徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Ogre Battle 45

2014年10月26日 23時48分06秒 | Nosferatu Blood
 
   *
 
「――理不尽だ」 パイン材のベンチで足を組み、片肘をテーブルに突いた行儀悪い姿勢でアルカードがぼやく。彼はテーブルの上に鎮座ましましている、取っ手つきの鋳鉄の花瓶――ナンブテッキとかいうらしいが――にジト目を向け、
「俺がそれはもうあからさまな悪意持って明らかに入浴中なのが丸わかりな状況で全裸で風呂場に突撃してふたりに襲いかかったとかならともかく、あれは俺のせいじゃないだろう」
 彼の隣に腰を下ろしてその様子を横目に見ながら、パオラは小さく溜め息をついた。
 なんでそんなに具体的なんですか。声には出さずに胸の中でだけそうつぶやいておく。
 愚痴りながらこめかみに残った裂傷と瘤に指先が触れたのか舌打ちを漏らして、アルカードは顔を顰めた――アルカードの治癒能力なら通常の怪我は一秒とたたずに完全治癒するはずなのだが、フィオレンティーナが持っていた鉄器が魔力を帯びていたせいで軽微とは言え霊体に損傷が出て、なかなか傷が治らないらしい。
 普通の人間であっても、なにかに触ればその対象の表面には魔力が流れる――その魔力強度は触った物の表面積が広いほど薄くなり、逆に表面積の小さいものほど厚くなる。魔力強化エンチャントと言えるほどたいそうなものでもないし、普通の人間であればたいして問題にもならない――聖堂騎士はたいてい聖典戦儀頼みで魔力強化エンチャントの訓練そのものをあまり重視していないので(聖典戦儀が使えない状況に陥ったときのために訓練は積むべきだと、団長であるレイル・エルウッドは口を酸っぱくして言っているのだが)訓練が後回しになっている場合は多い。
 リッチー・ブラックモア教師はレイル・エルウッド同様そもそも聖典戦儀を使わないアルカードの弟子なので、別に魔力強化エンチャントを軽視していたわけではないだろうが――聖典戦儀の習熟を優先してカリキュラムを組んでいたらしく、彼女たちは魔力強化エンチャントの訓練はまだ受けていなかった。
 なので、フィオレンティーナも魔力強化エンチャントの技能は持っていないのだが――しかし魔力強度を高める訓練を受けて普通の人間よりも魔力強度が強い。そのため鉄器に流れた魔力が普通よりもちょっと強くて、そのせいで霊体に損傷が出たのだろう。
「大丈夫ですか?」
「かゆい」 一応尋ねると、アルカードがそう返事をしてきた。傷そのものはすでにかさぶたになっていて、あと一分もかからずに治るだろう。ただ――ここにいる人たちの前でその姿を晒していいのだろうか?
 そんなことを考えながら視線をテーブルの上にそらすと、放置されたままの朝刊が視界に入ってきた。テレビ欄を見ようとしていたのか、折り目の山と谷が逆になっている。
 『夏休みアニメスペシャル 天界警察エルシャDIE一挙二話放送! 第七回「そんな装備で大丈夫か?」第八回「大丈夫だ、問題無い」』――たまたま目に入ってきた番組のサブタイトルから内容がまったく想像出来ないことに軽く小首をかしげつつ、パオラは再び周囲に視線を転じた。
 ダイニングの隅でリディアに宥められながらめそめそしているフィオレンティーナを見遣って、フォローのつもりなのかアルカードと一緒に入ってきた男性のひとりが口を開く。
「まあいいだろ。代わりにいいもん見られたんだし」 蘭と凛の母親だという金髪の女性――デルチャに横から小突かれながらも、彼はそんなことを言ってきた。全然フォローになっていないというか、そもそもフォローする気があったのかがまず疑わしい。
 そのデルチャはというと、アルカードの電話にかかってきた通話に出てなにやら話をしている――遣り取りは小声なので聞き取れない。
「だったら君も殴られろ。この南部鉄器の花瓶で」 ちょっと血のついた鋳鉄製の花瓶をぞんざいに親指で差し示してアルカードがそう言うと、男性は肩をすくめた。
「俺が殴られたら出血程度じゃ済まないだろ」
「君たちだって同じもの見たんだから、同じ様に殴られるべきだ」
 それが公平ってもんだ、と続けるアルカードに、
「ちゃんと全身見たのはアルカードだけだろ」
「兄貴ももうやめとけって……」 会話の応酬のたびにどんどんネガティヴィックオーラが増大していくフィオレンティーナの背中を見遣ってこめかみのあたりを指で揉みながら、別のソファに腰かけていた亮輔が溜め息をつく。
