三省堂書店SFフォーラム サミュエル・R・ディレイニー『ダールグレン 1・2』刊行記念
柳下毅一郎さん×丸屋九兵衛さんトークショー〈『ダールグレン』の謎を解く〉に行ってきました。
まずは進行役として横に控える国書刊行会の樽本周馬さんから、今回のフォーラムのきっかけとなった
「あんしぶる通信」(元SFM編集長の塩澤快浩さんがやっていたSF系サイト)で行われた、丸屋さんへの
インタビュー記事が紹介されました。(記事のプリント配布あり)
樽本さんいわく「黒人文化とSFの両方に詳しい人だという記憶が残っていたので、『ダールグレン』が出たとき
すぐ声をかけさせてもらいました。」との話。
続いて丸屋さんからの自己紹介。本業である黒人音楽誌bmrの編集長でありながら、SFMではスタートレックの
コラムを連載し、さらに2011年9月号の小特集「ディレイニー再入門」にも寄稿されているという方ですが、
なにより共感したのはこの発言。
「今回はディレイニーの特集というから、てっきりメインかと思ったら小特集じゃないですか!これっておかしいですよね?」
まあこれには横の柳下さんから「(『ダールグレン』は)ハヤカワの本じゃないから。」と冷静なツッコミが入り、
樽本さんからは「よその本なのに取り上げてもらってありがたいです。」という感謝の言葉がありました。
丸屋さんは会場にサンリオSF文庫版『アプターの宝石』と『エンパイア・スター』を持参されてましたが、
神田有数のSF系古書店(ただし価格もべらぼうに高い)で購入したそうで、どっちも数千円とか・・・
まあそれだけディレイニーを愛している方、ということですね。
―以下、トーク内容をメモった中から拾い書きしておきます。
柳下さん(以下「柳」と表記):邦訳は読むだけなら簡単だった。
原書のバンタム・ブックスは古書店で買ったけど、背折れもないくらい読んでない。売ったやつも読んでなかったはず。
本国では70万部売れたといわれているが、読んだ人はどのくらいいるやら。
丸屋さん(以下「丸」と表記):一説には100万部強とも聞くけど、日本版はどれくらい売れたのか?
樽本さん(以下「樽」と表記):国書の在庫が500部くらい。初刷りは4000部。国書では多いほう。
柳:ディレイニーはスター性があってSF界の外でも評判になってたので、一般小説として売れたのでは。
バンタム版は発売一ヶ月で四刷している。
丸:『ノヴァ』まではわかりやすいシンボル小説で、『ダールグレン』から長くてより複雑になってきた気もする。
柳:『ダールグレン』も初読はヒッピー小説と読める。これはディレイニーが60年代後半に過ごしたコミューン生活が原点。
(以後『ダールグレン』の元ネタと見られる未訳の自伝『天国の朝食』の紹介が続きます。)
柳:『天国の朝食』のほうが後に書かれているが、こちらがノンフィクションで、『ダールグレン』がフィクション版。
「天国の朝食」はディレイニーがメンバーだったバンドの名前で、そのバンドが中心だったコミューンの名前も同じ。
丸:バンドの音楽性はロック?
柳:サイケデリック・ロック。いろんな楽器を演奏して多重録音とかやっていた。
コミューンにはディレイニーの恋人だった「リー」という女性もいて、お金がなくなるとみんなドラッグの売買で稼いでいた。
(でも3ヶ月の収入が26ドルとか)
そしてこのドラッグ売買の元締め的なコミューンのリーダー格の名前が「グレン・ダール」(笑)。
ただしノンフィクションといっても全部が本当じゃないので、この人物が実在したのかは不明。
柳:この「天国の朝食」は小ぎれいだったが、他にネズミの巣みたいに汚い「プレイス」とか、気持ち悪いほど
分担性が行き届いた「ジャニュアリー・ハウス」というコミューンも出てくる。
さらに334番地(これはうそ臭い)には、レザーと鉤十字がシンボルのSM風に装飾されたコミューンがあって、
見た目は怖いし押し込み強盗的に家具とか強奪するけど、文句を言うと返してくれる不思議な連中が住んでいた。
これがスコーピオンズのモデルになっている。
柳:セックス小説としてはどうなんでしょう?
