アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 吉良上野介の影

2022-03-18 10:43:48 | 漫画

 
             赤穂事件 連名による訴え



堀田正俊(大老)
「其方は、水戸守に仕えておるのか?」

山鹿素行(儒学者)
「拙者は、藤井紋太夫殿の紹介で
水戸守に会う事が許されました」

「水戸学の師である朱舜水先生を失い
幕府の方針を定める学問上の信念が危険に晒されております」

舜水の学問は、朱子学と陽明学の中間にあるとされ、理学・心学を好まず空論に走ることを避け、実理・実行・実用・実効を重んじた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

堀田正俊
「んんゥ」
「其方は、朱子学を否定して、
幕府の方針に馴染まず、
赤穂に、お預けとなった」
「そうじゃな!」

山鹿素行
「左様に御座います」

堀田正俊
「また、江戸に戻って来た理由は何じゃ?」

山鹿素行
「某が朱子学を否定するのは
それが今の時代にそぐわないからで御座います」

「将軍綱吉様は朱子学を信じて
迷信に怯えております」
「怯えて、引き籠っております」
「怯えて、無駄な悪霊退治の儀式に大金を費やしております」

堀田正俊
「上様が引き籠り、
儀式にのめり込む事に問題は無い」
「上様が、政務に口出ししない環境が良いのじゃ」

山鹿素行
「今は、儀式にのめり込んでおりますが
これからは、御触れを連発する事が懸念されます」
「儀式では解決出来ぬと悟れば
命令が下ります」
「命令に効果がなければ
更なる命令が下されます」
「綱吉様の怯えの原因は朱子学なので御座います」

堀田正俊
「水戸守は何と申しておった」

山鹿素行
「はい」
「水戸様は、朱子学の危険性を理解しております」
「朱舜水先生の教えも
朱子学を全面的に推し進めるのではなく
空論を排除する事に重きを置いております」

堀田正俊
「んんゥ」
「水戸守の後ろ盾があれば、検討する価値はありそうだ」

山鹿素行
「はい」
「宜しく、お願い申し上げます」

堀田正俊
「申し願いの書状を持っておるのか」

山鹿素行
「はい」
「某は、一度は幕府から拒否された身ですので、
将軍綱吉様の寵愛を受けております犬千代兄弟の連名書状を
持って参上致しました」

堀田正俊
「何と!」
「赤穂の推薦を取り付けておるのか!」

山鹿素行
「左様に御座います」

堀田正俊
「それから、藤井紋太夫殿の書状を見せよ!」

山鹿素行
「はい、これに御座る」

堀田正俊
「この書状は、儂が預かるぞ」

山鹿素行
「それは、困ります」
「藤井紋太夫殿が水戸様を気使い
変な疑いを持たれぬように
書状は焼き捨てるように
きつく念を押されております」

堀田正俊
「儂は、水戸守の後ろ盾で大老をしておるようなものじゃ」
「儂には、上様(綱吉)の後ろ盾が薄い
水戸守の助けが必要なのじゃ」
「この書状は血判状の代わりじゃ」

山鹿素行
「しかし」
「藤井紋太夫殿と硬く約束を致しました」
「その書状は焼き捨てる必要が御座います」

堀田正俊
「朱子学を排除する事は
上様を否定する事じゃぞ」
「儂一人に責任を負わすつもりか!」

山鹿素行
「しかし」
「それは困ります」


             赤穂事件 徳川綱吉の侍講



木下 順庵 (徳川綱吉の侍講)
「上様は、養生法にて正気を保たれました」

柳沢 吉保 (側用人)
「左様か」
「よかろう!」
「其方には、引き続き侍講の名目を与える」

木下 順庵
「有難き幸せに御座います」

柳沢 吉保
「其方は、水戸学を論破出来ると豪語しておるな」

木下 順庵
「はい」
「完膚無きままに、打ちのめしてご覧に入れましょう」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「同じような儒学に思えるが
何が違うのか?」
「答えてみよ!」

木下 順庵
「はい」
「水戸学は、朱舜水の考えに基づく学問ですが
もう、朱舜水は死にました」
「水戸学も朱舜水と共に死んだので御座います」

柳沢 吉保
「光圀が継承しておるぞ」

木下 順庵
「儒学は、日頃の修行なくして成就する事は為りません」
「水戸学は、俗に染まり権威を失って御座います」

柳沢 吉保
「山鹿素行は如何じゃ?」

木下 順庵
「その者は、大変に危険な人物で御座います」
「決して、幕府に近づけては為りません」

柳沢 吉保
「同じ儒学ではないのか?」

木下 順庵
「その者は、朱子学を否定して
幕府の転覆を目論んでおります」
「始末する事が肝要かと・・」

柳沢 吉保
「其方の勧める古学も
朱子学を否定して、暴君を排除する事を正義としておるぞ」

木下 順庵
「古学は朝廷の暴挙を否定する事を旨とするのに対して
素行の主張は幕府の否定に御座います」
「幕府の権力を否定する事を旨としております」

柳沢 吉保
「左様か!」

木下 順庵
「はい」
「水戸学も怪しいと思いますぞ!」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「光圀は上様の失脚を狙っておるのか?」

木下 順庵
「はい」
「光圀の呪いが上様を苦しめております」
「上様を救うには、光圀を排除する必要が御座います」

柳沢 吉保
「悪霊退治の儀式では、上様を救うことは出来んのか!」

木下 順庵
「人心が及ぼす力は体に及び
身体を蝕むので御座る」
「上様は、異常に怯え、苦しみ、体調を崩しておられる」
「これは全て光圀の怨念の仕業」
「お急ぎ下され」

