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鮎川玲治の閑話休題。

趣味人と書いてオタクと読む鮎川が自分の好きな歴史や軍事やサブカルチャーなどに関してあれこれ下らない事を書き綴ります。

埋もれた軍歌・その24 中隊家庭の歌

2014-08-01 17:10:40 | 軍歌
今回も昭和5年『新進軍歌全集』からの紹介です。作詞者・作曲者・メロディなどは不明。


中隊家庭の歌

抑々(そもそも)我らの中隊は
 恰(あたか)も一家の如くなり
一家親密ならざれば
 家勢振(ふる)はぬものぞかし
汝が属する将校を
 尊き父と思へかし
下士官等(とう)をば慈愛ある
 母と思ひて親(したし)みつ
上等兵は年長の
 兄と頼みて従へよ
汝が仰(あふ)ぐ上官の
 名誉は汝の名誉なり
汝が名誉は上官の
 名誉と思ひ励みつゝ
上下(じゃうか)心を一にせよ
 上下心を一にせよ
汝が尊ぶ上官は
 汝を忠勇義烈なる
国を守るの軍人と
 心を砕き明暮(あけくれ)に
汝に向(むかつ)て訓戒す
 他日汝が戦場に
光輝き名誉ある
 武功を立つるを希望して
熱心汝を教育す
 熱心汝を教育す
汝が親(したし)む同輩の
 非行は諌めて矯正し
善行あらば賞揚し
 汝も之に倣ふべし
疾病(しっぺい)危急は諸共に
 救護し之を看護せよ
全中隊の団結は
 戦地に於て唯一の
武器の威力の夫(それ)よりも
 遙かに効あるものなるぞ
汝が従ふ上官は
 汝が身体(しんたい)健全に
能(よ)く耐へ忍ぶの勇気をば
 心密かに渇望す
汝の勇気健康は
 汝が日頃活発に
運動するに如(し)かざるぞ
 冱寒(ごかん)を冒(おか)して訓練し
炎暑を凌(しの)ぎて野に山に
 演習するは汝等が
国家に対する本分ぞ
 汝が忠節盡(つく)すには
汝が熱心撓(たゆ)まざる
 奮励心(しん)にありと知れ



長い!(憤怒)
数えてみたら50行ありました。本来は複数番に分かれているのかもしれませんが、今回底本とした『新進軍歌全集』ではこのままの書かれ方です。
内容としてはよく帝国陸軍の兵役生活において「中隊長はお父さん、分隊長はお母さん」と言われていた、というのをそのまま歌にしたような感じです。但し、、この歌では「汝が属する将校」が父、下士官等が母という扱いになっていますが。

埋もれた軍歌・その23 兵器尊重の歌

2014-07-31 11:35:34 | 軍歌
今回も昭和5年『新進軍歌全集』からの紹介です。作詞者・作曲者・メロディなどは不明。


兵器尊重の歌


兵器は我等の魂ぞ
兵器は我等が生命ぞ
我等が錬(きた)へし精神と
我等が磨(みが)きし武技は皆
皇国(みくに)に事のあらん時
兵器によりて達せらる
炎熱骨を焼くの時
磨きに磨きし射撃術
寒風膚(はだ)を破るとき
練りに練りたる剣術も
或(あるい)は歩哨に斥候に
又は行軍散兵戦
兵器あらずと思ひなば
如何で任務の果たすべき
いざ拭(ぬぐ)はなん我兵器
いざ磨かなん我兵器


兵器を手入する時は
其の方法をよく守り
各部の用途を考へて
決して誤ること勿れ
朝夕二回の手入には
使(つかい)しところ拭ふ可(べ)し
射撃の前は膅中(とうちゅう)に ※注1
些(すこ)しの塵も止(とど)むるな
射撃の後(のち)は殊更に
膅中及び薬室を
二度(ど)も三度(ど)も数度(いくたび)も
手入をするが肝心ぞ
また撃茎(げきけい)や照準器 ※注2
故障の有無を検査せよ
風雨烈(はげ)しき演習や
塵立ちたる其の時は
鉄部の摩滅なき様に
革具に殊(こと)に注意して
細(こまか)き点を大切に
手入をす可き物なるぞ
頭上に物のあるときは
銃を下(おろ)して通過せよ
つまづき転(ころび)し其の時も
決して銃を手放すな
酸類塩気(えんき)水分は
鉄に大害あるものぞ
兵器の錆のあるものは
心に錆の有(ある)と知れ
兵器破損するならば
心の痕(きず)と心得よ


被服に戦時用あれど
兵器にかゝる区別なし
日頃手にする此(この)武器が
敵を破らん其(その)武器ぞ
三八式の小銃は
広き世界に比類なし
三十年式銃剣は
鉄をも貫く刃(やいば)なり
かゝる精(くは)しき兵器もて
我等が進む其の前に
如何なる敵の有可(あるべ)きぞ
如何なる城の有可きぞ


