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州政府がイニシアチブをとるアメリカの温暖化政策-カリフォルニア州の温暖化対策-(2)

2006-06-08 00:53:15 | 温室効果ガス
前回は、アメリカの自治体レベルの温暖化対策動向を見ながら、カリフォルニア州(以下、加州と略します)の概要と温暖化対策戦略について触れました。今回は、加州が導入している温暖化対策について、1)運輸、2)エネルギー効率化、3)再生可能エネルギーの3つの領域から具体的に見ていきたいと思います。

1)運輸部門は、加州の温室効果ガス排出量の4割を占め、温暖化対策の非常に大切な政策領域です。加州は、具体的に、自動車のエネルギー消費効率の向上や代替輸送燃料の利用、他の輸送機関への乗換えを促進することによって、ガソリン消費量を削減しようとしています。中でも重要な政策は、2004年9月に策定された自動車温室効果ガス基準(Vehicle GHG standards)です。
これは、2009年以降の新規モデル車に対して段階的な温室効果ガス排出量削減を課すもので、2016年までに2002年モデル車に対して30%削減する基準を設けています。加州はこの新たな基準で、州全体の自動車・軽トラックからの温室効果ガス排出量を2020年までに、予測排出量に比べて18%(一日当たり87,700トン削減)、2030年までに27%削減(一日当たり155,200トン削減)できると試算しています。
この政策自体は画期的なのですが、この部門での総排出量が減少するのは2010年ごろからと予測されています。そのため加州は、州のCO2排出量削減目標を達成するために、さらなる追加的な政策を検討している様です。

2)自動車以外のエネルギー効率の向上もまた非常に重要な政策領域であり、これまでも積極的に展開してきました。そのおかげで、過去30年アメリカ全体の一人当たりエネルギー消費量が50%も増加したにもかかわらず、加州はほとんど横ばいのままでした。具体的には、新設の建築物や電気製品へのエネルギー効率基準を設定したり、電力会社が電気機器のエネルギー効率向上へ投資したりしてきました。
加州は、これまでの成果に満足することなく、さらなるエネルギー効率化を推し進めようとしています。2005年、加州は、電力・ガス会社による先進的な取り組みを更に強化し、アメリカ史上最も野心的な“省エネ”政策を打ち出しました。それは、州の規制の下(注1)、大規模電力・ガス会社が、向こう3年間(2006年から2008年)にわたって年間約8億ドル(昨年まで5億ドル)をエネルギー効率化プログラムに投資することです(注2)。
結果として、州全体で、消費者が省エネ機器に支出する費用を含めると、通算約27億ドルという膨大な投資をすることになります。しかし同時に、その政策を実施することで膨大な利益が得られる、と試算されています。環境対策をしながら利益を上げるとは、いったいどういうことでしょうか。
この政策のもとで、電力会社は、2008年までに現状推移シナリオに比べて、約7,370GWhの電力消費量と約150万kWのピーク電力(約3つの大型発電所に相当)を削減し、ガス会社は約1,300PJのガス消費量を削減する計画です。この電力・ガス消費削減で、電力・ガス会社は、2008年までに現状推移シナリオと比べて660万トンのCO2を削減(127万台の車の排気量と同等)できると試算しています。つまり、この政策を導入することで、投資額27億ドルを上回る約54億ドルの利益を得ることができると試算されているのです。ちなみに、この利益には、省エネにより不必要となる発電所、送電・配電施設への投資、また削減される燃料費、送電、配電にかかる電力ロス、CO2を含む排気物質などが含まれています(1トンのCO2削減は約8ドルとして利益に換算されています)。
このように思い切った“エネルギー効率化”政策を施行するのは、エネルギー効率化プログラムが最もクリーンな電力・ガス供給代替政策で、どの電力・ガス供給資源よりもコストパフォーマンスが高いという認識が州に浸透しているからなのです。

3)エネルギー供給部門の脱化石燃料化も重要な政策領域となっています。これまでも加州は、再生可能エネルギー普及を推進してきましたが、近年は、野心的な目標を掲げ、さらなる再生可能エネルギー普及に意欲的です。加州は、2003年から、前述のRPS制度を導入し、2017年までに供給電力の20%を再生可能エネルギー(大規模水力を除く)にすることを目指しています。さらに最近では、この目標値をさらに前倒しし、再生可能エネルギーの割合を2010年までに供給電力の20%、2020年までに33%にするよう検討がされています(ちなみに、日本の2010年までの目標値は、1.35%にすぎません!)。

以上の政策を含め、おおよそ11項目の政策でカリフォルニアは知事の温室効果ガス削減目標を達成しようと努力しています。しかし、この11項目でも達成が困難なので、それらを更に強化する幾つかの政策を考案中です。

これら多くの政策は、アメリカ内では先進的なのですが、CO2削減の取り組みを包括的に始めたのはごく最近のことで、現状では京都議定書の目標レベルに届くにはまだまだ時間がかかるようです。ただ、このような政策の幾つかは(RPSや省エネ政策)はアメリカのみならず、他の先進諸国にも参考になるようなものであるといえます。

一方、アメリカ内では先進的な州の取り組みは他の州や、連邦政府の活動に影響を与えているようです。実際、アメリカの上院・下院では州の活動に影響されて、これまで幾つかの温暖化ガス削減政策を打ち立ててきました。また、アメリカ全州に対する全国版RPS制度の法案も議会で議論されてきました。残念ながらそれらの政策はまだ通過していませんが、2005年に可決された連邦エネルギー法は少し前進した政策を打ち立てました。一つの好例は、2012年までに75億ガロン(約2840万kl)の再生可能なエタノール(現在のガソリン消費量の約5.3%)を生産することを義務化したことです。
とはいえ、連邦政府の政策は、全体的には先進的な州の政策に比べると、まだまだ遅れています。こうしたことを踏まえれば、州をはじめとした自治体は、自分の地域内の政策を発展させることに加えて、連邦政府への政策的影響を高めていくための戦略も求められるのではないでしょうか。


(注1)加州公益事業委員会は、電力・ガス会社に(1)委員会が定めた電力・ガスの消費削減目標と、ピーク時の需要削減目標を達成することや、(2)プログラム全体の費用対便益を、委員会が定める基準以上にすることなどを義務化しました。また、米国の公益事業規制ではよくあることですが、省エネプログラムの内容や個々のプログラムによる電力削減などの成果に大きな影響を与える省エネ機器のコストや性能(機器の寿命など)の設定などは、環境保護団体、消費者団体、産業団体などを含むステークホルダー同士の話し合いにより決定され、委員会によって承認されました。
(注2)省エネプログラムの評価や、電力削減量の測定や実証にかかる費用を含む。

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1 コメント

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地球再生プロジェクト (KAZE)
2007-02-02 18:28:17
始めまして、地球再生・プロジェクトのKAZEと申します。世間では、たかだか2度くらいと思っておりますが、2度自分の体温が2度上昇するとどうなるか?考えた時地球の立場が分かるのだろうと思います。プロジェクトのご理解ご協力を呼びかけております。宜しくお願いします。