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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/13(日)音楽ネットワーク「えん」小林美樹&上村文乃/安定した技巧と豊かな表現力で将来有望なデュオ

2015年12月13日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
音楽ネットワーク「えん」第43回コンセール・ラポール in 東京
『若きミューズ達 織り成す魅惑のデュオ』


2015年12月13日(日)14:30~ 尾上邸音楽室 自由席 1列中央 3,500円
主催:音楽ネットワーク「えん」
ヴァイオリン:小林美樹*
ピアノ:上村文乃**
【曲目】
エルガー:愛の挨拶
イザイ:ソロ・ヴァイオリンのためのソナタ 第3番ニ短調 作品27-3「バラード」*
黛 敏郎:ソロ・チェロのための「BUNRAKU」**
ハルヴォルセン:ヘンデルの主題によるパッサカリア
J.S.バッハ:2声のインヴェンション BWV772-786 より 第1番ハ長調・第13番イ短調・第4番ニ短調・第15番ロ短調・第8番ヘ長調
ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
《アンコール》
 マスネ/上村文乃編:タイスの瞑想曲(ヴァイオリンとチェロ版)

《プレ・コンサート》
フルート:中島麻菜美
オーボエ:山田涼子
クラリネット:三界達義
ホルン:信末碩才
ファゴット:渡邊眞理愛
【曲目】
 ツェムリンスキー:ユモレスク
 ラヴェル/ジョーンズ編:クープランの墓

 音楽ネットワーク「えん」の主催による「小規模」「非営利」「手作り」のコンサート・シリーズで、今日はヴァイオリンの小林美樹さんとチェロの上村文乃さんによるデュオ・リサイタルである。会場はいつもの尾上邸音楽室(個人宅)。今回はピアノがないので、長方形の部屋を横長に使って、フラットな床面におよそ40席を設けた。このようなサロン・コンサートでは演奏者との距離感がかなり近く、美樹さんや文乃さんのクラスになると、小さな空間に音が満ち溢れ、音圧を感じるくらいになる。

 小林美樹さんはちょうど2年前の2013年12月にも「えん」のコンサートに登場してくれて、ここ尾上邸音楽室で姉の小林有沙さんとのデュオを聴かせてくれた。その後も2014年5月に日本フィルハーモニー交響楽団の横浜定期に招かれてコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲を弾いたのを聴かせていただいた。実はそれ以来になってしまった。1ヶ月前の2015年の11月に紀尾井ホールでリサイタルを開いたが、チケットは買ったものの他のコンサートと重なってしまったために断念せざるを得なかったのである。

 一方、上村文乃さんも直接知り合ったのは「えん」のコンサートが最初だった。震災のあった2011年の7月に開かれた、青木尚佳さんと開原有紀乃さんとのトリオ・コンサートで、その時もここ尾上邸音楽室だったのである。その後、その年2011年10月の日本音楽コンクール/チェロ部門の本選会(第2位受賞)や、翌年2012年3月の東京文化会館・小ホールでのリサイタルなど、その頃の主だった演奏会はほとんど聴かせていただいたものだが、桐朋学園大学ソリストディプロマコースを卒業後、ドイツに留学し、現在はスイスのバーゼル音楽院にて研鑽中ということで、日本国内では宮崎国際音楽祭や霧島国際音楽祭などに参加するときに帰国していたが、東京ではなかなか演奏機会がなかったようである。そんな文乃さんの演奏を久しぶりに聴かせていただいたのが、今年2015年9月、読売日本交響楽団の「読響アンサンブル・シリーズ」に出演し、下野竜也さんの指揮でハイドンの「チェロ協奏曲 第1番」の演奏。そして、本日ということになる。

 本日は若干のお手伝いも兼ねて早めの会場入りをしたので、リハーサルから聴かせていただくという役得があった。実は同じプログラムで昨日、名古屋でもコンサートが開かれていたため、今日のリハーサルでは細部の確認が行われる程度であったが、このクラスの人たちの演奏を誰もいない部屋で聴けるのはなかなか得難い体験である。

