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国際交渉を学ぼう

2009-10-22 13:10:58 | 地球温暖化交渉の基礎知識
■ 地球温暖化問題の国際交渉を学ぼう

  「国連気候変動枠組条約 」(以後、「条約」といいます)は、地球温暖化を防止するために1992年に合意された多国間の国際条約です。世界各国はこの条約の内容に基づいて共に協力し合い、危険な温暖化を食い止めようとしています。この条約に関しては、条約の加盟国による締約国会議(COP)が毎年開催され、議論をしています。
 1997年には、京都で開催されたCOP3で、先進国の具体的な削減目標を決めた京都議定書が合意されました。京都議定書では2008~2012年(第1約束期間)の温室効果ガス削減に関する枠組みは決まっていますが、2013年以降の枠組みに関しては決まっていません。
 今年(2009年)12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されるCOP15で、2013年以降の削減目標と制度枠組みに合意することになっています。そのため、COP15は極めて重要な会議になっています。COP15での合意内容が人類の未来を左右すると言っても過言ではありません。
 温暖化の国際交渉について関心をもち、地球市民として、市民の立場から活動することは、地球温暖化の影響をもっとも強く受ける次世代に対する、私たちの責務ではないでしょうか。
 この「地球温暖化交渉の基礎知識」は、地球温暖化問題の国際交渉に関心を持つ地球市民がさらに増えることを願って作成したものです。わかり易い言葉を使うように心がけ、温暖化問題の国際交渉の初心者にも理解できる内容にしたつもりです。多くの方々にご活用いただければ幸いです。

■地球温暖化問題の国際交渉とは?

 地球温暖化防止の国際的な協調行動については、様々なところで話し合いが行われています。しかしもっとも基本的な話し合いの場は、条約の締約国会議(COP)と京都議定書の締約国会合(CMP※1)です。COP とCMPとの大きな違いは、アメリカは条約には参加しているのでCOP のメンバーですが、京都議定書には参加していないためCMPの正式のメンバーではないことです。
条約の下にはCOPでの議論のために、「科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)」と、「実施に関する補助機関(SBI)」の2つの補助機関が置かれています。
 また時々の交渉テーマに応じて、交渉のための特別作業部会が設置されます。京都議定書の合意に向けては「ベルリンマンデート特別会合(AGBM)」が8回開催されました。
 現在は、2013年以降の削減目標と制度枠組みの議論が、条約と議定書の下に2つの特別作業部会(AWG)で行われています。
条約の下のAWGは「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)」と言われ、条約の長期にわたる効果的で持続的な協力行動の議論を行っています。ここでの最大の論点は、世界全体の長期目標(2050年)と主要な途上国の取り組みです。
 議定書の下のAWGは「附属書Ⅰ国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)」 と言われ、2013年以降の先進国の削減目標の検討が主な論点です。


COP13の会場付近

☞ COPやCMP以外の国際交渉

 COPやCMP以外の国際交渉には、多国間や二国間で行うものがあります。そのうち先進国首脳会議(G8サミット)は、世界で最も影響力があると言われる先進国のトップ(首脳)が集まり、その時の地球上で最も重要とされている問題について話し合いをする場です。地球温暖化問題は、2005年にイギリスで行われた「グレンイーグルズサミット」から主要な議題として取り上げられ、2008年に日本で行われた洞爺湖サミットでは大きな注目を集めました。G8サミットで出される宣言は、COPでの合意を促進させる上で重要なものとなっています。また当然ながら国連自体も重要な場です。2009年9月22日には、潘基文事務総長のリーダーシップで、国連で気候変動サミットが開催され、この場で鳩山首相が25%削減の日本の中期目標を発表したことは記憶に新しいと思います。
 その他COPの合意を方向づけるものとして、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)があります。これは、合計すると世界の経済・人口・エネルギー使用の半分以上を占めるオーストラリア、カナダ、中国、インド、日本、韓国、米国のアジア太平洋主要7カ国が集い、地球温暖化に関する問題に一緒に取り組むための協働体です。
また、主要経済国フォーラム(MEF )やアジア太平洋経済協力機構(APEC)などの場でも地球温暖化が取り上げられ、その宣言や決定もCOPに影響を与えています。

☞ COP15(次期枠組みの構築)に向けた2009年の国際交渉スケジュール
  
 3月  AWG-LCA5、AWG-KP7(ドイツ)  
 4月  主要経済国フォーラム(MEF※2)(アメリカ) 
 6月  AWG-LCA6,AWG-KP8(ドイツ)  
 7月  ラクイラG8サミット/主要経済国フォーラム(MEF)(イタリア)
 8月   AWG-LCA6,AWG-KP8(ドイツ) 
 9月   主要経済国フォーラム(MEF)(アメリカ)/国連気候変動サミット(アメリカ) /AWG-LCA7前半会合,AWG-KP9前半会合(タイ)
 11月  AWG-LCA7後半会合,AWG-KP9後半会合(スペイン)/アジア太平洋経済協力 機構(APEC)(シンガポール)
 12月  COP15,CMP5, AWG-LCA8,AWG-KP10(デンマーク)  

