積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録。

恩田陸『土曜日は灰色の馬』内容と感想

2021-04-11 16:11:43 | 紙の書籍
ちくま文庫 恩田陸『土曜日は灰色の馬』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
硝子越しに囁く
Ⅰ 面白い本はすべてエンタメ
Ⅱ 少女漫画と成長してきた
Ⅲ 暗がりにいる神様は見えない
初出一覧
あとがき
文庫版あとがき


【内容】
小説、漫画、映画に音楽、舞台まで。少女時代からありとあらゆるエンターテインメントを堪能し、物語を愛し続ける作家の眼にはどんな世界が映っているのか? その耳はどんな響きを感じているのか? どんな言葉で語るのか?
軽やかな筆致で想像力の海原を縦横無尽に楽しみ尽くす、とびきり贅沢なエッセイ集。


【感想】
ひとつひとつについて感想を書いていると、この作品と同じくらいの長さになりそうなので細かいことは割愛する。ざっくりとおおまかに各章について触れておく。

硝子越しに囁く 9P
しょっちゅうテナントの変わる店…あるある、周りは続いているのに。家と場所の記憶もおもしろい。ちょっとオカルト気味だが。
ちなみに私はサンシャイン60が駄目だ。渋谷や六本木が駄目だという人もいるが、私は平気なのだ。人によるんだろうな~。

Ⅰ 面白い本はすべてエンタメ 33P
まだ読んだことのない作品が多くて、気になった本をまたぞろ探して「☆お気に入り」に入れてしまった。購入予定金額が数万円になっている。苦笑。
「一人称の罠」には激しく同意してしまった。なによりも「自分」。傷つかないこと、癒やされることが最優先。自分の閉鎖空間で膝を抱える、いつまで経っても客観性と俯瞰の視点をもつことができない大人子供たち。
このことに気持ち悪さを感じていたのは私だけではなかったのだな…。

Ⅱ 少女漫画と成長してきた 173P
読んだ作品もそうでない作品もあるが、どの漫画家も知っている。大御所から少々マニアックな方まで。
内田善美は音信不通だそうで再販もできないらしい。読みたいのだが…。漫画家を「卒業」したのだろうな…。
引っ越しをするときに処分してしまった内田善美の『草迷宮』。あのときの自分を殴りに行きたい。環境が変わるから、もういいだろう。。と処分してしまったのだ。手に入らなくなるとは思わず。泣ける。

Ⅲ 暗がりにいる神様は見えない 225P
映画と演劇についてが書かれている。観たものもそうでないものもある。
『24』に早々脱落したという件に「一緒♪」と思った。
「おはなしの神様」は「物語る」存在だという。ストーリーはなくなり、複雑化されたプロットだけがあるのだと。もしくは、心象風景と称する「自分の話はしたいが、人の話は聞きたくない」という映画ばかりが増えて、映像作家は日々生まれても、映画監督は消えつつある……と語る。
そうかもしれないな…。「心象風景」という名の自慰行為を観させられているような、気持ち悪さを感じていたから。


【余談】
『土曜日は灰色の馬』という素敵なタイトルに惹かれて、タイトル買いしてしまった本。恩田陸は好きな作家なので、まだ購入していないものをチェックしていて、さかさかと「☆お気に入り→カート→購入」という流れだった。
購入したのはいつもの honto で、まとめ買いしたときの一冊。こちらも随分長く積ん読だった。苦笑。
読み始めてからエッセイだったのか~となった。実は、エッセイはごく一部を除いて苦手なのだ。まぁ。。仕方がないこんなこともあるよ。
私は物語、ストーリーが読みたいのだと改めて思った。作家によって紡がれた物語、作家が表現したかった何かを読みたいのだ。
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テクニカルな本を2冊購入しました♪

2021-03-02 16:35:35 | 紙の書籍
ネットの書店hontoでテクニカルな本を2冊購入しました。小説はまだ積ん読状態なんですが、それとはまた別のジャンルなのでね~。