 さて前置きが長くなってしまった。本編のコンサートを振り返ってみよう。
 1曲目はエルガーの「愛の挨拶」。ヴァイオリンとチェロだけのデュオ・リサイタルというのは、意外に少ないらしく、この組み合わせは初めて聴くという人も多かったようである。私は川久保賜紀さんと遠藤真理さんデュオを何度も聴いているので、この「愛の挨拶」もすっかりお馴染みであった。至近距離の真正面で聴いていたので、左側からヴァイオリン、右側からチェロが聞こえてくる。美樹さんのヴァイオリンはレガートを効かせて丸みを帯びた佇まいを見せる。文乃さんのチェロは大らかに歌うだ音の立ち上がりが明瞭で造型がしっかりしているという印象だ。

 続いて、美樹さんのソロで、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」作品27から第3番の「バラード」。超絶的な技巧と、多声的な表現力が求められる難曲である。美樹さんのヴァイオリンは、先ほどとは変わって、かなりエッジを立てた演奏で、立ち上がりが鋭く、ダイナミックレンジも広い。強奏時の音量はかなり大きく、この部屋の空間には収まりきれない感じで、残響音も少ないので、ヴァイオリンの生々しい音が響き渡っていた。演奏は速めのテンポだろうか、キレ味が鋭く、ダイナミック。良い意味での若さが溢れる演奏で、推進力があり、躍動的でドラマティックな盛り上がりが素晴らしい。

 続いて今度は、文乃さんのソロで、黛 敏郎のチェロ独奏のための「BUNRAKU」。日本人作曲家によるチェロ作品としては有名な作品で、昔から知っているが、コンサートでの演奏機会は意外に少ないようで、私がチェロのリサイタルをあまり聴かないせいもあるのか、おそらくナマ演奏を聴くのは今日が初めてだと思う。その滅多にない機会が文乃さんの演奏で、しかもわずか2メートルしか離れていない目の前というのは、何と幸せなことか。
 ご存じのように、「BUNRAKU」は、ピツィカートが多用され、弦を指板にぶつけて琵琶のような音を出す特殊な奏法が頻出する。日本の伝統的な古典芸能の世界観をチェロを使った前衛的な現代音楽で描く。文乃さんの演奏は、この前衛的な音楽に対しても極めて正確な音程と、複雑に入り組んだ特殊奏法で正確かつダイナミックに演奏していく。時折出てくる弓を使った過激なパッセージなどは息を飲むような緊張感だ。何より良かったと思うのは、演奏が前衛的な音の羅列になってしまうことなく、実に豊かに歌う音楽になっていたことだ。初めて聴いた人にも強烈な印象を残したに違いない。素晴らしい演奏だったと思う。

 前半の最後は、ハルヴォルセンの「ヘンデルの主題によるパッサカリア」。この曲はヴァイオリンとチェロのデュオでは定番の曲になっているが、本来はヴァイオリンとヴィオラのための曲である。当然、チェロの方が低音部が強調され、ヴァイオリンとの2声間が時には開くのでアンサンブルに厚みが出るようになる。二人の演奏は、変奏によっても異なるが、概ねエッジを明瞭に効かせた鋭いもので、全体的に力感に溢れた演奏になっていた。二人とも楽器を十分に鳴らし音量がかなり出ているので、クライマックスでは強烈な押し出しとなっている。喜美さんのヴァイオリンは早いパッセージのキレが良く、文乃さんのチェロは低層のリズム感が実に明瞭。まあ、目の前で聴いているせいもあるだろうが、迫力満点のパッサカリアであった。


