徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Ogre Battle 46

2014年10月26日 23時48分44秒 | Nosferatu Blood
「俺、添水そうずのある日本庭園とか錦鯉のいる池とか、本条さんのところではじめて見たよ」 あ、現代日本の個人宅の話だけどな――アルカードが思い出した様にそう付け加える。
「そうず?」 パオラが尋ね返すとアルカードはちょっと考え込んで、
「ん……支点をつけた竹筒に水を入れて、一定量溜まるとそっちが下がって水が空になって元に戻る。そのときに竹筒が石を叩いて音を出す――シシオドシって言ってもわからないだろうな」
「あ、知ってます。水が溜まったら動く竹のシーソーですね」 柏手を打ってパオラがそう返事をすると、アルカードはうなずいた。
「そう、それ」
「ローマにいたときに日本観光のテレビ番組でやってました。キヨミズデラとかケンロクエンとかを紹介してる番組で。でも、あのシーソーがシシオドシじゃないんですか?」
「鹿威というのは、もともとは添水や鳴子、案山子みたいな害獣よけの装置の総称なんだと。あのシーソー単体は添水というらしい――という様なことを、尊王攘夷がどうのこうの言ってた時代にはじめて日本に来たときに、倒幕派のサムライがそう言ってた」
「昔来たことがあるんですか」 秋斗がそばに寄ってきたので、アルカードは抱っこしたままの美冬をいったんパオラに預けてから身をかがめて彼の小さな体を抱き上げた。秋斗を片膝の上に座らせて、自分のほうに戻りたがっている美冬の体を受け取り、もう一方の膝の上に座らせる。
「ああ、黒船がどうのこうの言ってた時代にな――維新志士に何人か知り合いが出来て言葉も覚えたんだが、それが時代劇でやってるみたいなござる言葉でな。すっかり現代になってから久しぶりに日本に来たときに、税関で『左様でござる』って答えて爆笑されたときはえらい恥ずかしかったぞ――時代劇で日本語を覚えたんだって係官が勝手に納得してくれなかったら、どうなってたことやら」
 首にかかった磔刑像の銀十字の鎖を引っ張ろうとしている秋斗を、アルカードはやんわりと制した。
 アルカードの首にかかっているのは、かなり年代物のカトリックの銀十字だ――アクセサリーの類ではなく、本物の宗教的意味を持つ品物の様に見えるし、かなり強力な聖性が感じられる。堕性の魔力を持つアルカードがそんなものを身につけたら、逆に魔力の減衰と消耗を招くだけだと思うのだが。
 秋斗が触れない様に銀十字をTシャツの中に押し込んで、アルカードは缶ビールに口をつけた。髪の毛や耳を引っ張る子供たちの行動はもうあきらめたのか止めるそぶりも見せず、アルミ缶の中身を一息に飲み干す。
 二階の物置にでもあったものなのだろう、かなり年季の入った絵本やおもちゃが入っているらしい段ボールを持って、凛がダイニングに入ってきた。さっきから姿を見かけなかったが、どうやら二階にあの箱を取りに行っていたらしい。
「あ、懐かしいね」 陽輔が蘭の手にした段ボールを見て笑う。
 それに気づいて子供たちが床に降りたがったので、アルカードが再び美冬をパオラに預けて秋斗を床に降ろした。パオラもそれに倣って、受け取った美冬の体を降ろしてやる――ふたりはまだ足元の覚束無いよちよち歩きで、蘭と凛のほうへと歩き出した。
「覚えがあるの?」 子供たちの背中を見送って、背中を見遣って、香澄がそう聞き返す。陽輔は子供たちの背中を視線で追いながら、目を細めて続けた。
「あれ、俺のなんだ」 正確に言うと、あれくらいの年のころ俺が使ってたやつ、と陽輔が続ける。
「兄弟四人使い回しだったんだけどな。亡くなったじーちゃんの手作りの積み木」
