悪霊死すべし《Evil Must Die》
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デリバリーピザの箱を全部潰し終えてポリプロピレンの紐でくくり、キッチンの隅に押し遣ってダイニングに出たところで、アルカードはテーブルの上に残った携帯電話に気づいた。
見覚えのある女性向けの色の電話は昼間ショッピングセンター内に入っているNTTドコモの販売店で、ふたりの少女に持たせるためにアルカードの名義で購入したものだ――パオラは赤い電話機を選んでいたから、ピンク色のこの電話 . . . 本文を読む
そんな胸中を知る由もなく、金髪の吸血鬼が話を続ける。
「奥様の遺体を屋敷から運び出して近くに隠したあと、街に降りてみたんだが――そのころには街の住人の死体があらかた噛まれ者《ダンパイア》と喰屍鬼《グール》に変わっていたよ。ドラキュラが直接噛み殺せば喰屍鬼《グール》になることはあり得ないから、ほとんどはドラキュラが直接噛んだ被害者じゃなくてドラキュラが噛んだ個体の被害者だったんだろう」
ロイヤル . . . 本文を読む
アルカードの拳が軽く握り込まれる。ウドンがその手の甲に鼻を近づけて匂いを嗅いでからぺろりと嘗めると、アルカードは握力を緩めてウドンの頭を撫でてやりながら、
「次の瞬間だった。なにが起こったのかもわからなかったが、朦朧としていた意識は一気に鮮明になって、ラルカに刺された腹の傷も、折れたはずの左腕も砕かれた右手も潰れたはずの目も、まるで手傷なんか最初からひとつも負ってなかったかの様に元に戻っていた― . . . 本文を読む
「この――!」 罵声をあげて、別の騎兵が背後から槍を突き出してくる――黙っていれば、もう少しくらい攻撃の成功率も上がっただろうに。皮肉に口元をゆがめて、ヴィルトールは地面を蹴った。
絶対に躱せないと確信していたのだろう、面頬の隙間から覗く騎兵の目が驚愕に見開かれる――実際、拳ひとつぶんの距離まで肉薄していた槍の穂先を躱すなど、普通の歩兵には不可能だろう。
だが――相手が悪い。地上で戦う限り、ヴ . . . 本文を読む
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「死体は攻撃を受けていなかった――剣で斬られたわけでも槍で突かれたわけでもなく、かといって鎚鉾《メイス》のたぐいで殴り殺されたわけでもない。代わりに首筋に蛇に噛まれた様なふたつの小さな穴が開いて、そこから大量に出血した痕跡があった」 硝子テーブルの上のピザの箱に視線を落として、アルカードがそう続ける。それを聞いて、フィオレンティーナは息を呑んだ。
この話――これはあの夢の話か? . . . 本文を読む
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ずぐっという厭な感触とともに、振り下ろした短剣の鋒がバイェーズィートの眼窩をえぐった――短剣といっても刃渡りは手首から指先に届くほど、眼窩から後頭部に向けて柄元まで捩じ込めば、鋒は容易に脳髄を貫通する。
一度大きく痙攣して動きを止めたバイェーズィートを見下ろして、ヴィルトールはその場で立ち上がった。
「言った通り――」 敗北を悟って歪んだ表情を顔に張りつかせたまま絶命している . . . 本文を読む
「どうする? 香澄ちゃんが誰か口説かれた相手に捕まってそっち行っちまったら」
硬直している陽輔を見てちょっと溜め息をつき、彼の背後で香澄が立ち上がる。格闘技の心得でもあるのか、ほとんど音を立てない流れる様な動きだ。
陽輔はそう言われたときの光景でも想像しているのか、顔色を変えたまま硬直してせわしなく視線を周囲にめぐらせている――パオラに背中を向けたアルカードが、がりがりと頭を掻いた。窓に映り込 . . . 本文を読む
「それがアルカードさんのイチ押し?」
「俺の経験上は、いいものだと思うよ」 陽輔の問いにそう答えてから、アルカードはちょっと考え込み、
「あのスーパーフォアを君に譲る前に買い置きしてたパーツの中に、確かブレーキパッドがあったと思う。ZCOOとカーボンロレーヌのがあったから、それ使ってみるか?」
「いいの?」 そりゃ助かるけど、という陽輔に、アルカードはアパートのほうに視線を向けた。
「ああ、どうせ . . . 本文を読む
「なるほど」 現在の忠信の自宅がどんななのか知っているのか、アルカードがうなずいた。
「今までは車をお持ちじゃなかったんですか」
パオラの問いに忠信がこちらに視線を向け、
「そういうわけじゃないんだがね。ただ、こっちに一台置きっぱなしにしてた車があってね。今まで一台ぶんしかスペースが無かったから、多頭飼い《・・・・》が出来なかったんだよ」
「でも、あそこ葉っぱとかが車内に入って大変では?」 と、 . . . 本文を読む
「俺、添水《そうず》のある日本庭園とか錦鯉のいる池とか、本条さんのところではじめて見たよ」 あ、現代日本の個人宅の話だけどな――アルカードが思い出した様にそう付け加える。
「そうず?」 パオラが尋ね返すとアルカードはちょっと考え込んで、
「ん……支点をつけた竹筒に水を入れて、一定量溜まるとそっちが下がって水が空になって元に戻る。そのときに竹筒が石を叩いて音を出す――シシオドシって言ってもわからない . . . 本文を読む
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「――理不尽だ」 パイン材のベンチで足を組み、片肘をテーブルに突いた行儀悪い姿勢でアルカードがぼやく。彼はテーブルの上に鎮座ましましている、取っ手つきの鋳鉄の花瓶――ナンブテッキとかいうらしいが――にジト目を向け、
「俺がそれはもうあからさまな悪意持って明らかに入浴中なのが丸わかりな状況で全裸で風呂場に突撃してふたりに襲いかかったとかならともかく、あれは俺のせいじゃないだろう」
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目次ページ的なものを作ってみました。
このブログにアップしている小説は、作品そのものをカテゴリーにして管理しています。
でもそれだと章別に頭出しが出来ないので、各話のトップページへのリンクをまとめてみました。新規の方には少し使いやすくなるのではないかと期待。
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視界の外から斬りつけてきた歩兵ふたりの攻撃を、ヴィルトールが一歩下がって躱す――ふたりとも声を立てずに徒歩で接近していたのだが、素振りを見せないだけで気づいていたらしい。右側から斬りつけてきた騎兵の足を軽く払って体勢を崩し、同時に保持した剣の手元を押して軌道を変える――体勢を崩して前方につんのめった歩兵の保持した剣の鋒が左手から斬りかかってきていた歩兵の剣の物撃ちに衝突し、そのまま鎬の上を滑る様 . . . 本文を読む
†
地響きを立てて、球節を蹴り砕かれた騎馬が崩れ落ちた――騎兵のあげた短い悲鳴が頸椎の折れる音とともに唐突に途切れ、代わりに激痛に悶絶する騎馬の悲痛な嘶きだけが耳に届く。
バイェーズィートは小さく舌打ちを漏らし、腰元から引き抜いた懐剣をヴィルトールの背中めがけて突き出した――ヴィルトールの甲冑は全身装甲とはいえ、おそらく格闘戦の際の動きやすさを優先してかなりの軽装だ。脚の動きを妨 . . . 本文を読む