『トラベル・フォトレシピブック 空気感のある旅の感動シーンの撮り方』
フォトコミュニケーション協会のオンラインサロンでおすすめされていたので♪ 撮り方のレシピが載っているので、とても勉強になりそうです。




今まではオリンパスのコンデジを使っていました。コンデジにしてはいいほうで、ズームもかなりできるし、マクロやスーパーマクロもあって、そこそこ使えてたんですが、いかんせんコンデジはボケができないので…。
そろそろ、ブログや記録用の写真だけじゃない、可愛い♡と思ったものをスタイリングして撮りたいな~♪レタッチしてイメージどおりに仕上げたいな~♪と。
最近、パナソニックのミラーレス一眼カメラを購入したので、日々勉強中です。取り扱い説明書は読んでいても??ばかり。写真用語集を読んでもわかったようなわからないような…。
毎日カメラを触って慣れるようにがんばりま~す。



『花屋さんに並ぶ植物がよくわかる「花」の便利帖』厳選327種
インスタでフォローしているフローリストさんがおすすめしていたので♪




庭では植物をそこそこ育てていても切り花はあんまり。フラワーアレンジはおしゃれな花屋さんで数回、1DAYレッスンを受けたことがあるくらいで、きちんと基礎から学んだことはないんです。
このときの講師さんがちょっとな感じだったので、レッスンに行くのを止めてしまったし。詳しくはね、書かないけど、ちょっと大人気ないかな~と。
普段の生活でお花を楽しむのなら、オアシスを使ったアレンジメントより花器に生ける投げ入れが合っていると思うけど、これが意外と難しいの。花器の中で茎がくるくる回って、思うところに収まってくれないし。
こちらも日々練習ですね~。がんばります♪


本の撮影に使ったフォトスタイリングボードはこの間作ったものです。
そのときの記事はこちら。 → 「リバーシブルなスタイリングボード♪」

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恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』あらすじと感想

2021-02-25 12:15:39 | 紙の書籍
集英社文庫 恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
一、窓辺の記憶
二、お屋敷の人々
三、赤い凧
四、蔵の中から
五、『天聴会』の夜
六、夏の約束
七、運命
解説 新井素子


【あらすじ】
青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあるあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、未来を予知するちから…、不思議な能力を持つという常野一族。
槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。今を懸命に生きる人々。懐かしい風景。切ない余韻を残していく長編。


【感想】
解説で新井素子が書いているように、凛として美しく優しい、理想の少女時代を描いている。かつての少女たち(少年たちも?)が一度は憧れた世界。聡子と峰子の日常が微笑ましく楽しげだ。
『常野物語』という作品の一部でもあり、“常野”と呼ばれる一種の超能力を持った一族、春田家の人々が登場してサイドストーリーを紡いでいく。彼らの能力は「しまう」=人を丸ごと受け入れること。
穏やかで美しい世界もやがて災害や戦争に巻き込まれ、次々に大切な人々を失ってゆく。人知の及ばない災害と人が起こす戦争と、一体どちらが残酷で人の心を蝕んでゆくのだろう…。
最期の終わり方がなんとも胸に迫る。老いた峰子が終戦を迎え、絶望と悲しみの中で吐露する心情がたまらない。
「私は光比古さんに会いたくてたまりません。あの時、光比古さんが私にした問い掛けを、今度は彼にしたいのです。彼らが、そして私たちが、これからこの国を作っていくことができるのか、それだけの価値のある国なのかどうかを彼に尋ねてみたいのです。」

美しさと残酷さを合わせ持った、なんともいえない読後感が残る作品。


【余談】
恩田陸の『常野物語』シリーズはこれが初めて読んだ作品。できれば全部読んでみたいと思う。

超能力を持った人々という設定に、筒井康隆の『七瀬ふたたび』を思い出した。こちらは一族ではなかったと記憶しているが…。
彼らは予知はできる、というかしてしまうが、それを阻止することはできない。ただ、その未来が見えるだけ。とても残酷で辛い能力だ。
この設定は人の無力と理不尽について考えさせられる。
春田家の「しまう」能力は現実世界では、イタコとカウンセラーを融合させたようなものだろうか? 人は人として生きていくためには、そういった存在が必要なのだろうな…。
数少なくなったというイタコ、拝み屋、彼らはどこに行ってしまったのだろう? そして、彼らに頼っていた人々は今度はどこへ頼っていくのだろう?
そんなことをふと思った。



