Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

(訂正)キャラクターコメンタリーの創始は2006年のテニプリOVAでした

2011-01-28 17:08:26 | 書誌・図書館
ここ数回、日本のアニメ・ビデオグラムにおけるキャラクターコメンタリーの全史を振り返っています。
ここまでさんざん書いてきてなんですが、キャラクターコメンタリーの創始に関して、重大な訂正があります。

過去記事はこちら
2009年編 / 2010年前半期編 / 2010年劇場版・OVA編


■真の創始は2006年の『テニスの王子様 Original Video Animation 全国大会篇』
第3回の上梓後、「キャラクターコメンタリーの始まりは、2006年の『テニスの王子様』ではないか」という情報を賜りました。
調べてみましたら、確かにその通りでした。
よって、ここにお詫びして訂正いたします。


アニメ『テニスの王子様』は許斐 剛(このみ たけし)原作の同題のテニス漫画を原作とするアニメ……だったはずですが、2年目辺りから超人バトルアニメさながらの超演出(*o)が目立つようになり、アニメ版の一大特徴となりました。この超人テニスっぷりはもはやテニスではないとして、「テニヌ」という渾名さえ生まれました(*p)。
テレビシリーズは2001年10月から2005年3月まで3年半、全178話(DVD 全45巻)が放映され、その後2005年1月に劇場版第1作(*q)が公開、2006~08年に続編OVAが3シリーズ、2009年に外伝OVAシリーズ、2010年にTV版を再編集した名シーンDVDシリーズが発売されています。

キャラクターコメンタリーが収録されているのはこのうち続編OVA『全国大会篇』『全国大会篇 Semifinal』『全国大会篇 Final』の3シリーズ(いずれも監督: 多田俊介、音響監督: 平光琢也、アニメーション制作: M.S.C)となります。
収録は各巻一話ずつ。コメンタリーの脚本家は不明。

「キャラクターコメンタリー」の呼称はまだ用いられておらず、「他校キャラによる解説オーディオコメンタリー」(*18)「声優の感想コメンタリーではなく、キャラが映像に合わせて会話しながら本編を解説していくというもの」(*19)と説明されています。
この説明通り、登場キャラ自身がメタフィクショナルな視点により解説をするものではなく、その回の本編内には登場しないキャラが解説をしているという形態をとっているため、メタフィクション特有の一種の違和感は生じない作りとなっています。
テニスの王子様 Original Video Animation 全国大会篇』 2006年OVA作品 全13話 全7巻 + 紹介編1巻
 発売元: テニスの王子様プロジェクト・バンダイビジュアル、販売元: バンダイビジュアル
▼Vol.1 2006年3月24日発売 1話収録 (#1)
  キャラコメ#1 = 観月はじめ(石田 彰)、不二裕太(冨田 真)
▼Vol.2 2006年5月26日発売 2話収録 (#2, 3)
  キャラコメ#2 = 真田弦一郎(楠 大典)、柳 蓮二(竹本英史)
▼Vol.3 2006年7月28日発売 2話収録 (#4, 5)
  キャラコメ#4 = 宍戸 亮(楠田敏之)、鳳 長太郎(浪川大輔)
▼Vol.4 2006年9月22日発売 2話収録 (#6, 7)
  キャラコメ#6 = 跡部景吾(諏訪部順一)、忍足侑士(木内秀信)
▼Vol.5 2006年11月24日発売 2話収録 (#8, 9)
  キャラコメ#9 = 千石清純(鳥海浩輔)、壇 太一(小林由美子)
▼テニスの王子様 Original Video Animation 全国大会篇 INVITATION DVD 2006年12月22日発売
  キャラコメ = 大石秀一郎(近藤孝行)、菊丸英二(高橋広樹)
▼Vol.6 2007年1月26日発売 2話収録 (#10, 11)
  キャラコメ#10 = 丸井ブン太(高橋直純)、切原赤也(森久保祥太郎)
▼Vol.7 2007年3月23日発売 2話収録 (#12, 13)
  キャラコメ#13 = 遠山金太郎(杉本ゆう)、忍足謙也(福山 潤)、白石蔵ノ介(細谷佳正)