※注1:底本では「曠中」に「とうちゅう」のルビが振ってあるが、「曠」を「とう」とは読めないため誤植と思われる。
   「膅中」とは銃身・砲身内部のことを指す用語で、砲身内部で砲弾が暴発する事故のことを「膅中爆発」などと称する。
※注2:「撃茎」は火砲の撃発装置の一部分。ばねや撃鉄の力によって、発火装置の雷管に衝撃を与え発火させるためのもの。



一目見て分かる通り、二番だけが異様に長いです。数えてみたところ、一番と三番はそれぞれ十六行、二番は三十行でした。
本来四番まであったものを編集者が二番と三番を誤ってくっつけてしまったのかとも考えたのですが、それなら三十二行になっているはずです。
編集者が二行飛ばした上で二番と三番をくっつけたのか、それとも最初からこの形なのか。最初からこの形であったとすればメロディラインも変則的になるでしょうし、そもそも曲がついていたのかどうかさえ怪しくなってきます。どこかに楽譜が残っていないでしょうか…。
歌詞の内容は一番と三番が兵器を礼賛するもの、二番が兵器の実際的な管理・手入れに関する注意事項となっています。
注目したいのは三番に「三八式の小銃」「三十年式銃剣」という具体的な兵器の呼称が入っていることでしょうか。「銃剣」や「銃」という形でならこれらの登場する軍歌というのは相当数ありますが、「三十年式銃剣」というような形で歌詞に具体的な兵器が登場しているのはかなり珍しい部類に入ると思われます。

埋もれた軍歌・その22 銃器のほまれ

2014-07-30 22:27:45 | 軍歌
今回ご紹介するのはその20「征独の歌」と同じく昭和5年に兵書刊行会から発行された『新進軍歌全集』に載っていた軍歌です。これからしばらくはこの本を底本として様々な軍歌を紹介していこうかと。
題名は「銃器のほまれ」。作歌は鈴木菊太郎とのことですが、この人がどういう人なのかは不明です。1936年と1940年の東京府議会議員選挙で同名の人物が城東区から民政党候補として立候補し当選しているという資料がありますが、この軍歌の作者と同一人物かどうかは分かりません。また、メロディは不明です。


銃器のほまれ(鈴木菊太郎作歌)


畏き菊の御紋章
君の御稜威と仰ぎつつ
武士の雄心鍛ふべく
銃執る我等に誉れあり


誉れを担ふ我が戦友(とも)よ
銃の愛護は君の為
国のみ為ぞ家の為
あけくれ手入れ怠るな


演習教練行軍や
雨に濡れたる其の後は
いと鄭重に手入して
銃も心も清むべし


日ごろの精励あらはれて
名誉射撃や競点の
射撃に勇む旗の色
勇士の面に映ゆるなり


手入はここぞ此の時ぞ
数度に亙りてカスを去(さり)
油流すな銃床を
黒く汚(よご)すな腐らすな


銃口検査を怠るな
必ず手入の前後には
覗いて見よや塵埃(ちりほこり)
殊に射撃の其の前に


薬室弾倉薬盒(やくごう)の
手入忘るな忘れなば
ほかの手入はよくしても
銃の生命(いのち)は亡ぶなり


連日連夜絶間なき
戦闘演習行軍に
疲労困憊せしときも
銃の手入は第一ぞ


続く夜間の行動は
特に注意に注意して
我等がたよる照準具
其の身にかへて守れかし


かかる心の団結は
検査の時も射撃にも
共に成績優秀の
名誉は旗に翻へる



以上、ほとんど情緒もへったくれもありません。銃器の取り扱いのマニュアルを歌にしたようなものです。
一種の覚え歌みたいなものとして作られたのかもしれませんが、どう考えても愛唱されるような類の軍歌じゃありませんね。
それから九番の「我等がたよる照準具/其の身にかへて守れかし」ってそれでいいんでしょうか。自分の命と照準具とどっちが大事なんでしょうか。照準具の方が大事か、そうか。それじゃしょうがないな!(ぉ

埋もれた軍歌・その21 満洲国建国の歌

2014-06-13 07:49:41 | 軍歌
さて、6月もそろそろ半ばですがまだ私は就職先が決まりません。いけませんねえ。
まあそんなことは置いておいて、今回の軍歌に参りましょう。
今回ご紹介するのは「満洲国建国の歌」。はい、なんのひねりも面白みも無い曲名でございます。もっと頑張れ。
底本は昭和7年6月に発行された『時局の生んだ軍歌唱歌』という本で、まあぶっちゃけた話満洲事変の流行に乗って出版された本です。当然ながら、載っている歌も大体が満洲事変・満洲国関係の歌です。
で、この「満洲国建国の歌」は村岡樂童の作詞・作曲になるものです。この人は本来作曲畑の人で、満洲国初代国歌の作曲にも関わっている人なんですが、この「満洲国建国の歌」では作詞もこなして当時のレコード評者を驚かせてますね。


