2℃が限界?! 地球温暖化の最新情報

環境NGOのCASAが、「2℃」をキーワードに、地球温暖化に関する最新情報や役立つ情報を、随時アップしていきます。

2℃をこえると水不足が大幅に広がる

2006-06-26 18:46:56 | 2℃
◆淡水資源はきわめて大切

 地球上には大量(約14億立方キロメートル)の水が存在しますが、このうち淡水は2.5%であり、さらにその中で私たちが生活用水、農業用水および工業用水として容易に利用可能な水(極地の氷や大部分の地下水を除いたもの)は250分の1(全体の0.01%)にすぎません。
 このように淡水資源はきわめて大切なものですが、それが地球上にかならずしも均等に分布していないので、現在、世界人口の約1割の人びとが水不足の生活を余儀なくされています。水不足とは、1人あたりの年間供給可能水量が1700立方メートル以下の状態を意味します。

◆氷雪に依存する地域は温暖化の影響が深刻

 さて、地球温暖化が進み、地表の気温が上昇すると、水の循環が活発になって淡水資源の分布が大幅に変化します。
 たとえば、水の蒸発量のみが増えて降水量が増加しない地域では乾燥が進み、水不足や干ばつが生じます。これは大陸内部で多く見られるでしょう。とくに山岳部の雪や氷が春から夏にかけてすこしずつ融けて流水になるのをもっぱら利用している地域では、温暖化による影響が深刻です。すなわち、気温が上昇して雪原が縮小し、氷河が後退すると、利用できる水の総量が減少し、水不足を招きます。またこれまでよりも暖かくなった早春に多くの氷雪が一挙に融けて流出するので、需要が高まる夏から秋にかけて利用できる水の量が激減します。

◆2℃の上昇で10億人に水不足が広がる

 最近アメリカのワシントン大学などの研究者が、中緯度と高緯度に分布するそのような地域について、温暖化が今のままのテンポで進んだ場合の変化をシミュレートし、2℃の気温上昇が見込まれる数十年後に、10億人をこえる人びとが居住する中国西部、インド北西部、ヨーロッパ中央部、アメリカ西部などで、あらたに深刻な水不足が生ずると予測しました。
 一方、アメリカ海洋大気局(NOAA)も類似の研究によって、アフリカ南部、中東、ヨーロッパ南部、北米西部の中緯度地域などで、利用可能な淡水資源が2050年までに10~30%減少すると予測しています(両予測共に Nature 2005年11月17日号参照)。

◆氷河の急速な後退と水問題の深刻化

 これらの予測は、世界中の氷河が急ピッチで後退しつつある現実を見ても理解しやすいでしょう。たとえばアラスカの氷河は、その後退速度が過去10年の間に3倍に増加し、とくにベーリング氷河は、すでに10数キロメートル後退しました(Scientific American 2003年10月号参照)。またWWFの報告によれば、アルプスの氷河の体積が1850年とくらべてすでに半分に減少しているそうです。
 なお水問題については、このまま温暖化が進めば早くも2021~30年にアフリカの北部と南部、西アジア、アラビア半島、オーストラリア北東部、北米南西部および南米中央部で水不足が悪化するとの予測も公表されています(Ambio 32巻4号(2003年)参照)。また人口の増加や水汚染の広がりによる影響も含めて、水不足が2025年に世界人口の4割近くの人びとにまで広がる可能性も指摘されており(Nature 2003年3月20日号参照)、今後の推移がきわめて憂慮されます。

州政府がイニシアチブをとるアメリカの温暖化政策-カリフォルニア州の温暖化対策-(2)

2006-06-08 00:53:15 | 温室効果ガス
前回は、アメリカの自治体レベルの温暖化対策動向を見ながら、カリフォルニア州(以下、加州と略します)の概要と温暖化対策戦略について触れました。今回は、加州が導入している温暖化対策について、1)運輸、2)エネルギー効率化、3)再生可能エネルギーの3つの領域から具体的に見ていきたいと思います。

1)運輸部門は、加州の温室効果ガス排出量の4割を占め、温暖化対策の非常に大切な政策領域です。加州は、具体的に、自動車のエネルギー消費効率の向上や代替輸送燃料の利用、他の輸送機関への乗換えを促進することによって、ガソリン消費量を削減しようとしています。中でも重要な政策は、2004年9月に策定された自動車温室効果ガス基準(Vehicle GHG standards)です。
これは、2009年以降の新規モデル車に対して段階的な温室効果ガス排出量削減を課すもので、2016年までに2002年モデル車に対して30%削減する基準を設けています。加州はこの新たな基準で、州全体の自動車・軽トラックからの温室効果ガス排出量を2020年までに、予測排出量に比べて18%(一日当たり87,700トン削減)、2030年までに27%削減(一日当たり155,200トン削減)できると試算しています。
この政策自体は画期的なのですが、この部門での総排出量が減少するのは2010年ごろからと予測されています。そのため加州は、州のCO2排出量削減目標を達成するために、さらなる追加的な政策を検討している様です。

