デジカメ ぶらり旅

カメラを片手に 美しい自然が与えてくれる絶景を求めて旅に出ようと思います。

毒草(木)3題ーヤマトリカブト

2006年07月24日 17時06分50秒 | 軽井沢植物園の花
猛毒の代表「ヤマトリカブト」<キンポウゲ科トリカブト属> 塊状の根はアルカロイド物質を含み毒草として知られています。 漢方薬にも使われます。 花の形が雅楽を奏する玲人(きれいな人=麗人ではありません)がかぶる鳳凰の頭 をかたどった冠に似ているためトリカブトと名がつきました。 ↓「ヤマトリカブト」の花の拡大(この写真は成美堂の図鑑のもの)

↓花の断面(図鑑を見てわたしが描いたもの)

先日佐藤先生から、アイヌがクマやシカを射る毒矢の先に「トリカブト」を塗っ 話を聞きました。 登別町出身のアイヌの研究で知られている知里 真志保 北大教授(1909.2.24 ~ 1961.6.9)は、矢じりにトリカブトを塗るとき、その毒性を強くするために人間の 唾液と混ぜ、乳鉢で練って使ったということを書いているそうです。 なぜ人間の唾液と混ぜると、毒が強くなるのか佐藤先生も不思議だと言っておられ ました。 話は違いますが、不思議なことに先に紹介した猛毒の「ドクウツギ」や「ドクゼ リ」も葉・茎を虫がよく食べ、特にドクゼリの葉などはほとんど食われて葉があり ませんでした。トリカブトの葉も虫は食べると思います。 植物でもきのこでも虫が食べるから人間にも毒にならないというのは、とんでもな い間違いですね。気をつけましょう。 何故、虫は大丈夫なのでしょう?・・・・本当にこの世の不思議です。 この解毒のプロセスを科学的に解明すれば、ノーベル賞ものだと佐藤先生も云って おられました。 アイヌとトリカブトについて興味のある方は、ネットから調べたものを最後に掲載 しておきますのでご覧ください。 ↓このヤマトリカブトは 昨年(2005.9.29)に わたしが軽井沢植物園で撮ったも のです。紫の色が鮮やかです。 秋の淋しい野には紫色がよく似合います。

↓下の写真2枚は2006.7.23現在の軽井沢植物園のもので花は9月頃になります。

↓これも 2006.7.23 現在のものです。葉は同じキンポウゲ科で、春、可憐な花を 咲かせる「ニリンソウ」に似ていますので間違えないようにしましょう。 ニリンソウは東北地方で塩ひたしにして食べる習慣があるようです。ニリンソウは よくさらして食べれば毒はないと、ものの本には書いてあります。 山形県でヤマトリカブトの若葉をニリンソウの葉と見誤って、採って食べた二人の 大人が死亡したことがありました。 北海道でも間違えて中毒事故を起こすことがよくあるそうです。