丸:男女間よりは男性同士のほうが気合の入った描写になっている。男女間はわりとあっさり。
柳:レイニャとの関係はしっとり書いている。彼女のモデルと思われるリーという女性が、フルートを吹きながら
木霊とセッションする、という場面も『天国の朝食』に出てくる。
ちなみにこのバンドが解散したのは、スタジオ代が値上がりして払えなくなったから。
(ここで丸屋さんがディレイニーの写真を7枚ほど紹介。最近のあまりの変貌ぶりに、場内は大爆笑。)
柳:若いころはあまり黒人ぽくない。
丸:60年代はメリルの言う「ハンサム・ニグロ」、70年代に太って急激に劣化し、最近はすごいことに・・・。
柳:完全にアレン・ギンズバーグですね!
丸:今のディレイニーは抱かれたくないけど、若いころなら抱かれてもいい(笑)。
(ここで元妻のマリリン・ハッカーの写真が登場、短髪の男前な姿。)
丸:この人は基本レズビアンです。
柳:(ディレイニーとハッカーの編集した「クォーク4」を見せて)詩とか絵とかも入ったSFアンソロジーだけど、
中にユイスマンスを引き合いに出した評論が載っていて、これを絶賛しながら「SF作家はこういうプロットも
キャラもないけど、おもしろい小説に触れてこなかった」と批判しているが、これって『ダールグレン』の話では(笑)
ディレイニーのSF界における抑圧感はすごかったんじゃないかと思う。
丸:『アインシュタイン交点』受賞時のプレゼンテーションで、司会に屈辱的な紹介をされたらしい。
柳:『アインシュタイン交点』はエピグラフで種明かしをしてるからわかりやすい。
(ここからSFM9月号「ベローナの歩き方」に基づく『ダールグレン』の紹介に入ります。)
柳:『ダールグレン』は、本人が書いたノートに後から書き直しを加えたもの。
キッドはノートを書き換えながら行動しているが、その行動はあらかじめノートに書かれている。
ノートに書かれていない体験を読者は知りえないが、それは存在しないのではなく、書くほどの事件が
起きなかったからとも考えられる。ジョイス的な意識の流れを逆転させたものではないか。
丸:ディレイニーは円環構造多すぎでは?
柳:神話好きなんで類型に落とし込みがち。ディレイニーも言ってるが、『ダールグレン』は円環じゃなくメビウスの輪。
自分としてはそのひねった部分は2巻の中盤、タックと倉庫に行って鎖と目玉を見つけてしまうところだと思う。
ここで小説の仕掛けが露出している。自分が拒絶されたという隠喩の赤目玉が、実際のモノとして出てきてしまう。
つまりここはディレイニーの脳内。以後は物語が裏の話になる。
丸:それ以後は裏返った話?
柳:そこから最初のほうへ戻っていく。
丸:だから最初のほうに行くと、性別が変わったりしている?
柳:そうそう。
(ここで柳下さんから、コーキンズはいると思うか?という疑問が示される。)
柳:コーキンズは声しか出てきていない。本当は実在せず、ダールグレンが仕切っているのではないか。
丸:謎を解きましたね!
柳:もう一個の謎解きとして、パーティの夜の狙撃事件の話。フェンスターが犯人という話の後に、彼とキッドと
レイニャが仲良くしている場面がある。
これは場面の順番が入れ替わったのかと思ったが、文中で「心の内部でふたつの食い違った表面がずれて
きちんと整ったように感じた」という部分があることから、ここで二つの現実(裏と表)が重なったことを
意味するのではないかと思った。
『ダールグレン』では部分的にふたつのストーリーが進行していて、ひとつの場面が二通りに書かれている
部分もある。それがここで重なったのではないか。
丸:狙撃事件のモデルはあるのか?