柳沢 吉保
「如何すればよい!」

木下 順庵
「はい」
「先ずは、仁の心で御座る」
「上様による生類憐みの令を通す事が
絶対に必要な事なので御座います」

柳沢 吉保
「それは、大老が拒否しておる!」
 
 
              
               赤穂事件 朱子学の力



木下 順庵 (江戸幕府の儒官)
「恐れながら申し上げます。大老は専横が過ぎます」
「上様に逆らうことは不忠で御座います」

堀田正俊(大老)
「野良犬の保護を重要と申すか!」

木下 順庵 
「これ、義に御座います」
「堅く正義を守り、自らの利害ではなく
将軍綱吉様の為に尽くすことが忠臣で御座います」

堀田正俊
「其方は儒官として将軍の侍講を務めておるが
幕府の要人は、おのおのの武士道を持っておる」
「幕府を統括する儒官とはいえ
犬の保護を義と申すか!」

木下 順庵
「これ、信に御座います」
「心が清らかに澄みわたっておれば
おのずと、真実は見えて参ります」
「心を見つめ直し
荒々しさを失くし
優しさに目覚めれば
おのずと、朱子学の心意が理解出来るので御座います」

堀田正俊
「朱子学は迷信じゃ!」
「地震や雷が、悪霊の仕業だと申すか!」

木下 順庵 
「これ、智に御座います」
「一切の事象や道理に対して的確な判断を下す為には
心中の惑いを振り払う必要が御座います」
「人心は万物の働きと同化され
人心の腐敗が、災厄を招くので御座いますから
これ、悪霊の仕業と人心は同化され
人心に悪霊が及ばぬ様に
これ、智が御座います」

堀田正俊
「上様は、悪霊払いの儀式にのめり込んでおる」
「もう、迷信を信じるのはやめろ!」

木下 順庵 
「おおおォ」
「何と!」
「朱子学の神髄を蝕む言動!」
「上様に対する謀反!」
「大それた事!」

堀田正俊
「朱子学が迷信だと申す事が、謀反とは、
如何いう了見じゃ!」

木下 順庵 
「朱子学の神髄は深き学問の探求より
いにしえより延々と伝承された真の叡智で御座います」
「その朱子学を迷信と言い
罵る事は、朱子学を信望してやまない上様への
冒瀆にほかならぬ、謀反に御座います」

堀田正俊
「言い掛かり、難癖じゃ!」
「上様に迷信を信じ込ませて
悪霊がいるから退治すると申すのか!」
「悪霊が日光地震を起こしたとでも
申すのか!」

木下 順庵
「ほォ」
「開き直りで御座いますか?」
「では」
「大老は山鹿素行を招き入れたので
御座いますかな?」
 
堀田正俊
「・・・」
「朱子学の都合のよい部分を使い
幕府の儒官となって
幕府の政務に口を挟む皮算用が見て取れる」

木下 順庵 
「これは、これは」
「某、上様の侍講に対して
言っては為らぬ事を申しましたな」
「よいのですかな」
「某は、上様の侍講ですぞ」
「上様の心情は全て手中に御座る」
「大老は、おとなしく
上様の指示に従えばよいのです」
「逆らえば、謀反ですぞ!」

堀田正俊
「野良犬の保護は、其方が自腹を切ってやればよい」

木下 順庵 
「あれあれ」
「大老は、やはり学問が足りませんな」
「修行が足りぬから
真理が見えん」
「全てを金で解決しようと為されておられる」

堀田正俊
「とにかく、生類憐みの令は許さん!」

木下 順庵 
「上様は、苦しんでおられます」
「上様を救う為には
生類憐みの令を発動する以外の良策は御座いませんぞ!」

堀田正俊
「上様を苦しめておるのは
其方が作った迷信や妄想じゃ
悪霊やら災厄を闇雲に使って
上様の心身に悪影響を与えておる」
「馬鹿げた迷信を止める事じゃ!」

木下 順庵 
「ほほーォ」
「主張が山鹿素行にそっくりそのまま」
「同じじゃな」

堀田正俊
「皆が同じ考えを持つのか
それぞれが違う考えを持つのか
学問で決めるべきではないぞ!」

木下 順庵 
「幕府に対抗する者を庇うのですかな?」

堀田正俊
「如何しても儂を謀反者にしたいようじゃな!」

木下 順庵 
「何を仰せですか」
「謀反と為らぬ様に
朱子学を学べば良いのです」
「学問を習得する為には
長い年月が掛かりますが諦めては為りません」
「朱子学は真理で御座いますぞ!」

堀田正俊
「野良犬の保護か!」



            赤穂事件 歴史の闇



稲葉正則(大政参与)
「老中は側用人に従い、
大老を専横と言って批判しておる」
「いよいよ、後が無くなった」

稲葉正休(若年寄)
「左様」
「特に、儒学者の木下順庵は曲者だ」

稲葉正則(大政参与)
「大老が失脚するような事があれば
我らも、ただではおられん」
「一度追放処分を受けた
山鹿素行が水戸守の後ろ盾を受けて
幕府に復帰したそうじゃ」
「先ずは、
素行を取り立てて
順庵を排除せねばならんぞ!」

稲葉正休(若年寄)
「側用人は老中に取り入り
我らの失脚を狙っております」

稲葉正則(大政参与)
「情けない奴らじゃ」
「幕府の体制を改革せねば為らん!」
「側用人の権力を削ぐには
順庵が邪魔じゃ」
「何か良い方法は無いか!」

稲葉正休(若年寄)
「先様(家綱)の偽の遺言が御座る」

稲葉正則(大政参与)
「んんゥ」
「上様の正当性が失われては幕府の危機じゃ」
「偽の遺言は、まだ封印しておく必要がある」

稲葉正休(若年寄)
「某は、大老と反目して老中と共に行動をしておりますから
大村加トを証人として側用人に圧力を加えれば
老中は我らに協力するかも・・」

稲葉正則(大政参与)
「左様か・・」
「大老は孤立しておる」
「独断で政務を取り仕切っておるから
老中の反発を受けておる」
「幕府が体制を保つ為には
老中の協力が不可欠」
「先ずは、大老の孤立を解消する必要があるぞ」
 
