2℃が限界?! 地球温暖化の最新情報

環境NGOのCASAが、「2℃」をキーワードに、地球温暖化に関する最新情報や役立つ情報を、随時アップしていきます。

日本のCO2排出構造をさぐる-石炭火発(2/4)

2006-08-10 18:19:05 | 温室効果ガス
◆シグマパワーの石炭火力発電中止に

 東芝とオリックスが出資する「シグマパワー」が山口県に計画していた石炭火力発電所が中止になりました。この石炭火力発電所「シグマパワー山口」は設備容量100万kWの大型石炭火力発電所で、仮に運転されていたとしたら年間582万トンのCO2排出と予想されていました。582万トンは、日本全体のCO2排出量の0.5%ですが、京都議定書目標達成計画で電力部門が削減すべき分とされている量の26%に相当する排出量です。

 シグマパワーは、環境省の警告や世論の反対もあって中止されましたが、石炭を燃料とする火力発電所は次々を建設され、また建設が計画されています。電力以外でも、電力自由化に伴い、神戸製鋼のように石炭火力発電所を稼動させ、その電力を販売しているところもあります。


◆CO2増加の主因、石炭火力発電所

 火力発電所で発電をするのに、燃料が違えばCO2排出量も全く異なります。効率にもよりますが、CO2排出量の比は石炭と石油と天然ガスとではおよそ9:7:5になり、石炭を燃料として使うのと、天然ガスを使うのでは、石炭では約2倍のCO2を排出します。

 同じ発電量でCO2が半分なら、天然ガスを選べばいいのですが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第1次評価報告書が発表され、気候変動枠組条約の交渉が開始された1990年以降も、日本の電力会社はCO2排出量の多い石炭火力発電所の建設を進めてきました。現在、2400万kWという大型原発24基分の石炭火力発電所が建設されています。一部の石炭発電所は、石油発電所や天然ガス発電所であったものを、2000年以降わざわざ燃料を石炭に転換してCO2の排出を大幅に増やしてしまいました。

また、発電所の稼働率をみても、CO2の排出の少ない天然ガス火力発電は40~50%であるのに対して、石炭火力発電の多くは70~80%とほぼフル稼働状態になっています。これらのことから電力会社は明らかに火力発電の中でも、特に石炭重視の運用をしていることがわかります。

 この結果、石炭火力発電所からのCO2排出量は、1990年以降に建設されたり転換されたものだけで1億3千万トンに上り、これは1990年の日本全体のCO2排出量のおよそ12%にあたります。これはちょうど、日本が1990年以降に増加させてしまったCO2量排出量に当たります。


◆なぜこんなに石炭火力発電所増加したのか?

  温暖化防止に逆行するような石炭火力発電所の建設が進められたのは、石炭が他の燃料より安く、税制の面でも国がそれを優遇してきたからです。石炭はもともと国際価格も石油や天然ガスの半分以下の値段でした。加えてわが国では、長年石油や天然ガスにはかけてきた石油税を、石炭にはかけず、もともと安い輸入石炭の価格を石油・天然ガスより大幅に安いままで放置し、事実上優遇していました。図2のように、石炭にかかる税金は今でも石油や天然ガスより安くなっています。
さらに発電所を建てた自治体に対して国が交付金を出すという政策も、石炭火力の増加を後押しをしたといえます。

 排出割合から見ても発電部門は、日本のCO2排出量の4分の1を占める大排出源であり、地球温暖化防止のためには発電部門の排出削減が極めて重要です。しかし政府は、産業界の削減については、産業界の自主計画まかせで、排出量の最も少ない技術や燃料の選択を法制度で規定するような政策は行いませんでした。電力部門もどのような削減対策をとるかは電力会社に任されています。こうしたことから、コストの安い石炭火力発電所の建設が進められ、高い稼働率で運転されるようになり、残念ながら今もその状態が続いています。

日本のCO2排出構造をさぐる(1/4)