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恩田陸『七月に流れる花/八月は冷たい城』あらすじと感想

2021-01-28 10:44:01 | 紙の書籍
講談社文庫 恩田陸『七月に流れる花/八月は冷たい城』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
「七月に流れる花」
序詞
第一章 緑色の配達人
第二章 夏の城への道
第三章 少し奇妙な日常
第四章 流れる花を数える
第五章 消えた少女
第六章 暗くなるまで待って
第七章 鐘が三度鳴ったら
第八章 夏の人との対話
終章 花ざかりの城

「八月は冷たい城」
第一章 砕けた夏
第二章 蟷螂の斧
第三章 四人の少年
第四章 花の影
第五章 もう一人いる
第六章 緑の疑惑
第七章 暗い日曜日
第八章 動揺の理由
第九章 最期の鐘が鳴る時
終章 沈黙の城


【あらすじ】
呼ばれた子どもは必ず行かなければならないー。「夏のお城」への林間学校へ招待された少年少女たち。全身緑色をした不気味な「みどりおとこ」の引率のもと、古城での共同生活が始まった。
彼らはなぜ城に招かれたのか?同じひと夏を少女の視点で描く「七月」と、少年側から描く「八月」を一冊に収録。


【感想】
ダークファンタジーというジャンルになると思う。冒頭から不穏な空気感があって怖い…。ミステリー仕立てでもあり、後半はホラー要素も満載。グロテスクな結末なのに、ホラー映画を観た後のような不快感があまりない。不思議。ファンタジー色が強いからだろうか?
あちらこちらに伏線がばらまかれ、ラストに行くにしたがって粛々と回収されていく。
「夏流城」=夏が流れる城と書いて「かなしろ」と読む。少年少女たちの林間学校、同じ運命をもつものが夏の時間をすごす城。「悲しい」「哀しい」とも重なっているのかもしれない、意味深な名前だ…。
この城はかつてパンデミックを起こした、「緑色感冒」の患者を隔離するためのコロニー。少年少女たちが呼ばれるのは、家族の死期が迫っているから。でも死に目に会えるわけではない。感染力が強く隔離しなければならない伝染病だから。
家族の死期が近づくと鐘が三度鳴る。鐘が鳴ったら、お地蔵さんのところに行かなければならない。これがこの城の規則。お地蔵さんの後ろにはマジックミラーになった鏡があり、家族のほうからは見えるが少年少女たちには見えない。
「緑色感冒」に罹患し死を迎えると、全身緑色をした「緑色感冒」のサバイバー=「みどりおとこ」の引き継ぎがある。王位継承のようなものだが、文字どおり弱肉強食によって、弱いものが強いものに丸ごと食われてしまう。そして、それまでの患者の記憶をも引き継ぐのだ。

「七月」はこの町に引っ越してきたばかりの大木ミチル、「八月」は嘉納光彦が主人公、その二人に聡明で華のある佐藤蘇芳が深く関わっていく。蘇芳はミチルにはこの城の意味も亡くなるのが別れた父親だということも、伏せておいて欲しいとミチルの母親に頼まれている。光彦とは気の合ういとこ同志だ。
蘇芳は自分も親を亡くすのに、大変な仕事を任されて可哀想な役回りだ。なまじしっかりして賢いと、子供の頃から大人たちに小さな大人扱いされ、いろいろなことを押しつけられてしまう。正論の名のもとに。子供時代は子供でいていいのに…。
「七月」のラスト。ミチルが胸の中で呟く。
さよなら、夏の人。さよなら、あたしたちの夏流城。さよなら、あたしたちの悲しい夏ー
メメント・モリ。死を想え。
「八月」ラスト。「ーいい子ねえ、光彦は」耳の後ろでそんな声を聞いたような気がしたが、光彦はもう振り向かなかった。
悲しみと絶望、諦念の向こうにかすかな希望の明かりが見えている気がした。


