Vanteyのアース線(もしくは枯れた資料帳)

怠け者のウィキメディアン・Vanteyの、脳内が帯電してきた時のはけ口。非百科事典的。過度な期待はしないでください。

アニメソフトのキャラクターコメンタリー収録状況まとめ(2010年劇場版・OVA編)

2011-01-23 10:17:02 | 書誌・図書館
前々回前回に引き続き、日本のアニメ・ビデオグラムにおけるキャラクターコメンタリーの全史を振り返ります。
今回は全4回(全3回予定でしたが1回延ばします)の3回目、2010年に発売された劇場版アニメ作品とOVAにおける状況についてまとめます。

初回で説明しましたが、キャラクターコメンタリーというのはオーディオコメンタリーの一種で、スタッフやキャストではなくその作品の登場キャラクターが(声優は台本に従って演技した状態で)、映像の解説や裏話を語るものです。2009年9月からビデオグラムが発売された『化物語』がその創始流行の発端で、2010年前半期には数作の追随者が現れました。


■映画モノ初は『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』
2010年11月26日には『迷い猫オーバーラン!』最終6巻に加え、キャラクターコメンタリー収録作品がもう2タイトル発売されました。
3タイトルの同日発売は初めてのことで、しかも3タイトルとも異なる販売元からのリリースです。
複数タイトルの同日発売はそれまでにも2010年6月~10月に計5回あり、『WORKING!!』3~7巻と『Angel Beats!』1~5巻がそれぞれ同日でしたが、この両作は同じ販売元(アニプレックス)でした。


この日発売された最も注目のタイトルは、キングレコードからリリースの『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』(原作・脚本: 都築真紀、監督: 草川啓造、音響監督: 明田川 仁、アニメーション制作: セブン・アークス)。

本作は2010年1月23日から公開(日本国内配給: アニプレックス)された劇場用映画です。
封切りは15都道府県19館で、うち2館では4月23日まで13週続映、最終的に36都道府県68館で8月6日まで上映が続き(*8)、その後も一部館での三番館興行および再映がありました。
興行収入は約3億8千万円(7月末まで)だったとのことです(*9, j)。

また海外公開として、2010年8月20日から台湾の4都市5館でも公開されました。
台湾に輸入したのは大手の日本アニメ輸入代理店として現地で知られる普威爾國際 Proware Multimedia International Co., Ltd. (台北縣三重市)で、現地題号は『魔法少女奈葉 The MOVIE 1st』。
台湾の新作映画情報サイト「基地電影院」に普威爾社提供の公式動画として台湾版の予告編ムービー(動画が実際に置いてあるのは YouTube)が上がっていますが、それを見る限り、吹替ではなく繁体中文字幕での上映だったようです。



劇場用映画のキャラクターコメンタリーは初で、本編には登場しない StrikerS 組の後輩たちが出演しています(コメンタリー時点の時系列は本編の13年後とのことなので、 Vivid の頃か)。出演人数の多さも本作コメンタリーの特徴です。
本編の尺は130分もあるのに、これにキャラクターコメンタリーを付けようなんて、なんて無謀なことをするんだw。
コメンタリー脚本の担当者のクレジットはありませんが、原作者にして本編の脚本も書いた都築真紀先生が書いたと考えるのが自然でしょう。

ところで、本編とコメンタリーの両方に出演している声優さんで、両者で別々のキャラを演じている方がいます。誰でしょう? (簡単ですね)
こういった面でもちょっと珍しいコメンタリーといえます。
魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』 2010年1月劇場公開作品 全1話 全1巻
 発売・販売元: キングレコード
 キャラクターコメンタリー脚本: 未発表(都築真紀と推定)
▼2010年11月26日発売
  キャラコメ = ティアナ・ランスター(中原麻衣)、スバル・ナカジマ(斎藤千和)、エリオ・モンディアル(井上麻里奈)、キャロ・ル・ルシエ(高橋美佳子)、高町ヴィヴィオ(水橋かおり)、高町なのは(田村ゆかり)、フェイト・T・ハラオウン(水樹奈々)

本作の売上は年が明けてから BD/DVD 合計で10万枚を突破し(オリコン調べ。2011年1月24日付チャートまでのBD初回版・BD通常版・DVD初回版・DVD通常版の合計は 103,608 枚)、キャラクターコメンタリーの付いた単一タイトルとしては最も売れたソフトとなっています。


