世界初:100年前の絶滅種DNA、マウス生体内で再生(WIRED VISION) - goo ニュース
だそうなので、読みましたよ。折角なのでご報告。
"Resurrection of DNA Function In Vivo from an Extinct Genome"
Andrew J. Pask, Richard R. Behringer, Marilyn B. Renfree
PLoS one ; May 2008 / Volume 3/ Issue 5 / e2240
絶滅動物のDNAの発現をin vivoで再現した、初の研究です。
有袋類の絶滅種、タスマニアタイガー(別名:フクロオオカミ 学名:Thylacinus cynocephalus 英名:thylacine)の
100年以上前にエタノール固定された組織から抽出したゲノムを用い、
transcriptional enhancer elementを単離。
トランスジェニック・マウスを使ってwhole-mountでその機能を復活させた。
結果、タスマニアタイガーのCol2A1エンハンサーは現生の哺乳類同様、軟骨特異的に発現したって話です。
タスマニアタイガーは、3000年前まではオーストラリア大陸に複数種、
以降野生種はタスマニア島にのみ棲息していた、大型の肉食性有袋類(marsupial)です。
よく収斂進化のよい例として示されるよう、見かけ上は育児嚢を除けばおおよそ真獣類(Eutheria)の食肉目にそっくり。
1900年代の初めにはそのほとんどがヒトに狩られてしまい、
最後の1頭は1936年にホバート動物園で死亡しました。
太古のDNAをisolateする技術が開発されるにつれ、絶滅種のゲノムに迫ることも夢ではなくなりました。
実際近年は植物やバクテリア、マンモスやネアンデルタール人などのゲノムの研究も次々発表されてきていますね。
こうした研究には系統学的な目的でミトコンドリアDNAが用いられることが多かったんですが、
近年はゲノムDNAに焦点がシフトしてきている。というのも、
これまで大概の研究はシークェンスデータをもっぱら分岐年代や集団構造の解析に用いてきたんですが、
最近はそれら遺伝子がどのような機能を進化させてきたかにも目が向けられるようになったから。
例えば、色素沈着に関係するGタンパク型受容体を司る遺伝子、
Melanocortin 1 Receptor(MC1R)の機能はマンモスやネアンデルタール人で解析されています。
DNAサンプルから単離されたMC1Rシークェンスをクローニングして培養細胞株に移入し、in vitroで機能解析を行なった。
これらの研究の結果は、
マンモスやネアンデルタール人でも皮膚や体毛における色素沈着のヴァリエーションがあったことを示し、
in vitroで絶滅動物のタンパクを解析する際の手法の基盤を作ってきました。
“進化における適応的変化”は、突き詰めれば”タンパクの変化”ですが、
哺乳類のゲノム間では、タンパクのコーディング領域が高い保存性を保っています。
この事実は、少なくとも哺乳類の進化においては、
オープンリーディングフレームがそう大規模に変化してこなかったということを示唆。
加えて、最近のENCODE(Encyclopedia Of the Human DNA Elements)計画における予備研究によって、
哺乳類のnon-codingゲノムは、その大部分(9割方?)が転写までされているということが明らかになってきました。
これらの事実により、進化は遺伝子自体がガラッと変化するよりむしろ、
遺伝子の発現を時間的・量的にコントロールするnon-coding領域の調節エレメントに
僅かな変異が入ることによって起こってきたようだ、と言うことが出来ます。
なので、絶滅動物のゲノムにも、non-coding領域にこそ、種を規定する重要な情報が入っていると考えてよい。
なので、今回のタスマニアタイガーの研究もnon-coding領域の機能解析を中心に行なわれたようです。
注目されたのはproα1(II)コラーゲン(Col2a1)遺伝子の転写制御領域。
これはCol2a1が哺乳類の間で(もちろんマウスでも。つーか大体の脊椎動物で)よく保存されていて、
軟骨細胞特異的に発現するものとして広く知られているからですね。
続いてマテメソからresultまで。
DNAは100年ものの4つの標本(ヴィクトリア博物館の、3つのアルコール固定胎児と成体の乾燥した皮から入手。
まずは標本からゲノムDNAをisolate。単離されてきたDNAはバラバラで、それぞれ長さは300-500bp。
プライマーはClustal-W alignmentを用いて、これまで記載された哺乳類のコア配列に基づいてデザイン。
PCRで4種の標本から採取できたDNAをそれぞれ増幅させ、
その配列を比較してそれがタスマニアタイガー由来であることを確認しました。
