~step by step~[ 側弯症ライブラリー]患者の皆さんへ

側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

追記第二弾:側弯症-医学的真実を求めて : リブハンプ改善写真に対する医学データが示すこと - rib hump とコブ角との関係

2018-06-16 17:40:33 | 肋骨隆起
肋骨隆起に関する医学論文を読み直しています。思春期特発性側弯症と肋骨隆起変形との関係については、古くはすでに1960年代から論文があります。この記事内でも幾つかをご紹介しているわけですが、それとは別に2報を「側弯症ライブラリー別室 (Rib hump 肋骨隆起)」のほうに記載しましたので、参考にしていただければと思います。

ひとつは 1987年のハリントン手術に関連した文献。もう一点は2015年のいわば現在世界中で標準的に用いられているペディクルスクリューを用いた標準的脊柱固定術に関連したものです。このふたつの年代 1980年と2015年との間にも、同様の多数の論文が報告されており、引き続きご紹介したいと思い、それらにも目を通しているところです。

これらを読みながら考えていたことをここに記したいと思うのですが、


  ・思春期特発性側弯症はやはり複雑な病気であり、側弯整体が宣伝するような「単純な」ものではありません

  ・世界中の整形外科/脊椎外科の先生がたが研究し、臨床試験をへて、10年、20年、30年という時間軸の中から
   見えてきているものがある、ということ

  ・20本以上の医学論文をあらためて読んだ上での結論は、下記にも記しているように、

   
         肋骨隆起の減少はコブ角減少を意味しない

         かつて整体に通い、肋骨隆起が減少したことで側弯症が治ったと信じて
         整形外科での定期検査(レントゲン検査)を受けていない人は
         
         このブログを見たことを何かの縁と考えて
         ぜひとも専門医師を受診して、ご自分の現在の状態を確認して下さい

         「大人の側弯」の範疇には
         「かつての思春期特発性側弯症患者」さんが多数 含まれています





追記2018年6月16日

リンク: 側弯症ライブラリー別室 https://sokuwan.amebaownd.com/


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初回記載: 2017年11月11日
追記2017年11月13日 


先日来 Schrothシュロス法の医学文献の和訳に取り掛かっているわけですが、これらを読んでいく中で、スコリオメーターとATR (angle of trunk rotation)について新たな興味と疑問がわき、それに関連する医学文献を検索し、読み進めている中で非常に興味深い写真とデータそして医学上の見解に出会うことができましたので、ここにご紹介します。


私たちは側弯整体の施術or体操の前と後の写真を見て、正直驚かされます。え、こんなにきれいに平らになるんだ! と。



写真それ自体には、マチガイはないと思います。肋骨の隆起(リブハンプ rib hump)の見かけは確かに平たんになっているのでしょう。写真を加工して誤魔化したということでもないでしょう。ですから、私たちが、肋骨隆起:リムハンプがなくなったことで「側弯が治った」と思うのは、ある意味当然のことです。あるいは、側弯整体師自身も、本当に「治った」と信じているのかもしれません。

でも一方では、過去に側弯整体に通っていた方のなかで、例えば半年通って、背中のリブハンプが確かに見た目で改善してきて、それではもう半年と通い、そしてある日整形外科でレントゲン写真を撮ってもらったところ、側弯カーブが進行していて、もう手術しかないです。と宣告された経験をお持ちの方もおられると思います。


なぜそのようなことが起こるのか?  理由は.....


因果関係があると考えている肋骨隆起(リブハンプ)とコブ角とに因果関係がなかったとしたら 私たちは「見かけ」に惑わされて、治ったとばかり信じ込んでしまいます


下記に掲示した2枚の写真を見てください。出典は次の医学文献からです。


◇1976 T Thulbourne, R Gillespie The rib hump in idiopathic scoliosis. Measurement, analysis and response to treatment
☞ 医学文献をPDFでフリーダウンロード可能




         マイルドカーブ コブ角16° しかし、リブハンプがある




         コブ角 50° でも、リブハンプはない



(comment by august03)
・私たちは、側弯症の特徴である背中の出っ張り(肋骨隆起リブハンプ)があることが思春期特発性側弯症だと思っています。逆を言えば、この肋骨隆起(リブハンプ)がなくなることは、つまり「側弯症が治った」と考えます。そこに因果関係、少なくとも相関関係はあると考えるからです。例えば、脊椎学会のホームページを見ても、側弯症に関する説明をしているサイト.....このStep by stepも含めて.....を見ても、特発性側弯症と肋骨隆起は表裏一体の関係として提示されているわけですから、私たちは、次のように考えてしまいます。

         側弯(原因)だからリブハンプ(結果)になる。

         リブハンプ(結果)が消えた、ということは側弯(原因)も消えた


でも、リブハンプと側弯コブ角には因果関係がないとしたら、相関関係も小さなものであるとしたら、患者である子どもたちは、とんでもない悲劇に見舞われます。


一枚目の写真は、コブ角16°の、いわゆるマイルドカーブの患者さんです。確かに背中の肋骨隆起(リブハンプ)があります。学校の脊柱側弯検診では、このリブハンプを見て、側弯症と判断するに違いありません。実際、コブ角は マイルドカーブとは言え 16° です。

二枚目の写真は、コブ角50° しかし、リブハンプはありません。この医学文献は、体操の成果を報告するものではありません。執筆された先生は、脊柱のねじれである側弯カーブ (コブ角で測定) と 肋骨隆起(リムハンプ)との関係性に注目し、52人の特発性側弯症の患者さんを用いて、このふたつの解剖学的、形態的関係について調査を行い、リブハンプの外観で側弯カーブの進行を判断してはダメだ、という警告の文献を発表していました。