稲葉正休(若年寄)
「今、大老は
上様の御触れを拒否出来る程の権力を
持っておりますから
今更、老中を引き入れても
無駄だと申しております」

稲葉正則(大政参与)
「大老が上様を凌ぐ権力を持ち
独断で政務を取り仕切っておれば
老中は存在意味を失う」
「大老は専横を止める必要があるな」

稲葉正休(若年寄)
「では、某が正俊殿と話し合い
老中との協議に応じるように
説得致しましょう」

稲葉正則(大政参与)
「んんゥ」
「今は、幕府の体制が三つに分解されておる
先ずは、我らは老中以下と共闘して
順庵に臨み
順庵の恐ろしい朱子学を捨て去る必要がある」
「順庵は危険じゃ」
「我らには、水戸学が必用じゃ!」

稲葉正休(若年寄)
「順庵を追放できれば
上様を惑わす、悪霊も否定出来ます」
「順庵は朱子学を悪用して
上様を誑かしております」

稲葉正則(大政参与)
「しかし」
「生類憐みの令は厄介じゃぞ」
「順庵は弁が立ち教養があるが、
策略家じゃ」
「上様の弱みを知っておる」
「上様を怨霊を用いて怯えさせ
その、治療と称して安心感を与える」
「治療は、悪霊退治の儀式から始まり
生類憐みの令に至った」
「上様は、もう順庵を信じ込んでおる」
「これは全て順庵の策略じゃ」

稲葉正休(若年寄)
「上様から順庵を取り上げるのは
難しいのでは?」

稲葉正則(大政参与)
「荒療治が必要じゃ!」

稲葉正休(若年寄)
「如何すればよいので?」

稲葉正則(大政参与)
「順庵を・・」

稲葉正休(若年寄)
「順庵に代えて、水戸学を・・」

稲葉正則(大政参与)
「山鹿素行を招き入れる!」

稲葉正休(若年寄)
「んんゥ」
「暴君を排除するのですか?」

稲葉正則(大政参与)
「其方は
誰が暴君だと思う?」

稲葉正休(若年寄)
「大老?」

稲葉正則(大政参与)
「身内を排除して如何する!」

稲葉正休(若年寄)
「今、一番の専横は
将軍の命令が拒否出来る程の権力者大老で御座る」
「山鹿素行を取り入れるのであれば
暴君は大老では有りませんか?」

稲葉正則(大政参与)
「大老は上様の家臣じゃぞ」
「暴君には為り得ん!」



 
            赤穂事件 親子の危機  



戸田忠昌(老中)
「いよいよ、正念場じゃぞ」
「我らの真価が問われておる」

秋元喬知(若年寄)の実父は戸田忠昌 
養父秋元富朝は、甲斐谷村藩の第2代藩主。館林藩秋元家3代。
秋元富朝の娘(戸田忠昌正室) 養子は喬知

秋元喬知
「はい」
「承知しております」

「我らは、館林様の恩恵でこの様に優遇を受けております」
「上様(綱吉)の恩に報いる事が出来ます事は
無上の喜びとなります」
「我らは、上様のこの上ない忠臣となる事が出来ます」

戸田忠昌
「んんゥ」
「良く申した」
「大老は山鹿素行を取り入れ
木下順庵を排除しようと企てている」
「大老の専横は、水戸守の後ろ盾にある」
「そして、光圀は、我らの秘密に気付いた」

秋元喬知
「では、先様(家綱)の偽の遺言を渡した事が
ばれたので・・」

戸田忠昌
「何故だか分からぬが
光圀は偽の遺言を咎める事を躊躇しておる」
「しかし、大老が巨大な権力を持っているのは
上様にうしろめたさが有るからに相違ない」
「このまま大老が権力を握っておれば
上様は怯え続ける事になる」
「上様の精神を安定させ
静養の為に必要なのは
木下順庵の朱子学に基ずく人心の仁にある」
「順庵は仁をもって
生類憐みの令を推奨なされた」
「今、上様を救う方法は
生類憐みの令を発令し、庶民に仁の心を広める事以外はないぞ」

秋元喬知
「大老が決断すれば
偽の遺言が公表され
我らは打ち首、改易は免れません」
「大老が黙っているからと言って
安心は出来ません」

戸田忠昌
「んんゥ」
「上様の御触れを拒否しきれなくなれば
最後の手段として公表される筈」
「もう、時が無いぞ」

秋元喬知
「はい」
「では」
「側用人からの大老を始末せよとの御命令・・」
「如何に・・・?」

戸田忠昌
「我らが直接手を下す事は無策」
「相打ちが良いと思うぞ」

秋元喬知
「では」
「稲葉を仕立てますか」

戸田忠昌
「大老と稲葉を相打ちさせる事が良策」

秋元喬知
「今、老中と大老は反目しておりますから
老中で後片付けをしては・・・」

戸田忠昌
「よし」
「儂は、大久保忠朝に協力を求める」
「お前は、稲葉の覚悟の偽遺言を用意しておけ」
「稲葉は覚悟の討ち死にをしたとな・・」

秋元喬知
「では、阿部正武を加え
作戦を・・」

戸田忠昌
「大老が始末されれば
我らは安泰、上様は安堵なされる」
「側用人からの催促もある」
「これが我らの仕業だと分からぬ様に
綿密に作戦を練らねばならんぞ」

秋元喬知
「お任せ下さい」

戸田忠昌
「それから、大村加トの名刀を用意しておけ」

秋元喬知
「それを使うので・・」

  
              赤穂事件 責任転嫁



将軍綱吉
「大老は誰に切られた・・」

柳沢吉保
「はい、若年寄稲葉に御座います」
「大老と稲葉は
切り合いの末の相打ちに御座います」

将軍綱吉
「儂のせいか?」

柳沢吉保
「上様には責任は御座いません」
「あの者達の喧嘩に御座います」

将軍綱吉
「儂のせいにする者がおるかも知れんぞ・・」
「殺生をしては為らんぞ!」
「順庵が申しておる」
「儂の苦しみは、仁によってのみ癒される」
「いたわりの心根が、儂の苦しみを消し去るのじゃ」
「大老は何で死んだ?」