結果、各サンプルから増幅できたのは264bpのPCRプロダクトで、これをサブクローニングし、シークェンシング。
BLASTや系統解析の結果、
これはタスマニアタイガーにおけるCol2a1エンハンサーのオルソログであり、マウスやラット、ヒトなどよりも
むしろワラビー(英名:Tammar Wallaby, 学名:Macropus Eugenii。現生の有袋類)とよく似ているということが判明しました。
このCol2a1エンハンサーを、
lacZに結合したヒトβグロビン(b-globin)の基本プロモーター(basal promoter)にライゲーションし、
末端にポリ(A)付加(polyadenylation)を行い、
こうして出来た4.75kbのTcyCol2a1-lacZ-pAをベクターから精製し、
マウスの受精卵にある前核(pronucrei)へとマイクロインジェクション。
軟骨形成(chondrogenesis)胚をWhole-mountでX-gal染色することによって観察したようです。
その結果、タスマニアタイガーのCol2a1が軟骨特異的に発現することを示した、と。
絶滅有袋類においても、”Col2a1遺伝子は軟骨形成に働く”という機能が保存されていたということが分かりますね。
…というかCol2a1は脊椎動物の軟骨形成に大概フツーに働くので、まぁ想定の範囲内ではありますが…。
しかし今回の成果は、絶滅したDNAを調べるのにin vitro止りだった状況を大きく躍進させたってことは言えますね。
ですが、今回のmethodでも自明なように、in vitroにせよin vivoにせよ、例えば配列の機能を確認したりするには、
ホスト側の細胞や胚に目的の因子と相同なシステムが組み込まれていなければならない現状があります。
マウスで確認されたからといって、
果たしてタスマニアタイガーCol2a1がタスマニアタイガー自身の体内でそれと同じように発現したかどうか…
転写や発現の調節に全く別のシステムが用いられている可能性だって捨てきれませんよね。
ちょいと読んでいてツメが甘いような気がしましたが…
内容としてもそこまで大したことをやっているわけではありませんしね。
Col2a1ないしそれに似た配列なら、タスマニアタイガーだろうと何だろうと
そりゃまず間違いなく軟骨にシグナル出ますし。系統解析もアッサリしすぎていて、正直ちょいと眉唾…
少なくともこれは、"遺伝子の機能解析"であって、"絶滅動物の復活"じゃありません。
巷ではちょいちょい短絡的に繋げられがちだけれども、かーなり別物です。
絶滅動物を完全に再現しようとしたらそりゃあもう山ほど障害が(技術的にも倫理的にも)考えられますが、
それはまたの機会に。
でも個人的には絶滅動物が好きなので、今後の展開にも一応は期待しちゃいます☆
BLOG内LINK:
・top 100 science stories of 2007 による2007年の科学ニュースランキングゥ~
・eggshel in amber: 琥珀の化石の中に鳥の卵殻が!ってニュース
・T. Rex's Missing 3rd Finger Found: ティランノサウルス・レックスの3つ目の指が見つかったってニュース
・Ig Nobel Prize 2007: 2007年のイグ・ノーベル賞のニュース
・hunting books:Dinosaur Imagery 日本の恐竜学やら系統進化学やらの扱いに対す過激なブーイング(笑)
記載内容でtechnical termの混乱があるようなので老婆心ながら:
『転写活性化因子』とは、本来、"transcriptional enhancer element"に結合して働くtrans-acting (transcriptional) factorの訳語であって、"transcriptional enhancer element" = cis-acting element を『転写活性化因子』と訳すと混乱が生じると思います。同様に、『注目されたのはproα1(II)コラーゲン(Col2a1)遺伝子の転写制御因子。』と言う件も、この文だけ見れば、意味は通じますが、実際はは、『転写制御因子(=trans-acting factor)』ではなく、転写制御領域(=cis-acting element)』の話なので、誤解が生じると思いました。辛口のコメントでスイマセン。
ブログ、これからもちょくちょく拝見させて戴きますね。今後とも宜しく。
たしかに仰る通りですね!
恐らく指摘を受けなければ気付くことはなかったでしょう。
該当領域は一通り訂正いたしましたが、
やはりこの手の記事はどれほど確認してもし過ぎることはありませんね。
今後もまた何か粗相がありましたらご指南願いたく存じます。
適当な記事の多いBLOGですが、
どうぞこれからもよろしくお願いいたします。