SS ７月１１日 出動命令下る

　７月１１日---とうとう出動命令が下った。いつかはこの時が来ると思っていた。できることなら来てほしくなかった。だがこの時が来ることを覚悟し、自分の身に振り方についてずっと考え続けてきた。

　生まれた時から将来は父のあとを継いで　王家の人々を守る軍人になるよう育てられた私。そのような生き方を私に与えた父をまったく恨んではいない。もし当たり前の女性として育っていれば、それはそれでまた別の人生があったろうし、今とは違う形の幸せを手に入れただろう。けれど私は今の生き方に誇りを持っている。後悔はない。

　軍隊とは国民を守るためのものであって、国民に銃を向けるためのものでない。明後日のパリ出動はこれまでの戦いとは、全く違う展開になるだろう。私の心は既に決まっている。ただその瞬間、臆病者、卑怯者にならないだろうか？それだけは何としても避けたい。私にはアンドレが付いていてくれる。アンドレ、軍人でもないおまえを、戦闘現場に連れていく私の甘えとわがままを許してくれ。でもおまえがいないと、もう私は生きていけない。こんな時だからこそ、おまえにそばにいてほしい。

　そしてアンドレとのこと。もう時間がない。彼の妻になりたい、いやならなくては。明日しか機会はない。２０年近く、私だけを見守り、愛し続けてれた彼。彼の愛に応えたい。今までずいぶん遠回りさせてしまった。けれどもう時間がない。明日、彼の妻になろう。神さま、どうか私たちをお守りください。そしてアンドレ、この戦闘が終わったら結婚式を挙げよう。