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有料駐車場から車を運転してアパートの駐車場に戻ると、マスタングのアルミホイールのスポークにつないでおいた仔犬たちがこちらの姿を認めて尻尾を振り始めた――トヨタ・ライトエースバンを前向き駐車で駐車場に入れ、前輪が車止めに当たる少し手前でエンジンを切る。運転席から降りて車の前方に廻り込み、ジャッキを入れるのに十分な間隔があることだけ確認してから、アルカードはライトエースのドアを閉め . . . 本文を読む
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暴発を防ぐために鉛の様に重く調整したトリガーを引くと、銃身が短く発射ガスが銃身内部で燃え尽きないために発生する派手な銃口炎がカーミラの回避の動きを追って乱雑な落書きの様な軌跡を描き出した。
倉庫の壁に擂鉢状の弾痕が穿たれ、フルートと呼ばれる筋状の痕が残った真鍮製の空薬莢が一定の軌道で弾き出されて、ばらばらと床の上に落下して澄んだ音を立てる。
アルカードは無駄な弾薬消費を避け . . . 本文を読む
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身を翻して、アルカードが床を蹴る――その姿は倉庫内に大量に集積された、輸出用日本製粉ミルクのパレットの陰に隠れてすぐに見えなくなった。なにをするつもりなのかは知らないが――なにか策でもあるのだろう。
残った六十数体の噛まれ者《ダンパイア》が壁と荷物の隙間から、あるいは荷物の上から彼を追って次々と姿を消す。
それを見送って、カーミラはフォークリフトのそばで倒れている少女を見遣 . . . 本文を読む
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「そいつは光栄だ――もっとも、俺は貴様の厚化粧なんぞ二度と見たくなかったがね、吸血鬼カーミラ」
「あらあら、つれないお言葉ね。わたしはこの五百年間貴方のことを想い続けてきたというのに。この一途な熱い想いをわかってもらえないなんて、悲しみで胸が張り裂けそうだわ」 カーミラがそう返事をして、娼婦の様な淫猥な笑みを浮かべてみせる。
相変わらずだな――嫣然と微笑む女のその瞳の奥のヘドロ . . . 本文を読む
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空は雲ひとつ無い快晴だった――陽がまだ低いので気温が上がっておらず、風は少し冷しひんやりとしている。アルカードが私用車を止めるのに使っている駐車場はアパートの裏手にあり、塀に設けられた扉を抜けてアパートの敷地から直接出られる様になっている。
扉はもうかなり前に設置されたものなので、いろんな部分にガタがきて非常に建てつけが悪い。いっそ扉ごと交換しようかと思わないでもないが、面倒 . . . 本文を読む
特に余計な会話を交わすことも無く、ふたりの女性たちは立花から指定された倉庫を目指して歩いていった。
事前に渡された地図の通りなら、この道で合っているはずだ――目指すのは、6とナンバーが振られた倉庫。両端に扉があって、大きなシャッターが二枚、そしてそれぞれのシャッターのそばに通用口と思しき扉。
道路の幅はかなり広い――トレーラーや大型トラックの通行を容易にするためだろうが。
聞いた話では港湾 . . . 本文を読む
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寝覚めは最悪だった――とびきりの悪夢によって眠りの中から叩き起こされ、眠い目をこすりつつ上体を起こしたとき、腹の上からなにかがぽてんと転げ落ちた。
なんだろうと思いつつシーツをめくり返してみると、そこでじたばた暴れていたのは三匹の仔犬だった。
……ああ、そうだ。
母親を恋しがってか夜中になると鳴き出すので、一緒に寝ているのだった。
突然寝床――アルカードの体のことだ、も . . . 本文を読む