「避ければよかったんじゃないですか? アルカードならあの程度の攻撃、簡単に避けられるでしょう」 そうささやくと、
「避けたら避けたで、あの子もっと意固地になるだろ」 溜め息に載せる様な気だるげな口調で答えて、アルカードは大仰に溜め息をついてみせた。まったく回避行動をとっていなかったわけでもなく、横殴りに振り回された鉄器の動く方向に頭を倒すことで打撃の威力を殺していたのだが。フィオレンティーナに力任せに殴られたら、普通の人間なら昏倒どころではすまない。
 アルカードには悪いが、殴られたのが彼でよかった――兄貴と呼ばれた男性の言う通り、ほかの人だったらこの程度の傷ではすまない。
「まあ、確かに悪い眺めじゃなかったがな」 アルカードが付け加えたその一言で、パオラは先ほどの感想から『アルカードには悪いが、』の部分を撤回することに決めた。
 ありがとー、と声をかけて、デルチャがアルカードに携帯電話を返す。
「親父さんなんだって?」 という返答から察するに、電話の相手はアレクサンドル老だったらしい。
「お義父さんが来てるって言ったら、まだ帰らないよな? まだ帰らないよな?って」 くすくす笑いながら、デルチャがそう答える。
「しばらくこっちにいるって答えたら、土産物売り場にお酒を見繕いに行くって言って切ってた」
「まあ、本人がいないんじゃな」 アルカードはそう答えてから、
「渋滞はどうだった?」
「横転したバスとトラックが車線全部ふさいじゃってさあ――完全に道路がふさがっててひどいことになってたわ」
「ああ、ニュースでやってたよ」 アルカードはそうコメントして、小さく息を吐いた。
「まあでも、思ったよりずっと早く帰れたんじゃないのか」
「場所は東京からそんなに離れてなかったからね」
 そんな会話を躱しながら、アルカードがキッチンから出てきた蘭から烏龍茶やジュースのペットボトルと空のコップを載せたトレーを受け取ってテーブルの上に置く――テーブルをはさんで向かい側に座っていた若い女性が身を乗り出し、トレーの上の烏龍茶のペットボトルを手にとってコップに注ぎ始めた。缶ビールもいくつか載っていたが、誰も手をつける気配が無い――飲まないのか飲めないのかは知らないが。
「怪我、大丈夫?」
「ん? ありがとう、でも大丈夫だよ」 気遣わしげに声をかける蘭に軽く笑ってそう答えてから、アルカードはなにを思いついたのかちょっと意地悪く笑い、
「どうだった? お風呂」
「あのねぇ、とってもおっきくてふわふわだったの。パオラお姉ちゃんのおっぱ」 最後まで言い切る前に、パオラは手を伸ばして蘭の口をふさいだ。
「アルカード、貴方知ってて止めなかったでしょう」 むーむー言っている蘭の口をふさいだまま吸血鬼に半眼を向けると、
「俺は止めたぞ?」 彼はしれっと肩をすくめて、トレーに乗った缶ビールに手を伸ばした。手に取ったエビスの封を切りながら、
「止めても君たちふたりが聞いてくれなかっただけだ――それに考えてもみろ、俺が君たちに凛ちゃんたちと一緒に風呂入ると、面白がって胸だのお尻だのつつかれたり撫でられたりするぞって言ったら、それこそセクハラだからな」
「ああ、そうね。わたしのときはふたりがかりだったから大変だったわ」 パオラの向かいでテーブルに着いていた落ち着いた雰囲気の女性が、絹糸の様に艶やかな黒髪を掻き上げながら遠い眼をしてそうぼやく。
「入ったことあるのか」 アルカードがそう言うと、女性は気だるげにうなずいてみせた。なるほど、とアルカードが肩をすくめる。
「あ、なんか変なこと想像してない?」
「気のせいだろ」 そう答えて、アルカードはお風呂の話はしない、ときつく言い含められたうえでパオラの拘束から解放されて再びキッチンに戻っていく蘭の背中を見送った。
「それよりアルカードさん、いい加減その子たち紹介してよ」 アルカードの向かい、女性の隣で食卓に着いていたこの場にいる中で一番若い男性――二十になるかならないか――が、スナック菓子をつまみつつアルカードのかたわらのパオラを視線で示す。
「ああ、そうだな」 アルカードはうなずくと
「この子がパオラ、そこにいる三つ編みの子は妹のリディア。で、さっきヌードを披露してくれたのがフィオレンティーナだ」
「ドラゴスさんももうやめようよ……」
 ちょっと可哀想になってきたのか、亮輔が再び溜め息をついた。