特発性側弯症だけどリブハンプがない患者さん、リムハンプが目立たない患者さんも存在するということです。ヒトの解剖学的・形態学的構造として、リブハンプを生じたり(あるいは減じたりする)構造と、特発性側弯症の最大の特徴である「脊柱のねじれ(三次元的ねじれ)」とは、直接的な関係はない。ということです。

この文献の中では、次のように説明されています。

52人の無治療患者によるこの研究で示したように、リブケージ変形は、胸郭の回旋にも
側弯の曲がりにも、そのいずれにも直接の関係はない。
たとえ、肋骨-椎骨の角度とそれらの違いから、関係性があると考えるかもしれないが、
(リブハンプは)側弯変形の重症度を示すものではない。

()はaugust03が追記したものです。



例えば、次のような論文もありました。

◇1987 Weatherley CR The rib deformity in adolescent idiopathic scoliosis. A prospective study to evaluate changes after Harrington distraction and posterior fusion. ☞医学文献をPDFでフリーダウンロード可能



この写真は、ハリントン法で脊椎固定術を行った患者さんの術後のものです。左側が術後1年、右側が術後2年半のものです。肋骨隆起(リムハンプ)が次第に再発してきているのがわかります。

ここから導かれる推論は、

     ①ハリントン法では脊椎固定術としては矯正を保持する力が、現在のインプラントよりも弱かった
            
     ②脊柱の回旋と、肋骨の隆起とは、解剖学的にリンクしていない

ということがあります。これは、上記のThulbourne (1976)による治療前の患者調査を、手術という切り口から臨床的に裏付けるデータという意味になります。

なぜリブハンプとコブ角、つまり脊柱のねじれとがリンクしないのか、それは、肋骨と脊柱との解剖から説明されています。

これは、Thulbourneの論文からの引用ですが、彼は椎体の変形 (脊柱のねじれ)とは、無関係に、肋骨だけが変形していく、ということを記しています。


解剖学的には、私たちは、脊椎(脊柱)と肋骨はひと続きの塊のような固定した骨というイメージで捉えてしまうわけですが、実は、脊椎骨(椎体)と肋骨の付け根とは「肋椎関節」という関節機構で付着しているのですね。これは、意味的には例えば股関節とか膝関節と同様に「動く」もの、ということになります。



「可動しうる関節」ゆえに、長い時間をかけて力を加えることで「動く = 変形が矯正される」という現象を生じさせることができるようです。シュロス法によれば、患者さんは毎日自宅で2時間ほどの体操を半年とか1年継続することがプログラムとされているようです。

問題は、肋骨隆起は少しづつ減少していっても、コブ角の減少とはイコールにはならない、ということです。


肋骨隆起リブハンプとコブ角とが相関していないことを補強する最近の医学論文があります。

◇2003 Gurkan Erkula Rib deformity in scoliosis
☞ 医学文献をPDFでフリーダウンロード可能



同氏は最新の医療機器 3D CT を用いて、側弯症患者さんの解剖学的形態を撮影し、脊柱のねじれ(コブ角)と肋骨隆起
リブハンプの測定ATR(angle of trunk rotation) には相関はないことを報告しています。



昨日アップした「側わんスコリオメーター (ATR角度)測定は患者のリスクを高めないのか? 」の中で、TyrakowskiはATRの計測でスコリオメーター5度はコブ角20度に相当する、という過去の文献(1984年Bunnell)を根拠として、シュロス法体操のアウトカムに用いているわけですが、この 3D CTで測定したデータからは、例えば ATR 7度は、コブ角 56度であり、もしも国内でこのATRで側弯症の子どもを測定した場合、ATR5度は、コブ角20度だからまだ安全、というような判断をしてしまうリスクが想起されるわけです。さらには、ATRの計測結果とコブ角測定結果とは、リニアな関係にはなっておらず、つまり、ATRで側弯症を判断してはいけない、 (リブハンプは)側弯変形の重症度を示すものではない。という上記Thulbourneの論文中の説明とリンクしてくることになります。もちろん、リブハンプが大きくなることは、側弯カーブが大きくなってきていると考えるべきです。怖いのは、リブハンプが小さくなったから、コブ角も小さくなったと判断するべきではなく、ちゃんとコブ角もレントゲン写真で測定して、これら両方から状態を判断しないと悲劇に繋がってしまう、ということを言いたいのです。


リブハンプ肋骨隆起に着目して施術を行ったり、体操することの盲点は次のとおりとなります。


        リブハンプとコブ角には因果関係はない

        この事実を知らずに、体操・運動療法を実施

        肋骨隆起リムハンプが減少した

        ゆえに、側弯症が治ったと誤解 (整形外科に診てもらわなかった)

        気づいたときには、
        手術を必要とするまでコブ角が進行していた




  ☞ 曲がった脊柱のコブ角を減少させることと共に、肋骨隆起 (リブハンプ)を治療する方法に関しましては
  
    次回以降に、新しい記事にてご紹介します






august03


2017年11月13日追記
☞次の医学文献はgoogleに「Rib deformity in scoliosis」を検索するとダウンロード可能です。
これは2003年に公表されたもので、ちょっと古いのですが、リブハンプについて非常に大切なことが記載されています。
いま2017年は、当時とは手術技術に大きな進歩がありましたので、単純に当時の手術成績と比較することはできませんが、脊椎固定術を行っても、リブハンプが期待したようには減少しておらず、術後にコンプレインになるケースが米国では見られることが記載されています。この文献をダウンロードして、手術について先生と話し合われときには、患者さんの希望というものをしっかりと伝えて、先生の見通しなどと合わせて、事前に心構えをしっかりと持てることが大切と考えます。



☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
 医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?

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