Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/30(木)芸劇/エリシュカ&読響/河村尚子のモーツァルトP協21番と圧倒的名演の「新世界より」

2014年11月03日 00時41分02秒 | クラシックコンサート
東京芸術劇場「世界のマエストロシリーズ」Vol.2
ラドミル・エリシュカ&読売日本交響楽団


2014年10月30日(木)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 B列 16番 6,000円
指 揮: ラドミル・エリシュカ
ピアノ: 河村尚子*
管弦楽: 読売日本交響楽団
コンサートマスター: 日下紗矢子
【曲目】
スメタナ: 歌劇『売られた花嫁』序曲
モーツァルト: ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467*
《アンコール》
 モーツァルト: ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332より第3楽章*
ドヴォルザーク: 交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界より」
《アンコール》
 ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第2集より第2番 作品72-2

 東京芸術劇場主催の「世界のマエストロシリーズ」第2弾ということで、今ひとつ主旨は分からなかったが、魅力的なコンサート内容であったので、聴くことにした。読売日本交響楽団は、今季は4つの定期シリーズの会員になっているのに、本公演は読響主催ではないために、定価でチケットを買うことになった。読響では、同じプログラムを大阪定期演奏会で組んでいて、一昨日の10月28日に大阪のザ・シンフォニーホールで開催されている。このプログラムは東京では定期シリーズには組み込まれなかったため、単券を買うはめになったという次第である。
 お目当てのひとつは河村尚子さんの久しぶりの協奏曲。モーツァルトの協奏曲を聴くのは多分初めてだと思う。それに加えて、友人のSさんの強いお勧めがあったのがラドミル・エリシュカさんの指揮で、絶対に聴きべきだとのことであった。しかも曲はご本家筋にあたる「新世界より」ということなので、発売日にほぼ定位置である2列目のソリスト前を確保しておいたのであった。

 1曲目はスメタナの『売られた花嫁』序曲。お国ものの演奏であるが、エリシュカさんの指揮は実に手堅く、丁寧に音を作っていくというイメージ。さすがにチェコの巨匠というだけのことはあって、落ち着いた佇まいの職人気質風でもあるが、揺るぎない自信が感じられる。緻密なバランス感覚で読響を動かし、オーケストラを存分に鳴らしつつ、オペラ序曲につきもののワクワク感を巧みに描き出している。

 2曲目はモーツァルトの「ピアノ協奏曲 第21番」。最近モーツァルトのピアノ協奏曲を聴く機会が、私の普段の感覚からいえば異様に多くて、やや戸惑っている。というのも、モーツァルトはあまり得意な分野ではないので、自分としては積極的にはあまり聴きに行かないからだ。この21番は、10月2日のNHK音楽祭で、ユリアンナ・アヴデーエワさんのピアノで聴いたばかりだし、つい1週間前の10月23日には、清水和音さんのピアノで23番を聴いたばかり。
さて今日は河村さんのモーツァルトだ。元の体型に戻った(?)河村さんは、いつものようににこやかに登場、その時点で自分の世界を作り上げている。エリシュカさんのドライブする読響が演奏を始めると、これがまた何とも澄んだ音色で厚く強いアンサンブルを響かせている。透明な弦と優雅なホルンと木管の響きが、優しく、そしてピリッと引き締まっている。そこに河村さんのピアノが転がるように躍り出てくる。その音色はあくまで丸く、キラキラとして光沢がある。そして弾むように跳ね上がる左手が創り出す軽快で躍動的なリズム感が、右手の軽やかに駆け巡る旋律を後押ししていく。河村さんの打鍵はかなり抑制的だが、あくまで軽やかで、無理のない自然なタッチだ。だから、音の粒立ちが均質で丸く、まさに転がるような軽快さで描き出している。
 第1楽章は、軽快な中にも、適度にメリハリを効かせていて、それがまたいかにもモーツァルトらしい。第2主題の弾むような歌い方を聴くと、思わず微笑みが浮かんでしまう。そんな演奏だった。
 第2楽章は、読響の弦楽がこれ以上はないというくらいに澄んだ音色を聴かせ主題を提示していく。ピアノに関しては言うべき言葉が見つからないくらい。優雅で優しく、そして美しい。
 第3楽章も転がるように軽快そのもののロンド主題が素晴らしい。その後の展開は、水を得た魚のように、縦横無尽に音楽空間を泳ぎ回っているようである。演奏している河村さんの表情も、明るく楽しそう。心ま中から湧き出てくる音楽の喜びが、そのまま音に置き換えられているようだ。ノリノリのリズム感を支える、エリシュカさんのオーケストラ・ドライブもお見事。職人芸的な手堅さと、音楽をしっかりと構築する芸術的な表現力を適度にミックスさせ、素晴らしいサポートぶりであった。読響の演奏も素晴らしい。
 河村さんのソロ・アンコールは、モーツァルトの「ピアノ・ソナタ 第12番」から第3楽章。こちらも優雅さと瑞々しさを混ぜ合わせたような素晴らしい演奏。こういう演奏を聴かされてしまうと、モーツァルトももっと聴かないとダメかな、などと反省させられる。

