちがふね屋に会する件では、名前が似たりよったりで紛らわしい。特に町人の女性たち(亡者も含めて)は皆、頭に「お」がつく平仮名なので余計に混乱してくる。読んでいて「誰だっけ?続き柄は?」と、頭がフル回転しながらなのでおもしろいけど疲れてくる。横溝正史の作品を読んでいる気分になった。

おゆうは父親の白子屋に捨てられた恨みと、腹違いの妹への妬みで生きながら亡者のようになっていた。亡者のおどろ髪がおゆうに向かって言う台詞が痛く哀しい。。真実だから。
「おまえの、親父。妹。おまえの、ものじゃない。親父も、妹も、おまえの、ものじゃない。親父も、妹も、おまえの、取り分じゃない。他人だ。争っても、何もない。争おうと、思ったときに、争ってでも、ほしかったもの、おまえがほしかった取り分、そんなものは、消えて、なくなってしまった。みんな、消えて、なくなって、しまった。だから、おまえは、他所へ行った方が、ずっとずっと、よかったんだよ」

亡者の銀次とおどろ髪の件は、もう完全にオカルトかホラー。ちょっとくどいかもしれない。

「心のしこり」と「何かへ強い想い」がある者が、同じ心情をもつ亡者が見える…ということになっている。だから見える者には見えるし、見えない者には見えない。唯一の例外はおりんだけだ。
最後は大団円。おりんが亡者を見てしまう謎が解き明かされる。全ての伏線はきっちりと回収されて、絵画の消失点に向かっていくような感覚がした。
ホラー風味をふりかけた上質な江戸時代ものファンタジー作品。






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宮部みゆき『あかんべえ(上)』あらすじと感想

2020-07-07 11:07:59 | 紙の書籍
新潮文庫 宮部みゆき『あかんべえ(上)』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
あかんべえ 上巻


【あらすじ】
江戸は深川の料理屋「ふね屋」では、店の船出を飾る宴も終ろうとしていた。主人の太一郎が胸を撫で下ろした矢先、突然、抜き身の刀が暴れ出し、座敷を滅茶苦茶にしてしまう。亡者の姿は誰にも見えなかった。
しかし、ふね屋の十二歳の娘おりんにとっては、高熱を発して彼岸に渡りかけて以来、亡者は身近な存在だったー。この屋敷には一体、どんな悪しき因縁が絡みついているのだろうか?


【感想】
これは上下巻のうちの上巻なので、結末はまだわからないが、とりあえず上巻を読了した感想を記しておく。
宮部みゆきのお得意の江戸時代物、活発な女の子が活躍するのも鉄板。
作品名の「あかんべえ」はおそらく、ふね屋に出没するお梅という赤い着物を着た女の子の幽霊が、おりんに向かっていつも「あかんべえ」をしていることに関係していると思われる。お梅は井戸に転落して亡くなってしまったらしい。哀れな最後だ…。
ほかにも、笑い坊という按摩さん、玄之介という色男の若侍、おどろ髪という酒臭い乱暴をはたらく浪人風の男、おみつという色っぽい美しい女がいる。それぞれに言うに言われぬ事情があって、こうしてふね屋に亡者として居座っているのだろうが、まだそのへんはぼんやりとしている。おそらく、下巻できっちりと伏線が回収されて胸がすっきりとするのだろう。
最後のくだりで新たに出てきた疑惑、おどろ髪と料理人島次は本当に実の兄弟を殺したのか?どんどん闇が深くなっていく気がする。

相変わらず「宮部節」が全開。人の心の機微が時にほろり、時にぐさりとしっかり描かれている。これが作品に引き込まれる要因だと思う。
余談だが、このへんがきちんと描けていない他の作家の作品を読むと、「この作者は一体、何を書きたかったんだろう?」と思ってしまう。薄っぺらかったり、自己満足だったり、独りよがりだったりしていて、せめて世界観や風情くらいは感じさせて欲しいなぁ…としみじみ思う。




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