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Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

SS 愛のプレリュード (7)

2015-10-03 14:08:34 | SS 恋人同士

「オスカルはどこでしょう?」

 マダム・マリは無言のまま、微笑んだ。

「マダム、何か企んでいるのですか?-----仕方ない。オスカルのかくれんぼのお相手をいたしましょう。でもこちらのご夫人にご迷惑をおかけしてはいけないし---。まったくオスカルのやつ、どこへ行ったんだ。あっ、マドモワゼル、失礼。」

 アンドレは青いドレスの女性を避けて、ゆっくりと室内を歩き始めた。

「小さな子どもじゃあるまいし---。すぐ見つかるさ。」

部屋を一回りしたが、どこにもオスカルの姿が見当たらなかった。

「仕方ない。彼女が戻って来るまで、ここで待たせていただいてもよろしいですか?」

 

「アンドレ、ここだ。」

「えっ?」

「お前の斜め右側。」

「----------」

 アンドレの位置からは、貴婦人の背中しか見えない。しかしよく見れば髪の色は、間違いなくオスカルのブロンド。肩幅ももいつも見慣れている彼女と同じ。

「まさか!?」

「ここにいる。」

「オ、オスカルなのか!?」

オスカルはゆっくりと立ち上がり、アンドレのほうに向きを変えた。

 

 あまりにも突然のことなので、アンドレはいったい何が起きているのか、頭の中がすっかり混乱していた。いったいこれは夢なのか、それとも現実か?目の前にいるミューズは伝説の女神かオスカルか?結い上げた髪にはダイヤモンドのティアラが飾られ、オスカルが動くたびにきらめく輝きを放っている。淡いロイヤルブルーのジョーゼットで作られたドレスは、胸元からかかとにかけてゆったりと布が流れ、オスカルの美しいデコルテ・ライン、ウエスト・ラインを見事に際立たせている。首には真珠をモチーフにしたチョーカー。右腕には同じく真珠のブレスレット。普段見たことのない白い二の腕の細さに、アンドレは涙が出そうになった。こんな細腕で、今まであまたの男たちを相手に戦ってきたのか。軍服を着ている時よりもはるかに細いオスカルの体。よく見ればオスカルの顔全体におしろいが、形の良い眉を少し描き足し、アイラインをすっきり描き、ほおとくちびるには淡いピンクの紅が塗られていた。アンドレは思わず駆け寄って強く抱きしめたい衝動に駆られた。

  

「アンドレ、なぜ黙っている?やはり私はのっぽのかかしか?」

「違う。絶対に違う。お前があまりに美しすぎて----。」

「オスカルさまのブロンドの髪には、ブルーのドレスが映えます。青と黄色は互いに補色の関係ですから。せっかくドレスをお召しになられたのですから、少々メークをしてさし上げました。」

「マダム、マリ。何というサプライズを!ありがとうございます。オスカル、美しいよ。本当に美しい。もうしばらくお前のその姿を見ていたい。」

「そうか?このドレスは前に着たものより身動きが楽で、しかも苦しくない。だが----脚がスースーする。」

「おほほほ、オスカルさま。人生で2度目のドレスですもの、脚が慣れていなくて当然です。アントワネットさまも確かシュミーズ・ドレス姿で、肖像画を描かせていましたね。これからはこういうドレスがだんだん受け入れられていくと思います。」

「しかしアンドレ、ばあやがこのドレスを見たら、なんと言うだろう?『まあ、お嬢さまったら!それは下着ではありませんか!』とでも言いそうだな。そうしたらこう答えてやろう。『しかしばあや、アンドレはこれが好きなのだよ。』と。」

「おいおい、やめてくれ。」アンドレは顔を赤くした。

「ほほほほ、そうですわね。ご年配の方はなかなかこのようなデザインは、お認めにならないでしょうね。普及するにはまだまだ時間がかかりそうです。そうそう、せっかく美しく装ったのですから、お二人でしばらく街歩きを楽しまれてはいかがですか?この先に最近カフェがオープンしましてね、いつもとても賑わっています。普段は軍務でお忙しいでしょうから、パリに出てきたときくらい、二人だけの時間をお過ごしになるとよろしいかと。」

「カフェか。しばらく行っていないな。」

「ドレスを着たお前とカフェに行く。何だかドキドキするな。」

「そうか?」

「オスカルさまに、殿方の視線が集中しますわよ。アンドレさま、油断禁物ですよ。しっかりエスコートしてくださいね。カフェはこの建物を出て、北に100mくらい歩いたところにあります。すぐにわかります。ではゆっくりと楽しんでいらしてくださいね。」

 