-------------------------------------------------------------------------- アイヌとトリカブト(2006.7.25調べ) (主として「アイヌの矢毒トリカブト」(門崎允昭著)より抜粋、一部加筆および 削除) ------------------------------ トリカブト(鳥兜)<キンポウゲ科トリカブト属>鳥甲、鳥頭、兜花、兜菊とも書く。 <トリカブト和名の由来> トリカブトの名は花の形が舞楽に使用する伶人の冠に似ていることからこの名がつ いたといわれている。 奈良時代に中国から伝来した舞楽で、その舞人が頭に被るかぶりものの冠が、想像 上の鳥である鳳凰を象った兜で、その兜を俗に「鳥兜」といった。 <トリカブトについて> 根は塊状で地中に真っ直ぐ伸び、両側は新根。猛毒。茎は直立し1mくらい。葉は互 生、花期8~9月。がく片5、花弁状。花弁2は密槽状でがく片の中。雄しべ多数。 雌しべ3~5。世界に約2百種。おもに北半球に分布し、日本だけでも68種。 アイヌの人々はこの毒を使用した毒矢で熊狩をした。 母根を漢名「烏頭(うず)」(乾燥させると烏の頭のように見える)、子根を「付 子(ぶし)」(母につく)と呼ぶ。アイヌの毒矢のことを「ブシ矢」とも呼ぶ。 <アイヌが矢毒に用いたトリカブトの種類> アイヌが矢毒に使用したトリカブトは、北海道に分布するエゾトリカブト(葉が 3つに全裂する)とオクトリカブト(掌状に5つに中裂する)2種である。 <矢毒の調製> 掘り取った塊根は皮を剥かずそのまま炉の天井に吊して乾燥させた場合が多い。 矢毒の製法で、根を生で用いたという記録や、絞った汁を煮詰めたという記述も あるが、多くは乾燥させた後、石の上で唾液や水を加えながら、搗き砕き泥状にし た。 <混ぜ物> アイヌは矢毒の効果を増強するために、なかば呪術的に蜘蛛や、天南星(マムシグ サ)の根茎の黄色の有毒部など、いろいろな物を混入した。 知里真志保教授(1909-1961)は次のように書いている。 混ぜ物に(1)幌別(登別)では蜘蛛、川のカジカ、沢蟹、天南星の根の有毒部、 ヨモギの葉、松脂などの全部、または数種を組み合わせて叩いた。 (2)名寄ではフグの油、蜂針、ドクゼリの根、天南星の種子、ハナヒリノキの削り 屑、エンレイソウの実、やイチゴなども適当に混ぜた。 (3)穂別ではベニバナヒョウタンボクの枝を煮詰めて混ぜると毒の効き目が早いと いう。 <アイヌがトリカブト毒で猟をした動物> アイヌがトリカブト毒で猟をした動物は、ヒグマ・シカ・クジラなど比較的体が大 きな獲物を対象としていた。 <毒矢の人間への影響> コタン(集落)では、もしこの毒で人が死んだら集落の首長が遺族の生活を保証しなければならなかった。 毒矢による禽獣の捕獲は開拓使御雇外人ケプロンの提言により、明治9年に禁止された。 <毒矢の実例> 人が誤って附子の毒矢に当たったらどうであろうか。明治30年(1897)生まれの砂 沢クラ(1897-1990)さんが6歳の時に父母兄弟縁者ら12人で山猟に行った時の回想 を引用しよう(私の一代の思い出、1983)。「若いおじさん(クラさんの父の末弟 で21歳)熊獲りの仕掛け(弓)にかかった。・・・・・・かわいそうにおじさん苦 しんで身のやりばないようにころがっていた。それから毎日毎日矢の傷草の根でな おしたが、だんだん悪くなって、少し良くてもまた悪くなり、ある日からだ全体は れて、その日いききれた。・・・・・山奥なので何もなく旭川の家まで帰ると死人 くさるから、・・・・・和人からゴザ一枚買って、・・・死人ゴザ一枚にくるん で・・・・山の上におじさん達かついで行って、木の根元掘って死人埋めて泣きな がら帰ってきた。・・・」とある。 トリカブトの毒アコニチンは、致死量3~4mg(人の場合)で自然毒ではフグに次い で猛毒である。鎮痛作用、局所麻酔作用、自律神経遮断作用、不整脈を起こす作用 などがある。漢方では鎮痛、強壮、興奮、新陳代謝亢進などを目的として八味地黄 丸(はちみじおうがん)、真武湯(しんぶとう)、四逆湯(しぎゃくとう)、天雄 散(てんゆうさん)などの薬に配合されている。 アコニチンは脳に対しても毒性が強く、まず延髄と脊髄を刺激し、次に知覚神経を 麻痺させ、最後に呼吸麻痺で窒息死に至る。 ヨーロッパでは古代から中世にかけて、毒殺に多用されたようだ。ローマでは、近 親者の毒殺や政略上の毒殺によく使われ、とくに継子殺しに使われたため、「継子 の毒」と言われた。日本でも古代からこの毒は知られていた。日本武尊の息吹山の 死を初めとして、史書に見える矢毒による急死はほとんどがとりかぶとの毒を使っ たものと言われている。 『我妻鏡』で、伊貝四郎入道が帰宅途中、鎌倉の建長寺の前で毒の鏃を受けてその 日のうちに死ぬが、この毒は即効性があるため、やはりとりかぶとの毒であったと 推測されている。