 後半は、J.S.バッヮハの「2声のインヴェンション」から5曲を、もちろんヴァイオリンとチェロで。クラヴィーアのための2声の対位法による曲集だが、 ヴァイオリンとチェロに分かれると、音域はもちろんのこと音質が変わり、しかもステレオ効果もあり、2声の構造が明瞭になる。演奏されたのは、全15曲の内、「第1番ハ長調」「第13番イ短調」「第4番ニ短調」「第15番ロ短調」「第8番ヘ長調」の5曲で、いずれもよく知られた曲である。バロックは普段あまり聴かないし、鍵盤楽器といってもチェンバロの演奏会などまったく聴かないし、ピアノであってもそれほど多く聴きにいっているわけではないので、「インヴェンション」は非常に懐かしく感じられた。美樹さんのヴァイオリンがキリッとした佇まいを見せ、文乃さんのチェロ深みのある音色で低音を支える。二人の演奏が離れていったり、1つに重なったり、追いかけたり、といった変化が雄弁に語られているように感じられたのは、二人の演奏が豊かな表情と技巧を持っているからだ。惜しむらくは、もう少し残響音がある場所であったなら、和声の美しさがもっと現れたであろうと、そんな気がする。

 最後は、本日のメイン曲、ラヴェルの「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」である。この曲もヴァイオリンとチェロのデュオとしては定番の曲ではあるが、この組み合わせのデュオによる演奏会が意外に少ないので、一般的にははあまり聴く機会の多くない方の部類に入るのかもしれない。
 第1楽章は揺らめくような主題で曲が始まるのが印象的だ。チェロが高い方音域を使うところが多く、ヴァイオリンとの間で近代的ともいうべき曖昧なハーモニーを生み出す。これが独特の浮遊感を描くのである。美樹さんのヴァイオリンはどちらかといえば鋭角的に聴こえ、文乃さんの安定した音程が高音部でも冴えている。時折、チェロが低音部に下がる時の音の広がりの変化が鮮やかだ。
 第2楽章は、スケルツォ的な正確の楽章で、ヴァイオリンとチェロがピツィカートの応酬で始まる。けっこう前衛的な曲想だと思うが、二人の息がピッタリと合っている(合わせている)のが印象的。
 第3楽章は緩徐楽章。遅いテンポだけに、ヴァイオリンとチェロの質感を合わせるのが難しそう。また音量のバランスなども大変そうである。弱音がとくに難しそうであった。
 第4楽章は民族舞曲調の弾む主題が印象的。リズムに乗って、躍動的でエネルギーに満ちた演奏であった。

 アンコールはマスネの「タイスの瞑想曲」を文乃さんの編曲によるヴァイオリンとチェロ版で。本来はハープによる分散和音をチェロのピツィカートで表現している。美樹さんのヴァイオリンはねっとりと濃厚に歌っていて、なかなか色っぽい演奏であった。

 美樹さんと文乃さんは同い年で、これまでも数多く共演している。気心の知れた仲だということだ。とはいっても、やはりヴァイオリンとチェロだけのデュオ・リサイタルというのは初めてとのことだ。ピアノがあれば簡単に表現できる和声も、ヴァイオリンとチェロだけではよほどうまく響き合わないと、なかなか厚みのアルアンサンブルにならないようである。今日の演奏では、「パッサカリア」と「2声のインヴェンション」の対位法の音楽の方が、二人の個性を対比的に表現できていて素晴らしかったように思う。

 本日は、デュオ・リサイタルの本番前にプレ・コンサートがあった。出演されたのは、フルートの中島麻菜美さん、オーボエの山田涼子さん、クラリネットの三界達義さん、ホルンの信末碩才さん、ファゴットの渡邊眞理愛さんの5名で、いずれも東京藝術大学の1年生。演奏曲目は、ツェムリンスキーの「ユモレスク」と、ラヴェル/ジョーンズ編の「クープランの墓」。いわゆる木管五重奏である。弦もピアノもない室内楽は私にはほとんど縁のない世界なので、コメントするような立場ではないので遠慮しておこう。近い将来もこの5名の中から大きく世界に羽ばたくような演奏家が育つかもしれないので、名前は覚えておく方が良さそうだ。



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