 そう言われて、香澄は天井を見上げてちょっと考え込み、
「陽輔のお祖父さんって、わたしは会ったこと無いわよね?」
「ああ、俺たちがはじめて会ったときにはもう亡くなってたから」 陽輔は香澄の言葉にそう答えて、窓際にいくつか並べられた写真立てに視線を向けた。
 おそらくどこかの家の縁側なのだろう、痩せこけた老人がアレクサンドル老とデルチャ、恭輔、忠信と一緒にフレームに入っている。
 老人が抱いているのは、乳児用の肌着にくるまれた乳児だった。凛なのか蘭なのかはわからない。
「この子が蘭ちゃん? 小さいころこんなふうだったんだ」 陽輔が渡した写真立てを覗きこんで、可愛いなー、と香澄が小さく微笑む。
「これ、いつごろの写真?」
 それは正確に知らないのか、陽輔が問いかける様な視線をアルカードに向けた。
「蘭ちゃんが生まれて半年ほどのころだよ――撮ったのはこの家で、撮影は俺がした」 昔を懐かしむ様に目を細めて、アルカードがそう答える。
「え? でもこの家は――」 写真の中の明らかな和風建築と、どう見ても築十年は経っていない現代的な家を見比べてパオラが口を開きかけると、アルカードは小さくうなずいて、
「悪い、正確にはこの家じゃない――敷地は一緒なんだけど。この写真を撮ってからしばらくして、建て替えたんだ」 ちょっといろいろあってな、とアルカードが続けてくる。
「いろいろ?」 香澄がそう尋ねて、アルカードは肩をすくめた。
「ただの老朽化だよ――ということにしておいてくれ。爺さんが自分で話すならともかく、当時ここにいた家族が全員そろってない場所で俺が勝手に話していい様なことでもない」
 なにやら続きを聞くのが怖かったので、それ以上聞かないことに決める。
 そんな会話を終えてから、アルカードはリビングの真ん中あたりで積み木で遊んでいる子供たちに視線を向けた。
 なにか取りに行こうと思ったのか、綾乃がキッチンに向かって歩き出す。
「待って、わたしがやるから」 お腹の目立ってきている妊婦が相手だからだろう、デルチャが綾乃にそう声をかける。
「ちょっと動きたいのよ」 デルチャの申し出をそう断って、綾乃がアルカードのかたわらを通り過ぎた。
 アルカードは綾乃のほうに視線を投げると、
「だいぶお腹が目立ってきたな――今何ヶ月くらいだっけ?」
「五ヶ月目に入ったところ」 お腹をさする様な仕草を見せて、綾乃がそう答えてくる。
「あと半年かー……長いよな」
 会話内容からすると、綾乃が二回目の子供を妊娠しているらしい――秋斗と美冬が双子ならば、第二子が三人目の子供ということか。
 アルカードがリディアに視線を向けて、
「こないだ話しただろ? ガス管のうんぬん」
 リディアがアルカードの言葉にうなずいて、
「ああ、街の北側の住宅地でガス管が破れてガス供給が滞った話ですか?」
「そう、それ――当時嫁さんが妊婦だった友達の話をしたろ。それが孝輔君と綾乃さんだ」
「ああ、つまり――」 リディアが視線を転じて、幼子ふたりに視線を向ける。
「そ。妊娠してたのはあのふたり」
「なんの話ですか?」 パオラと同様その話を知らないフィオレンティーナの質問に、リディアが大雑把に内容を説明する。
「ああ、お店のボンベを替えてるところは見たことがあります」 フィオレンティーナがそう返事を返す。
「あ、そういえばアルカード」 それまで忠信と恭輔に美咲を交えて四人で話していたデルチャが、ポテトチップをつまみつつこちらに視線を向けた。
「ん?」
「犬は元気? アルカードが引き取ってくれたんでしょ?」
「ああ、元気だよ――気になるんならあとで見に来るといい」 アルカードがテーブルに肘を突いたまま掌を下に向け、手首を左右に振るという妙な仕草をしながらそう返事をする。その答えに、デルチャは小さくうなずいた。