柳:この時代だからキング牧師の事件とか。
―『ダールグレン』の謎にまつわる部分の話題は、だいたいこのくらいです。
他に丸屋さんからはディレイニーのおばの話、キャンベルに『ノヴァ』のアナログ掲載を断られた話、
これをモチーフにしたDS9の137話「夢、遥かなる地にて」と、ここから繋がる幻の最終回の
エピソードなど、トレッキーで黒人文化に詳しいという強みを十分発揮したお話がありました。
さらに丸屋さんからの『ネヴェリヨン』シリーズはおもしろいの?という問いかけについては、四巻目まで読んだ
高橋良平さんが、客席からひとこと「つまらない」(^^;
なんでもファンタジーにおける貨幣経済について異常なくらいこだわりがあるようで、本人が別名義で書いた
長ったらしい解説を読むと疲れちゃうそうです。
柳下さんからはディレイニーが書いたポルノ『情欲の潮』で、マッチョな黒人が13歳と15歳の少年少女を
お稚児さんにしてやりたい放題という話を書いたものの、さすがにやばいので改定版が出る際に年齢設定を
「113歳と115歳」にしちゃったという爆笑ネタを披露してくれました。
SFじゃないけどファンタジーっぽい要素があるとは聞いたけど、そこなのかよ!もう少年少女じゃないじゃん(^^;
(ちなみに私が米のWikipediaを見たところ、この黒人の持ち舟の名前が「スコーピオン」さらに登場人物で
ロビーとかダヴとかいう人名も出てくるようで・・・まったくディレイニーは!)
あと『天国の朝食』に出てきたエピソードのひとつで、フォント好きの男がバンドのキャッチコピーを印刷するとき
「バベルフォントの17ポイント」で印刷してきたのが、『バベル-17』の元ネタだとのお話も。
ちなみにそのbabel sansのフォントは、こんな感じです。
うーん、ちょっとディレイニーらしくない地味なフォントですが・・・。
まあこのフォントの名前からあの傑作を思いつくところに、ディレイニーの非凡さがあるのでしょう。
最後に国書刊行会の樽本さんから、『ダールグレン』はジョイスじゃなくて『魔の山』だというディレイニー自身の
コメントについて「七章構成で青年が放浪し、知識人が延々と演説するところは完全に踏襲。また当時『魔の山』は
ヒッピーの聖典として読まれていた。『ダールグレン』はいわばサイケ版『魔の山』」という興味深い解説があり、
ここでイベント終了となりました。
丸屋さん、柳下さん、樽本さん、2時間にわたって濃いお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
(8/5追記)
私より数ランク上のレベルで異色作品に挑み続けるさあのうず(現:放克犬博士)さんのブログ
「異色な物語その他の物語」にも『ダールグレン』刊行記念トークショーのレポートが載りました!
“丸屋さんファン(P-Funkファン、丸屋さんが編集長になってからのbmr定期購読者)柳下毅一郎さんファン、
ディレイニーファンでもあるまさにオレのための企画だよ!”
と断言しているくらいなので、中身の濃さは保証つき。
こちらの取りこぼした話もしっかりフォローされているので、読み応え満点です。
その筋(どんな筋だ)では知られた方なので紹介するのもおこがましいですが、うちと併せてお読みいただくと
より完璧なベローナの全体像が見えてくるかもしれません。
なお、あちらのサブタイトルは「丸屋九兵衛VS柳下毅一郎@三省堂書店SFフォーラム」という血なまぐさいものですが、
別に男性二人が真鍮の蘭とかそれ以外の武器でお互いをつつきあったわけではありませんので、そっち方面についての
あらぬ期待だけはもたないようにお願いします(^^;。
なお放克犬さんのブログは2019年現在「異色もん。」となってます。
他にもシミルボンでコラム大賞を獲ったりと益々活躍中!
