ブログ あさふれ

朝日新聞読者の皆様へ「あさひふれんど千葉」が地域に密着した情報をお届け!

リレー随筆(松永伍一)「ありがとう」の別れ

2006年02月02日 | コラム
去年の晩秋に妻が卵巣がんで死んだ。六十七歳であった。少しは早過きると思うが、これも運命と諦らめるしかない。
二年前にがんと判って抗がん剤の投与を十回やって摘出手術をした。私たちは近代医学に期待し、それに頼った。
妻は髪の毛が抜けたことを女として歎いた。そして抗がん剤の副作用に苦しんだ。治る望みを初めは抱いていたが、そうもいきそうにないと感じて、一年後に腐院との関係を断った。自宅での自然療法に切り替えた。苦しみを少しでも減らしてやりたいとの私たちの願いは、妻の望みと合致していた。
 患者の免疫力を高めるというホメオパシーやフうワーエッセンスを少量服用したり、ビワの葉の温熱療法などをつづけた。
二週問に一回銀座にある診療所に通った。
 「からだ全体がだるい」と言って寝込んだのは去年の夏からで、そのころから妻にはうつの症状が出姶め、「死にたい」
「みんなに迷惑をかけるばかりだから、生きていても仕方がない」を連発するようになった。妻への愛情が逆転したりするとき、私たちは介護の難かしさを実感した。
 幸いにも激痛を訴えることはなかったから終末医療を施す病院に入れずにすんだ。自宅で最期を迎えさせてやりたかった。
 死はゆっくりと静かに訪れた。三日前には「葬式は家族だけでやってもらいたい」と遺言した。私たちに一人一人「ありがとう」とお礼を述べ、孫たちへも励ましの言葉を伝えた。私は結婚生活四十八年をふり返って「ありがとう」を返した。妻の伸びた髪の毛はふさふさと美しかった。

最新の画像もっと見る