柳沢吉保
「はい」
「互いに切り合いの喧嘩で御座います」

将軍綱吉
「儂のせいか!」

柳沢吉保
「上様には責任は御座いません」

将軍綱吉
「おい」
「嘘を付くと、真実に背くぞ」
「真実と正しい行いによって
いつくしみは成立するのじゃ」

柳沢吉保
「稲葉正休は、
淀川の治水事業の任から外される事に不満をつのらせ
切りかかり、喧嘩となりました」
「上様の責任は
一切御座いません」

将軍綱吉
「その話は何度も聞いた」
「切合いで共に死んだのか?」

柳沢吉保
「最初に切りかかった稲葉は
老中が切りつけました」
「噂を気にしては為りません」

将軍綱吉
「儂のせいか?」

柳沢吉保
「心配はいりません」
「上様には、静養が必要で御座います」

将軍綱吉
「光圀が怒るぞ・・」

柳沢吉保
「いいえ」
「光圀の力は失われました」
「もう、光圀を恐れる必要は御座いません」

将軍綱吉
「何故じゃ・・」

柳沢吉保
「光圀は大老の後ろ盾となり
生類憐みの令を阻んでおりましたから
大老を失えば、もう力は有りません」
「光圀は無力となりました」

将軍綱吉
「いやいや」
「光圀は色々と儂の弱みを握っておるぞ」
「儂を誅殺しようと企んでおるぞ」
「・・・・・」
「光圀を始末しろ!」

柳沢吉保
「御意」
「光圀を捕らえ、処罰致します」

将軍綱吉
「えェ」
「ちょっと待て」
「捕らえるのか?」

柳沢吉保
「如何致しますか?」

将軍綱吉
「お前が考えろ!」

柳沢吉保
「では」
「今回の事件を光圀のせいにしましょう」

将軍綱吉
「お前に任せる・・」


           赤穂事件 光圀の退却




徳川光圀
「大老と稲葉正休が喧嘩の末
共に殺害されたと・・」

林 鳳岡
「上様は苦しみ、責任転嫁を考えておりますぞ」
 
徳川光圀
「儂の罪とな?」

林 鳳岡 
「大老殺害に使われたのは
大村加トの名刀」
「そして、今は大村加トは水戸の家臣」
「更には、
水戸家老の藤井紋太夫と山鹿素行の結託が
明らかになりましたぞ」

徳川光圀
「上様と、直接 話をせねば為らんな」

林 鳳岡
「上様は、側用人と順庵以外近づけません」
 
徳川光圀
「其方も、会えんのか?」

林 鳳岡
「完全に引き籠っておられます」
 
徳川光圀
「承知した」
「儂は、隠居の申し出をして
一旦水戸に帰る事にする」

林 鳳岡 
「英断に御座います」

徳川光圀
「確認じゃが
切りかかった稲葉は誰に殺害されたのじゃ?」

林 鳳岡 
「はい」
「老中三名に御座います」

徳川光圀
「稲葉は大老と共に
生類憐みの令を阻止しておった」
「大老を切り殺す動機が無いぞ」

林 鳳岡 
「稲葉殿は
大坂の淀川の治水事業に関する意見対で
大老を憎んでおりました」

徳川光圀
「大坂の事業は間接的に関わっておった
江戸にて関与は難しい
意見対立はこじつけじゃぞ」

林 鳳岡 
「左様で御座います」
「これは、全て上様の指示で御座います」

徳川光圀
「んんゥ」
「もう、生類憐みの令は阻止出来んのか・・」

林 鳳岡 
「出来ません」

徳川光圀
「儂が江戸に居座れば如何なる?」

林 鳳岡 
「大変に危険で御座います」
  
             赤穂事件 お目こぼし




安藤重博(奏者番)
「光圀が逃げました」

戸田忠昌(老中)
「んんゥ」
「所詮、我らが太刀打ち出来る相手ではない」
「逃げてくれて良かったぞ」

安藤重博
「では、光圀の事は、ほっておけば宜しいので?」

戸田忠昌
「大老と稲葉を同時に潰せたから
もう、光圀には対処出来ん」
「上様に対抗する事は出来ん」
「だから逃げたのじゃ」

安藤重博
「上様は、生類憐みの令が発令され
事の他、お喜びの事」
「気持ちが晴れて
健やかに為られました」
「仁の心が、病を消し去ったと申しております」

戸田忠昌
「んんゥ」
「生類憐みの令が上様を救ったのじゃ」

安藤重博
「上様は、犬や猫、鳥を憐れむように申しております」

「鳥を撃っては為らぬ」
「犬や猫をつないでは為らぬ」

「これで、上様は救われたので御座いますか?」

戸田忠昌
「いやいや、左様」
「将軍の列に犬や猫が横切ってもかまわんと申され」
「犬や猫はつないでは為らんと申された」

安藤重博
「将軍の列を横切る犬や猫を切り捨てた者が
処罰されたとか?」

戸田忠昌
「少々、やり過ぎじゃな」

安藤重博
「左様」

戸田忠昌
「ところで、赤穂の犬千代兄弟の事
指南の吉良は如何しておる?」

安藤重博
「はい」
「今は、あの者は江戸に帰っております」
「上様は、元気になられ
あの者に一層の活躍を期待なされました」
「あの者は指南役として
大きな力を付けております」

