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医学的真実を求めて : リブハンプ改善写真に対する医学データが示すこと - ATRの改善だけを信じることの危険性

2018-06-21 15:47:29 | 肋骨隆起
側わんスコリオメーター (ATR角度)測定は患者のリスクを高めないのか? 」という記事の中で、ATR (angle of trank rotation胸郭角度)をスコリオメーターという計測器で測定し、その角度の改善だけをもって、「あなたの側弯症は改善しています」「側弯症は治った」と説明することの危険性を指摘しました。

ここでは、新たに類似の医学文献を見つけましたので、その危険性をあらためてご説明したいと思います。

(関連記事を「側弯症ライブラリー別室」-Rib hump(肋骨隆起)に体操療法は効果はあるか?-)にも記載しましたので、ご覧下さい。


今回参考とした文献は、◇Marc Moramarco et al ; The Influence of Short-Term Scoliosis-Specific Exercise Rehabilitation on Pulmonary Function in Patients with AIS. Current Pediatric Reviews 2016, 12.
AIS患者における短期脊柱側弯症に伴う運動リハビリテーションの肺機能への影響

目的:
思春期特発性脊柱側弯症(AIS)を有する36人の患者において、外来患者の脊柱側弯症に特化したプログラムを利用した治療の短期間のアウトカム報告。
方法/材料:
思春期特発性脊柱側弯症(AIS)患者33人、女性3人および男性3人の36人の患者が、脊柱側弯症センターで5〜7日間、20時間の運動プログラム(Schroth BestPractice®-SBP)を実施。 平均年齢は13.89歳で、平均コブ角は胸郭36.92°、腰椎33.92°であった。 患者は2011年8月から2015年2月まで治療を受けている患者で、脊柱側弯手術をしておらず、また装具療法も受けていない患者。 SBPプログラムには、physio-logic®演習、日常生活活動、3-D MadeEasy®、Schroth体操が含まれている。 この外来にての脊柱側弯症特化運動プログラムの結果を評価するための臨床パラメータは、生存能力(FVC)、強制呼吸量(FEV1)、胸部拡張(CE)および胸郭角度(ATR)を用いた。
結果:
FVC、FEV1、CEおよびスコリオメーターのATR測定値において、有意な改善が認められた。
結論:
短期外来SBPプログラムは、FVC、FEV1、ATRに肯定的な影響を有することが判明した。 我々はその後の研究で長期的な結果を提示する。

体操プログラムの様子






結果データ
☞この体操プログラムは、5~7日間の間に20時間行う、というものですので、表に示されているコブ角は体操前のものだけで、体操後のコブ角は測定されていません。 一週間程度でコブ角が改善することは考えられませんので、コブ角測定が1回のみというのは当然だと思います。











☞これに対して、ATR(胸郭角度)....いわゆる肋骨隆起は、体操開始前と後で測定されています。
 そして、これらのデータからは、肋骨隆起が減少していることがわかります。

つまり、このデータが示していることは、肋骨隆起はその解剖学が示すように、脊柱とは肋椎関節で接合しているだけなので、「矯正的な力」を加えることで、角度自体は減少しうる。ということを数値からも示した、ということになります。

参考「追記第二弾:側弯症-医学的真実を求めて




  そして、この解剖学的構造と、ヒトの身体がどのように反応するのか、ということを
  正しく理解していない場合、私たちは、この肋骨隆起(ATR)の改善を見たとき
  あたかも「側弯症が治る」「側弯症が治った」という錯覚に陥ることになります。

 
       肋骨隆起の改善は、コブ角の改善ではありません



  
  そして、この表から見えてくるさらに恐ろしいことは

  年齢10歳から13歳の骨未成熟と考えられる、進行リスクの高い患者さんで

  コブ角がすでに45度を超えている方、すでに 60度を超えている方も含まれている。という事です



  
  わずか1週間足らずでも肋骨隆起変形に効果があったのだから、これをずっと続ければ
  我が子の側弯症は治るはず


  そう思いこんだお母さんが、全国にどれだけおられることでしょう

  そう思い込んで、通い続けて、そしてある日、整形外科でレントゲン撮影をしたところ

  コブ角が進行していた 

  すでに50度を超えていた

  手術と告げられたお母さんが 全国にどれだけおられるでしょう



  もしかすると、骨成熟完了後で、カーブ進行リスクも安定期に入った患者さんが、
  自宅で毎日2時間の体操を2年、3年と継続するならば
  Rib hump肋骨隆起が減少するかもしれません。 (側弯症ライブラリー別室参照)

  しかし、これも全ての患者さんに当てはまるわけではありません。
  Schroth体操系の報告にありがちな「成功した1例」というパターンです。

  まして、骨成熟が完了していない進行リスクを抱えた患者の場合は
  カーブ進行に伴うように肋骨隆起も増えていく、あるいは再発する、という事実を
  私たちは見つめなければなりません。

  体操することで肺機能が維持されたり、良好になることは推奨されるべきだと思います。

  しかし、体操することで、コブ角が改善して側弯症が治った。という医学データは存在しません。
  体操することで減少した肋骨隆起が二度と再発しなかった。という長期データは存在しません。



  医学データが何を示しているのか、あるいは何を示していないのか、

  私たちは、慎重に、そして客観的に、正確に、その内容を学ぶ必要があると思います。




 ☞曲がった脊柱のコブ角を減少させることと共に、肋骨隆起 (リブハンプ)を治療する方法に関しましては
  次回以降に、新しい記事にてご紹介します




 august03

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