「で、リディアもお嬢さんもちょっとこっちに来てくれ」 声をかけると、リディアがフィオレンティーナを促して立ち上がり、こちらに連れてきた――フィオレンティーナは恨みがましい眼差しで、アルカードを睨みつけている。確かに理不尽だとは思うが。
 その視線をさらりと受け流し、アルカードはテレビを囲んでコの字型に配置されたソファの一番向こう側に腰かけた年配の男性を視線で示して、
「亮輔君は紹介の必要無いとして――リディアにはさっき紹介したな。神城忠信さんだ。凛ちゃんと蘭ちゃんの父方の祖父に当たる。そっちのは恭輔君。忠信さんの次男で、蘭ちゃんと凛ちゃんの父親だ」
 紹介に合わせて軽く会釈するタダノブとキョウスケ――アルカードはダイニングの入口のところで電話に出ている金髪の女性に視線を向けて、
「で、そっちの金髪はデルチャ。チャウシェスク夫妻の娘で、蘭ちゃんたちの母親だな――アレクサンドルにはあとふたり、息子と娘がひとりずついるんだが、兄貴のほうは通訳の仕事をしてて今は日本にいない。妹のほうは嫁いでいった」
 アルカードはそこで言葉を切ってから、忠信と並びのソファに腰を下ろしている夫婦らしい男女に視線を向けた。
「で、長男の孝輔君と奥さんの綾乃さん」 アルカードはそう言ってから、よちよち歩きでテーブルに近づいてきたふたりの子供たちに視線を向けた。
 ほぼ同じ年齢――二歳くらいだろうか――の男の子と女の子だ。男の子はパオラたちと同じテーブルについている青年のそばに歩いて行き、女の子はアルカードが気に入っているのか彼の足元に寄ってくるとジーンズの裾を掴んだ。
「この子たちは秋斗君と美冬ちゃん。孝輔君のところの子供だ」
 ほんわかした笑顔で見上げる子供たちに相好を崩して、アルカードは体をかがめて女の子を抱き上げた――それがアルカードの呼び名なのか、女の子があー、あーと連呼しながら手を伸ばして吸血鬼の耳や金髪を掴んでぐいぐい引っ張っている。アルカードは苦笑しながら、
「みーちゃん痛い痛い」
 されるがままになっているアルカードを見て娘を止めようとしたのか孝輔が腰を浮かしかけたが、アルカードは気にしてないという様に適当に手を振ってそれを制した。
 それからアルカードはテーブルの向かいに並んで腰を下ろしている、子供たちを除けば神城家の関係者でこの場で一番若い男女を視線で示した。この場にいる男性で一番若い、おっとりした雰囲気を纏った整った造作の青年に視線を向けて、
「で、そこに座ってるのが四男で末っ子の陽輔君」
 アルカードはそう言ってから、陽輔の隣に座っている彼よりひとつふたつ年上の落ち着いた雰囲気の女性を視線で示した。
「で、彼女が陽輔君の嫁さん予定の秋篠香澄ちゃんだ」
 ちょ、とあわてる陽輔に、
「あれ? 違ったっけ」 アルカードが首をかしげると、もうとうにプロポーズはされてたと思ってたのに、とわざとらしく香澄が泣き真似をする。ボーダー柄の長袖のシャツにジーンズというラフな格好よりも着物のほうが似合いそうなしっとりした雰囲気の美人なのだが、性格は外見ほどしっとりしていないらしい。
 さらにあわてる陽輔に適当に手を振ったところで、アルカードは亮輔に声をかけた。
「ところで愛ちゃんと泪ちゃんは?」
「寝てたから義父母に任せて家に置いてきた。帰ろうと思ったら徒歩五分の距離だしね」 亮輔がそう答える。
「そうなんですか?」 パオラが小声でかたわらの吸血鬼に尋ねると、アルカードは壁の一角を指差して、
「そこの道路を真っすぐ行ったら、でかい日本家屋があるだろ――丁字路になってて、向かい側の角にそれぞれコンビニと駐車場があるところ」
「ええ」 彼の言葉に、パオラは小さくうなずいた。それなら覚えがある。
「そこが亮輔君の婚家で奥さんの実家。亮輔君は婿入りしてそこに住んでる」
 その言葉に、パオラは周辺の光景を思い浮かべた――彼が言っているのはつまり、くだんのショッピングセンターがある街の中心部に行く道路沿いにある大きな屋敷のことだろう――先日着任翌日にショッピングセンターに行った日に、それらしい白漆喰の塀に囲まれた日本家屋を見かけた。徒歩数分のところにある硲西という丁字型交差点のこちらから行くと右側、コンビニと駐車場それぞれの向かいで、大人なら五分程度でたどり着ける。

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