戸田忠昌
「左様か」
「それで、其方が赤穂に赴くのか?」

安藤重博
「左様」
「上様は、赤穂の犬千代兄弟を寵愛為されております」
「某は、岡山にて監視役を命じられております」

戸田忠昌
「んんゥ」
「そういえば、岡山の松山藩第3代藩主水谷勝美が無嗣子ゆえ
末期養子・水谷勝晴をとったが遺領が許されないようじゃな」

安藤重博
「岡山藩は酒井忠清を庇ったとして
御取り潰しの候補となつておる」
「遺領が許されぬのは其の為じゃ」

戸田忠昌
「浅野は拡大して
領地を拡大しておる」

安藤重博
「岡山は、いずれ浅野の領地となりましょう」

戸田忠昌
「おい」
「其方が、岡山を取れば良いではないか」

安藤重博
「如何にして?」

戸田忠昌
「先ずは、岡山の松山藩じゃ」

           赤穂事件 綱吉体制の始まり



木下 順庵 (綱吉付の儒学者)
「これからは、邪魔する者もおらんから
上様は、心が休まる筈」
「仁による、良い世の中になりますぞ」

林 鳳岡 (幕府の儒学者)
「不正を働く代官は全て追放し
市中の傾奇者もなくなり
庶民は上様の功績を大いに称えております」
 
木下 順庵 
「ただ、これらの功績が上様では無く
大老の実力だったと申す者がおる」
「上様は、酷く憂いておられる」
「上様は、仁の心を広く庶民に浸透させよと申された」

林 鳳岡 
「少々、心配が御座います」
    
木下 順庵 
「仁の心根じゃ!」
「上様は学問好きじゃぞ」
「良く学び精進しておられる」
「何も心配は御座らん」

林 鳳岡 
「少々、神経質な面が御座います」
「上様は、呪いや祟りに怯えておられたが
生類憐みの令が発令出来た事で
落ち着きました」
「ただ、今度は、神経質な面が支障となっておられます」
 
木下 順庵 
「上様の衰弱を治したのは
この儂の静養法のお蔭じゃ」
「儂の治療法が上様には一番良いのじゃ」

林 鳳岡 
「上様は、呪いや祟りを気にされておられたが
今度は、穢れに対して異常なほどに神経質でおられる」

木下 順庵
「これ、全て朱子学の教えじゃ」
「其方は、穢れを受け入れるつもりか!」
 
林 鳳岡 
「上様は、顔に血の付いている小姓に激怒なされ
島流しにしました」 

木下 順庵 
「あれは、顔に吸い付いた蚊を叩き潰したからじゃ」
「蚊の命を憂いたのじゃ」

林 鳳岡 
「上様は、血の穢れを極度に嫌い
鼻血、痔、月経、から針灸に至る
様々な血を受け入れる事は出来ません」
「潔癖症となっておられます」
    
木下 順庵 
「血が穢れの象徴となるは
我が朱子学の教え」
「何も気にする事では御座らん」

林 鳳岡 
「しかし、擦り傷一つで血が出るたびに
島流しは酷う御座います」
 
木下 順庵
「良く拭い、手ぬぐいを巻き付け
血を見せぬ事が肝要」
「我が朱子学は
上様の圧倒的な支持を得ておる」
「庶民に対しては広く朱子学に則る生活を推し進め
仁の心を持って安らかで豊かな生活をする様に規制する事が
我が教えなのじゃ」
 
林 鳳岡 
「少し、やり過ぎだと思いませんか?」

木下 順庵 
「上様の偉業は
儂の教えからくるのじゃぞ」
「其方の役割は、終わった」
「大老、光圀が去り
朱子学を妨げる者は処罰され
追放される」
「山鹿素行も死んだ」

林 鳳岡 
「何故で御座いますか?」
 
木下 順庵
「幕府の暴君を批判したからじゃ!」
 
林 鳳岡 
「大老を暴君として
批判したのですか?」
    
木下 順庵
「いいや」
「上様を批判した謀反人が
山鹿素行じゃ」
「この調べは
水戸の家老にも及んでおる
光圀も謀反となるぞ!」
 
林 鳳岡 
「今まで大老が担っておりました政務は
水戸守の後ろ盾あってのもの」
「上様は、今までの体制を一新して
独裁体制を目指していると思います」
 
木下 順庵
「上様は、将軍じゃぞ」
「独裁で問題は無い」
「上様に逆らう者は謀反じゃ」
「其方も、気を付ける事じゃ」
 
林 鳳岡 
「先様(家綱)は、御触れは出しませんでした」
「先様は、殉死、切腹、島流しを命じる事は有りませんでした」
「しかし、上様は容赦なく無慈悲な命令を出しておられる」
「この状況を変えることが出来るのは
其方では有りませんか?」