 アンドレがオスカルの左側に立ち右腕を曲げると、オスカルは左腕を絡めた。

「裾を踏まないようにしないと。アンドレ、ゆっくり歩いてくれ。」

「わかった。」

二人がカフェに向かって歩いて行くと、通り過ぎる人々が足を止め振り返る。その視線の先はオスカルに向けられていた。

「オスカル、すごいぞ。道行く人はお前の美しさに圧倒されている。」

「私たちは普通の恋人同士に見えているのだろうな。不思議だな、お前とは25年近く同じ屋根の下で暮らし、いつも一緒に生きてきたのに。」

「そうだな。おれも不思議な気分だ。でも悪くないな。オスカル、足は痛くないか?」

「大丈夫だ。」

「お前のドレス姿、奥さまやばあやはさぞ喜ぶだろうな。今日のこの姿もお見せしたいくらいだ。」

 

 道すがら、アンドレはちらっちらっとオスカルを盗み見する。もともと目鼻立ちがはっきりしている顔だから、メークするとさらに映える。ほんのり紅いくちびるがいつも以上に艶めかしく、自分のくちびると重ね合わせたくなる。軍服で隠れている首筋の白さと細さ。そしていつもは肩章を付けているから気にもとめなかったが、実は優しいなで肩をしている。軍服で隠されていた胸の膨らみは、形良い上向きでなだらかな曲線を描いている。ああ、触れてみたい。ベルトの下にはあまりにも華奢な腰があった。歩くたびに前に出る太腿のシルエット。オスカル、お前はやはり女だ。お前はこんな体をしていたのだな。

 

「オスカル、着いたぞ。少し休んでいこう。」

 二人が店に入ると、客たちは一斉に視線を彼らに向けた。ギャルソンは二人を、店の一番奥のテーブルに案内した。周囲から遮断され、二人だけで話すことができる絶好の位置だった。向かい合わせに座る。

「カフェを2つでいいか?」

「あっ、私はアイスクリームにする。」

「ウィ。」若いギャルソンはさりげなくオスカルにウインクした。

やれやれ、オスカルがドレスを着ると、余計な心配が増えるな。もっとも本人はそのことをまったく自覚していないが。

「ふう。疲れた。」

テーブルの上に置かれたオスカルの右手に、アンドレはそっと自分の手を重ねた。

「疲れたな。でも来て良かったよ。ありがとう。」

 真っ正面から見るオスカルにいつもの軍人の表情はなく、愛する人と一緒にいる幸せに満たされた一人の女性の顔があった。柔和で穏やかで、ドレスの雰囲気とぴったり合っている。アンドレは椅子をオスカルに近づけ、彼女の横に座り、ほおに軽くくちづけした。嬉しそうにアンドレを見つめ返すオスカル。その青い目に引き寄せられ、アンドレは今度はくちびるにそっとキスをした。

「おい、人が見ているぞ。」

「嫌だ!」

 嬉しいけれど恥ずかしい。まるで乙女のようなオスカルに、アンドレはいっそう愛おしさを感じる。今まで彼女が無理に封じ込めてきた感情を、解き放してやりたい。男が女を、女が男を愛するのはごく自然なことなのだと。そしてその愛はプラトニックなものから、いずれ----。

 

 二人の間にコーヒーとアイスクリームが置かれた。

「アンドレ、結婚指輪を-----どうもありがとう。」小さな声で下を向いて言った。照れくさくて、アンドレの顔を見ることができなかった。

「そのことだけど----。夫婦の間に秘密があってはいけない。そうだろ?」

「もちろん。」

「では、俺の話を聞いてくれ。」

 

続く



8 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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こんにちは (アラレ)
2015-10-03 15:57:51
続けてのSSアップ有り難うございます、
幸せそうな二人が伺えます
ドレス姿のオスカルとのデート、アンドレはさぞや嬉しい反面、周りのオスカルへ注がれる視線が気になってしょうがないんでしょうね、
SSと一緒に張り付けてある写真が、その場を連想させてくれて嬉しいです

先程、アクアスキュータムのポップアップキャンペーンに、行って来ました、
勿論見てるだけ~ですが、近く?モノレール一本で行けるので、行かなければってね、
実際の店舗の所でなく、デパートの入り口近くにあったので、気兼ねなく、
お店の方も、とても優しく、
「どうぞ、こちらから撮影するのがお薦めですよ」と、「初日の日は、宝塚ファンの人が沢山撮影来てましたよ」
と教えてくれました、と冊子もどうぞ、と頂いてまいりました、
その後、実際の店舗も覗いて・・・
とても高級感があり、ちら見だけしました、
同じデパートで、以前ソシエの体験もしたな~
その時は、クリアファイル貰いました
梅田阪急の似顔絵は何方か書いて貰った方はいえるんでしょうか?気になります
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アラレさま (りら)
2015-10-03 18:49:11
 コメントをどうもありがとうございます。
SSはまだまだ書き方が大雑把で、読み返すと至らない点ばかり目につきます。アラレさまに読んでいただけて、本当にありがとうございます。

 アクアスキュータムの「ポップアップ・キャンペーン」って何だろうとずっと思っていたのです。まあ、漫画冊子はもう頂いたから行かなくてもいいかなと思いつつ、気にはなっていました。ディスプレイが通常と変わっているのでしょうか?そして撮影可なのですね。私が先月行った都内の某デパートの店舗には、最初から「撮影はご遠慮ください。」の札が下がっていました。