2006-07-30 21:45:26 | 温室効果ガス
◆日本のCO2はどこから

 温暖化対策について考える場合、CO2の大きな排出源がどこであるかを知ることが大切です。
 図1は、環境省の発表している、部門別のCO2排出割合を示す円グラフです。二重になっている円の内側の円は実際に化石燃料をもやして、直接CO2を出している各部門のCO2排出割合を表しています。図から発電所と工場、運輸が大きいことがわかります。外側の円は発電所で作った電気を各分野ごとに使っている量に応じて振り分けたものです。これは日本独自の統計です。内側の円の統計の方が、どこが大口排出源かがはっきりします。
 気候変動枠組条約や京都議定書の統計、EUなどはこの内側の円の統計の取り方でなされています。外側の円は「電気を使う人に責任がある」と発想で作られたもので、一見もっともらしいですが、この計算方法だと、例えば発電所が発電に天然ガスを使っていたのを、よりCO2排出量の多い石炭に替えた場合、使用している電気量としては削減していても、工場やオフィスや家庭の増加としてカウントされてしまう矛盾も生じてしまいます。こうなると明らかに削減義務の所在が不明確になってしまいます。


◆超大口を探る

 さて、大口排出源がどうなっているかを、気候ネットワークが、発電所や工場などが省エネ法に基づき国に届け出ている燃料消費量などを情報開示請求して推定しました。
 発電所や製油所などの「エネルギー転換部門」と、製鉄所や化学工場などの工場がメインの「産業部門」で日本のCO2の3分の2を占めており、なかには1事業所で1000万トン(家庭300万世帯分に相当)も出すような超大口排出工場・発電所もあります。何と、約180の工場と発電所だけで、日本のCO2排出量の半分を占めています。しかも、このなかにはCO2排出の多い石炭を燃料とする発電所や、効率が悪くより多くCO2を排出している工場も多く含まれています。
 こうした発電所や工場をもつ、企業にしたら数十の会社が、発電所の燃料源をCO2排出の少ない天然ガスに変えたり、工場の効率を改善することで、日本の6%削減は達成可能なのです。


◆残りの3分の1は・・・

 日本のCO2排出量の3分の1は、運輸、業務(オフィス、商店など)、家庭から排出されています。この中では運輸部門が多くなっています。運輸部門の9割はクルマです。交通機関の中でも、クルマや飛行機は、人や荷物を同じ距離運ぶのに、鉄道や船舶よりはるかに多くのCO2を排出します。例えば、1トンの荷物を1キロ運ぶのに、飛行機は鉄道輸送の70倍、営業用トラックの8倍のCO2を排出するとのデータもあります。このクルマと飛行機の割合が増え、しかもクルマの効率が悪化しているのが問題です。

州政府がイニシアチブをとるアメリカの温暖化政策-カリフォルニア州の温暖化対策-(2)

2006-06-08 00:53:15 | 温室効果ガス
前回は、アメリカの自治体レベルの温暖化対策動向を見ながら、カリフォルニア州(以下、加州と略します)の概要と温暖化対策戦略について触れました。今回は、加州が導入している温暖化対策について、1)運輸、2)エネルギー効率化、3)再生可能エネルギーの3つの領域から具体的に見ていきたいと思います。

1)運輸部門は、加州の温室効果ガス排出量の4割を占め、温暖化対策の非常に大切な政策領域です。加州は、具体的に、自動車のエネルギー消費効率の向上や代替輸送燃料の利用、他の輸送機関への乗換えを促進することによって、ガソリン消費量を削減しようとしています。中でも重要な政策は、2004年9月に策定された自動車温室効果ガス基準(Vehicle GHG standards)です。
これは、2009年以降の新規モデル車に対して段階的な温室効果ガス排出量削減を課すもので、2016年までに2002年モデル車に対して30%削減する基準を設けています。加州はこの新たな基準で、州全体の自動車・軽トラックからの温室効果ガス排出量を2020年までに、予測排出量に比べて18%(一日当たり87,700トン削減)、2030年までに27%削減(一日当たり155,200トン削減)できると試算しています。
この政策自体は画期的なのですが、この部門での総排出量が減少するのは2010年ごろからと予測されています。そのため加州は、州のCO2排出量削減目標を達成するために、さらなる追加的な政策を検討している様です。