 後半は、「新世界より」。結論を先に言うと、この演奏はこれまでに数多く聴いたこの曲の中でも、トップクラスといって良い名演だと思う。チェコをはじめとする外来オーケストラの公演と国内オーケストラのコンサートで、もしかすると一番聴く機会の多い曲かもしれない。何しろ、世界三大交響曲の1つだ。曲が素晴らしく良くできているだけに、普通に演奏すれば拍手喝采となるわけだが、逆に聴く方も慣れきっているから、なかなか満足のいく名演に出会うことが少なく感じるのかもしれない。そして、指揮者にも演奏するオーケストラ側にも、「毎度お馴染みの」曲すぎて、慣れというか、甘えがあるような気がするのである。皆が慣れきっているから、どんな指揮者が来ても、オーケストラも力まないで演奏できるし、聴く方も「毎度お馴染みの」感動を受け取ることができる。つまりは、いつもそこそこ良い演奏で終わっているのではないだろうか。
 ところが、今日の読響はちょっと違っていた。というよりは、エリシュカさんがその辺の指揮者とは違っていたのだろう。どう見ても穏やかな人柄に見えるし、オーケストラをギリギリ締め上げて理想の音を追求するような独裁者タイプにも見えない。巨匠のオーラがギラギラしているわけでもない。「遅れてきた巨匠」などと呼ばれているように、タイプとしてはかなり地味な方に属するのだろう。それなのに、この音楽は、この演奏は、何とも滋味豊かというか、ふくよかで温かく、人間味に溢れていて、郷愁を誘うような共感を与えてくれる、そんな演奏だったのである。
 そして何よりも印象的だったのは、エリシュカさんが非常に丁寧に指揮をしているといたことだ。最初から最後まで一貫して、丁寧に拍子を刻み、そして各パートに指示を出してニュアンスを丁寧に伝えていく。もちろんリハーサルではかなり細部に至るまで丁寧に作り込んでいることが聴いていても明らかだ。この手の曲はあまりにも名曲過ぎて手慣れているために、指揮者がある程度指示をすればオーケストラが勝手に演奏してくれるようなところがある。日本の某巨匠が指揮する時など、モロにそんな感じになる(これはどこのオーケストラでも同じ)。ところが、エリシュカさんはご本家らしいこだわりを見せ、ディテールまで細かく作って来ているのだ。そして、そんなエリシュカさんに対して読響が、およそ考えうるに最高品質とも思える演奏で応えているのである。
 第1楽章は、全体的にゆったりとした遅めのテンポ設定であったが、その分だけ主題が大らかに歌っているようであった。金管も豊かな音量で鳴らせているものの決してうるさくはならないし、ティンパニも遅いテンポに合わせたうまいリズム感で、しかも抑制的で強く出さない。弦楽を含めて、理想的にバランスされている。これはお見事であった。
 第2楽章もかなり遅めのテンポで序奏が始まり、例のコールアングレも牧歌的にゆったりと歌い、広大な大地の山並みに夕日が沈んでいくような、穏やかな雰囲気に満たされていく。この遅いテンポ設定はかなり効果的で、改めてドヴォルザークの旋律美を認識させられた。しっかりと確信を持った解釈で、しかも見事な演奏を聴かされると、今まで聴いて来た演奏は何だったのだろうかと、さすがはお国もののご本家筋は違うものだ。
 第3楽章も、予想した通り遅めのテンポであった。それなのにスケルツォのリズム感は損なわれていない。ゆったりしていて、それほどリズミカルな演奏をしているとも思えないのに、聴いていても非常に快く聞こえるのは、曲の流れが良いのだろう。指揮棒の振り方も強拍を明瞭に刻みつつ、しなやかに流していくのである。
 第4楽章は普通のテンポでやや遅めという程度であったが、オーケストラの各パートの音が明瞭に聞こえて来るくらいに、細部までしっかりと作り込まれている。もちろん全体のバランスも見事にまとまっている。最終楽章は、読響の持ち味も十分に発揮されて、ダイナミックレンジも広く、音量も豊かに、豪快に鳴り響く一面もあった。それにしても今日の読響は、ホルンをはじめとする金管群が艶やかで芯があって色彩豊かな音色で、素晴らしい!!(いつもこうならもっと素晴らしい!!・・・のだが)。木管群の質感も高いし、弦楽に至っては澄んだ音色のアンサンブルを聴かせるかと思えば、強奏時は相変わらずのパワフルさで、言うことなし!! フィナーレの盛り上げ方も、100%には持って行かないで、ちょっと控え目に仕上げる辺りも、エリシュカさんのこだわりなのだろう。
 今日の「新世界より」は、あまりにも慣れすぎてしまっていたこの名曲に対して、あくまで正統派の解釈と演奏で、その魅力を再認識させてくれた。これはBravo!!間違いない。・・・・新年になるとまたこの曲を何度か聴くことになるのだろうが、今日のような演奏にはなかなか巡り会いそうもないような気がする。

 オーケストラのアンコールは、ドヴォルザークの「スラヴ舞曲 第2集」より第2番。こちらもゆったりとしたテンポで、哀愁を誘う。

 今日のコンサートは、全曲にわたって素晴らしい演奏を聴かせていただいて大満足である。皮肉なことに、本公演は読響の定期シリーズではない。定期会員の人が聴けなかったとすれば、なんとも惜しいことだ。毎回とはいわないが、時々はこういう素晴らしい演奏を聴かせてもらうと、定期会員の人たちも躊躇なく来期も更新することになると思うのだが。読響はちょうど来シーズン(2015年4月~2016年3月)のプログラムが発表になったところで、昨日更新の書類を郵送したところだったのである。

 つまらない余談をひとつ。今日はとなりの席の人が、最初から最後までずっと寝ていた。私もよく居眠りをするので、人様のことは言いたくはないが、イビキだけはやめてくれ・・・・・。

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【お勧めCDのご紹介】
 ラドミル・エリシュカさんの指揮するドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」です。演奏は札幌交響楽団。2012年4月、札響の定期演奏会でのライブ録音盤。名演との評判の1枚です。エリシュカさんは2008年から札響の首席客演指揮者を務めていて、ドヴォルザークの後期交響曲(第5番以降)のCDをリリースしています。
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
ドヴォルザーク,エリシュカ(ラドミル),札幌交響楽団
SPACE SHOWER MUSIC


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