2℃が限界?! 地球温暖化の最新情報

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州政府がイニシアチブをとるアメリカの温暖化政策-カリフォルニア州の温暖化対策-(1)

2006-05-31 23:55:50 | 温室効果ガス
アメリカでは、自治体(特に州政府)が温暖化対策の推進に強力なイニシアチブを発揮しつつあります。 そこで、今回と次回の2回にわたり、温暖化対策に熱心になり始めたカリフォルニア州の温暖化対策の事例についてご紹介しましょう。

 京都議定書に参加しないアメリカにおいては、自治体が進める温暖化対策には、二つの重要な意味があるといえます。それは、第一に、地域の温暖化対策を進めることによって持続可能な地域社会づくりを先取りできることです。第二に、他の地域への刺激にもなり、さらに連邦政府にも少なからぬ影響を与えることができるということです。

 では、アメリカの自治体レベルでの温暖化対策はどの程度進んでいるのでしょうか。州レベルにおいては、特に電力部門において、温暖化防止対策に関連する政策が積極的に進められているようです。例えば、オレゴン州では、1997年から新しく建てられる発電所に対して、CO2排出量の排出基準を定めています。また、マサチューセッツ州では、2001年の州法で、最も古く環境負荷の大きい6つの発電所に、2006年までにCO2排出量を97年から99年の平均排出量に対して10%削減するよう義務付けています。同様の取り組みは、ニューハンプシャー州やワシントン州でも見られます。また、再生可能エネルギー(注1)普及を電力会社に義務付ける州政府が急速に増えています。2006年4月時点では、22州とワシントン特別区が、電力供給量の一定割合を再生可能エネルギー で賄うよう電力会社に義務付ける法律・指令を制定しています (注2) 。

このようにアメリカでも多くの自治体が温暖化対策を進めるようになってきました。その中でも包括的かつ積極的に温暖化対策を進めようとしている自治体の一つにカリフォルニア州があります。

 カリフォルニア州(以下、加州と略します)は、人口3,387万人(2000年)、面積40万平方kmでアメリカでも有数の規模を持つ州です(日本は約38万平方km)。エネルギー消費量も多く、国内のエネルギー消費の8%、小売電力販売量の6%を占めています(注3) 。また、加州の温室効果ガス排出量は、4.9億CO2トン(2002年)で、アメリカでは2番目に温室効果ガスの排出量の多い州なのです 。さらに1990年の排出量と比較すると、排出量は11.5%増大しています。とはいえ、アメリカの他州と比較すると、加州の一人当たり排出量、州総生産あたりの排出量は、それぞれ46位、45位と非常に低いのです。
次に、加州の温室効果ガス排出量の特徴を見てみると、輸送部門のエネルギー消費が大きな排出原因となっていることが挙げられます。部門別排出量を見ると、運輸部門が全体の41.2%を占め、次に産業部門が22.8%、民生部門が19.6%を占めています。この運輸部門からの排出の大きさは、加州が車に依存した社会であることを示しているといってよいでしょう。

このアメリカでも有数の温室効果ガス排出州である加州が、明確に温暖化対策に取り組み始めたのは、ごく最近のことです 。とりわけ、温暖化対策が加州のエネルギー政策の主要課題の一つとなったのは、温室効果ガス排出削減目標を設定した2005年以降ともいってもよいかもしれません。
2005年6月にシュワルツェネッガー州知事が発表した州の温室効果ガス削減目標は、以下のようなものでした(図1参照)。

「カリフォルニア州は、州内で排出される温室効果ガス排出量を
・2010年までに、2000年レベルに削減、
・2020年までに、1990年レベルに削減、
・2050年までに、1990年比から80%削減する。」

この目標値を見ると、2020年までの目標値は現実の排出動向を踏まえたものであり、実現可能性を重視したもののようです。一方、2050年の目標値は、脱炭素社会を展望したあるべき姿を描いているようです。
加州は、この目標値を達成するために、主に3つの政策領域に焦点を充てています。その政策領域とは1)運輸部門の規制、2)エネルギー効率の向上、3)エネルギー供給部門の脱化石燃料化です。
次回では、それぞれの政策領域について深く見ていきましょう。

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(注1)日本では、自然エネルギーと一般に呼ばれている太陽光、風力、水力、バイオマスといったエネルギー資源のことを指します。
(注2)この制度は、Renewable Portfolio Standard (RPS)と呼ばれています。
(注3)この数字では、そんなに大きく感じないかもしれませんが、アメリカが50州あることを思い出してください。
Bemis, G. and J. Allen, (2005) Inventory of California Greenhouse Gas Emissions and Sinks: 1990 to 2002 Update, California Energy Commission.