2)自動車以外のエネルギー効率の向上もまた非常に重要な政策領域であり、これまでも積極的に展開してきました。そのおかげで、過去30年アメリカ全体の一人当たりエネルギー消費量が50%も増加したにもかかわらず、加州はほとんど横ばいのままでした。具体的には、新設の建築物や電気製品へのエネルギー効率基準を設定したり、電力会社が電気機器のエネルギー効率向上へ投資したりしてきました。
加州は、これまでの成果に満足することなく、さらなるエネルギー効率化を推し進めようとしています。2005年、加州は、電力・ガス会社による先進的な取り組みを更に強化し、アメリカ史上最も野心的な“省エネ”政策を打ち出しました。それは、州の規制の下(注1)、大規模電力・ガス会社が、向こう3年間(2006年から2008年)にわたって年間約8億ドル(昨年まで5億ドル)をエネルギー効率化プログラムに投資することです(注2)。
結果として、州全体で、消費者が省エネ機器に支出する費用を含めると、通算約27億ドルという膨大な投資をすることになります。しかし同時に、その政策を実施することで膨大な利益が得られる、と試算されています。環境対策をしながら利益を上げるとは、いったいどういうことでしょうか。
この政策のもとで、電力会社は、2008年までに現状推移シナリオに比べて、約7,370GWhの電力消費量と約150万kWのピーク電力(約3つの大型発電所に相当)を削減し、ガス会社は約1,300PJのガス消費量を削減する計画です。この電力・ガス消費削減で、電力・ガス会社は、2008年までに現状推移シナリオと比べて660万トンのCO2を削減(127万台の車の排気量と同等)できると試算しています。つまり、この政策を導入することで、投資額27億ドルを上回る約54億ドルの利益を得ることができると試算されているのです。ちなみに、この利益には、省エネにより不必要となる発電所、送電・配電施設への投資、また削減される燃料費、送電、配電にかかる電力ロス、CO2を含む排気物質などが含まれています(1トンのCO2削減は約8ドルとして利益に換算されています)。
このように思い切った“エネルギー効率化”政策を施行するのは、エネルギー効率化プログラムが最もクリーンな電力・ガス供給代替政策で、どの電力・ガス供給資源よりもコストパフォーマンスが高いという認識が州に浸透しているからなのです。

3)エネルギー供給部門の脱化石燃料化も重要な政策領域となっています。これまでも加州は、再生可能エネルギー普及を推進してきましたが、近年は、野心的な目標を掲げ、さらなる再生可能エネルギー普及に意欲的です。加州は、2003年から、前述のRPS制度を導入し、2017年までに供給電力の20%を再生可能エネルギー(大規模水力を除く)にすることを目指しています。さらに最近では、この目標値をさらに前倒しし、再生可能エネルギーの割合を2010年までに供給電力の20%、2020年までに33%にするよう検討がされています(ちなみに、日本の2010年までの目標値は、1.35%にすぎません!)。

以上の政策を含め、おおよそ11項目の政策でカリフォルニアは知事の温室効果ガス削減目標を達成しようと努力しています。しかし、この11項目でも達成が困難なので、それらを更に強化する幾つかの政策を考案中です。

これら多くの政策は、アメリカ内では先進的なのですが、CO2削減の取り組みを包括的に始めたのはごく最近のことで、現状では京都議定書の目標レベルに届くにはまだまだ時間がかかるようです。ただ、このような政策の幾つかは(RPSや省エネ政策)はアメリカのみならず、他の先進諸国にも参考になるようなものであるといえます。

