短編7編。どれも泣かせる。
月島慕情
吉原から好きな男、時次郎に身請けされる日も近い。男の住む月島に思いを馳せるミノ。
時次郎に会いに行った月島で遭遇したものは・・・・五銭の豚肉も買えなくて貧窮にあえぐ妻と子供だった。
「この世の中にはきれいごとなんて一つもないんだってわかったの。私がそのきれいごとを作ると言うのも悪かないかと思うのよ。」ミノはそう言って関西の見知らぬ遊郭に自分を売る。あんなに憧れた時次郎との堅気の生活だったのに・・・
供物
忘れ去った酒乱の元、夫との生活。突然、夫の葬式に出て欲しいとの連絡が来る。
心に鎧を着て供物のワインを持参する。早々に退座した初枝を追いかけてきたのは夫の下に置いて来た息子だった。
「俺のわがままを聞いてくれてありがとうございました。まさか来てくれると思わなかったから何がなんだかわからなくって・・・うまく行ってるよね。俺も何とかやってるけどお袋が心配することは何もないから。それじゃ、これで」
母はすべての記憶を消し去ろうとしたのに子はささやかな記憶を大切に育ててくれていた。
シューシャインボーイ
非情なリストラをやり終えて銀行マンを辞職し、ボスの運転手になった主人公、塚田。
戦後孤児から社長にのし上がったボス。ボスの育ての親だが、最後までシューシャインボーイとして孤独な人生を終えようとする菊治。
3人の織り成す人間模様が不思議に現実味があって面白い。
「世間のせいにするな。他人のせいにするな。親のせいにするな。男ならば、ぜんぶ自分のせいだ。」
「地べたに這いつくばっているのは俺一人でたくさんだ。男だったら立ち上がって高いところに登って世間を見下ろせ。職業に貴賎はないなんてきょうびの学校はろくなことを教えない。尊いか賤しいかこのザマを見ればわかりそうなものだ。」
菊治は語らないが、戦争体験が彼を頑なにしているようだ。「どうせ拾った命なんだから役に立てなきゃなるめえ。何か一つでも役に立たなくちゃ、先に逝った皆に申し訳ないよ。」「お前だけが頼みの綱なんだ。」その言葉を勘違いして孝行しようと必死に働くボス。「自分の代わりに世間のお役に立って欲しい」と言うのが菊治の真意だった。菊治は世間的に成功したボスの姿を見て姿を消す。
ボスは塚田に言う。「非情なリストラをやってそのまま出世街道を歩けず、辞職した誠実さは立派なもんだがよ。女房の気持ちを考えたことあるのか。あっちこっち引きずり回した挙句、嫌になったから辞めたかよ。俺もそろそろ引退したい。お前に社長業を譲るから今度は逃げないでやれ。」
世間並みの欲も虚栄も狡さも持っている人間が世間並みの幸せを手に入れるはずの最後の一線を越えられなくて身を引いていく・・・
自分の犯した戦時中の非道の責任を他者に転嫁できず、幸せを拒否して懲罰的な人生を自分に課す・・・・
「平成の泣かせや」浅田次郎の世界がある。
月島慕情
吉原から好きな男、時次郎に身請けされる日も近い。男の住む月島に思いを馳せるミノ。
時次郎に会いに行った月島で遭遇したものは・・・・五銭の豚肉も買えなくて貧窮にあえぐ妻と子供だった。
「この世の中にはきれいごとなんて一つもないんだってわかったの。私がそのきれいごとを作ると言うのも悪かないかと思うのよ。」ミノはそう言って関西の見知らぬ遊郭に自分を売る。あんなに憧れた時次郎との堅気の生活だったのに・・・
供物
忘れ去った酒乱の元、夫との生活。突然、夫の葬式に出て欲しいとの連絡が来る。
心に鎧を着て供物のワインを持参する。早々に退座した初枝を追いかけてきたのは夫の下に置いて来た息子だった。
「俺のわがままを聞いてくれてありがとうございました。まさか来てくれると思わなかったから何がなんだかわからなくって・・・うまく行ってるよね。俺も何とかやってるけどお袋が心配することは何もないから。それじゃ、これで」
母はすべての記憶を消し去ろうとしたのに子はささやかな記憶を大切に育ててくれていた。
シューシャインボーイ
非情なリストラをやり終えて銀行マンを辞職し、ボスの運転手になった主人公、塚田。
戦後孤児から社長にのし上がったボス。ボスの育ての親だが、最後までシューシャインボーイとして孤独な人生を終えようとする菊治。
3人の織り成す人間模様が不思議に現実味があって面白い。
「世間のせいにするな。他人のせいにするな。親のせいにするな。男ならば、ぜんぶ自分のせいだ。」
「地べたに這いつくばっているのは俺一人でたくさんだ。男だったら立ち上がって高いところに登って世間を見下ろせ。職業に貴賎はないなんてきょうびの学校はろくなことを教えない。尊いか賤しいかこのザマを見ればわかりそうなものだ。」
菊治は語らないが、戦争体験が彼を頑なにしているようだ。「どうせ拾った命なんだから役に立てなきゃなるめえ。何か一つでも役に立たなくちゃ、先に逝った皆に申し訳ないよ。」「お前だけが頼みの綱なんだ。」その言葉を勘違いして孝行しようと必死に働くボス。「自分の代わりに世間のお役に立って欲しい」と言うのが菊治の真意だった。菊治は世間的に成功したボスの姿を見て姿を消す。
ボスは塚田に言う。「非情なリストラをやってそのまま出世街道を歩けず、辞職した誠実さは立派なもんだがよ。女房の気持ちを考えたことあるのか。あっちこっち引きずり回した挙句、嫌になったから辞めたかよ。俺もそろそろ引退したい。お前に社長業を譲るから今度は逃げないでやれ。」
世間並みの欲も虚栄も狡さも持っている人間が世間並みの幸せを手に入れるはずの最後の一線を越えられなくて身を引いていく・・・
自分の犯した戦時中の非道の責任を他者に転嫁できず、幸せを拒否して懲罰的な人生を自分に課す・・・・
「平成の泣かせや」浅田次郎の世界がある。