満洲国建国の歌(唱歌) 村岡樂童作詞、作曲

(一)東方(ひがし)日出づる国より黎明来(きた)れり
   おゝ凛たるその東雲(しのゝめ)に
   今ぞ明けゆく満蒙の蒼空(あをぞら)
   仰(あふ)ぎて讃へよ声朗かに

(二)東方日出づる国より力は来れり
   おゝ凛たるその力こそ
   統べと惠みを洽(あまね)く垂れて
   楽土の礎築かん為めに

(三)東方日出づる国より使命は到れり
   おゝ凛たるその使命こそ
   東洋平和の理想を楯に
   久遠の反映冀(ねが)はん為ぞ

(四)東方日出づる国より青雲(あおぐも)轟く
   おゝ凛たるその青雲の
   若き生命(いのち)に希望(のぞみ)は燃えて
   歓喜のその声天地に満てり



埋もれた軍歌・その20 征独の歌

2014-06-08 00:22:59 | 軍歌
このブログでの軍歌紹介も20回目。今回ご紹介する「征独の歌」は、昭和5年に兵書刊行会から発行された『新進軍歌全集』に載っていた軍歌です。大正時代を経てまだ満洲事変が勃発する前という微妙な時期に発行されているだけあって、中々面白い軍歌が載っています。
作詞者・作曲者はともに不明。同じ題名の詩は有本芳水や武石一羊によるものが確認されていますが、有本によるものは「ああ東海の日本国/建国以来の屈辱に/立ちて扶桑の精これる/正義の剣をひらめかせ」という句が入っているはずなのでこれとは別であることが分かります。武石による詩はまだ未確認です。


征独の歌

何を囀る独逸国 神をあざむき人を誣(し)ひ
平和を破りて世を乱す 傲慢無礼の怪鬚(かいぜる)王
神の憤(いか)りを知らざるか 世界の輿論を聞かざるか
汝が如何にあらぶとも 鷹に反抗(はむか)ふとびなるよ
萬騎五萬騎十萬騎 山野にはびこり寄(よす)るとも
春の野山の夷(えびす)狩り いざいざ来たれ独逸兵
恨(うらみ)は積もる二昔 吾(わが)忠勇の同胞(はらから)が
血潮に清めし遼東を 汝の汚がすにまかせんや
腰におびたる日本刀 肩に担へる村田銃
弱きを救ふ日本魂(やまとだま) 如何で汝を赦るすべき
天に叫べる声をきけ 義の鉾とりて禍(わざわい)の
悪魔の群(ぐん)を切りすてよ 平和の園(その)は開かれん
あな心地よや暴虐の カイゼルこらす時は来ぬ
二十年来忍びたる 恨みを報ひん時は来ぬ
神のさとしに導かれ 世界の声に送られて
懸軍萬里東洋の 平和の為めに義の為めに
若し彼をして勝たしめば 世界は暗(やみ)となり果てん
暗(やみ)のこの世に生きんより 波に沈まん野に消えん
軍人ならぬ吾(わが)肩も 銃を担ふに堪えぬべし
よし細くとも吾腕(わがかいな) 剣を振ふに足るならん
海には艨艟百余艘 陸には貔貅(ひきゅう)五十萬
おくるも国の誉まれなれ 噫(あゝ)忠勇の国民よ
子の従軍を老母(はは)祝ひ 夫の出征新妻(つま)誇れ
やがてカイゼルうち懲(こら)し 凱歌をあげて帰るなり


※貔貅:大陸における伝説上の猛獣。転じて、勇ましい兵卒の例え。


いやあ、凄まじいですね。こんなこと歌ってた国が10年しないうちに日独防共協定結んでるんだからまことに国際情勢は複雑怪奇。
まあ、戦争した国がその後接近すること自体はわりとよくある話ではあるんですが…閑話休題。
内容は第一次世界大戦を意識したものですが、題名などから見ても日本にとってこの戦いが「対独戦争」であったことが分かります。
で、日本にとって当時のドイツはかつて三国干渉で日本の権益を不当に奪い取った憎い国。欧州大戦は格好の口実、この機に乗じて積年の恨みを晴らしてやろう…というのがこの歌の主題ですね。一応「平和の為めに義の為めに」とか誤魔化してはいますが、最初の方で個人的(?)恨みをぶちまけてるのでわりと台無しです。
軍歌集に載っているということは一応曲がついていたと思われますが、音源があればぜひとも聞いてみたいところです。新規録音でも可。