一方、アメリカ内では先進的な州の取り組みは他の州や、連邦政府の活動に影響を与えているようです。実際、アメリカの上院・下院では州の活動に影響されて、これまで幾つかの温暖化ガス削減政策を打ち立ててきました。また、アメリカ全州に対する全国版RPS制度の法案も議会で議論されてきました。残念ながらそれらの政策はまだ通過していませんが、2005年に可決された連邦エネルギー法は少し前進した政策を打ち立てました。一つの好例は、2012年までに75億ガロン(約2840万kl)の再生可能なエタノール(現在のガソリン消費量の約5.3%)を生産することを義務化したことです。
とはいえ、連邦政府の政策は、全体的には先進的な州の政策に比べると、まだまだ遅れています。こうしたことを踏まえれば、州をはじめとした自治体は、自分の地域内の政策を発展させることに加えて、連邦政府への政策的影響を高めていくための戦略も求められるのではないでしょうか。


(注1)加州公益事業委員会は、電力・ガス会社に(1)委員会が定めた電力・ガスの消費削減目標と、ピーク時の需要削減目標を達成することや、(2)プログラム全体の費用対便益を、委員会が定める基準以上にすることなどを義務化しました。また、米国の公益事業規制ではよくあることですが、省エネプログラムの内容や個々のプログラムによる電力削減などの成果に大きな影響を与える省エネ機器のコストや性能(機器の寿命など)の設定などは、環境保護団体、消費者団体、産業団体などを含むステークホルダー同士の話し合いにより決定され、委員会によって承認されました。
(注2)省エネプログラムの評価や、電力削減量の測定や実証にかかる費用を含む。

州政府がイニシアチブをとるアメリカの温暖化政策-カリフォルニア州の温暖化対策-(1)

2006-05-31 23:55:50 | 温室効果ガス
アメリカでは、自治体(特に州政府)が温暖化対策の推進に強力なイニシアチブを発揮しつつあります。 そこで、今回と次回の2回にわたり、温暖化対策に熱心になり始めたカリフォルニア州の温暖化対策の事例についてご紹介しましょう。

 京都議定書に参加しないアメリカにおいては、自治体が進める温暖化対策には、二つの重要な意味があるといえます。それは、第一に、地域の温暖化対策を進めることによって持続可能な地域社会づくりを先取りできることです。第二に、他の地域への刺激にもなり、さらに連邦政府にも少なからぬ影響を与えることができるということです。

 では、アメリカの自治体レベルでの温暖化対策はどの程度進んでいるのでしょうか。州レベルにおいては、特に電力部門において、温暖化防止対策に関連する政策が積極的に進められているようです。例えば、オレゴン州では、1997年から新しく建てられる発電所に対して、CO2排出量の排出基準を定めています。また、マサチューセッツ州では、2001年の州法で、最も古く環境負荷の大きい6つの発電所に、2006年までにCO2排出量を97年から99年の平均排出量に対して10%削減するよう義務付けています。同様の取り組みは、ニューハンプシャー州やワシントン州でも見られます。また、再生可能エネルギー(注1)普及を電力会社に義務付ける州政府が急速に増えています。2006年4月時点では、22州とワシントン特別区が、電力供給量の一定割合を再生可能エネルギー で賄うよう電力会社に義務付ける法律・指令を制定しています (注2) 。

このようにアメリカでも多くの自治体が温暖化対策を進めるようになってきました。その中でも包括的かつ積極的に温暖化対策を進めようとしている自治体の一つにカリフォルニア州があります。

 カリフォルニア州(以下、加州と略します)は、人口3,387万人(2000年)、面積40万平方kmでアメリカでも有数の規模を持つ州です(日本は約38万平方km)。エネルギー消費量も多く、国内のエネルギー消費の8%、小売電力販売量の6%を占めています(注3) 。また、加州の温室効果ガス排出量は、4.9億CO2トン(2002年)で、アメリカでは2番目に温室効果ガスの排出量の多い州なのです 。さらに1990年の排出量と比較すると、排出量は11.5%増大しています。とはいえ、アメリカの他州と比較すると、加州の一人当たり排出量、州総生産あたりの排出量は、それぞれ46位、45位と非常に低いのです。
次に、加州の温室効果ガス排出量の特徴を見てみると、輸送部門のエネルギー消費が大きな排出原因となっていることが挙げられます。部門別排出量を見ると、運輸部門が全体の41.2%を占め、次に産業部門が22.8%、民生部門が19.6%を占めています。この運輸部門からの排出の大きさは、加州が車に依存した社会であることを示しているといってよいでしょう。