木下 順庵
「其方は、勉強不足じゃ」
「もっと学べ!」       


            赤穂事件 過ちは改める



将軍綱吉
「柳沢を儂の学問の弟子にする」

柳沢吉保
「はい」
「某は、上様の弟子で御座います」

将軍綱吉
「光圀は多くの過ちを犯した」
「しかし」

「過ちては改むるに憚ること勿れ」

「光圀は、体裁や対面などにとらわれず
過ちを正せばよい」

柳沢吉保
「はい」
「光圀に過ちを正すように申し付けます」

将軍綱吉
「光圀の過ちは何じゃ!」

柳沢吉保
「はい」
「上様が習得した朱子学を批判した事で御座います」

将軍綱吉
「具体的に申せ!」

柳沢吉保
「はい」
「上様が信仰する悪霊払いに参加しない事」
「上様に日光詣を強要する事」
「これらは、行き過ぎた過ちで御座います」

将軍綱吉
「違う!」
「藤井紋太夫じゃ!」

柳沢吉保
「はい」
「大老の屋敷から
水戸家老藤井紋太夫の覚書が見つかりました」
「山鹿素行と結託して
謀反を企んでおりました」

将軍綱吉
「んんゥ」
「光圀も共犯じゃ!」

柳沢吉保
「大老は光圀と結託して
幕府を牛耳る事を目論み
将軍を飾り物にして
権力を奪い取る事を考えていた」
「これは上様に対する謀反で御座います」

将軍綱吉
「儂は、光圀に大きな弱みを握られておる」
「しかし、儂を蔑ろにして
儂から権力を奪い
大老の傀儡とする企てが明らかになった」

柳沢吉保
「過ちては改むるに憚ること勿れ」と光圀に申し付け
藤井紋太夫を呼びつけ光圀に釈明させます」

将軍綱吉
「これは、光圀の弱みとなる」
「儂は、もう、光圀に叱られる事も無い」

柳沢吉保
「御意」
「逆に、上様が光圀を呼びつけ叱ってやれば宜しいかと・・」

将軍綱吉
「余は、酒井忠清、大老堀田正俊、そして、
光圀から大きな圧力を受けて
精神がおかしくなった」
「今、余の行いに干渉するのは
光圀一人だけになった」
「光圀にも余が苦しんだ同じ苦痛を
味わってもらう」
「光圀を追い詰めて、余に屈服させよ!」

柳沢吉保
「御意」

将軍綱吉
「藤井紋太夫の覚書を添えて
光圀に過ちては改むるに憚ること勿れと申しつけよ!」

柳沢吉保
「御意」

将軍綱吉
「あっははは」
「先ずは、良識を身に付ける事じゃ」
「これは、民の上に立つ者には不可欠である」
「良識があるからといって
褒められることはないかもしれんが
良識があれば賢人達に認められる」
「賢人の知恵は成功への大きな道しるべとなる」

柳沢吉保
「賢人は順庵殿で御座いますか」

将軍綱吉
「順庵は学問の師
儒学者を集め学問を究めるのじゃ」
「光圀を論破せよ!」

柳沢吉保
「御意」





            赤穂事件 隠居許可願い




佐々 宗淳 (儒学者)
「将軍より、願い届が御座います」

徳川光圀
「物も言いようじゃな」」
「それは、命令じゃ!」
「儂が水戸に逃げておるから
江戸に引き戻そうとしておるのじゃ!」

佐々 宗淳
「如何致しますか?」

徳川光圀
「儂の隠居願いが許された後に
江戸に赴く」

佐々 宗淳
「承知致しました」

徳川光圀
「代わりに、犬の毛皮を送ってやれ!」

佐々 宗淳
「承知致しました」

徳川光圀
「儂は、その様な事に構ってはおれん」
「それよりも、那須記は興味深い
其方は、那須記にある那須国造を調査せよ」
「湯津上村に古い碑があるという」
「この碑は、那須国造の墓ではあるまいか?」
「古墳を発掘すれば、歴史の事実を知ることが出来る」
「今の朱子学は迷信と思い込みで
儒学者は、己の都合で
歴史や解釈を作り替えておる」
「事実を知る為には
発掘して、石碑に書かれている事を分析する事が必用なのじゃ」

佐々 宗淳
「では、石碑を掘り返して調査する事をお許し下さい」

徳川光圀
「んんゥ」
「湯津上村は藩領でなく旗本知行地であるから
調査は慎重にする事」
「調査した後は、碑を修繕して鞘堂を建てよ!」

佐々 宗淳
「承知致しました」
「・・・・」

徳川光圀
「如何した?」

佐々 宗淳
「はい、主殿の隠居は早すぎるのでは御座いませんか」

徳川光圀
「水戸は、兄君の養嗣子(綱條)が継ぐ
儂は、もう口出しする事はない」

佐々 宗淳
「水戸の家臣が 憂えております」

徳川光圀
「誰も、年を取るのじゃ」
「儂には、時がない」
「早く、大日本史を完成させねばならん」
「隠居は、其の為」

佐々 宗淳
「左様で御座いますか・・」




              赤穂事件 毛皮の贈り物



桂昌院(綱吉の生母)
「健やかになっておったが
また、震えておるのか・・」
「もう、怯えなくても母が付いております」
「さァ」
「母に甘えなさい」

将軍綱吉
「光圀が犬の亡骸を送ってきた」
「汚らわしい」

桂昌院
「犬の毛皮は毬にもなっております」
「穢れてはおりませんよ」

将軍綱吉
「儂が光圀を呼びつけたから
仕返しされたんじゃ」

桂昌院
「はいはい」
「もう、嫌な事は忘れなさい」
「やられて、怯えていないで
やり返してやりなされ」

将軍綱吉
「んン」
「やり返すのですか?」

桂昌院
「そうです」
「光圀殿は生類憐みの令を批判して
犬の毛皮を送って来たのですから
お前が震えて怯えるのを見越しての事ですよ」
「逆に開き直り
もっと過激に生類を憐れむのです」

将軍綱吉
「ううゥ・・」
「また、光圀が怒る・・」

桂昌院
「もう、お前に逆らえる者などおりわせん」
「もっと、自信を持つのじゃ」
「お前のお蔭で
母は、誰からも慕われる存在になれたのですよ」
「もっと、自信を持ちなさい」