 読者のみなさんもぜひ関心を持って、これらの会議のニュースに注目してみて下さい。そうすれば、COPやCMPでの交渉がどのように進展していくかが、少しずつ見えてくると思います。また、これらのニュースに単に目をとめるだけでなく、自分自身ならCOPでどのような主張をするだろうかと考えてみること、自分の知っている情報を周りの人に伝えることだけでも、温暖化を防止するうえで大切な行動になるのです。
 市民一人一人の意識と行動こそが、地球を温暖化の危機から救うために無くてはならないものだからです。




※1:議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議(The Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol)

※2:オバマ米大統領が2009年3月に立ち上げたフォーラム。主要国(G8)と中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、韓国など温室効果ガス排出量の多い計16 カ国と欧州連合(EU)で構成される。

国際交渉までの経緯

2009-10-16 16:32:07 | 地球温暖化交渉の基礎知識
■政治に影響を与える科学の知見

 地球温暖化はまさしく、地球上のあらゆる国に共通する問題です。それゆえ、1つの国だけが対策に取り組んだからといって、地球全体の温暖化の進行を食い止めることはできません。このような性格を持つ地球温暖化問題については、世界の国々の話し合い、つまり政治的な国際交渉によってその解決を図ることが必要です。
 しかし地球温暖化の主要な原因である二酸化炭素(CO2)は、エネルギー源を化石燃料に頼っていることからエネルギー関係から多く排出されます。地球温暖化問題はエネルギー問題でもあり、各国の社会経済システムやエネルギー政策に密接に関連し、鋭く利害が対立する問題です。
 また、新たな環境問題であるだけに、どうやって解決したらよいのか、どれくらい努力したらよいのか、誰がよりいっそう頑張るべきなのかということを決めるのも手探りのところがあります。
 何の情報もなしにただ話し合っていても埒があきません。これらのことを決めるためには、地球温暖化の原因やメカニズム、その影響や有効な対策などについての科学的な知見が不可欠です。こうした研究や分析を行っているのがIPCC で、これまで4回の評価報告書を発表しています。国際交渉は、IPCCなどの科学的知見を共通認識とした上で話し合いが行われています。
 ここでは、科学と政治がどのように係わりあって地球温暖化の国際交渉を進めているのかを見ていくことにしましょう。


■国際交渉までの経緯

 地球温暖化は前述の通り世界の国々で協力し合う必要があるため、国際政治のレベルで交渉を行って、解決策を模索しています。
 しかし、初めからそうだったわけではありません。科学者たちが地球温暖化の警鐘を鳴らしてから、それが国際交渉上の問題として取り上げられるようになるまでにどのような経緯をたどって来たのでしょうか。以下にそれに至るまでの重要な会議をまとめてみました。

1979 「世界気候会議」@ジェノバ
 世界気象機関(WMO)によって開催された会議で、初めて地球温暖化問題が議題として取り上げられた国際会議です。この時点では、地球温暖化問題は主に科学者の間のみで話し合われていましたが、この会議ではまだ地球が温暖化しているという共通認識で合意することはできませんでした

1985 「気候変動とその関連問題における二酸化炭素(CO2)およびその他の温室効果ガスの役割評価に関する国際会議(フィラハ会議)」@フィラハ/オーストリア
 CO2の増加に研究者の関心が高まってきたことを機に、国連環境計画(UNEP)が開催した会議。「21世紀前半には、地球の平均気温の上昇が人類未曾有の規模で起こり得る」という認識とともに「政治家や官僚などの政策決定者は、地球温暖化を防止するための対策を協力して始めなければならない」という宣言が出されました。地球温暖化が国際政治の問題として認識されるようになるきっかけとなった会議です。

1988 「変化する地球大気に関する国際会議(トロント会議)」@トロント/カナダ
 地球温暖化について、政治家と研究者が共に集まり話し合った初めての国際会議。この会議で初めて、「2005年までに88年レベルから20%削減」というCO2排出量の削減目標が数値として提唱されました。

1992 「国連環境開発会議(地球サミット)」@リオ・デ・ジャネイロ/ブラジル
 1989年12月22日、第44回国連総会は、「環境はますます悪化し、地球の生命維持システムが極度に破壊されつつある。このままいけば、地球の生態学的なバランスが崩れ、その生命をささえる特質が失われて生態学的なカタストロフィー(破局)が到来するだろう。私たちは、この事態を深く憂慮し、地球のこのバランスを守るには、断固たる、そして緊急の全地球的な行動が不可欠である。」と決議し、1992年にブラジルで地球サミットを開催することを決めました。そして、この地球サミットに向けて、地球温暖化問題を防止するための国際条約をつくる交渉が始められました。地球サミット直前の1992年5月、「国連気候変動枠組条約」が合意され、地球サミットで条約文言の確認である条約への署名が開始されました。地球温暖化問題は、この地球サミット以降、国際政治の主要な課題になっていきます。