このアメリカでも有数の温室効果ガス排出州である加州が、明確に温暖化対策に取り組み始めたのは、ごく最近のことです 。とりわけ、温暖化対策が加州のエネルギー政策の主要課題の一つとなったのは、温室効果ガス排出削減目標を設定した2005年以降ともいってもよいかもしれません。
2005年6月にシュワルツェネッガー州知事が発表した州の温室効果ガス削減目標は、以下のようなものでした(図1参照)。

「カリフォルニア州は、州内で排出される温室効果ガス排出量を
・2010年までに、2000年レベルに削減、
・2020年までに、1990年レベルに削減、
・2050年までに、1990年比から80%削減する。」

この目標値を見ると、2020年までの目標値は現実の排出動向を踏まえたものであり、実現可能性を重視したもののようです。一方、2050年の目標値は、脱炭素社会を展望したあるべき姿を描いているようです。
加州は、この目標値を達成するために、主に3つの政策領域に焦点を充てています。その政策領域とは1)運輸部門の規制、2)エネルギー効率の向上、3)エネルギー供給部門の脱化石燃料化です。
次回では、それぞれの政策領域について深く見ていきましょう。

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(注1)日本では、自然エネルギーと一般に呼ばれている太陽光、風力、水力、バイオマスといったエネルギー資源のことを指します。
(注2)この制度は、Renewable Portfolio Standard (RPS)と呼ばれています。
(注3)この数字では、そんなに大きく感じないかもしれませんが、アメリカが50州あることを思い出してください。
Bemis, G. and J. Allen, (2005) Inventory of California Greenhouse Gas Emissions and Sinks: 1990 to 2002 Update, California Energy Commission.

パソコンの埃飛ばしスプレーから、強力な温室効果ガスが・・

2006-03-01 16:36:47 | 温室効果ガス
 みなさんは「代替フロン」が非常に強力な温室効果ガスであることをご存知でしょうか? そして私たち自身、知らないうちにそれを使っていることを・・・。

例えばパソコンの埃を飛ばすためのスプレーを使ったことはありませんか? もしその缶に「HFC134a」という表示があったとしたら、それは「代替フロン」の一つで、二酸化炭素(CO2)に比べ1300倍もの温室効果を持っているガスを意味します※。そこでもしその500g缶を1本使いきったとした場合、CO2に換算するとなんと650kg(CO2換算)もの排出をしたことになります。この650kgというのは具体的には1世帯の2ヶ月分の排出量、あるいは冷蔵庫11年分、21型テレビだと22年分の排出量に相当します。さらに温暖化による海面上昇で、国が水没の危機にあるキリバスのひとりあたり排出量と比べると、この1缶でなんと2年分のCO2排出量になります。もしキリバスの人たちがこの事実を知ったとしたら・・・そう考えると、これは知らなかったでは済まされない問題ではないでしょうか。

 フロンは無色で人体への害が少なく、冷媒や断熱材などに適した便利で安価な人工化学物質です。しかし1980年代に入りその一部がオゾン層を破壊することがわかり、先進国では生産禁止、あるいはその多くが今後生産規制の対象となっています。そこでオゾン層を破壊しないということで登場したのが代替フロン類です。しかしフロンも含め、この代替フロン類は、上述のように非常に強力な温室効果ガスであることがわかってきました。例えば代替フロン類の中でも「HFC23」はCO2の1万倍以上もの温室効果を持っています。しかも日本の温室効果ガス排出量の約2%は代替フロン類です。