将軍綱吉
「んんゥ」
「分かったよ」
「よし」
「過激に、仁を広める事にする」

桂昌院
「そうです」
「生類憐みの令を世に広め為され」

「ところで」
「お前は」
「母が病に倒れたら捨てるか!」

将軍綱吉
「おかあたまァァ」
「何を言い出すのかと思ったら、いきなり
捨てる訳がありませんよォ」
「珍は、おかあたまが死んだら生きてはいけまてん」

桂昌院
「よしよし」
「では、人宿の犬猫が病に倒れたら捨てるか!」

将軍綱吉
「いいえ」
「人宿の犬猫が病になったからといって
捨てては為りません。
その生類を捨てた者を厳しく罰することにします」

桂昌院
「牛馬宿の生類が病に為ったら捨てるか!」

将軍綱吉
「いいえ、捨てません!」
「今日、各所に布達を申し付け
「生きている生類を捨てた者を
厳しく処罰することを通達して
徹底した生類憐みの令とします」

桂昌院
「よしよし」
「如何じゃ!
母の甘言で、お前は健やかに為ったではないのか」
「これは、母のお前に対しての仁じゃぞ」

将軍綱吉
「おかあたまァ」
「珍は、おかあたまに救われまちた」
「うううゥ」

桂昌院
「よしよし」
「もう、何も怯える事などありません」
「母が、お前を守ってやります」

将軍綱吉
「おかあたまァーー」
「うううううゥ」

桂昌院
「よしよし」




           赤穂事件 強権政策





天野五郎太夫正勝(江戸幕府の台所頭)
「これはこれは、大政参与様」
「今回は、直々に台所頭に御足労賜り
感謝致します」

稲葉正則(隠居)
「其方、台所頭であるから
責任を奉公人に押し付ければ良いではないか!」

天野五郎太夫正勝
「いえいえ」
「猫が夜間に悪戯をして
誤って井戸に落ちただけで御座います」
「某が、全ての責任を負う事に致しました」

稲葉正則
「儂は、もう隠居の身じゃ」
「其方を助ける事は出来んぞ!」

天野五郎太夫正勝
「猫が落ちた井戸は使用禁止としております」
「台所に支障は御座いません」
「適切に対処しましたので
大した処罰にはならないかと・・・」

稲葉正則
「お主、知らんのか!」
「生類憐みの令が出ておるのじゃぞ!」
「悪い事は言わん」
「奉公人に罪を押し付けよ!」

天野五郎太夫正勝
「いえいえ」
「この様な些細な事」
「もしも奉公人に罪を着せれば
奉公人は牢に入れられ大変なお叱りを受ける事になります」
「某は、江戸幕府の台所頭で御座いますから
きっと、大した処罰は御座いません」

稲葉正則
「んんゥ」
「其方は、何で水戸守が自領地に帰ったか知らんのか!」
「儂が、大政参与を投げ出して
隠居した理由を知らんのか!」
「大老(堀田正俊)が殺害された理由を知らんのか!」

天野五郎太夫正勝
「某は、上様の政策に口を挟む立場では御座いません」
「きっと、上様はお許し下さります」

稲葉正則
「では、助言する」
「其方は、水戸守に助けを求める事じゃ」
「水戸に使いを出して
この困窮を伝えるのじゃ」

天野五郎太夫正勝
「たかが、猫が井戸に落ちただけの事です」
「水戸守に使いなど出せば
笑われてしまいます」
「そのように大袈裟に騒がずとも宜しいかと・・・」

稲葉正則
「しかしな」
「儂は、其方の身が心配なのじゃ」
「上様は、犬猫の命の方が
其方の命よりも大切だと思っておるように感じる・・」

天野五郎太夫正勝
「まさか!」
「上様は、仁を貴ぶ事を推奨為されております」
「仁は人を貴ぶ事」
「猫と人を比べ
猫が人の上に立つ道理は御座いません」

稲葉正則
「上様は、生類憐みの令を発令為された」
「この法令は
犬や猫、牛や馬の事を憐れむようにとの定めであって
人を慈しむ事では無いぞ」
「上様の心意を図り
身の安全を考えよ!」

天野五郎太夫正勝
「では、如何すれば宜しいので・・」

稲葉正則
「やはり、水戸守に助けを求めるのじゃ!」

天野五郎太夫正勝
「某には、伝手が御座いません」

稲葉正則
「んんゥ」
「よし、では」
「水戸家老藤井紋太夫に助けを求めよ」

天野五郎太夫正勝
「水戸守に迷惑を掛けませんか?」

稲葉正則
「迷惑をかけるが
其方を助ける為には、これしかない」
「生類憐みの令は天下の悪法じゃぞ!」

天野五郎太夫正勝
「んんゥ」
「このように大袈裟になるのであれば
内緒で猫を始末すれば良かったかな?」

稲葉正則
「猫が死んだ井戸水を上様に使えば
其方は、打ち首、お家は断絶
其方の判断は間違ってはおらん」

天野五郎太夫正勝
「・・・・・」
「某は、如何為るのじゃ?」

稲葉正則
「儂が聞いた話では」
「其方は、島流しの刑罰となる」
「儂は、其方が島流しに合うことを阻止したい」

            赤穂事件 濡れ衣



稲葉正則
「京都所司代」
「老中に昇格間地かのおり
犬を切り殺したとあれば
ただではおれんぞ!」

土屋政直
「何を仰せですか?」
「たかが犬を切り殺したところで
大袈裟な・・」

稲葉正則
「誰が切った?」

土屋政直
「某、京より江戸屋敷に移ったばかり
老中に昇格が決まっておりますからな
そんなおり、儂に吠え掛かる野良犬がおった」
「老中に登るおり
野良犬に吠えられるのは縁起が悪い
思わず、剣を抜いておった」

