The Blueswalk の Blues&Jazz的日々

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2011年のベスト

2012-01-12 23:47:52 | Jazz

2011年のベスト 
                       By The Blueswalk

 2011年のニュースは勿論、東北の大震災とそれに伴う原子力発電所事故に尽きるわけであるが、個人的には暗いばっかりでもなかった一年であったように思っている。これまで37年間、コンピューターソフト開発の世界に身を投じていた自分が、よもや教育の世界に足を踏み入れるとは想像もしていなかった。実は、もともと教育学部・中学校教員養成課程・数学専攻というところの出身で、当たり前だが大学の同級生の殆んどは中学校・高等学校の数学の先生になっており、教育の場に縁がないわけではなかったので、まあ本来の古巣に帰ってきたといってしまえないこともない。そういう意味で2011年は自分にとって明らかに平年とは違った心に残る一年ではあった。ところが、国の予算で動いている事業のため、予算が切れる今年の3月で解散となってしまい、またもや就活の憂き目にさらされることとなっている今日この頃である。
 さて、ところで私の2011年のジャズ・ライフであるが、相変わらずレコードやCD集めに余念がなかったと言わざるを得ない。やめようやめようと思いながらついついヤフオクの画面を眺めている自分に気がつくと情けなくなってしまうこともしばしばであったが、もう一種の病気、中毒と諦めてもいる。そんな中から、今年のベストを選んでみようと思う。まずは、東芝EMIからの999円シリーズものにレアで貴重な作品が目白押しであったので、その中から一押しの数点が挙げられよう。

クレア・フィッシャー『ファースト・タイム・アウト』は1962年のデビューアルバム。聴いてすぐにビル・エバンス系のピアニストであることが判る。知的であるがビル・エバンスとは少し違う、最初から計算されたような破綻の微塵も感じられない構成美を持っている。そこが、逆にエバンスにある危険な領域一歩手前まで踏み込むような危うさ、ハラハラドキドキ感がなく、物足りなく感じられるところがあるかもしれない。次作『サージング・アヘッド』ともども最も気に入った作品であった。


 テディ・エドワーズ『サンセット・アイズ』は1959年の作品。ブラウン=ローチ・クインテットのライヴ盤『イン・コンサート』が録音されたのは1954年の4月と8月。レコードのA面が後者でハロルド・ランド(ts)、リッチー・パウエル(p)を擁した布陣、B面が前者でこのテディ・エドワーズ(ts)とカール・パーキンス(p)を擁したクインテットである。つまり、ハード・バップ・ジャズの鉄壁のブラウン=ローチ・クインテットの立ち上げ時はこの人が2管フロントを担っていたのである。そういえば、このタイトル曲もライヴ盤に収録されています。テクニックはあんまり感じられないが、黒いブルース・フィーリングがたまらない。


 マイク・コゾー『ウィズ・エディ・コスタ・トリオ』は1956年作。タイプとしてはレスター・ヤング系のスムーズでメロディアスなフレーズを特徴としている。スタン・ゲッツとズート・シムズの中間ぐらいかな? よく歌い、よくスウィングするテナーが心地いい。リーダー作としては『マイティ・マイク』の2作しか残していないので非常に貴重な1作である。夭逝したエディ・コスタのトリオのバックも秀逸。


 メイナード・ファーガソン『ア・メッセージ・フロム・バードランド』は1959年作。失礼ながらぼくはこれまでメイナード・ファーガソンを全く無視してきた。なぜかというと、1954年のクリフォード・ブラウンのジャム・セッション、ここにファーガソンが参加しているのだけれど、ひとりハイノートでキーキー騒音をわめき散らすだけの演奏に終始していたからだ。その後、“ロッキーのテーマ”など映画音楽で大当たりして大金持ちになった?のがさらに気に入らなかった。でもぼくもそろそろ大人の対応をしないと・・と思い、恐る恐る禁断の果実を拾ったということかな。ところがまあ何とハツラツとした楽しいジャズであることか。ハイノート・ヒッターは相変わらずだが、ライヴであることも、ビッグ・バンド・ジャズの醍醐味が一杯、まさに“目から鱗が落ちる”とはこのこと。
 以下はヤフオクで手に入れたアナログ盤から。


『ハンプ・アンド・ゲッツ』はヴァーヴ得意の大物の組み合わせセッションで、ヴァイヴのライオネル・ハンプトンとテナーのスタン・ゲッツの異色組み合わせだ。1955年録音だから、ゲッツは最絶頂期でハンプトンもまだまだ元気な頃、一つ間違えばケンカセッションになるところ、奇跡的に大傑作が出来上がったという感じだ。1曲目の“チェロキー”だが、最初からアドリブで押し捲り、まったくチェロキーのメロディーが出てこないが、そんなことはどうでもいいくらい息をつかせぬ白熱した演奏だ。また、次のバラード・メドレーがこのレコードでの白眉。


 ズート・シムズ『アット・イーズ』は前から欲しかったレコードだった。ぼくはズート・シムズの演奏なら何でも欲しがる大のファンなのだけど、ズートのソプラノは珍しい(全曲ソプラノで通しているのは『プレイズ・ソプラノ・サックス』くらいかな)ので久しぶりに軽く浮揚するようなソプラノを聴くことが出来ました。コルトレーンやショーターなどのソプラノは心落ち着くという感じじゃないからね。といっても、このレコードではソプラノとテナーを使い分けしているので美味しさ2倍といったところだ。


 久詰さんから聴かせてもらったウィントン・マルサリスとエリック・クラプトンの『プレイ・ザ・ブルース』で最後の1曲とアンコール曲にゲストとしてタジ・マハールが出ていた。まだ元気そうで何よりだ。それで、このレコードを聞き流していたことを思い出し、じっくり聴いたところ、ブルースとしても、タジ特有のワールドミュージックとしても調和の取れたいい出来であることが再確認できたわけだ。タイトルは『ザ・ナッチェズ・ブルース』、タジにとっては第2作目のこの段階で既に後年花開いたタジの独特なワールドミュージックの世界がふんだんに観られることは、当時としては画期的であったんだとつくづく思ってしまう。ブルースにしても並みのオーソドックスなブルースでないことは言わずもがな・・・ 本当は、このレコードが2011年の一番のお気に入りかもしれない。
 それでは、2012年もよろしくお付き合いください。