テニスの王子様 Original Video Animation 全国大会篇 Semifinal』 2007年OVA作品 全6話 全3巻 + ファンディスク1巻
 発売元: テニスの王子様プロジェクト・バンダイビジュアル、販売元: バンダイビジュアル
▼VOLUME 1 2007年6月22日発売 2話収録 (#1, 2)
  キャラコメ#2 = 木手永四郎(新垣樽助)、平古場 凛(吉野裕行)、甲斐裕次郎(中村太亮)
▼VOLUME 2 2007年9月25日発売 2話収録 (#3, 4)
  キャラコメ#3 = 仁王雅治(増田裕生)、柳生比呂士(津田英佑)
▼テニスの王子様 Original Video Animation 全国大会篇 FAN DISC White heat Remix 2007年12月21日発売
  キャラコメ = 手塚国光(置鮎龍太郎)、不二裕太(冨田 真)
▼VOLUME 3 2008年1月25日発売 2話収録 (#5, 6)
  キャラコメ#5 = 葵 剣太郎(豊永利行)、佐伯虎次郎(織田優成)、黒羽春風(大黒和広)、天根ヒカル(竹内幸輔)

テニスの王子様 Original Video Animation 全国大会篇 Final』 2008年OVA作品 全7話 全4巻 + ファンディスク1巻
 発売元: テニスの王子様プロジェクト・バンダイビジュアル、販売元: バンダイビジュアル
 ※第0巻とファンディスクはキャラコメ無し
▼VOLUME 1 2008年7月25日発売 2話収録 (#1, 2)
  キャラコメ = 橘 桔平(川原慶久)、千歳千里(大須賀 純)、神尾アキラ(鈴木千尋)、財前 光(荒木宏文)
▼VOLUME 2 2008年10月24日発売 2話収録 (#3, 4)
  キャラコメ = 忍足侑士(木内秀信)、忍足謙也(福山 潤)
▼VOLUME 3 2009年1月23日発売 2話収録 (#5, 6)
  キャラコメ = 跡部景吾(諏訪部順一)、千石清純(鳥海浩輔)、壇 太一(小林由美子)、不二裕太(冨田 真)、佐伯虎次郎(織田優成)、河村 隆(川本 成)、柳生比呂士(津田英佑)、木手永四郎(新垣樽助)、白石蔵ノ介(細谷佳正)、千歳千里(大須賀 純)、橘 桔平(川原慶久)、伊武深司(森山栄治)、日吉 若(岩崎征実)

■どうして認知度に差が生じた
このテニプリOVAの試みは他作品に影響を及ぼすことが全く無かったため、あまり知られることのないまま、今日まで「キャラクターコメンタリーの創始は2009年の『化物語』」という認識がアニメファンにもアニメ業界にも広がってしまっているのだと思われます。
実際にファンにも業界にも衝撃を与えてその後の流行を生んだのは『化物語』なわけですし。
結局、テニプリOVAのことが誰も念頭に浮かばなかった(要するに誰も知らなかった)ため、誰言うとなく「化物語が初」と思われるようになったのでしょう。
……というのは小生が知らなかった負け惜しみですね。

なお西尾維新先生がテニプリOVAのコメンタリーを事前にご存知であったかどうかは不明ですが、先生自身は「謎めいた企画」とは仰っている(*20)ものの、これが "業界初の試み" であるなどとは西尾先生も『化物語』ソフト発売元のアニプレックスも公式には一言も謳っていません。
西尾先生の発案は車輪の再発明だったのかもしれませんが、実際に大きな反響と社会的影響を生んだのはどちらであるかを考えれば、発祥がどちらであるかなどということは大した問題ではないです。『化物語』のキャラクターコメンタリーは "業界初だから" 消費者に支持されたのではないのですから。


