2℃が限界?! 地球温暖化の最新情報

環境NGOのCASAが、「2℃」をキーワードに、地球温暖化に関する最新情報や役立つ情報を、随時アップしていきます。

今地球の海で ー深層海流と塩分濃度の減少ー

2006-02-17 13:40:40 | 影響
 深層海流は世界各地の気候を決定する大きな要因になっています。そして今温暖化がこの深層海流に深刻な影響を及ぼし始めているのではないかといわれています。そこでまずこの深層海流とはどういうものかについて簡単に説明しましょう。

 海洋には暖かい表層水の循環と深さ数千メートルの深海を循環する深層水の2つの大きな流れがあります。一般にメキシコ湾付近の赤道域の暖かい海流は、北上するにつれて熱を放出し、冷えていきます。また海水の氷結時に排除される塩分によって、海水の塩分濃度が増加し、海水は重くなっていきます。この冷たく重くなった海水はグリーンランド周辺で、海底へ深く沈み込み、図にあるように大西洋の深さ3000m~4000mを南へ移動する深層海流となります。これはやがてインド洋と南太平洋に別れて北上します。このときにしだいに暖められて浮上し、インド洋北部と北太平洋で表層水になります。そして向きを変えて南下し、アフリカ大陸の南端を回って再び大西洋に戻ってきます。

 この深層水の動きは非常にゆっくりとしたもので、1時間にやっと1~2メートル程度です。大西洋を北から南まで縦断するだけでも100年程度かかるといわれています。しかし、この循環(熱塩循環*)のおかげで、ヨーロッパ北西部は比較的高緯度にもかかわらず気温がかなり高くなっています。大西洋を北上する表層水がグリーンランド沖で熱を放出して大気を暖めるからです。

 ところが2005年に米ウッズホール海洋学研究所は、1960年代以降、北大西洋の広い範囲に大量の真水が流れ込み、海水の塩分濃度が低下しつづけていると発表しました。この真水の流れ込みはグリーンランドの氷河の融解とその周辺海域の雨量の増加のためであり、これらはいずれも温暖化の進行に由来すると指摘されています。このように表層水の塩分濃度が低下して軽くなると、深層に沈み込むのがむずかしくなり、極端な場合には熱塩循環が停止してヨーロッパが寒冷化するおそれがあります。とくに1万年以上前の氷河期から間氷期に移行する時期にそのようなことが起こり、ヨーロッパ全体が凍りつく期間が千年近くも続いた事例があったと推測されています。

 一方、IPCCの第三次報告によれば、今世紀中に熱塩循環が完全に停止する可能性は低いようです。また循環が多少弱まっても、それに由来する寒冷化よりも温室効果ガスの増加による温暖化の方が上まわり、ヨーロッパの気温は依然として上昇すると指摘されています。しかし、グリーンランドの氷床の融解が最近速度を増しつつあることや、このような循環の停滞が地域レベルの海流にも大きな影響をおよぼすかもしれないことを考えると、今後の推移を厳しく注視する必要があるでしょう。

 *深層海流は熱循環と塩分濃度によって支配されているので、ふつう熱塩循環とよばれています。

地球温暖化と異常気象増加のメカニズム(3/3)

2006-02-11 14:50:10 | 影響
「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」第3回
元気象研究所研究室長 増田善信


◆地球温暖化とブロッキング

さて、温暖化が起こると、北極や南極など極地方は、赤道付近に比べてより急速に温暖化します。それは太陽の光を反射していた極地方の雪が、温暖化の影響で融け、太陽の光をより多く吸収するようになるからです。図は、1976年から2000年までの25年間の年平均気温のトレンド(変化傾向)を示したものです。北極および南極に近い地方ほど、気温上昇のトレンド、すなわち温暖化のトレンドが大きく、10年間で1℃の割合で上昇しています。しかし、赤道付近は僅かに上昇しているだけです。

極地方の温度が高くなると、極地方と赤道地方の間の温度差が小さくなります。すると上に述べたメカニズムでブロッキングが起こりやすくなると考えられます。東京大学気候システム研究センターの荒井美紀研究員は、4月のシベリアの気温が高い年は、その年の4月以降のブロッキングの出現頻度が平均より最大1.4倍まで増えることを明らかにして、「地球温暖化により、シベリアの雪解けが早まるため」と推定しています(2003年11月4日付「毎日」夕刊)。