■コメンタリーを先行放送したOVA『たまゆら』
2010年11月26日に発売された3タイトル目は、松竹からリリースのOVA『たまゆら』(原作・監督・シリーズ構成・絵コンテ: 佐藤順一、アニメーション制作: ハルフィルムメーカー)第1巻。
本作は全2巻のOVA作品で、最終2巻は翌12月に発売されました。



既存原作のないアニメオリジナル作品としてはテレビシリーズ『Angel Beats!』に次ぐ二番目。キャラクターコメンタリーの付いたOVAタイトルは『化物語』6巻(*k)に次ぐものですが、作品企画自体がオリジナルであるものとしては初となります。
コメンタリー出演者は『AB』とは逆に、全話のキャラの顔触れが同じ初の作品となりました。
たまゆら』 2010年OVA作品 全4話 全2巻
 発売・販売元: 松竹
 全話キャラクターコメンタリー脚本: 佐藤順一(原作者)
▼第1巻 2010年11月26日発売 2話収録 (#1, 2)
  キャラコメ#1, 2 = 沢渡 楓(竹達彩奈)、塙 かおる(阿澄佳奈)、岡崎のりえ(井口裕香)、桜田麻音(儀武ゆう子)
▼第2巻 2010年12月23日発売 2話収録 (#3, 4)
  キャラコメ#3, 4 = 沢渡 楓(竹達彩奈)、塙 かおる(阿澄佳奈)、岡崎のりえ(井口裕香)、桜田麻音(儀武ゆう子)

本作のコメンタリーについての特記事項は、パッケージソフト発売前に先行公開が行われたことです。

ソフトの発売前に見本としてキャラクターコメンタリーの部分公開をした例としては、前回触れた『バカとテストと召喚獣』のサンプル動画の YouTube 公式配信が初ですが、本作はその2例目となりました。
2010年9月30日に開催された第1・2話先行上映会『「たまゆら」上映イベント ~それは、素敵な不思議~。』にて、第2話のキャラクターコメンタリーの一部が上映されたのです。

また部分公開ではなく一話分全編の公開、それもテレビ放送による公開という大胆なプロモーションもソフト発売前に行われました。
知名度の低いOVA作品の売り込みでなりふり構わぬ必死の宣伝活動だったとは言え、その完成度に対する制作陣の自信のほどが窺えます。
キャラクターコメンタリーに限らずオーディオコメンタリーのトラックを主音声として放送に乗せてしまうこと自体、ほとんど前代未聞の話であり(オーディオコメンタリーというものの性質上、主音声として扱いうるクオリティに達していることはこれまではまずあり得ないことでしたから)、これはアニメに限らないオーディオコメンタリー史における事件かもしれません。
放送されたのは第1話のキャラクターコメンタリーで、CS放送のアニメ専門有料チャンネル AT-X (*l)にて 2010年11月1日 3:15~3:30 (10月31日 27:15~27:30)と 11月6日 21:15~21:30 に放送されました(*10, 11)。



ところで本稿執筆中の2011年1月22日夜、「『たまゆら』がテレビシリーズ化決定」という朗報が入ってきました(*12, 13, 14, 15)。これはOVAシリーズ完結記念に都内で開催された全話上映会『「たまゆら」全話上映イベント ~いつか想い出になっていく~の中で発表されたものです。
佐藤順一監督(TYOアニメーションズ)や田坂秀将プロデューサー(松竹)をはじめとする本作スタッフ陣はOVA企画の早期からテレビシリーズ化の希望を事あるごとに語り、消費者の皆さんの本作への支持を訴えてきましたが、OVAは両巻とも BD の発売初週売上が 4,000 枚を突破(オリコン調べ)するなど好調な売れ行きを示し、そのお蔭か、遂にテレビシリーズ化が叶うことになりました。

過去にOVAからテレビシリーズ化されたオリジナルアニメ作品には『機動警察パトレイバー』『R.O.D』『天地無用!』『魔法使いTai!』『MEZZO』『おとぎ銃士 赤ずきん』『ストライクウィッチーズ』などがあります(*m)。

さとじゅみち監督は2010年12月24日のツイートで「(もしも)TVになったらコンテは遅れないでやります」と宣言していました(*16)から、コンテはやってくれるとして。OVA時みたいな全話コンテはさすがに無理でしょうけど。
テレビシリーズは制作スケジュールがきついですし、また多数の話数が放映後あまり間を置かずにビデオグラム化されてしまいますから、OVAの時のように監督御自らキャラクターコメンタリーの脚本まで書いてる暇など無さそう……。
なにせ監督は「シナリオを書くのがとても苦手なので」、自分が脚本パートをやる時は、プロットで打ち合わせをしたらシナリオにせずそのままコンテに入り、直しがあってもコンテを描き直すという方法をとるのだとか(*17, n)。根っからの絵描きなのです。
OVAのキャラクターコメンタリー脚本の執筆では結構時間がかかったようですし。こればかりは絵でやる訳にはいきませんからね。


