Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/9(木)中島由紀ピアノ・リサイタル/端正でロマン的なドイツもの/色彩的で絵画的な表現力が豊かなフランス系の標題音楽

2017年11月09日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
中島由紀 ピアノ・リサイタル
Yuki Nakajima Piano Recital


2017年11月9日(木)19:00〜 王子ホール 自由席 A列 10番 4,000円
ピアノ:中島由紀
【曲目】
J.S.バッハ:パルティータ 第2番ホ短調 BWV826
     1.シンフォニア 2.アルマンド 3.クーラント 4.サラバンド
     5.ロンド 6.カプリッチョ
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」
ショパン:舟歌 作品60
ラヴェル:組曲「鏡」
     1.蛾 2.悲しい鳥たち 3.洋上の小舟 4.道化師の朝の歌 5.鐘の谷
ファリャ:組曲「恋は魔術師」
     1.パントマイム 2.恐怖の踊り 3.情景 4.きつね火の歌
     5.魔法の輪(漁師の物語)6.真夜中 7.火祭りの踊り
《アンコール》
 モンポウ:「内なる印象」より「秘密」

 ピアノの中島由紀さんのリサイタルを聴く。中島さんのソロ・リサイタルを聴くのは2015年5月の浜離宮朝日ホール以来である。その間もヴァイオリンの青木尚佳さんとのデュオでは何回か聴いているので、個人的にもすっかりお馴染みの存在だ。フランスに留学していた経験があるからフランスものを得意としているイメージが強いが、リサイタルの際もあまり偏らないプログラムを構成する。今回も、バッハ、ベートーヴェン、ショパン、ラヴェル、ファリャというふうにバラエティに富んでいる。

 バッハの「パルティータ 第2番ホ短調 BWV826」は、強弱を自由に出来るピアノで弾く場合は表現の可能性が大きく広がることになる。由紀さんの演奏は、端正な造形でバッハの世界を描き出すが、その中に表現されるさりげない強弱が音楽に鮮やかな陰影を描き出し、旋律のフレージングにも歌うような息遣いが感じられた。

 ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57『熱情』」は、静かな比較的佇まいの序奏で始まり、やがて情熱的な部分を経てロマンティックな主題が歌い出す。全体にそれほど大きな音量ではないが、弱音部分が繊細で非常に丁寧なため、相対的にはダイナミックレンジが広く、メリハリのある表現になっている。第2楽章の緩徐楽章は、抒情性豊かに、歌うような表現。第3楽章は、初めはチョロチョロと小さな炎が徐々に熱く燃えたぎる炎へと変化していくように、力感が増していく。テンポの設定にも推進力があり、聴く者にグングン迫ってくる力があると感じた。

 ショパンの「舟歌 作品60」は、波間に陽光がキラキラと反射する中を、小舟がゆったりと揺れるように進んでいく情景を描きながら、透明感のある澄んだ音色の重音や分散和音が美しく響く。ロマンティックな表現にも女性ならではの優しさと繊細さがあり、それに加えて芯の強さのようなものも感じられる演奏であった。

 ラヴェルの組曲「鏡」は由紀さんの一番得意な分野だろうか。フランスの音楽には純音楽よりは標題音楽の方が多いようだが、この演奏を聴くとラヴェルは絵画的な(目に見えるような)音楽表現を目指していたことがよく伝わってきた。原色の絵の具で細かく点描された絵画を離れる見れば大きな絵になっているように、由紀さんのピアノの音のひとつひとつの粒立ちが極めて色彩的であることに気付く。ピアノだから基本的にはみな同じ音質のはずなのだが、タッチの変化や和声のバランス等によってひとつひとつの音の色が変わって聞こえるから不思議。各曲とも、部分的には音による点描だが、1曲通して聴くと一つのイメージが絵画的な造型となって表れてくる。

 最後はファリャの組曲「恋は魔術師」。こちらも標題音楽だが、全体がスペイン風の音楽的な造型を持っている。旋律も明瞭に現れるし、民族的な舞曲のリズムも多用される。由紀さんの演奏は、スペインの民族的な雰囲気をあまり強く押し出すことはなく、近代的な音楽の造型の中で煌めくような美しい音色を保つ。あたかもフランス近代の色彩感の中にスペイン風合いを適度にブレンドしたような感じ。品格を感じさせるえんそうであった。

 アンコールはモンポウの「内なる印象」より「秘密」。フェデリコ・モンポウ(1893〜1987)はスペインのカタルーニャ地方、バルセロナ出身の作曲家で、フランスの印象主義の影響を受けた作品が多い。この曲もまさにそのような小品で、短い旋律の組み合わせが抽象的な観念を描き出す。由紀さんらしい選曲である。

 全体を通してみると、由紀さんは自身の世界観を持っていることがわかる。およそ2年半ぶりに聴いたリサイタルであったが、伴奏の時とは違って、明らかに人格が投影されている。個性を全面的に押し出すようなことはせずに、やや控え目ではあるが芯は強い、といったところか。音質は美しく、とくにラヴェルの印象主義的な造型が素晴らしい。今日は王子ホールの良質な音響の中で、ラフマニノフはなかったが「音の絵」を心ゆくまで堪能させていただいた。
 終演後には面会を求める人が多く残っていた。私も列に並んで(?)ご挨拶と記念撮影。カメラのレンズを壊してしまったので、いつもとはちょっと違った写り方かも。



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