先月ぐらいのことだったか。
日中、猛暑の梅田をいつもの様に自転車で移動していたら、若い警察官に呼び止められた。
「あの、すんません!今、盗難自転車の取り締まりしてまして・・・この自転車、盗難登録されてはります?」
それで今日はそこらじゅうに警察官が立ってたんかと思いつつ、協力する為にハンドルの下に貼られている盗難登録のステッカーを指差した。
「随分長いこと乗ってはるみたいですね?何年前に買いはったんですか?」
「え?もう覚えてないわ。多分、15年ぐらい乗ってるんとちゃうかな。」
確かに僕の自転車は相当年季が入っていて、ずばりボロい。カゴも今にも落ちそうだ。
そうゆうことか。相当ボロいから盗難車の可能性ありと思って呼び止めたとゆうことやな。
「ボロボロでしょ?カゴぐらい付け替えたら良えのにね、お恥ずかしい。」
やや自虐的な僕の言いまわしを気にしたのか、若い警察官は急いで言葉を走らせる。
「いえいえ、こんなになるまで・・いや、こんなに長く乗っておられるのは、それだけ物を大切にされているとゆうことですから、素晴らしいことです。」
物を大切に・・随分、粗雑に扱ってるけどな。
「ご協力有難うございました。暑い中呼び止めてしまいすんませんでした。善良な市民のご協力に感謝致します。お仕事頑張って下さい。」
これまた大そうに。そんな判を押した様な模範的なコメントせんでいいのに。
でも、歯の浮く様なこと言うてからにとは思わなかった。
善良な市民、お仕事頑張って下さい、か。
シャツの下には防弾チョッキだろうか、盗難自転車の取り締まりと言ってたけど、よく見ると凄い重装備だ。若さのせいか線が細い印象だが、めちゃくちゃ鍛え上げられた体である。真っ黒に日焼けして、汗が滝の様にながれている。
「そちらこそ、こんな暑いのにご苦労さんです。ほな頑張って下さい。」
僕が警察官に返した言葉は、おべんちゃらや社交辞令ではない。
使命感を持った彼の目が、何年経っても曇らないで欲しいと思ったのと同時に、少し気分が涼しくなった。
その場をあとにし、体感温度がお好み焼き屋の鉄板の熱さぐらいあるであろう南森町の歩道を、天神橋六丁目方面に走らせた。
「ほんま、カゴぐらい付け替えよ。」
そんなことを考えながら。