次回最終回に続く)

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(*j) = 最終的な興収も同程度とみられる。
(*k) = 『化物語』第六巻 つばさキャット(下)の収録話はテレビ未放映話(ウェブ配信された第14・15話)のみであるため、OVAとみなされる。
(*l) = CSチャンネル「アニメシアターX」(通称: AT-X)を運営する株式会社エー・ティー・エックスは、たまゆら製作委員会の構成員である。
(*m) = 原作付き作品では他に『まじかるカナン』など。なお『エリア88』や『鉄腕バーディー』の場合は、OVAとTVの間の時期がかなり空いていてアニメスタッフも作品内容も全く異なるため、「OVAのTV化」というよりは「再アニメ化」と捉えたほうが妥当である。
(*n) = この辺の佐藤順一監督の制作手法の話は Togetter の「【教えてサトジュン先生】まとめ その3」にまとめられている。

(*8) = 『劇場版なのは』の興収は約3億8千万円 - なのは日和 別館、2010年8月10日
(*9) = 斉藤守彦 「特殊映像ラボラトリー 第22回 「2010年上半期・特殊映像総決算!!」」 - アニメ!アニメ!ビズ、2010年7月26日
(*10) = 番組詳細 たまゆら - AT-X
(*11) = 第一巻ブルーレイ&DVD音声特典キャラクターコメンタリーの紹介です! - たまゆらぶろぐ、2010年10月29日
(*12) = 祝!たまゆらTVアニメ化決定!! - たまゆらぶろぐ、2011年1月22日
(*13) = 瀬戸内を舞台にしたヒーリングアニメ「たまゆら」のTVアニメ化が決定 - GIGAZINE、2011年1月22日
(*14) = 「たまゆら」テレビ化に声優竹達彩奈喜ぶ - nikkansports.com、2011年1月22日
(*15) = 【速報】OVAのヒットに続いて 『たまゆら』TVアニメ化決定 - アニメイトTV、2011年1月23日
(*16) = TVになったらコンテは遅れないでやりますと、つい勢い ... - Twitter / たまゆら、2010年12月24日
(*17) = : 私はシナリオを書くのがとても苦手なので、脚本パートを ... - Twitter / さとじゅん、2010年11月16日

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魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st 公式サイト
http://www.nanoha.com/
魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st 公式サイト
アニメたまゆら・公式サイト
http://tamayura.info/
アニメたまゆら・公式サイト

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『たまゆら』関連の過去記事
たまゆらっぴんぐフェリーの特別船内放送は、年末年始で休止中 (2010年12月13日)
佐藤順一監督作品、2タイトル同日リリース。徹底比較 (2010年12月2日)
『たまゆら』SDキャラPOPの展示先遍歴 (2010年12月2日)
『たまゆらOVA発売記念乗船券』の新作版権絵を読み解く (2010年11月25日)
OVA『たまゆら』2話に作画ミス? (2010年11月23日)
「痛船」の歴史(登場編) (2010年10月24日)
いにしえの一日名誉職、1952年10月の一日駅長ラッシュ (2010年10月16日)
「たまゆら」上映イベント ~それは、素敵な不思議~。 今更レポート (2010年10月12日)

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Summary of images:
Description = 秋葉原、ソフマップ音楽CD館の外壁広告幕
Date = 2010-12-23
Author of picture = (c) NANOHA The MOVIE 1st PROJECT

Description = OVA『たまゆら』販促ポスター
Date = 2010-10-22
Source of picture = 飯塚晴子
Author of poster = (c) 佐藤順一・TYA/たまゆら製作委員会

Description = コミックとらのあな池袋店のショーウィンドウ
Date = 2010-11-26
Source of pictures = 飯塚晴子
Author of pictures = (c) 佐藤順一・TYA/たまゆら製作委員会
Source/Author of photographs = Vantey
License of photographs = CC-BY-2.1-JP, Trademarked
Creative Commons License


1 コメント

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はじめまして (牌子)
2011-01-26 17:54:02
キャラコメについて検索しているうちにこちらに辿り着きました。
分り易くまとめられており大変参考に成りました。
ところで現在2巻迄発売されている「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の映像特典にもキャラコメが採用されているのですが、こちらで取り上げるのでしょうか?
第4回も楽しみにしています。
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