残照日記

晩節を孤芳に生きる。

物事の評価

2012-01-05 18:16:06 | 日記
【ルノアールのゴッホ評】
≪画家と言われるのには、腕達者な職人では足りない。絵というものは、絵かきが、好んで自分の絵の機嫌をとっているということがわかるような絵でないといけない。ゴッホに欠けていたのは、そういうところだ。彼の絵を、すばらしいと人が言うのを耳にするが、彼の絵は、恋しい人を愛撫するような具合に、絵筆で可愛がられていない。≫(小林秀雄「ゴッホの絵」)

≪バイオリン名器の音色、現代モノと大差なし?──何億円もすることで有名なバイオリンの名器「ストラディバリウス」や「ガルネリ」は、現代のバイオリンと大差ないとする意外な実験結果を仏パリ大学の研究者らが3日、米科学アカデミー紀要で発表した。研究チームは、2010年、米インディアナ州で開かれた国際コンテストに集まった21人のバイオリニストに協力してもらい、楽器がよく見えないよう眼鏡をかけたうえで、18世紀に作られたストラディバリウスや、現代の最高級バイオリンなど計6丁を演奏してもらった。どれが一番いい音か尋ねたところ、安い現代のバイオリンの方が評価が高く、ストラディバリウスなどはむしろ評価が低かった。研究チームは「今後は、演奏者が楽器をどう評価しているかの研究に集中した方が得策」と、名器の歴史や値段が影響している可能性を指摘している。≫(1/4  読売新聞)

∇ストラディバリウスといえば、音楽音痴の老生でも知っている「バイオリンの名器中の名器」。日本のヴァイオリニスト辻久子が、1973年(昭和48)、自宅を3500万円で売却し、3000万円のストラディバリウスを購入して、話題になったのを覚えている。とにかくストラディバリウスといえば、ヴァイオリニストや収集家の羨望の的であり、真作であれば数億円の値がつくことも珍しくない。昨年6月に、、日本音楽財団が英国のオークションに出品し、約1600万ドル(12億円強」で落札されたことも記憶に新しい。それが、≪安い現代のバイオリンの方が評価が高く、ストラディバリウスなどはむしろ評価が低かった≫、しかも、≪仏パリ大学の研究者らが、米科学アカデミー紀要で…名器の歴史や値段が影響している可能性を指摘している。≫、というのだから、関係者の驚き様は…? と騒ぎ立てたい気も分らぬではないが、一寸待て待て──

∇ゴッホの絵が生前に売れたのはたった一枚「赤い葡萄畑」だった。彼が評価されたのは死後15年経ってから。そして現代どれだけの画家たちが彼の絵に「心酔」しているだろうか。ルノアールのゴッホ評にも見られるように、芸術家例えば画家は、個性的であるほど、各々独自の評価基準を持っているものだ。≪国際コンテストに集まった21人のバイオリニスト≫によるストラディバリウスの音色の良し悪しの評価にどんな意義があるのだろうか。それこそ名門≪仏パリ大学の研究者≫や、「ネイチャー」「サイエンス」と並ぶ有名な総合学術雑誌≪米科学アカデミー紀要≫等々のブランドイメージに惑わされてはいけない。老生思うに、評価対象者の偏った(この例では音楽家)、マーケティングの基本的初歩である「セグメンテーション」に当を得ない学術論文(?)に疑義を挟まざるを得ない。最近の諸種「世論調査」「アンケート」にも共通した傾向がある。今年は「革」(改まる)年。安物売り楽器商が狂喜するくらいの、こんな幼稚な研究から脱却して欲しいものである。もっともブランドかぶれの人々への鎮静剤としては、多少役立つかもしれないが…。