2)自動車以外のエネルギー効率の向上もまた非常に重要な政策領域であり、これまでも積極的に展開してきました。そのおかげで、過去30年アメリカ全体の一人当たりエネルギー消費量が50%も増加したにもかかわらず、加州はほとんど横ばいのままでした。具体的には、新設の建築物や電気製品へのエネルギー効率基準を設定したり、電力会社が電気機器のエネルギー効率向上へ投資したりしてきました。
加州は、これまでの成果に満足することなく、さらなるエネルギー効率化を推し進めようとしています。2005年、加州は、電力・ガス会社による先進的な取り組みを更に強化し、アメリカ史上最も野心的な“省エネ”政策を打ち出しました。それは、州の規制の下(注1)、大規模電力・ガス会社が、向こう3年間(2006年から2008年)にわたって年間約8億ドル(昨年まで5億ドル)をエネルギー効率化プログラムに投資することです(注2)。
結果として、州全体で、消費者が省エネ機器に支出する費用を含めると、通算約27億ドルという膨大な投資をすることになります。しかし同時に、その政策を実施することで膨大な利益が得られる、と試算されています。環境対策をしながら利益を上げるとは、いったいどういうことでしょうか。
この政策のもとで、電力会社は、2008年までに現状推移シナリオに比べて、約7,370GWhの電力消費量と約150万kWのピーク電力(約3つの大型発電所に相当)を削減し、ガス会社は約1,300PJのガス消費量を削減する計画です。この電力・ガス消費削減で、電力・ガス会社は、2008年までに現状推移シナリオと比べて660万トンのCO2を削減(127万台の車の排気量と同等)できると試算しています。つまり、この政策を導入することで、投資額27億ドルを上回る約54億ドルの利益を得ることができると試算されているのです。ちなみに、この利益には、省エネにより不必要となる発電所、送電・配電施設への投資、また削減される燃料費、送電、配電にかかる電力ロス、CO2を含む排気物質などが含まれています(1トンのCO2削減は約8ドルとして利益に換算されています)。
このように思い切った“エネルギー効率化”政策を施行するのは、エネルギー効率化プログラムが最もクリーンな電力・ガス供給代替政策で、どの電力・ガス供給資源よりもコストパフォーマンスが高いという認識が州に浸透しているからなのです。

3)エネルギー供給部門の脱化石燃料化も重要な政策領域となっています。これまでも加州は、再生可能エネルギー普及を推進してきましたが、近年は、野心的な目標を掲げ、さらなる再生可能エネルギー普及に意欲的です。加州は、2003年から、前述のRPS制度を導入し、2017年までに供給電力の20%を再生可能エネルギー(大規模水力を除く)にすることを目指しています。さらに最近では、この目標値をさらに前倒しし、再生可能エネルギーの割合を2010年までに供給電力の20%、2020年までに33%にするよう検討がされています(ちなみに、日本の2010年までの目標値は、1.35%にすぎません!)。

以上の政策を含め、おおよそ11項目の政策でカリフォルニアは知事の温室効果ガス削減目標を達成しようと努力しています。しかし、この11項目でも達成が困難なので、それらを更に強化する幾つかの政策を考案中です。

これら多くの政策は、アメリカ内では先進的なのですが、CO2削減の取り組みを包括的に始めたのはごく最近のことで、現状では京都議定書の目標レベルに届くにはまだまだ時間がかかるようです。ただ、このような政策の幾つかは(RPSや省エネ政策)はアメリカのみならず、他の先進諸国にも参考になるようなものであるといえます。

一方、アメリカ内では先進的な州の取り組みは他の州や、連邦政府の活動に影響を与えているようです。実際、アメリカの上院・下院では州の活動に影響されて、これまで幾つかの温暖化ガス削減政策を打ち立ててきました。また、アメリカ全州に対する全国版RPS制度の法案も議会で議論されてきました。残念ながらそれらの政策はまだ通過していませんが、2005年に可決された連邦エネルギー法は少し前進した政策を打ち立てました。一つの好例は、2012年までに75億ガロン(約2840万kl)の再生可能なエタノール(現在のガソリン消費量の約5.3%)を生産することを義務化したことです。
とはいえ、連邦政府の政策は、全体的には先進的な州の政策に比べると、まだまだ遅れています。こうしたことを踏まえれば、州をはじめとした自治体は、自分の地域内の政策を発展させることに加えて、連邦政府への政策的影響を高めていくための戦略も求められるのではないでしょうか。


(注1)加州公益事業委員会は、電力・ガス会社に(1)委員会が定めた電力・ガスの消費削減目標と、ピーク時の需要削減目標を達成することや、(2)プログラム全体の費用対便益を、委員会が定める基準以上にすることなどを義務化しました。また、米国の公益事業規制ではよくあることですが、省エネプログラムの内容や個々のプログラムによる電力削減などの成果に大きな影響を与える省エネ機器のコストや性能(機器の寿命など)の設定などは、環境保護団体、消費者団体、産業団体などを含むステークホルダー同士の話し合いにより決定され、委員会によって承認されました。
(注2)省エネプログラムの評価や、電力削減量の測定や実証にかかる費用を含む。