 そして---アラレさま、ソシエの体験もされたのですね。クリアファイルは、アントワネットがワンピース、オスカルがシャツとパンツを着ているものでしょうか?あの漫画もよくできていましたよね。

 今日の阪急うめだ、どうだったんでしょう?お金持ちのアジアからの買い物客の方が、旅の思い出に描いてもらったかもしれませんね。
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キャンペーン (アラレ)
2015-10-03 19:53:17
りらさまはキャンペーン中に、店舗に直接行ったのでしょうか?私は、そごU+2B55に行ったのですが、
通常店舗は3階にあるのですが、
キャンペーンは、1階のちょっとしたスペースに、トレンチやスカーフなどが置いてあり、
その周りの柱に、イギリスの旗を持ってるあの
パネルと、オスカルとアンドレのトレンチ着てるパネル一枚ずつ、
日経新聞の茶のトレンチですね、の三枚がありました、お店方が言うには、
キャンペーンやってる所は、みなこんな感じだと言ってましたが、どうなんでしょうか?
もし、キャンペーン外の時でしたら、今なら大丈夫かも?
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アラレさま (りら)
2015-10-03 20:50:38
 私はポップアップキャンペーンを実施していない普通の店舗に行きました。日経新聞に描かれた、ハニーベージュのコートを着たオスカルとアンドレの縦長のポスターが柱に貼られており、イギリス国旗を持っているイラストがA4サイズのプラスチックケースに入って、小テーブルに置かれていました。ディスプレイはこの2点だけでした。他の店舗もこんな感じなのでしょうか?機会があれば他の店舗も覗いてみたいです。

 Love & Trench のキャンペーンがなかったら、一生アクアスキュータムのお店に行くことはなかったと思います。普段、自分と縁のない世界を見せていただき、楽しかったです。(試着、したかったなあ。)
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ドキドキ (marine)
2015-10-03 20:55:33
りら様こんばんは。
軍服の下にいつもは隠されていたオスカルのしなやかな体つきにドキドキするアンドレ。ジャルジェ邸でのリラックスしたブラウスとキュロット姿でも、二の腕は見えませんものね。オスカルは、自分の女性としての美しさを認識してないところがまたアンドレをハラハラさせるのでしょう。と同時に誇らしくもありますよね、きっと。
ありがとうございました。
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marineさま (りら)
2015-10-03 23:51:47
 コメントをありがとうございます。
 普段は肌の露出が少ないオスカルの、隠れた部分があらわになり、アンドレは落ち着かない気分になったかと思います。

>オスカルは、自分の女性としての美しさを認識してないところがまたアンドレをハラハラさせるのでしょう。

 オスカルは、いい意味で天然ですよね。無防備というか。原作でもブラビリ以降、軍服を着ていても、すごく女性らしさが出ていたように思えます。アンドレ、気が気ではなかったはず。美女を恋人に持つと、気苦労も増えますね。
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Unknown (アラレ)
2015-10-04 03:25:22
しつこく登場。りらさまはキャンペーンやってない所だったのですね、
私が行った所の通常店舗では、ポスター、パネルとかは見なかった気がします、
それとも、1階でキャンペーンやるから下に下ろしたのかな?
私も通常店舗だも飾ってあるのか気になり、行って見たら、何も無かったので、素通り?
奥にはあったかも?しました、
他に、エスカレーターの登り降りする途中のは壁にB4位のサイズで、オスカルアンドレのトレンチ着たポスターが何枚かあり、
写メ撮りたかったけど、エスカレーター動いてるので、撮れませんでした、
因みに、お店の方お薦め撮影ポイントは、柱の斜めから撮ると、オスカルアンドレがツーショットで撮れるって、流石心得ております、
試着をしてる方が羨ましかったけど、私が着るとはみでて・・・いや、破けて・・・です
りらさまも時間があれば、是非キャンペーンやってる店舗へ行って下さい、
と言っても、キャンペーン期間短いから行けるかな?近くにあればいいのですが
そして、ソシエのクリアファイルは、オスカルさま、アントワネットさまのあの絵でしたよ
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アラレさま (りら)
2015-10-04 08:14:35
 コメントをありがとうございます。
ポップアップキャンペーンだけど、特別何か他の店舗と大きく変わったディスプレイがあるわけでなく、基本的には日経新聞に載ったトレンチを着た2人と、それ以外の2枚のイラストが飾られている---そんな感じでしょうか?私も機会があれば覗いてみたいと思いますが、期間限定なのでどうなるか?アラレさまの書き込みを読ませていただき、行った気分になっております。ありがとうございます。

 ソシエのファイルの絵、あれですね。銀座4丁目交差点和光前あたりで、オスカルとアントワネットが立っているイラストでしたっけ?これは貴重ですね。大切に保管されているのでしょうか?
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