この、テニプリOVAの情報が広く知られなかった原因を「テニプリの主な購買層である女性層と『化物語』の主な購買層であると思われる男オタとではネットを中心とした情報発信力が段違いだから」というところだけに求めるのは、辛いかもしれません。
というのは、業界人の多くも『化物語』で初めて釣られているからです。
現在のアニメ製作業界はとうの以前より男性中心の世界はなくなっていますし、業界内であれば大なり小なり何らかの情報なり噂は聞こえてくるはずなのに、です。

このような認知度の差が生じた要因を探ると、テニプリOVAは、既に作品のファンである固定客相手の商売であり新規顧客を相手にしたものではなかったことが、情報の拡散を生まなかった要因として大きかったからではないでしょうか。

一方の『化物語』の側には、以下のような好要因が挙げられます。

 ▼新作アニメであったこと。
   →(原作付き作品ではあるが)多くの新規顧客を相手にすることになる。
   →宣伝も相まって、作品の情報が流通しやすい。
 ▼本編登場キャラ自身によるメタフィクションとして作られた初の事例であったこと。
   →(この点で、初の "本格的" キャラクターコメンタリーだということは言えると思います)
 ▼製作元のアニプレックスがこれに「キャラクターコメンタリー」という名称を与えて、商品仕様の目玉の一つとしたこと。
 ▼セルソフトが各巻5万枚超えの大ヒットとなったこと。
   →ビデオグラムが多くの消費者の目に触れて、コメンタリーに触れる人もそれだけ多くなった。
 ▼コメンタリーの内容自体が、それ単独で大きな話題になるほど非常に面白いものであったこと。
   ←よい書き手に恵まれたから。
   →好評だとしてあちこちで話題になることが、興味を持つ人をさらに生むアナウンス効果をもたらした。

これらのことが、圧倒的な認知度を得ることにつながったと考えられます{{独自研究}}。
最後の行について補足すると、『化物語』のキャラクターコメンタリーを視聴して爆笑した……というブログやツイート等でのユーザーの声は、初巻発売開始後1年以上・最終巻発売後半年経った最近でもいまだに時々みられます。


(今度こそ最終回に続く)

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(*o) = (サブカルチャー分野における)「超〇〇」という言い回しは、ゲームブランド Leaf のシナリオライターだった竹林明秀氏(2003年11月23日歿)が2001年9月19日に2ch葉鍵板で「超先生」と呼ばれたのが発祥。その後、2003年1月期テレビアニメ『魔法遣いに大切なこと SOMEDAY's DREAMERS』(原作・脚本: 山田典枝)の放送中、世界観設定とシナリオのあまりの破綻となんちゃって三文SFっぷりにキレた2chアニメ板住民が超先生に倣って「超脚本」と呼んだのが亜種の初出で、これ以後(主に2000年代半ば以降)、視聴者置いてきぼりのぶっ飛んだストーリー展開を「超展開」と呼ぶなど多くの派生形が生まれた。
(*p) = 2005年8月21日の嘘ニュース記事「「テニスの王子様」テニス呼称を差し止め申請」が発祥。同年9月1日、声優の池澤春菜さんが自サイトのウェブ日記でこの嘘記事に釣られたことでさらに有名になった。
(*q) = 2010年12月4日、劇場用アニメ映画第2作となる『劇場版 テニスの王子様』(仮題)が2011年秋公開予定で製作されることが発表された。

(*18) = あにてれ:テニスの王子様 オリジナルビデオアニメーション情報サイト - 全国大会篇 - テレビ東京
(*19) = 作品詳細 テニスの王子様 Original Video Animation 全国大会篇 Vol.1 - デジタルビート
(*20) = 西尾氏からのメッセージ - 化物語スタッフブログ、2009年9月3日

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ブレーク!テニプリOVA
http://www.tenipuri.jp/
ブレーク!テニプリOVA
テニスの王子様 (テレビ東京・あにてれ)
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/tennipri/
テレビ東京・あにてれ テニスの王子様
テニスの王子様 Original Video Animation


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