 代替フロン類は主に半導体などの製造や工業製品の洗浄などに使われているほか、私たちの身の回りではエアコンや冷蔵庫などの「冷媒」や建物の「断熱材」として使われています。そしてこれらはいずれも製造後、長い年月を経て徐々に排出されます。日本では現在、冷媒フロンは廃棄の際に回収が義務付けられていますが、完全回収は技術的にも不可能であり、やはり今後は代替フロンからの完全脱却を考えた脱フロン化に向けての取組みが必要であると考えられます。

 私たちも知らないうちに代替フロンを使った断熱材の家に住み、機器を使っていることに気付くだけでなく、スプレーはもちろん、冷蔵庫、断熱材などについてノンフロン製品があればそれらを確実に選び、またもっと政府の対策や業界の削減目標に目を向けて、声を上げていかなければならないのではないでしょうか。


※最近CO2の140倍の温室効果をもつHFC152aというガスを使ったスプレーが売られ、なぜか「グリーン購入」指定になっています。HFC134aを使う製品よりはましですが、それでも1缶使えばそれだけで冷蔵庫なら1年、テレビなら2年分の消費電力を発電するのに相当する排出量になります。

温室効果ガス排出量を増加させる西側先進国~03年度速報値

2005-12-21 19:01:08 | 温室効果ガス

■ 温室効果ガス排出量、1990年比9.2%増
 国連気候変動枠組条約事務局は10月、先進国の2003年における6種類の温室効果ガス排出量の速報値を発表しました。 先進国全体では5.9%減少ですが、これは旧ソ連東欧諸国が経済停滞のために排出量が1990年比約40%も減少しているためです。旧ソ連東欧を除く西側先進国の排出量は1990年に比べて9.2%も増加しています。


■ 排出上位国
 先進国の排出量のうち米国は約68億9000万トン(CO2換算、以下同じ)と全体の40%を占め、次いで、ロシア(約18億7000万トン)、日本(約13億4000万トン)、ドイツ(約10億2000万トン)、カナダ(約7億4000万トン)の順となっています。EU全体(最近加盟した東欧諸国を含まない15ヶ国)では41億8000万トンで、24%を占めています。
 ロシアをはじめ東欧諸国は経済停滞で大幅に排出量を減少させています。EUはドイツやイギリスが排出量を減らしていますが、排出をEU配分以上に増やしている国もあってEU全体としては8%削減はそれほど容易ではなく、付属書1国が提出した第3回国別報告書に基づく先進国の温室効果ガス排出量と今後の予測によれば、1990年から2001年までの経済移行国以外の先進国の温室効果ガス排出量は8.3%の増加し、このままでは、2010年には先進国全体で約10%、経済移行国を除く先進国全体では17%も増加してしまうとの予測になっています。


■ 排出増加国
 1990年と比較した排出量の増減を見てみると、米国が約8億1000万トンも増やし、次いで日本が約1億5000万トン(注)増やしています(図参照)。
 西側先進国のうち、1990年より排出量が減少しているのはドイツ、ルクセンブルク、イギリス、アイスランド、スウェーデン、フランス、スイスの7ヶ国で、EU全体(最近加盟した東欧諸国を含まない15ヶ国)でも1990年比で減少しています。なかでもドイツは、経済成長を続けながらも排出を削減しています。 このように2003年度の排出量を見る限り、一部のEUの国で削減に成功しつつある国が見られるものの、西側先進国全体としては停滞状態です。とりわけ大幅増加を続けているのが米国、日本、カナダ、オーストラリアなどです。こうした国々は、早急に抜本的な対策を実施して、温室効果ガスの排出量を減らすことが必要です。

注)日本政府は1990年の代替フロン3ガス排出量の算定をせず、報告もしていないので、条約事務局は代替フロン3ガスの1990年排出量をゼロとみなして計算、この結果、条約統計からみるこの間の増加量は約1億5000万トンで、日本政府発表値の1億200万トンよりも大きくなっています。