柳下毅一郎さん×丸屋九兵衛さんトークショー〈『ダールグレン』の謎を解く〉に行ってきました。
まずは進行役として横に控える国書刊行会の樽本周馬さんから、今回のフォーラムのきっかけとなった
「あんしぶる通信」(元SFM編集長の塩澤快浩さんがやっていたSF系サイト)で行われた、丸屋さんへの
インタビュー記事が紹介されました。(記事のプリント配布あり)
樽本さんいわく「黒人文化とSFの両方に詳しい人だという記憶が残っていたので、『ダールグレン』が出たとき
すぐ声をかけさせてもらいました。」との話。
続いて丸屋さんからの自己紹介。本業である黒人音楽誌bmrの編集長でありながら、SFMではスタートレックの
コラムを連載し、さらに2011年9月号の小特集「ディレイニー再入門」にも寄稿されているという方ですが、
なにより共感したのはこの発言。
「今回はディレイニーの特集というから、てっきりメインかと思ったら小特集じゃないですか!これっておかしいですよね?」
まあこれには横の柳下さんから「(『ダールグレン』は)ハヤカワの本じゃないから。」と冷静なツッコミが入り、
樽本さんからは「よその本なのに取り上げてもらってありがたいです。」という感謝の言葉がありました。
丸屋さんは会場にサンリオSF文庫版『アプターの宝石』と『エンパイア・スター』を持参されてましたが、
神田有数のSF系古書店(ただし価格もべらぼうに高い)で購入したそうで、どっちも数千円とか・・・
まあそれだけディレイニーを愛している方、ということですね。
―以下、トーク内容をメモった中から拾い書きしておきます。
柳下さん(以下「柳」と表記):邦訳は読むだけなら簡単だった。
原書のバンタム・ブックスは古書店で買ったけど、背折れもないくらい読んでない。売ったやつも読んでなかったはず。
本国では70万部売れたといわれているが、読んだ人はどのくらいいるやら。
丸屋さん(以下「丸」と表記):一説には100万部強とも聞くけど、日本版はどれくらい売れたのか?
樽本さん(以下「樽」と表記):国書の在庫が500部くらい。初刷りは4000部。国書では多いほう。
柳:ディレイニーはスター性があってSF界の外でも評判になってたので、一般小説として売れたのでは。
バンタム版は発売一ヶ月で四刷している。
丸:『ノヴァ』まではわかりやすいシンボル小説で、『ダールグレン』から長くてより複雑になってきた気もする。
柳:『ダールグレン』も初読はヒッピー小説と読める。これはディレイニーが60年代後半に過ごしたコミューン生活が原点。
(以後『ダールグレン』の元ネタと見られる未訳の自伝『天国の朝食』の紹介が続きます。)
柳:『天国の朝食』のほうが後に書かれているが、こちらがノンフィクションで、『ダールグレン』がフィクション版。
「天国の朝食」はディレイニーがメンバーだったバンドの名前で、そのバンドが中心だったコミューンの名前も同じ。
丸:バンドの音楽性はロック?
柳:サイケデリック・ロック。いろんな楽器を演奏して多重録音とかやっていた。
コミューンにはディレイニーの恋人だった「リー」という女性もいて、お金がなくなるとみんなドラッグの売買で稼いでいた。
(でも3ヶ月の収入が26ドルとか)
そしてこのドラッグ売買の元締め的なコミューンのリーダー格の名前が「グレン・ダール」(笑)。
ただしノンフィクションといっても全部が本当じゃないので、この人物が実在したのかは不明。
柳:この「天国の朝食」は小ぎれいだったが、他にネズミの巣みたいに汚い「プレイス」とか、気持ち悪いほど
分担性が行き届いた「ジャニュアリー・ハウス」というコミューンも出てくる。
さらに334番地(これはうそ臭い)には、レザーと鉤十字がシンボルのSM風に装飾されたコミューンがあって、
見た目は怖いし押し込み強盗的に家具とか強奪するけど、文句を言うと返してくれる不思議な連中が住んでいた。
これがスコーピオンズのモデルになっている。
柳:セックス小説としてはどうなんでしょう?