2℃をこえると多くの生物が絶滅する

2006-05-27 12:01:16 | 2℃

◆気温が上がると生物は移動が必要

 生物は植物でも動物でもまわりの温度に非常に敏感です。それぞれがみな自身にちょうど適した気温や水温のところで生活しており、それらの温度がすこしでも変化すると、もうそこでは生きるのがむずかしくなります。そこで温暖化が進んで気温が上昇すると、生物は一般に気温がより低い高緯度地方または高所へ移動しなければなりません。具体的には、産業革命以前から2℃の上昇で高緯度地方へ 300 kmの移動が必要であり、山岳生物の場合には同じ条件で高所へ 300 m(高度)の移動が必要です。

◆すでにチョウや鳥類が移動を開始

 ドイツのハノーバー大学を中心とする国際的な研究チームの報告によれば、すでに北米とヨーロッパの 39種のチョウが最近 27年間に北方へ最高 200 km移動し、イギリスの 12種の鳥類も最近 20年間に北方へ平均 19 km移動したことが確かめられています(Nature 2002年3月28日号参照)。またWWF(世界自然保護基金)は、アルプスのある種の高山植物が最近 30年間に高所へ 100 m移動したことを指摘しています。
 わが国でも、国立環境研究所の最近の報告によれば、以前には九州や四国南部が限であったナガサキアゲハが 1980年代から和歌山県や兵庫県に出現し、2000年以降は関東地方でも生息が確認されたとのことです。

◆移動は現実にはむずかしいケースが多い

 しかし、このような生物の移動はかならずしもうまくいくとは限りません。動物は比較的動きやすいかもしれませんが、植物の場合には、すでに生えているものはただ枯れるのを待つのみであり、これとは別に他の土地で種子があらたに発芽し、成長することによってはじめて移動が可能になるわけです。とくに樹木の場合にはこの成長に長い年月を必要とします。ところが現実の温暖化の速度は、10年間に 0.3℃以上であり、この移動のテンポをはるかにこえているのが問題です。多くの樹木にとって移動が可能なテンポは、温暖化の速度とくらべて5分の1以下とみられています。
 また移動先の土地がやせていて移動する植物の生育に適さないケースも多いでしょう。そして植物の移動がうまくいかないと、それを食べ物とすることが多い動物も移動がむずかしくなります。こうして連鎖的に多くの生物が絶滅を強いられるケースが増えてきます。山岳生物の場合には、山の頂上へ向かうほど面積が減少することも移動による生息の維持を不利にします。

◆2050年までに生物種の 26~37%が絶滅

 最近イギリスのリーズ大学を中心とした国際的な研究チームがヨーロッパ、オーストラリア、メキシコ、南アフリカなどに分布する 1103種の陸上生物(ほ乳類、鳥類、こん虫類、植物など)について温暖化による生息環境の変化を見積もり、このままいけば 2050年までにそれらの 26~37%が絶滅すると予測しました(Nature 2004年1月8日号参照)。これは生息地の移動がむずかしいと想定した場合の予測ですが、前記のように、多くの生物についてそれが現実であると考えてもいいでしょう。なお、移動が可能であるとしても絶滅は 15~20%におよぶと予測されています。

 一方、国連環境計画(UNEP)も、このような絶滅を含めて 21世紀の半ばに生物分布が大きく変化する地域は世界の森林の 34%に達すると推測しています(このうち、北方林は25%が消失)。また3℃の気温上昇によってノルウェーの高山植物が4分の1に減少することも指摘されています。このように、気温上昇が2℃をこえると、地球の生態系に激変が生じ、多くの生物が絶滅せざるをえなくなります。そしてそれは私たちの生活にも多大の悪影響をおよぼすことになるでしょう。