さよなら三角 また来て四角...日本編☆第二章☆

オーストラリアから10年ぶりに帰国。特別支援教育に携わりながら
市民農園・家庭菜園に励んでいます。

言葉を超えて

2012年12月03日 09時39分06秒 | Web log
最後の4日間は認知症の閉鎖棟での実習。

閉鎖棟ってどんな感じなのかなぁ~と思っていましたが、
普通と変わりません。

私が実習させていただいた施設では「閉鎖棟=徘徊してしまう人が
失踪しないようにしている」という意味合いが強い気がしました。

ので、比較的自分でシャワーなど身の回りの世話ができている人が
多く、ある面、仕事も High care unit に比べると楽なような気もしました。
が、中には、自分の世界にこもりっきりと思われる人も数人おりました。

今日は、Nさんのお話です。

Nさんは、YesとかNoなど簡単な単語すら発することができず、自ら体を
動かすこともできません。

一見すると、ただ存在しているだけのような感じです。
初日、私はNさんの体拭きとトイレ介助に立会いました。

そのときは、どのくらい私たちが発する言葉を理解できているのか
わかりませんでした。

その日私がお手伝いさせていただいた人は、とても粗野な人で、自分の手際の悪さを
レジデントさんのせいにするような人でした。(Nさん、何もできないのにね)
その場所にいることすらつらくなるような扱いでした。

ここでお話するのもはばかれるほどの状況となり、それに対してNさんに暴言を吐き、
とても気の毒になりました。

もし私がああいう扱いをされたらつらいだろうという気持ちが反映されてか、
Nさんが助けを求めているような気になりました。

私の思い込みかもしれませんけれど。

翌日、お食事の介助をしてほしいというので再び、Nさんのお部屋に伺いました。

Nさんは体が大きく、シャワー、トイレの介助も時間がかかるので、それらは食事の後になります。

お部屋に伺ったら、匂いがしたのでもう用を済ませているようでした。

Nさんは、再び何かを表現しようとしている感じがしました。

勝手な想像かもしれませんが、

用を済ませてしまったので私に申し訳ないと思っているのかな?
恥ずかしいと思っているのかな?
気持ち悪いので早くシャワーをして欲しいと思っているのかな?

と思い

「ごめんね。気持ち悪いと思うけど、お食事が済んだらシャワーですから、我慢してくださいね。
私は、大丈夫ですよ。」と声をかけると、Nさん、落ち着いたような感じ。

そして、こちらがびっくりするくらいもりもりと食事を召し上がりました。

反射で食べているのか、本当におなかが空いているのか、心配になったので

「 もし食べたくなかったら、口をぎゅっと結んで下さいね。」と言いながら
口をぎゅっと結んだ顔をすると

Nさん、私の顔を見て口を大きく開けて、ニカっと笑っているような感じ。

その後も、もりもりと食べ、主食は全部召し上がりました。

それから誤飲防止用の凝固剤の入ったコーヒーを飲ませようとしましたが、
あまりに粘度が高すぎて、かなり吸わないと飲み込めない感じ。
Nさん、一生懸命飲もうとしている様子だったのですが、中々お口に入っていきません。

ので、蓋を開けてスプーンですくって飲ませることに。

「朝のコーヒーはおいしいですよねー。わたしも大好きですよー」

と言いながら、勧めると半分ほど飲んで(?)下さいました。

そして半分くらいで、Nさんがぎゅっと口を結んだんですね。

それが反射的なものだったのか、どうなのか不確かだったので、

数度トライしましたが、それでもぎゅっと口を結んだまま。

おなか一杯のメッセージかな?わたしの言ったことが伝わったのかな?
と思ってとてもうれしくなりました。

その後、体をキレイにし、顔を剃ってあげました

小さい頃床屋さんに通って顔を剃ってもらったときのことを思い出しながら、
ちょっと熱めのタオルで顔を拭いてあげて、気持ちいいですかーと訊ねると
とっても気持ち良さそうなお顔をしていました。

Nさん、口を開けて、ニカっと笑うようなお顔をするんです。(声は出せないけど)

自己満足なのかもしれませんが、ちょっとだけかもしれませんが言葉を超えた
コミュニケーションができたかも…と思ってちょっとうれしくなりました。

もし、自分の気持ちや意志がありながらも、伝える手段を失ってしまい、
相手から尋ねられる以外に何も自分を表現することができないとしたら
それほどの孤独や苛立ちはないのではないだろうか、と思いました。

一部のケアラーさんは、レジデントさんが認知症だった場合、レジデントさんが
何を言ってもそれは聴くに値しないというような思い込みを抱いているようです。
「 まともに受け取らないほうがいいわよ 」と何度も言われました。

また、話せない人だと「コミュニケーション不可能」なんだと思い込んでしまい、
語りかけや問いかけをほとんどしません。

私が「○○さんは、もっと食べたいようです。喉が乾いているようです。」というと
「どうしてわかるのよ!あげなくていいわよ」と言われてしまいます。

発話できなくても、目やかすかな口元の動きでわかるような気がするんですけど
私の思い込みなんでしょうかね。

たとえそれが思い込みだとしても、レジデントさんが私の問いかけに反応できる可能性が
1%でも、0.001%でもあるのならば、たとえ周りに「愚かなこと」と思われても
その確率に賭けたいと思ったわたしなのでした。

署名

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