【余談】
この作品は2016年12月に書き下ろし、2018年9月に刊行、2020年7月に文庫版第1刷発行されている。2021年1月現在、まさかこんな状況になっていようとは作者も思いもよらなかったはず…。
「事実は小説より奇なり」とはまさにこのことかもしれない。
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松本清張『松本清張傑作短篇コレクション 下 ー宮部みゆき責任編集』あらすじと感想

2021-01-14 16:59:32 | 紙の書籍
文春文庫 松本清張『松本清張傑作短篇コレクション 下 ー宮部みゆき責任編集』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次とあらすじ】
第七章 タイトルの妙
 前口上 宮部みゆき
 支払い過ぎた縁談 旧家の萱野家が娘の良縁にこだわった結果…。 
 生けるパスカル 画家の矢沢辰生は、妻を無理心中に見せかけて殺害を企てる。ところが意外なことから犯罪が露見してしまう。
 骨壷の風景 祖母カネには墓も位牌もなく、とある寺に遺骨は預けっぱなしになっている。そのことが気になりだした私は遺骨を探し始める。 
第八章 権力は敵か
 前口上 宮部みゆき
 帝銀事件の謎ー「日本の黒い霧」より 帝銀事件の真相とは…。
 鴉 しがない中年サラリーマン浜島庄作が労働組合の活動に熱中するあまり…。
第九章 松本清張賞受賞作家にききました
 「真贋の森」と「西郷札」 山本兼一
 「菊枕」と思い出の高校演劇 森福都
 「火の記憶」の記憶 岩井三四二
 『地方紙を買う女』もどきを書いてみる 横山秀夫
 西郷札 西南戦争に際して発行された西郷札を巡る、人の金欲がもたらしたものは…。
 菊枕 ぬい女略歴 三岡圭助が結婚した才色兼備のぬい。俳句に熱中するあまり…。
 火の記憶 頼子が結婚をした高村泰雄は天涯孤独の身の上だった。泰雄が幼い頃に見た「火」の記憶とは…。
 終わりに 宮部みゆき

 
【感想】
短篇集で作品数が多いのでかなりざっくりと。

「支払い過ぎた縁談」
地方の旧家で財産持ち、プライドが高い当主とその家族。今に立派なところから話がもちこまれるに違いないと信じている。家柄・資産・教育の三種の神器がうちの娘にはあるのだからと。
客観的にみれば、この三種の神器がなくても若く美しく、性格に難がなければ、それだけでとうに…。つまりはそういうことなのだが…。
結局、良縁だと思っていた話はただの詐欺だったというおち。何事も分相応、高望みはしないこと。そして、上手い話には裏がある。ご用心。

「生けるパスカル」
画家の矢沢辰夫は『死せるパスカル』という小説にヒントを得て、邪魔な存在になってきた妻を無理心中に見せかけて殺害する。男の身勝手さにげんなりするが、本音はこんなものかもしれない。
無理心中計画をたてるまでが冗長に感じた。そこに至るまでの心理をきちんと描きたいのだと思うが…。松本清張の大ファンである宮部みゆきの作品構成も似ているような気がする。
絵の中の干からびたレモン・イエローと、小さな虫の翅から犯罪が発覚するというのもすごいなぁ。。

「骨壷の風景」
祖母カネの骨壷は墓ができるまでと、ある寺に一時預かりのままになっている。骨壷の寺預けというのは金銭的に苦しい貧乏人のすることだそうだ。「地獄の沙汰も金次第」そのままな話。人は生まれてから死ぬまで「お金」に縛られる生きものだとつくづく思う。
松本清張の作品にはこの手の「お金」絡みの話が多い。ご本人も経済的に困窮し、とても苦労されたという話を聞いたことがある。

帝銀事件の謎ー「日本の黒い霧」より
帝銀事件の犯人は最高裁の判決によって平沢貞通に決定した。だが、本当の犯人は誰なのか?誰がこの判決が出るようにもっていったのか?日本軍とGHQ、警察の関係に暗澹たる気持ちになる。