稲葉正則
「其方が切ったのか!」

土屋政直
「左様」
「某が切り捨てた」
「犬如きで大騒ぎするな」

稲葉正則
「いや、上様は本気で処罰しておるぞ!」

土屋政直
「誰か処罰されたのか?」

稲葉正則
「台所頭が八丈島送りの刑となった」
「それから、犬を保護するように申された」
最初は老中の提言で行方知れずの犬は
放置しておったが」
「直ぐに、御触れが変更され
犬がいなくなったら徹底的に探すようにとの事」
「もし、犬を切り殺した事が発覚すれば
遠島などでは済みませんぞ」

土屋政直
「まさか、儂を打ち首にはせんぞ」

稲葉正則
「台所頭には過失はなかった」
「事故で猫が死んだ責任を負って
島送りになったのじゃぞ」

土屋政直
「切ったのではないのか!」
「んんゥ」
「如何したものか?」

稲葉正則
「責任転嫁する以外に
其方が助かる道は御座らん」

土屋政直
「んんゥ」
「小者奉公人に濡れ衣を着せるか」

稲葉正則
「小者は剣を持参しておりませんぞ」

土屋政直
「では」
「中間奉公を身代わりにしよう」

「しかし」
「老中就任間際に、この様な問題が生じるのは
先々、不安じゃぞ」

稲葉正則
「これは、序章に過ぎませんぞ」
「其方の老中就任を喜んでよいものやら」

土屋政直
「おいおい」
「嫌な事を申すな」
「其方は、大政参与ではないか・・」

稲葉正則
「儂は、早々に隠居した」
「それから、水戸守も隠居願いをだしておるぞ!」

土屋政直
「おおォ」
「今、儂は悪寒が走ったぞ」
「そんなに、酷い状況なのか?」
 
稲葉正則
「んんゥ」
「先ずは、帥の仲間奉公人が罪に問われぬように
水戸守から助言を受ける事じゃ」
「藤井紋太夫を頼る事じゃ」

土屋政直
「んんゥ」
「幕府老中は何をしておる!」
「幕府は無力か!」

稲葉正則
「もう、幕府に権力は御座らん」
「権力は将軍綱吉様が独占している状況」
「老中は何の助けにもなりませんぞ!」

土屋政直
「ますます、おかしげになっておるわ」
「これは、全て上様の意思なのか?」

稲葉正則
「上様は、学問好き」
「特に、朱子学を好まれ
順庵を信じ込んでおられる」
「順庵の思惑で幕府は踊らされておる」
「仁の心根と言っておるが
実際は、全くの逆であり
順庵に都合のよい政策の為に
上様は利用されているのじゃ」

土屋政直
「儒学者が毒を撒いておるのか・・」

             赤穂事件 吉良上野介の影



土屋政直
「其方のお蔭で、
儂の身代わりとなった仲間奉公人は開放された」
「感謝致す」

藤井紋太夫(水戸家老)
「某の力では御座らん」
「我が主殿の影響に御座る」

土屋政直
「ただ、又しても犬を切りつけてしまった」

藤井紋太夫
「何と、又に御座いますか?」

土屋政直
「困った・・」
「何とも、忝い」

藤井紋太夫
「少し、変で御座る」
「状況を詳しく教えて頂きたい」

土屋政直
「実は、儂を襲った犬は訓練されておった」
「犬は、七から八匹」
「警護の者を 撥ね除けて
儂に狙いを付けて襲い掛かって来た」

藤井紋太夫
「では、調教された犬を使い
嗾けた者がおると・・」

土屋政直
「左様」
「二度目となれば
言い逃れは出来んな・・」

藤井紋太夫
「んんゥ」
「苦肉の策じゃ」
「大和守に身代わりになって頂きたい」

土屋政直
「もう駄目じゃ・・」
「息子(土屋昭直)を身代わりになど考えたくもない」

藤井紋太夫
「いいえ」
「大和守は大した罪には問われません」
「大和守の家来に身代わりに為ってもらいます」
「身代わりの家来は江戸から追放処分で収まりますぞ」
「儂にお任せ下さい」

土屋政直
「済まんな・・」
「京より登って来て
少々有頂天になっておった」
「前途多難じゃな・・」
「しかし」
「儂を襲うのは誰じゃ?」

藤井紋太夫
「今、幕府は大老を失い
権力闘争が激しくなっております」
「新参者を快く思わない輩は
沢山おりますぞ」

土屋政直
「おおォ」
「詳しく教えてくれ」

藤井紋太夫
「儂は、幕府に精通してはおらんが
内部の情報は、火消し大名に聞く事じゃな」
「浅野内匠頭は火消し大名として
名を馳せておる」

土屋政直
「なるほど」
「敵の事が分からねば
対処も出来んな」
「しかし」
「生類憐みの令は難儀じゃぞ・・」

藤井紋太夫
「左様」
「魚鳥類を生きたまま食用として売ることが禁止された」

土屋政直
「絞めてから売れと・・」

藤井紋太夫
「皆が同じように考えたから
今度は、追加の御触れが出た」
「御触れが出て急に鳥を絞め殺すのはいけない。生きた魚、生いけすの魚、貝類のほか鯉、鮒、海老など生きたものの商売は禁止になった」

土屋政直
「生きたままでも、絞めても駄目と申される・・」
「では、上様は菜食を徹底せよと申されるのか?」

藤井紋太夫
「あっはは」
「上様は、何でも召し上がる」

土屋政直
「一体全体如何なってるんだ?」

藤井紋太夫
「この訳の分からん御触れを利用して
犬を嗾け、嫌がらせをしている輩がおるぞ」


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