しかし、まだ全球的に、地球温暖化による赤道地方と極地方の温度差の減少とブロッキングの発現頻度の増加の関係を明らかにした研究はありません。従って、まだ、「地球温暖化によってブロッキングが増加する」と確定的にいうことは出来ませんが、もし、このことが事実ならば、温暖化によって、ブロッキングが起こりやすくなり、同じような気圧配置の状態が持続する可能性があります。その結果、晴天の所は何時までも晴天が続き、酷暑とカラカラ天気の気候になり、雨の所は何時までも雨が降り、冷夏と多雨の異常気象が生まれるのではないかと考えられます。

現在、私は元の同僚と共同で、毎日の500hPaの天気図を用い、ブロッキング・インデックスを指標に、ブロッキングの発現頻度の統計をとっています。この研究が終われば、私の推論が正しいかどうかが確かめられると思っています。

※増田さんには、今月18日に開催される報告会「加速する地球温暖化と歩み始めた京都議定書」でご講演いただきます。
直にお話の聞けるこの機会をぜひお見逃しなく!
(詳しくは、下記をご覧ください。)

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 【 COP11、COP/MOP1参加報告会 】
 
  加速する地球温暖化と歩み始めた京都議定書
    
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 京都議定書が発効してから初めての国際交渉会議(COP11、COP/MOP1)が、2005年11月28日~12月10日の日程で、カナダのモントリオールで開催されました。

 世界から1万人以上が参加した今回の会議では、京都議定書の運用ルールをすべて採択し、2013年以降の議論についての道筋に合意するという大きな成果をあげました。

 一方で、地球温暖化は急速に進行しています。

 報告会では、モントリオール会議の参加報告に加え、近年の異常気象と地球温暖化との関連、また、地球の平均気温が2℃上昇することの意味について報告を行います。ぜひ、ご参加ください。

■日  時:2006年2月18日(土)午後1時 ~4時 
■内  容:
<地球温暖化の影響>
 報告1 「地球温暖化と異常気象」
     増田善信氏(元気象研究所室長、CASA会員)
 報告2 「危険な上昇レベルは2℃?」
     泉邦彦(CASA代表理事)
<国際交渉>
 報告3 「COP/MOP1の成果と今後の課題」
     早川光俊(CASA専務理事)
 
質疑・意見交換

■場  所:全国地球温暖化防止活動推進センター
     (東京都港区麻布台1-11-9プライム神谷町ビル
     (財)日本環境協会内)
http://www.jccca.org/about/zenkoku/jyusyo.html(地図)
■アクセス:東京メトロ日比谷線 神谷町(1番出口)徒歩3分
■参加費:一般800円 会員500円

※報告会後、懇親会を開催する予定です。
 ご希望の方はご連絡ください。

■主  催:
NPO法人 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA) 
     大阪市中央区内本町2-1-19-470
     電話:06-6910-6301  FAX:06-6910-6302
     E-mail:office@casa.bnet.jp

地球温暖化と異常気象増加のメカニズム(2/3)

2006-02-06 17:50:41 | 影響
「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」第2回
元気象研究所研究室長 増田善信


◆ブロッキングとは

ブロッキングというのは、図でモデル的に示したように、順調に西から東に移動していた偏西風の波動が、大きく蛇行して二つに枝分かれし、長時間にわたって停滞した状態になることです。丁度上層の西風ジェットの流れが妨げられるので、ブロッキングという名前が付けられました。ブロッキングが起こると、今まで周期的に変わっていた天気が周期的でなくなります。

北半球では、枝分かれした南側のジェットの北に切離低気圧が、北側のジェットの南には切離高気圧が出来ることが多い。切離低気圧の下の地上では、低気圧や前線が停滞し、悪天や集中豪雨が続き、切離高気圧の下では高気圧が出来、カラカラ晴天が長時間続きます。