丸:男女間よりは男性同士のほうが気合の入った描写になっている。男女間はわりとあっさり。
柳:レイニャとの関係はしっとり書いている。彼女のモデルと思われるリーという女性が、フルートを吹きながら
木霊とセッションする、という場面も『天国の朝食』に出てくる。
ちなみにこのバンドが解散したのは、スタジオ代が値上がりして払えなくなったから。
(ここで丸屋さんがディレイニーの写真を7枚ほど紹介。最近のあまりの変貌ぶりに、場内は大爆笑。)
柳:若いころはあまり黒人ぽくない。
丸:60年代はメリルの言う「ハンサム・ニグロ」、70年代に太って急激に劣化し、最近はすごいことに・・・。
柳:完全にアレン・ギンズバーグですね!
丸:今のディレイニーは抱かれたくないけど、若いころなら抱かれてもいい(笑)。
(ここで元妻のマリリン・ハッカーの写真が登場、短髪の男前な姿。)
丸:この人は基本レズビアンです。
柳:(ディレイニーとハッカーの編集した「クォーク4」を見せて)詩とか絵とかも入ったSFアンソロジーだけど、
中にユイスマンスを引き合いに出した評論が載っていて、これを絶賛しながら「SF作家はこういうプロットも
キャラもないけど、おもしろい小説に触れてこなかった」と批判しているが、これって『ダールグレン』の話では(笑)
ディレイニーのSF界における抑圧感はすごかったんじゃないかと思う。
丸:『アインシュタイン交点』受賞時のプレゼンテーションで、司会に屈辱的な紹介をされたらしい。
柳:『アインシュタイン交点』はエピグラフで種明かしをしてるからわかりやすい。
(ここからSFM9月号「ベローナの歩き方」に基づく『ダールグレン』の紹介に入ります。)
柳:『ダールグレン』は、本人が書いたノートに後から書き直しを加えたもの。
キッドはノートを書き換えながら行動しているが、その行動はあらかじめノートに書かれている。
ノートに書かれていない体験を読者は知りえないが、それは存在しないのではなく、書くほどの事件が
起きなかったからとも考えられる。ジョイス的な意識の流れを逆転させたものではないか。
丸:ディレイニーは円環構造多すぎでは?
柳:神話好きなんで類型に落とし込みがち。ディレイニーも言ってるが、『ダールグレン』は円環じゃなくメビウスの輪。
自分としてはそのひねった部分は2巻の中盤、タックと倉庫に行って鎖と目玉を見つけてしまうところだと思う。
ここで小説の仕掛けが露出している。自分が拒絶されたという隠喩の赤目玉が、実際のモノとして出てきてしまう。
つまりここはディレイニーの脳内。以後は物語が裏の話になる。
丸:それ以後は裏返った話?
柳:そこから最初のほうへ戻っていく。
丸:だから最初のほうに行くと、性別が変わったりしている?
柳:そうそう。
(ここで柳下さんから、コーキンズはいると思うか?という疑問が示される。)
柳:コーキンズは声しか出てきていない。本当は実在せず、ダールグレンが仕切っているのではないか。
丸:謎を解きましたね!
柳:もう一個の謎解きとして、パーティの夜の狙撃事件の話。フェンスターが犯人という話の後に、彼とキッドと
レイニャが仲良くしている場面がある。
これは場面の順番が入れ替わったのかと思ったが、文中で「心の内部でふたつの食い違った表面がずれて
きちんと整ったように感じた」という部分があることから、ここで二つの現実(裏と表)が重なったことを
意味するのではないかと思った。
『ダールグレン』では部分的にふたつのストーリーが進行していて、ひとつの場面が二通りに書かれている
部分もある。それがここで重なったのではないか。
丸:狙撃事件のモデルはあるのか?
