2℃が限界?! 地球温暖化の最新情報

環境NGOのCASAが、「2℃」をキーワードに、地球温暖化に関する最新情報や役立つ情報を、随時アップしていきます。

日本のCO2排出構造をさぐる(1/4)

2006-07-30 21:45:26 | 温室効果ガス
◆日本のCO2はどこから

 温暖化対策について考える場合、CO2の大きな排出源がどこであるかを知ることが大切です。
 図1は、環境省の発表している、部門別のCO2排出割合を示す円グラフです。二重になっている円の内側の円は実際に化石燃料をもやして、直接CO2を出している各部門のCO2排出割合を表しています。図から発電所と工場、運輸が大きいことがわかります。外側の円は発電所で作った電気を各分野ごとに使っている量に応じて振り分けたものです。これは日本独自の統計です。内側の円の統計の方が、どこが大口排出源かがはっきりします。
 気候変動枠組条約や京都議定書の統計、EUなどはこの内側の円の統計の取り方でなされています。外側の円は「電気を使う人に責任がある」と発想で作られたもので、一見もっともらしいですが、この計算方法だと、例えば発電所が発電に天然ガスを使っていたのを、よりCO2排出量の多い石炭に替えた場合、使用している電気量としては削減していても、工場やオフィスや家庭の増加としてカウントされてしまう矛盾も生じてしまいます。こうなると明らかに削減義務の所在が不明確になってしまいます。


◆超大口を探る

 さて、大口排出源がどうなっているかを、気候ネットワークが、発電所や工場などが省エネ法に基づき国に届け出ている燃料消費量などを情報開示請求して推定しました。
 発電所や製油所などの「エネルギー転換部門」と、製鉄所や化学工場などの工場がメインの「産業部門」で日本のCO2の3分の2を占めており、なかには1事業所で1000万トン(家庭300万世帯分に相当)も出すような超大口排出工場・発電所もあります。何と、約180の工場と発電所だけで、日本のCO2排出量の半分を占めています。しかも、このなかにはCO2排出の多い石炭を燃料とする発電所や、効率が悪くより多くCO2を排出している工場も多く含まれています。
 こうした発電所や工場をもつ、企業にしたら数十の会社が、発電所の燃料源をCO2排出の少ない天然ガスに変えたり、工場の効率を改善することで、日本の6%削減は達成可能なのです。


◆残りの3分の1は・・・

 日本のCO2排出量の3分の1は、運輸、業務(オフィス、商店など)、家庭から排出されています。この中では運輸部門が多くなっています。運輸部門の9割はクルマです。交通機関の中でも、クルマや飛行機は、人や荷物を同じ距離運ぶのに、鉄道や船舶よりはるかに多くのCO2を排出します。例えば、1トンの荷物を1キロ運ぶのに、飛行機は鉄道輸送の70倍、営業用トラックの8倍のCO2を排出するとのデータもあります。このクルマと飛行機の割合が増え、しかもクルマの効率が悪化しているのが問題です。

2℃をこえると健康障害のリスクが激増する

2006-07-20 18:11:36 | 2℃
◆温暖化によるさまざまな健康破壊

 地球温暖化は私たちの健康と生命に対してどのような影響をおよぼすでしょうか。これには直接的なものと間接的なものの2つが考えられます。直接影響としてもっとも分かりやすいのが気温の上昇による熱射病(熱中症)の増加です。夏がますます暑くなるのでこれは当然のことでしょう。また洪水、暴風雨、干ばつなどの多発が死傷者を直接増加させるのも無視できません。
 つぎに、間接影響の中でもっとも心配されているのが疫病(感染症)のまんえんです。これは、気温が上昇するとマラリア、デング熱などを媒介する生物(蚊など)の繁殖が活発になり、その地域分布も広がることに由来します。また農業生産が低下して食糧が不足し、栄養不良の人が増加します。さらに気温の上昇で光化学スモッグが多発すると共に、水不足が衛生状態を悪化させるので、それらの被害を受ける人も多くなります。図に、このような健康破壊の全体像をまとめて示します。


◆温暖化によって毎年 16万人以上が死亡

 世界保健機関(WHO)は、最近温暖化に由来するいくつかの原因(酷暑、洪水、マラリア、食糧不足など)によって生じた健康障害のデータを調査し、世界の 14地域ごとに 2000年の時点の年間推定死亡者数および傷病者数(患者数)を公表しました(Nature 2005年11月17日号参照)。それらの総計は死亡者数が 16万6000人、また患者数が 552万人に達しています。地域的にはアジアとアフリカの発展途上国の被害が目立ちます。またWHOは、温暖化がこのまま進んだ場合の 2030年における同健康障害のリスクをも算出し、これが全体として現在の2倍以上に増大すると予測しました。


◆洪水の死傷者は 2030年に2~6倍に

 これらの公表値のうち、酷暑による影響については、心血管系の障害で死亡した事例のみが年間 12000人と推算されています。これに他の障害による死亡事例や病気になった人の数を加えると、かなりの被害がすでに生じているとみられます。2003年の夏に酷暑のフランスで約15000人が熱中症などで死亡した経緯がそのことを端的に示しています。また洪水による年間の死亡者と傷病者はそれぞれ 2000人および 19万3000人と推算され、これらが 2030年には2~6倍に増加すると予測されています。これに暴風雨や干ばつの影響を加えると被害の現実と予測はさらに大きくなるでしょう。


◆3億人にマラリア感染の危険が広がる

 一方、温暖化に由来するマラリアの広がりが 2000年に生みだした死亡者は 27000人、また感染患者は 102万人と推算され、これらが 2030年には最高 1.5倍に増加すると予測されています。1990年代に入って従来の流行地域(熱帯と亜熱帯)よりも緯度が高い地方(カナダ、南ヨーロッパなど)やアフリカの高地で感染する事例が増えてきたことがこれらのデータを裏づけています。現在、マラリア流行地域に居住する人口は約24億人ですが、気候行動ネットワーク(CAN)の報告によれば、2~3℃の気温上昇で3億人があらたに感染の危険にさらされます。


◆デング熱やコレラのリスクも増大

 マラリア以外の感染症としては、デング熱、黄熱病、住血吸虫病などがやはり温暖化によって流行地域を広げます。デング熱はすでに中南米で多発する傾向を示しています。また 2002年にアメリカで大流行した西ナイル熱や最近世界各地で頻発しているコレラも今後の動向が気がかりな感染症です。WHOのデータでは、コレラなどによる下痢で死亡した人と同患者が年間それぞれ 47000人および 146万人と推算されており、栄養不良にもとづく 77000人の死亡者および 285万人の患者と共に、この調査の中では大きなウエイトを占めています。
 以上のように、温暖化による健康障害は 2000年の段階ですでに無視できないレベルに達しており、しかもこれが早くも 2030年までに倍増すると見込まれています。したがって、2℃をこえる 2040年前後のリスクはきわめて高く、たえがたいものとなることはまちがいないでしょう。