~step by step~[ 側弯症ライブラリー]患者の皆さんへ

側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

あなたは何を信じますか? (医学的事実を調べる、ということ) 追記

2017-11-14 23:42:16 | 特発生側弯症と装具療法

初回記載:2017年9月1日
追記:2017年11月14日


過去からの医学データの積み重ねにより、2017年11月のこの今を生きている「私たち」は「生かされている」のかもしれません。ビッグデータの定義はよくわかりませんが、どういう時代、どういう仕事の世界にあっても、先達の仕事--目に見えるものも、目に見えないものも-- が私たちのこのときを支えている。という感覚を覚えたことはないでしょうか?

私はいま文献を検索していて、ひとつの文献に出会ったのですが、こういう歴史が医学を支える土台になっているのだなあ、とひとり感慨にふけってしまいました。年若い患者さん、いまお子さんの手術のことで悩んでいるお父さんお母さんの皆さんにとりましては、単なる感傷の話になって申し訳ありませんが、私がこのブログで展開している「医学的事実」ということの意味をどうか理解していただく参考として、次のデータを見ていただければと願っています。






これらのデータの出典は、

    1968年 Ulf Nilsonne & Karl-David Lundgren 「Long-Term Prognosis in Idiopathic Scoliosis」

いまから50年近く前に発表された文献です。 特発性側弯症患者113名の50年間にわたる記録です。この113名がどういう経緯を辿って「死」に至ったかの記録です。記録....歴史と言ってよいと思いますが、1913年に遡るところから始まります。100年以上前。

特発性側弯症の患者さんの治療をどうしたらよいのか、それを知るためには、この病気による自然経過を知らなければなりません。まったく五里霧中のなかから、手がかりをつかむためには、地道に、時間をかけて探し出す努力が必要であり、それはひとりの医師では当然成し遂げられず、次世代の医師、そのまた次世代の医師、さらに次世代の医師へと繋がれていきます。

そうやって、ひとつの形ある医学データとして、いま私たちは目にすることができます。どういう年齢のこどもが、どういう性徴期のこどもが、初診時コブ角がどの程度であれば、骨成熟終了時にどうあれば、その後の10年、20年、30年がどういう経緯を辿るものなのかが、そういう資料をいま私たちは目にすることができます。


私は、こういう資料を目にするたびに、民間療法者の宣伝文句に義憤を感じてしまいます。「医者は何もしない」「医者にできないことを私がやった」「医者がさじを投げた患者を私は治した」「痛くない施術で治せます」「木枠に乗るだけで背中がまっすぐになります」「骨盤を調整すれば治ります」「〇〇先生の考案したRxxx療法で側弯は治ります」etc etc


民間療法者の数を考えますと、まさに多勢に無勢ですが、ひとつづつ、少しづつ、step by step で、医学的事実はどこにあるのかを探し、そしてそれを皆さんに提供してまいります。

august03


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このブログ Step by Stepを始める前、始めてから、そしてこれを書いている今も、ときおりひどい虚しさに苛まれることがあります。皆さんもこういう経験はありませんか? 自分が長い時間をかけて勉強し、調べ、根拠をしっかりと踏まえた上で、「これが正しいことです」と提示したものより、世間へのアピールが上手く、あるいは政治力とか、権威の後ろ盾(例えば医師)を利用して「俺が正しい」と言うものの方が、世間での受けが良い。というような。悪貨は良貨を駆逐する、と書くとあたかも自分が正しいと主張しているようで、鼻もちならないと反感を買いそうです。それでも地球が回っている、とつぶやいた「彼」のその気持ちでここにまたひとつ事実を提示させて下さい。

引用した文献は、下記のサイトからダウンロードできます。
  http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1307337?query=featured_home&