柳:この時代だからキング牧師の事件とか。
―『ダールグレン』の謎にまつわる部分の話題は、だいたいこのくらいです。
他に丸屋さんからはディレイニーのおばの話、キャンベルに『ノヴァ』のアナログ掲載を断られた話、
これをモチーフにしたDS9の137話「夢、遥かなる地にて」と、ここから繋がる幻の最終回の
エピソードなど、トレッキーで黒人文化に詳しいという強みを十分発揮したお話がありました。
さらに丸屋さんからの『ネヴェリヨン』シリーズはおもしろいの?という問いかけについては、四巻目まで読んだ
高橋良平さんが、客席からひとこと「つまらない」(^^;
なんでもファンタジーにおける貨幣経済について異常なくらいこだわりがあるようで、本人が別名義で書いた
長ったらしい解説を読むと疲れちゃうそうです。
柳下さんからはディレイニーが書いたポルノ『情欲の潮』で、マッチョな黒人が13歳と15歳の少年少女を
お稚児さんにしてやりたい放題という話を書いたものの、さすがにやばいので改定版が出る際に年齢設定を
「113歳と115歳」にしちゃったという爆笑ネタを披露してくれました。
SFじゃないけどファンタジーっぽい要素があるとは聞いたけど、そこなのかよ!もう少年少女じゃないじゃん(^^;
(ちなみに私が米のWikipediaを見たところ、この黒人の持ち舟の名前が「スコーピオン」さらに登場人物で
ロビーとかダヴとかいう人名も出てくるようで・・・まったくディレイニーは!)
あと『天国の朝食』に出てきたエピソードのひとつで、フォント好きの男がバンドのキャッチコピーを印刷するとき
「バベルフォントの17ポイント」で印刷してきたのが、『バベル-17』の元ネタだとのお話も。
ちなみにそのbabel sansのフォントは、こんな感じです。
うーん、ちょっとディレイニーらしくない地味なフォントですが・・・。
まあこのフォントの名前からあの傑作を思いつくところに、ディレイニーの非凡さがあるのでしょう。
最後に国書刊行会の樽本さんから、『ダールグレン』はジョイスじゃなくて『魔の山』だというディレイニー自身の
コメントについて「七章構成で青年が放浪し、知識人が延々と演説するところは完全に踏襲。また当時『魔の山』は
ヒッピーの聖典として読まれていた。『ダールグレン』はいわばサイケ版『魔の山』」という興味深い解説があり、
ここでイベント終了となりました。
丸屋さん、柳下さん、樽本さん、2時間にわたって濃いお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
(8/5追記)
私より数ランク上のレベルで異色作品に挑み続けるさあのうず(現:放克犬博士)さんのブログ
「異色な物語その他の物語」にも『ダールグレン』刊行記念トークショーのレポートが載りました!
“丸屋さんファン(P-Funkファン、丸屋さんが編集長になってからのbmr定期購読者)柳下毅一郎さんファン、
ディレイニーファンでもあるまさにオレのための企画だよ!”
と断言しているくらいなので、中身の濃さは保証つき。
こちらの取りこぼした話もしっかりフォローされているので、読み応え満点です。
その筋(どんな筋だ)では知られた方なので紹介するのもおこがましいですが、うちと併せてお読みいただくと
より完璧なベローナの全体像が見えてくるかもしれません。
なお、あちらのサブタイトルは「丸屋九兵衛VS柳下毅一郎@三省堂書店SFフォーラム」という血なまぐさいものですが、
別に男性二人が真鍮の蘭とかそれ以外の武器でお互いをつつきあったわけではありませんので、そっち方面についての
あらぬ期待だけはもたないようにお願いします(^^;。
なお放克犬さんのブログは2019年現在「異色もん。」となってます。
他にもシミルボンでコラム大賞を獲ったりと益々活躍中!
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