「今度お邪魔するわ――ほんとありがとね、ずっと気になってたのよ」
 それを聞いてのことだろう、フィオレンティーナが間に座ったリディア越しにアルカードを呼んだ。
「アルカード」
「なんだ? 君のヌードの感想を聞きたいのなら、しばらくじっくり鑑賞したくなるくらいには魅力的だったと言っとくが」 殴られたことを根に持っているのか、アルカードが半眼でそう返事を返す。
「もういいです」
 ふいと横を向いてしまったフィオレンティーナに、アルカードは適当に手を振って、
「悪かった、悪かったよ。で、なんだ?」 アルカードがあっさりと白旗を揚げると、フィオレンティーナはあからさまに胡散臭そうな半眼で続けた。
「デルチャさんのことですけど、凛ちゃんがソバちゃんたちをお店に連れてきたとき、一度家に連れていったのをもう一度棄ててくる様に言ったのって、デルチャさんなんですよね?」
「ああ、その件か」 アルカードが納得してうなずく。
「なんの話?」 向かいで香澄と話していた陽輔が、話に入ってきた――お蔭で、パオラは説明を求める必要が無くなった。
「俺のところで、最近犬を飼い始めたんだけどさ。凛ちゃんが拾ってきた棄て犬。その犬を凛ちゃんが一回家に連れ帰ったら、デルチャにもう一度棄ててこいと言われたんだと。で、こっちのお嬢さんは当時から店にいたんだが、どうしてもう一度棄ててこいと言った犬を気にかけてるのかわからないらしい」
「ああ、そりゃしょうがないね」 その話だけで得心がいったのか、陽輔があっさりうなずいてみせる。
「うちの家族、というか神城家側なんだけど、親父以外全員動物アレルギー持ちなんだよ――俺たちの母親がひどい動物アレルギーでさ。ちょっと触ったくらいならどうってことないんだけど、自分の家で飼うのは無理だ」
「え? じゃあ、凛ちゃんたちを遊ばせるのもまずいんじゃ」
 リディアがそう意見を言うと、アルカードは肩をすくめて、
「ああ、わかってる。だから遊ばせながら様子は見てた。おかしな状態になったら、すぐに引き離すつもりだった」
 幸いなことに、ここ数ヶ月の間はその必要は無かったが――そう付け加えてから、アルカードは二本目のエビスビールを手に取った。
「と、いうわけでな――ありていに言えば犬嫌いだからとかじゃなくて、ただ単に飼えなかったんだよ」 テーブルの上に置かれたお皿からポテトチップをつまみつつ、吸血鬼はそんなふうに締め括った。
 納得したのかうなずいてお皿のポテトチップに手を伸ばすフィオレンティーナから視線をはずして、アルカードは恭輔に視線を向けた。
「今回はどれくらいいられるんだ?」
「んー」 ビールに口をつけたままそう声をあげてから、恭輔はビール缶をテーブルに置いて、
「まあ休みが一週間だね。今抱いてる仕事が目処がつくまで、あと二ヶ月はかかる」
「長ぇなあ」 そんなコメントをしてから、アルカードは忠信に視線を向けた。
「農場のほうは大丈夫なんですか? 家畜の餌とか」
「あー大丈夫大丈夫、社員何人かと分担して当直につくことになってるから」
 適当に手を振ってそう返事をしてから、忠信は缶ビールを一気に空けた。
「俺はあれだ、車を取りに来たんだよ」
「ああ、ZZを?」
 忠信の乗っている車には心当たりがあるのか、アルカードがそう尋ね返す。
「うん、やっと駐車場つきの家に移れたからね」 そう答えて、忠信は二本目の缶ビールに手を伸ばした。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Ogre Battle 45 | トップ | Ogre Battle 47 »

コメントを投稿

Nosferatu Blood」カテゴリの最新記事