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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2010年に聴いた名曲(1)/ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」

2011年01月02日 03時32分54秒 | クラシックコンサート
 いろいろと数多くのコンサートに通っていると、同じ曲をやけに多く聴くことになる年がある。もちろん、生誕●●年とか、没後●●年とかの記念年にあたる作曲家の曲が多く演奏されるので、同じ曲を聴く機会の多くある年はある。2010年はショパンやマーラーを聴く機会が多かったのは事実。しかしそのような記念年とは関係なしに、2010年はベートーヴェンの「運命」を内外のオーケストラと指揮者でよく聴いたように思う。これほどの名曲でありながら、聴くたびに全く異なる曲に聞こえるほど、解釈と演奏方法が異なっている。そこで、2010年に聴いた「運命」を振り返ってみることにした。

【1】クリスティアン・ティーレマン指揮 & ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
 2010年3月29日 010年3月29日(月)19:00~ サントリーホール

 ミュンヘン・フィルの来日公演。当日のチラシには「地底を揺るがす『運命』の重厚な響き」とキャッチコピーが載っている。この日の演奏は、フルトヴェングラーを想起させる、独特の音楽作りによるもので、重厚にして劇的、現代的と言うよりは20世紀的な演奏だった。主要な動機や主題部分を思いっきり歌わせたり、フェルマータを限界まで伸ばしたり、揺れるテンポと広いダイナミックレンジの演奏であっても、聴き終わってみると見事な構造になっている。瞬間瞬間を思い入れたっぷりに描きつつも、全体の構造は揺るぎない。少々大時代的かもしれないが、「運命」の典型的なひとつの解釈だといえる。ちなみに、第4楽章の主題提示部はスコア通りにリピートした。
 オーケストラの音色は、確かにドイツ的で、伝統的な燻し銀的なところもあり、繊細さと無骨さが同居している印象だった。

【2】エリアフ・インバル指揮 & 東京都交響楽団
 2010年3月14日(日)14:00~ 東京芸術劇場・大ホール

 都響の「作曲家の肖像Vol.76《ベートーヴェン》」。都響の巧さとインバルさんのダイナミックで卒のないまとめ方が光った演奏だった。楽曲の解釈としては、あまり際立ったことがなく、一般的で普通な演奏だっただけに、むしろ安心感がある一方で、第4楽章のリピート無しなど、やはり20世紀的な演奏だったのかもしれない。同時に、ダイナミックでパワフルな演奏は、聴くものを飽きさせないばかりか、感動に導くための要素は十分にあったと思う。
 オーケストラは、とくに弦楽のアンサンブルがピッタリで、音色も透明感があった。

【3】ファビオ・ルイジ指揮 & ウィーン交響楽団
 2010年6月1日(火)19:00~ サントリーホール

 ウィーン交響楽団の来日公演。誰かが「ルイジとティーレマンは天敵」というようなことを言っていたが、敵同士かどうかは別としても、同じ楽曲に対して、対極的な解釈であることは間違いない。ルイジさんの音楽は、ほとんどイン・テンポ。ところが全楽章ともかなり速めのテンポで突っ走っていく印象だった。なぜ、そこまで早く演奏する必要があったのか…。曲全体を一貫して早いテンポで演奏したため、かえって構造的にはしったりとした造形が描き出されていたともいえる(第4楽章もリピートあり)。このような演奏を初めて聴いたので、衝撃的であると同時に、新鮮でもあった。
 一方で、オーケストラの音色は、古典的ともいうべきな、まろやかで優雅なウィーン風。ウィーンで活躍したベートーヴェンなのだから、本来はこのような音色で演奏されるべきだ、とも思うのだが…。

【4】パーヴォ・ヤルヴィ指揮 & ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
 2010年11月24日(水)19:00~ 東京文化会館・大ホール

 2010年11月25日(木)19:00~ NHKホール
 ドイツ・カンマー・フィルの来日公演。11/24は「都民劇場」、11/25は「NHK音楽祭」と、2日続けて同プログラムを別会場で聴いた。このオーケストラのコンセプト通り、古楽器を使った現代的な演奏だった。全楽章とも早めのテンポで疾走感はウィーン響以上。人数が少ない割には、かなりパワフルな演奏で、要所要所のメリハリと間合いの取り方が素晴らしく、ヤルヴィさんの職人芸的な演奏スタイルが際立つ個性を発揮していた。ここでも第4楽章はリピートしていた。
 カンマーフィル(室内オーケストラ)なので、上記の他オーケストラに比べて、弦5部の人数が半分くらいしかいないため、音に厚みが感じられないものの音量はかなり出ていた。一方、木管・金管・打楽器の数は同じだが、弦・管・打のバランスをかなりうまくまとめている。

 以上のように、2010年は、ベートーヴェンの「運命」を4つのオーケストラで5回聴いたことになる。楽曲に対するアプローチは、それぞれが全く違っていたため、この知り尽くしたような名曲を、かなり新鮮な驚きを持って聴き比べることができ、とても面白かった。
 一番オーソドックスだったのが、インバル指揮 & 東京都交響楽団。ティーレマン指揮 & ミュンヘン・フィルは重厚長大で劇的な表現はオペラのよう。ルイジ指揮 & ウィーン交響楽団は軽快かつ品良く駆け抜けていった。ヤルヴィ指揮 & ドイツ・カンマー・フィルはまさに現代的そのもののキレ味鋭い演奏。こうしてみると、4者4様、みごとなまでに全く異なるアプローチだったといえる。
 これらを聴き比べて、改めて感じたことがある。「運命」のように名曲の場合、誰しも自分の好みの演奏スタイルが頭の中に出来上がってしまっているのではないだろうか(事実、私はショルティ指揮 & シカゴ交響楽団が一番好きだ)。だから、自分の好みに合わない演奏を聴かされると、ついつい「これはダメだ」となってしまう。「第2楽章はもっと遅い方が良い」とか「第4楽章の主題はもっとゆっくり聴かせた方が良い」とか…。ところが、この4つの演奏に接してみて、それぞれが極めて高いクオリティの演奏だったために、個人的な好き嫌いを払拭してしまうだけの「力」を感じた。自分の好みに合っていなくても、妙に納得させられてしまったのである。そこで、固定観念を取り払って、素直な気持ちで振り返ってみると、とくに3つの外来オーケストラの個性溢れる演奏は素晴らしいものだったことに気づく。要するに、真に優れた演奏は、私のような素人の個人的な解釈や好みなどを超越し、思わずBravo!と叫ばされてしまう「力」を持っていることに気づいたのだった。

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 明けましておめでとうございます。今年も1月早々からコンサートやオペラの予定がいっぱい詰まっています。できる限り、詳しくレポートしたいと思いますので、よろしくお願いします。ご感想・ご意見等がございましたら、コメントをお寄せいただくか、左側メニューの「メッセージを送る」からどうぞ。必ずお返事させていただきます。

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