どれだけ減った?日本の温室効果ガス排出量

2005-11-29 16:56:26 | 温室効果ガス
■ 温室効果ガス排出量、基準年比7.4%増
 環境省は2004年度の温室効果ガス排出量(京都議定書対象の6種類のガス)速報値を発表しました。2003年度に比べれば0.8%減少したものの、京都議定書の基準年である1990年度(代替フロン類は1995年度)の排出量に比べて7.4%増の13億2900万トン(CO2換算、以下同じ)で、依然高い水準にあることが明らかになりました。
 日本は京都議定書で基準年比6%削減を義務づけられています。「京都議定書目標達成計画」では、6%削減うち海外での削減(京都メカニズム)と森林吸収を使って5.5%をまかなうことになっており、残る実質0.5%削減の政府目標を達成するにしてもなお約8%もの削減が必要になっています。

■ 部門別排出量
 京都議定書の対象になっている6つの温室効果ガス別では、CO2が排出量の94%を占めています。
 CO2の部門別排出量を表したのが図1です。外側の円は、部門別の「直接排出量」の割合で、発電所や製油所などのエネルギー転換部門が31.4%、工場などの産業部門が30.4%で、この2部門が巨大排出源であることがわかります。
 ちなみに、内側の円は、発電所が排出するCO2を、各部門の電気使用量に応じてCO2を割り振った「間接排出量」です。こうするとエネルギー転換部門は6.8%と非常に少なく表示されてしまいます。このような表し方は日本政府だけが行っているもので、一般に国連等は、「直接排出量」を示す外側の円の統計を使っています。

■ 1990年度との変化
 2004年度の6つの温室効果ガス排出量は基準年である1990年に比べて7.4%増となっています。このうち大部分を占めるCO2は1990年に比べて11.5%も増えています。他の5種類のガスは全て減少しています。
 CO2排出量(直接排出量)増減を部門別に見ると、増加量の多いのはエネルギー転換部門(約5500万t増)、次いで運輸部門(約4500万t増)です。増加率が大きいのは運輸と業務その他の部門でいずれも21%増加、エネルギー転換部門が16%増加です。産業部門はバブル崩壊にもかかわらず約1200万t(3.3%)増えました。家庭部門は約700万t(12%)増となっています。
 こうした増加の原因は、エネルギー転換部門では石炭火力発電の大幅増加、産業部門ではエネルギー効率の大幅悪化、運輸部門では自動車の増加と大型化などです。京都議定書の目標を守り、更にその後に求められる大幅削減に備えるためには、大口の排出源である、エネルギー転換、産業、運輸の各部門の大幅削減が不可欠で、これら部門に抜本的な政策を実施することが喫緊の課題となっています。

■ 前年比較
 2004年度のCO2排出量は前年度に比べて0.6%減少しました。2003年度は東京電力の原発トラブル隠しの発覚で原発が長期間停止した年です。しかし、2004年度は原発の設備利用率が前年の59.7%から68.9%に上がったものの、エネルギー転換部門のCO2排出量は前年度比1.4%削減にとどまりました。その理由として2004年夏に東京電力と関西電力で大型石炭火力発電所が新たに運転を開始したことの影響が考えられます。

■ 排出減でも要注意
 代替フロン類3ガス排出量は1995年度から2004年度までに半減しました。ところが、この3ガスの一部は冷媒(カーエアコンや冷凍倉庫など)や断熱材などに大量にストックされています。冷媒の代替フロンは10~20年後に車や倉庫が解体される際に排出され、断熱材の中の代替フロンは約30年かけてじわじわと排出されていきます。
 こうしたストックされている代替フロンの排出は、今後も増加すると考えられ、現に2004年の代替フロン類排出量のうち冷媒からの排出量は1995年度の5倍、断熱材からの排出量は2倍に増えています。今問題となっているアスベスト問題と同じように、10年後20年後に負の遺産を残さないためにも、代替フロンを元から断つ「脱フロン化」を実行に移していくことが必要です。

■ 2005年度は「目に見える進展」が必要な年
 京都議定書3条2項は、先進国に対し2005年に「この議定書に基づく約束の達成について明らかな前進を示す」ことを求めていますが、2004年度の排出量を見る限り、日本は「明らかな停滞」状態です。このままでは、京都議定書の約束である6%削減の達成は極めて困難です。