エマズ・ブログ

エマズ・マーケット(ウードやサズなどの販売・修理調整・レッスン)の店主による、音楽ネタのブログです。

訃報

2008年07月11日 | Weblog
トルコの製作家、ハルク・エライディン氏がお亡くなりになりました。
突然の悲報に大変なショックです。享年70歳でした。
トルコのアイドゥン在住のハルクさんの友人から連絡をいただき知りました。取り急ぎ奥様に電話してお悔やみを申し上げたのですが、当然ながら大変に落胆されており、こちらももう言葉が出てきませんでした。
柔和な笑顔を思い出して、もう永遠に会えないのだと思うと涙が止まりません。
つい最近までとても元気で、まったく夢にも思いませんでした。わずかな体調不良で入院され、急激に悪化してしまったそうです。「今年の夏は暑い」と聞いたので、日本の扇子をプレゼントに贈っていたのですが、入院後に届いたそうで、もう使ってもらうことはなくなってしまいました。

サズとウード製作家としてだけでなく、歳は離れていましたがよき友人として本当に暖かく接してくれました。
アイドゥンにしばらく滞在した時、彼の工房でさまざまな修理・調整の技法などを教えてもらうことができたのは、私の誇りです。その時に渡された自筆のサズのフレット間隔尺は一生の宝物です。
イズミール空港まで車を運転して迎えに来てくれたとき、なかなか見つからなくて、「和服で来ると思ったのでキモノの人を探していてわからなかったよ(自己紹介の写真を和服のもので送っていたため)」と笑って握手してくれたのが昨日のように思い出されます。
日本のことは映画『ショーグン』を通して見聞きしていて、最初から私のことを「さん」づけて呼んでくれました。こちらは「ハルク・ベイ(トルコ語で「さん」にあたります)」と呼び返していました。
いつかご夫婦で日本を訪れたい、とおっしゃっていて、私も大変楽しみにしていたのですが、かなわぬ夢となってしまいました。

製作家としてもちろん一流で、彼の楽器は例外なくしっかりした作りと奥の深いサウンドを誇り、国内外で定評がありトルコでも5本の指に入る人だったのは間違いありません。温厚で誠実な性格でありながら、こと楽器に対しては大変に厳しい姿勢でした。そこがまた尊敬できるところでもありました。

素晴らしき友人として、また卓越した製作家として、彼を失ったのは大きな悲しみです。また、彼の優れた楽器を手にすることももはやできません。でも、彼は日本でサズやウードが広まるのを願ってエマズ・マーケットにも多大な協力を惜しみませんでした。今後、当店も微力ながらこの素晴らしい楽器を広めることに貢献できるなら、それはハルクさんが喜んでくれることのはずです。そう信じてやっていきます。

ご冥福を心よりお祈りいたします。