ブロッキングはヒマラヤやロッキーなどの大規模な山岳や、海洋の影響も受けるので、北半球ではユーラシア大陸の東から北太平洋にかけて、ヨーロッパからロシア西部、アメリカ大陸東部からクリーンランドにかけてなど、特定の地域で多く発生する傾向があります。


◆西風ジェットとブロッキング

温暖化とブロッキングの関係を説明する前に、西風ジェットがなぜ起こるかを説明しておく必要があります。地球は太陽光によって、赤道付近が最も強く暖められ、北極や南極などの極地方はそんなに暖められませんので、赤道付近と極地方との間に大きな温度差が生まれます。この温度差を解消するために、太陽光で暖められた赤道付近のあったかい空気は上昇し、極地方に流れてゆきます。この極地方に流れてゆく風は、コリオリーの力で曲げられ西風になります。これが西風ジェットです。

西風ジェットの下の地上付近には高気圧、低気圧があります。この低気圧の前面の風(北半球では南風、南半球では北風)によって、暖かい空気が極の方へ運ばれ、高気圧の前面の風(北半球では北風、南半球では南風)によって、冷たい空気が赤道地方に運ばれ、最終的に赤道地方と極地方の温度差を解消します。

従って、赤道地方と極地方の温度差が大きければ大きいほど、大量の熱を極地方に運ばなければなりませんから、西風ジェットが強くなり、高、低気圧が発達します。反対に、赤道地方と極地方の温度差が小さければ、西風ジェットは弱くなり、ブロッキングが起きやすくなるのではないかと考えられます。


<次回「地球温暖化とブロッキング」に続きます>

地球温暖化と異常気象増加のメカニズム(1/3)

2006-02-02 23:45:41 | 影響
※元気象研究所研究室長の増田善信さんにご寄稿いただいた「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」についての解説を、3回に分けて連載します。


「地球温暖化と異常気象増加のメカニズム」第1回
元気象研究所研究室長 増田善信

◆大気が不安定になり集中豪雨や発達した低気圧、台風が増加

温室効果ガスが増えると、赤外放射の吸収が多くなり、地面付近の気温は上がります。その反面、成層圏では、その分だけ赤外放射が減るので、逆に寒冷化します。そのほか、フロンガスによるオゾン層の破壊で、紫外線の吸収も少なくなるので、一層成層圏の温度が下がります。上層が冷たくなり、下層が暖かくなって、上下の温度差が大きくなることを「大気が不安定になる」といいます。

図は1957年以後の対流圏と成層圏の気温変化を示したものです。地上気温は1965年頃から年々上昇しはじめ、この35年で約0.6℃上昇しました。地球温暖化の影響だと考えられています。

一方、成層圏では、エルチチョンやピナツボなど大きな火山が噴火したときは、成層圏の気温が一時的に上昇していますが、全体として年々気温が下がり、この35年間で約3℃も低下しています。

その結果、年々上下の温度差が大きくなって、大気が不安定になっています。大気が不安定になればなるほど、強い上昇気流が起こり、集中豪雨など、豪雨が頻発し、台風や低気圧も発達し易くなります。最近の異常気象の激増は、地球温暖化によって大気が年々不安定になってきたためだと考えられます。


◆異常気象とブロッキング

しかし、大気の不安定化だけでは異常気象は説明できません。異常な状態が何日も続いたときに異常気象が起こるのです。例えば、地球全体は温暖化しているといわれているのに、昨年(2005年)12月には日本は記録的な低温と大雪に見舞われました。また2003年は、日本付近は極端な冷夏でした。一方、フランスなどヨーロッパは、熱中症で死亡する人が続発したように、酷暑でした。ところが2004年は、逆に日本の7月は酷暑で、ヨーロッパはそんなに暑い夏ではありませんでした。このような異常気象は大気が年々不安定化しているということだけでは説明できません。

1日や2日暑くても、翌日は寒くなるように、天気が周期的に変われば、酷暑や冷夏は起こりません。問題は同じような天気が何日も続くことです。昨年の台風がほとんど同じようなコースを通って日本に襲来したのも、同じような気圧配置が続いていたからです。このような同じような気圧配置が続くことをブロッキングといいます。温暖化が起こると、ブロッキングが起こりやすくなるのではないかと考えられています。

<次回「ブロッキングとは」に続きます>