「鴉」
あらゆることにぱっとしない中年サラリーマン浜島庄作の悲哀。。では終わらなかった。労働組合運動を熱心に活動するうちに、今までもったことのないパワーとコントロール、支配力に自分自身が酔ってしまった。「凄いぞ!俺!」と。勘違いなのだが…。
やがて、全ての歯車が狂い始め、狂気が加速し、柳田を殺してしまう。哀れなのは浜島ではなく殺された柳田とその家族だ。やりきれない気持ちになった。

「西郷札」
明治の西南戦争に際して薩摩軍の発行した紙幣「西郷札」。「さいごうふだ」ではなく「さいごうさつ」と読む。間違えて読んでいた…。恥ずかしい。
ただの紙屑となった「西郷札」を巡って、一攫千金を狙った男たちと巻き込まれてしまった樋村雄吾の悲劇。彼らを破滅に導いたのが、樋村の義理妹の夫だったというのも哀れを誘う。

「菊枕」
才色兼備を自他共に認めるぬい。軍人の父の勧めるままに、美術学校を卒業した三岡圭助と結婚したのが、彼女にとって人生の大誤算だった。もっと才能と野心のある男だと思い結婚したから。ぬいは夫に苛立ち、憤り、軽蔑し、諦念した。
ぬいは自分の境遇を恥じていて、その鬱憤を俳句で認められることで晴らそうとする。やがて、家事も育児も放り出し、師匠につきまとい、精神を病んで精神病院に入院する。ぬいの自負と負けん気、プライドの高さに辟易しつつ、哀れとも思う。美貌と才能に恵まれたのに、田舎の貧乏教師に嫁ぎ、それに耐えられず自分で自分を壊してしまったのだろう…。
ふと、高村光太郎の『智恵子抄』を思い出した。

「火の記憶」
頼子の夫、高村泰雄は天涯孤独の身の上だった。結婚してから二年も経ってから、泰雄から聞かされた幼い頃の記憶。それは母の不貞と父の不在。それを泰雄は恥じていた…。
頼子の兄はこの話を妹から聞き、泰雄の思い違いだと妹に手紙を書いた。おそらくそれが本当のことだろう。
泰雄が三人で見た火の記憶は、炭鉱のボタ山に捨てられた炭が自然発火して燃焼している火だった。絵画のような光景で美しいと思った。


【余談】
人気実力とも当代随一の作家 宮部みゆきが責任編集した短編集の(下)。何故か(中)を先に購入していて読了済みだが、もたもたしているうちに感想をアップし損ね、次に(上)を読了したという変則の読み方になってしまった。
ほとんどの作品が過去に映像化されていて、ドラマにいたっては「何度目だ!ナウシカ!(日テレ)」並に多い。ケーブルの各チャンネルで今もよく放送されているので、その気になれば結構観られる。
そういえば、古いドラマのエンドクレジットに「霧企画」とある作品が多く、随分と松本清張作品ばかりを手掛けている制作会社なんだな~と思っていたら、ご自分の作品を映像化するための会社だったらしい。納得。

松本清張作品は過去が舞台なので、文化的なことやトリックには、現代では成り立たないことも多い。それはそれとして、逆にある距離感をもって読むことができるので、生々しさがなくストレスなく作品として楽しんで読むことができる。
それに、時代を越えた普遍な人というものをしっかりと描いているので、飽きがこず読み続けられるのだろう。ラストがびっくりするくらい呆気なく終わってしまうのは、多分、作家本人が謎解きそのものにはあまり関心がなく、そこに至るまでの人の心理や犯罪計画の過程のほうが書きたいのだと思う。

ノンフィクションは現実の歴史の1ページなので、矛盾や理不尽や不公平に読んでいてぐったりしてくる…。自国の歴史だから知らなくてはいけないとは思う。思うのだが、本音を言えば楽しくない。読書の楽しみを感じられないので、読んでいて結構辛いものがある。
これからもノンフィクションは苦手なのは変わらないと思う。
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