これは2007年から2011年にかけて米国で実施された正式な臨床試験結果をまとめ、2013年に発表されたものです。1000人以上の側弯症の診断を受けた子供たち(とそのご家族に)臨床試験への参加をお願いし、参加を許諾してくれた383人の思春期側弯症の子供から、さらに155人をランダマイズド試験(いわゆるくじ引きで治療グループと非治療グループに分ける)を実施することができました。 さらに残り228人のうちから126人は、これもふたつのグループに分けて試験が行われました。装具で治療するグループと、非治療(オブザベーション....つまり経過観察だけ)のグループです。



ここでは詳細は割愛し、結果だけを示すことにします。
これまで、このStep by stepのなかで、幾度となく文献データをもとに述べてきたことを、この新しい試験結果から、もう一度繰り返すことができます。 つまり、側弯症と診断され、経過観察していきましょう。と先生から言われた子供たちの約50%は、カーブのひどい進行(この試験では手術適応となる50度以上の進行をクライテリアとしています)はありませんでした。この経過観察だけの子供たちは、側弯整体に行くこともなければ、側弯ヨガに行くこともなく、普通の生活をしていただけです。 日本国内でも学校のスクリーニングで、あるいはモアレ検査で、整形外科の受診を指導され、病院に行き、整形外科の先生から検査結果として「側弯症ですが、当面は経過観察していきましょう」と言われる子供たちは、毎年何百人もいます。経過観察は、治療を放棄したり、治療できないことを意味しているのではありません。そのカーブが進行するタイプなのか、あるいは進行しないタイプなのかは、「時間がある程度たってくれないと結論」ずけできないゆえに、待ちましょう。と言われているわけです。世間では、いまだにこういう状況に対して、医者は何もしない、側弯整体が治せると言っている、もうそこに行くしかない。というプロパガンダがいまだに働いているようです。悲しいことです。側弯整体は、事実を述べているのでしょうか? いったい何人が来院し、そのうち何人が手術になったでしょう? 「治せる」...?とは、何パーセントだったのでしょう? 何パーセントは手術になったのでしょう? そして、もしそのような数値を示したとして、その「数値」がなぜ正直な数値だと証明することができるのでしょう? 数値などというものは、いかようにでも誤魔化すことができます。統計データで騙す、という手口はどのような業界でもやられていることです。
経過観察中に、定期的に診断することで、カーブの進行具合がわかります。進行が進めば、装具療法に移ることになり、装具でも進行が止まらなければ手術をすることになります。

そして、装具の効果は、装具を装着していた「時間」に大きく影響を受けます。装具装着は辛いものですが、一日のうち長く装着していればいるほどカーブ進行を抑制する効果があることは、これもデータから読み取ることができます。一日17時間以上、装具を装着していた場合は、約90%の確率で進行を抑制することに成功しています。



類似の文献データは、Step by stepのカテゴリ:特発性側弯症と装具療法(72アイテム)の中で、幾度か紹介させていただきました。
例えば、文献情報 : 年少期の側弯症 装具療法の効果は?  
を見ていただくと、2009年の時点で、同様のことをご紹介していたことがおわかりになると思います。


august03


2017年10月22日追記
メモ:❝データ❞というものは取扱が非常に難しいものです。特に医学データの場合は、人間がその対象である為に、個体差・個人差があり、また例えば「装具療法」と言ってもそこには装具のタイプ、装具の製作者の技術、家庭での装具の装着状態などに「差」があります。「体操療法」と言っても、その内容(方法・実施時間・ひとりでやるのか、指導の監視のもとでやるのか等)の「差」があります。対象となる患者さんにおいては、性別、年齢、初潮の有無、骨成熟度、初診時コブ角、回旋の強弱、側弯のタイプ、遺伝的リスクの有無、BMI等、それらのデータが全て網羅されているのか、何があり、何がないのか、というように、どこかに必ず十分とは言えない要素があるものです。しかし、それを突っ込みすぎては前進できなくなります。従いまして、いまここに入手できている❝データ❞を単純化した形で、コメントを書かせていただいておりますこと、ご了承下さい。データとは100%ではありません。しかしゼロでもなく、そこから「見えてくるものはある」という姿勢で書いております。



☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
 医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?


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