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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/14(木)東京フィル/プレトニョフのラフマニノフ/小川典子のP協奏曲と交響曲第2番の快演

2013年03月16日 01時53分35秒 | クラシックコンサート
東京フィルハーモニー交響楽団/第76回東京オペラシティ定期シリーズ

2013年3月14日(木)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 4列 14番 3,780円(会員割引)
指 揮: ミハイル・プレトニョフ
ピアノ: 小川典子*
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
ラフマニノフ: ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18*
ラフマニノフ: 交響曲 第2番 ホ短調 作品27

 東京フィルハーモニー交響楽団の「東京オペラシティ定期シリーズ」は、今日が2012/2013シーズンの最終回となる。前回はお休みしてしまったので、昨年2012年の11月の三ツ橋敬子さん以来となってしまった。最終回は指揮者にロシアの巨匠、ミハイル・プレトニョフさんを迎えて、サントリー定期とオペラシティ定期は同プログラム。東京フィルのメンバーもコンサートマスターが荒井英治さんと三浦章宏さんのツートップをはじめ、第2ヴァイオリンのトップは戸上眞里さん、ヴィオラのトップは須田祥子さんなど、ベストの布陣であった(管楽器は私の席からはよく見えなかったので、不明だが)。そしてオーケストラの配置は、プレトニョフ流(?)。昨年の6月に来日公演したロシア・ナショナル管弦楽団の時と同じで、ヴァイオリンを指揮者をはさんで対向に配置し、第1の後ろにチェロ、左奥にコントラバスを置く。薄くなった右奥に4本のホルンがいる。ティンパニと打楽器は左奥だった。このクラシックな配置は、後半の交響曲第2番で、立体的な音響を創り出していた。

 プログラムはラフマニノフの名曲を2曲だけ。それでも重量級のプログラムだ。前半はピアノ協奏曲第2番。ソリストは小川典子さん。国際的に活躍されていて、ドビュッシーの演奏などで名高いが、さてラフマニノフはいかがであろうか。
 曲が始まり、ピアノのソロに続いてオーケストラが主題を演奏し始める。2列目の鍵盤下という席位置のせいもあるが、ピアノの音がかなり大きい。かなり豪快に弾いている。もっと離れて聴けば、おそらくオーケストラの厚い音に覆われて本来なら伴奏になるはずの分散和音でも、オーケストラを凌駕するように押し寄せてくる。打鍵も強いようで、かなり金属的な響きとなり、全体の印象としてもかなり硬質な感じであった。プレトニョフさんもオーケストラをブンブン鳴らしているのだが、それでもピアノが強い。もちろん、ピアノが主旋律を弾く部分はオーケストラも控え目になるし、第2楽章などは抒情的な演奏を聴かせていたが、音質は硬く感じた。そのためもあって、ピアノが流れるようなスムーズさが薄れ、ザラついて聞こえる。第1楽章の第1主題のように、大河のながれを感じさせるような堂々たる主題が、自然の岩肌のようにゴツゴツした情景が目に浮かんだ。それは決して悪い意味で言っているのではなく、なるほど、このようなロシア音楽のイメージ的な解釈があっても良いのかな、とも思えた。ある意味では、無骨で洗練されきっていないロシア音楽をうまく捉えているのかもしれない。第3楽章の終盤の怒濤のごとき盛り上がり方なども、力で押しまくっていた。ただし、ラフマニノフの感傷的で甘美な世界としては…どうなんだろう。

 後半は交響曲第2番。この曲は何といっても、昨年3月のアレクサンドル・ラザレフさんの指揮する日本フィルハーモニー交響楽団の演奏があまりにも素晴らしく、ことあるごとに触れてきたが、今日の演奏は、同様にロシアの巨匠が日本のオーケストラをドライブして、どれだけ違った演奏を聴かせてくれるのか、大いに期待していたものである。
 結論から先に言ってしまうと、やはり第一級の名演だったと思う。プレトニョフさんの音楽は、良い意味で、骨太で荒々しい力任せのロシア音楽の魅力をそのまま伝えてくる。東京フィルの機能性を最大限に引き出し、大音量で、豪快に響かせていた。ダイナミックレンジが広いのではなく、音量全体が大きい方へシフトしている感じ。pp部分は普通に鳴らし、ff部分はエンジン全開となる。しかし音質が荒れたり、管と弦のバランスを崩したりはしない。つまり、オーディオ装置のパワーアンプのボリュームを上げたまま聴いているようなイメージだ。今日の東京フィルは本当によく鳴っていたし、金管も木管も素晴らしい音色を聴かせ、弦楽のアンサンブルは弱音では澄んだ美しさを聴かせ、強音では荒々しいまでの力強さを聴かせていた。プレトニョフさんの前回の来日の時のロシア・ナショナル管弦楽団よりも、数段上のレベルだったと言ったら怒るかな…。
 第1楽章は、序奏からヴァイオリンのアンサンブルが美しい。ピアニスト出身らしいプレトニョフさん独特の節回しが、以前聴いたベートーヴェンでは違和感を感じたものだが、さすがにお国もののラフマニノフでは、クセのある歌わせ方が抒情性を浮かび上がらせる。弦楽のアンサンブルをうまくコントロールして、第2主題など、泣かせる。主題の合間に入るコールアングレやクラリネットの牧歌的な歌わせ方も上手い。
 第2楽章はイ短調で、暗い影のような負の要素を持つ躍動的なスケルツォから一転する抒情的な中間部の美しい旋律は、この曲の聴かせどころのひとつだが、プレトニョフさんは抒情性の中から感傷的な雰囲気を取り去り、押しの強いロマンティシズムを描いていた。後半のに再び現れるこの部分も厚みのある弦楽と金管で、なかなか良い感じである。
 第3楽章は、例の名旋律。最近何かのテレビ・コマーシャルでも使われていた。弦楽の美しく厚いアンサンブルと伸びやかなクラリネットが泣かせる。荒涼たるロシアの大地を緩やかに吹き抜ける風が、人々に春の息吹を思い起こさせ、まだ来ない春への憧れが感傷的な気分にさせる…といったようなイメージだろうか。ただしこの楽章も大きめの音量で、男性的な骨太さを残している。
 第4楽章の主部を構成する躍動的な曲想や、喜びに満ちた第1主題などは、まさに今日のプレトニョフさんと東京フィルの演奏にはピッタリであった。豊かな音量と濃厚な音色のオーケストラと押しの強い演奏で、繰り返される主題が強い印象を残していく。第2主題の再現に至る長い経過部の盛り上げ方も見事で、一気名コーダに流れ込むと過激にテンポアップして怒濤のごとく締めくくられた。
 繰り返しになるが、全曲を通じて音量たっぷりの演奏だったのにもかかわらず、音質は豊かで濃厚なのは東京フィルならではである。本来かなりポテンシャルの高いこのオーケストラから、感情をあまりオモテに出さず冷静な表情でありながら、プレトニョフさんは最大限の音を引っ張り出すのに成功していた。素晴らしい演奏だったと思う。曲が終わった後のオーケストラの皆さんの嬉しそうな表情から見ても、良い演奏だったことが分かる。演奏させる指揮者も、演奏するオーケストラも、聴いている私たちも、皆がとても満足げな表情で終わった、とても素敵なコンサートであった。

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