アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編 二

2020-01-22 14:44:15 | 漫画


土井利勝に見切りをつけた松平信綱は大老の井伊直孝に相談した。

井伊直孝は赤牛と恐れられた武闘派の代表格であった。
大坂冬の陣では勇み足で大敗北を期すが、
家康の加護の元で秀忠からの処罰を免れている。
将軍家光も家康の加護の元、父秀忠の無慈悲から免れているため
井伊直孝と将軍家光とは家康の取り計らいという共通点から
不思議な信頼関係が強く働いていたのだ。

松平信綱
「老中首座信綱に御座います」

井伊直孝
「なにやら一大事とのこと」
「また、将軍家に逆らう輩が出没したのか?」

松平信綱
「いいえ、そうではありません」
「勘定方の借款に御座います」
「幕府の財政がひっ迫しておりますが、
勘定方がそれを理由に商人どもから多額の借款をしております」

井伊直孝
「財政のことは大老の土井様に伺い立てるがよい」

松平信綱
「いいえ、御直孝様は御将軍様といつでも話ができる立場でありますがゆえ、
お願いしているのでございます」

井伊直孝
「財政の事は大老の土井利勝さまじゃ」
「儂は将軍家光様の後見役だからお目見えは許されておるが」
「財政をとやかく言われても困るぞ」




ついに、松平信綱は酒井忠勝に進言した。

松平信勝の生真面目と酒井忠勝の絶対忠義は合間見えれば
心が通じそうなものであるが、
何故かすれ違っていた。
ただ、将軍家光は自らの右手を酒井忠勝とし、
左手は松平信綱と言うほど頼りにしていたのである。

酒井忠勝の忠義は家光が幼少の頃からのものであった。
家光の弟君の忠長公は聡明で健康な優秀男児でありましたので、
父秀忠をはじめ多くの者は家督を継ぐのは忠長公と考えておりました。
また、戦国の世では優秀な者が兄を差し置いて家督を継ぐことは
全く当たり前のことでもあったのです。
幼少の家光はよく病気で寝込んでいました。
しかし、見舞いに来る客人は殆どありませんでした。
更にそのとき、事件がおこりました。
弟君の忠長公に豪華な食事が運ばれようとしていた時に、
酒井忠勝は「兄(家光)が苦しんで床に伏して居る時に弟(忠長)公が
食事など出来る筈は無い」と言ってお膳を下げさせたと言います。
当然のように家光の父(秀忠)は酒井忠勝のもとに来たのですが、
そのとき酒井忠勝は「忠長様に対する無礼討ちを覚悟で行いました」
と言ったそうです。この忠義に秀忠は感服して
徳川家の第一の補佐の臣であると褒めたたえたそうです。
また、徳川家への忠義のため土地拝領を辞退、
また、若き家光の夜遊びを暖かく見守り、
家光を改心させたり、と
その忠義は数知れない。

松平信綱
「老中首座信綱に御座います」

酒井忠勝
「一大事とのこと、早急に対処いたせ」

松平信綱
「大老土井利勝様の責任によってなされていること」
「私どもには手出し出来ませんので
御忠勝様に御すがり申す次第に御座います」

酒井忠勝
「なにやら、面倒なことのようじゃな」
将軍家光の時代には幕府の蓄財が酷く貧窮したため、
財政収入の確保、拡大は急務であった。

幕府の蓄財が減った理由としては、
家光が家康から受けた恩に報いるための日光東照宮の大規模改築や
莫大な費用を使った大掛かりな参拝を繰り返したことから始まり、
更には京の天皇や公卿に将軍自らの力を誇示するために
大規模な上洛を繰り返し、献金や祝儀を惜しみなくばらまき、
更には、親藩、諸藩、恩義のある家臣の禄(給与)を大幅に引き上げて
大盤振る舞いをしたためである。

松平信綱
「そうでございます」
「とても面倒で重要なな問題があり
直ちに対処する必要がございます」

酒井忠勝
「それでは、急ぎ対処せよ」

松平信綱
「大老土井利勝様が責任を取り
対処するとの事、
信綱は困っておりまする」

酒井忠勝
「しかし、大老土井殿の責任で対処しておるものに
いちいち、横やりをいれるから
事態が滞るのではござらんか?」

松平信綱
「いいえ、このまま放置しておりますと大変なことになります」

酒井忠勝
「そうか、ではこれから何が起こるのじゃ」

松平信綱
「実は土井様は幕府の借款を一億両もっておりました」
「そして、その借款には七分もの利子が約束されていることが分かりもうした」
「一億両の借款に七分もの利子は幕府の年貢収入を上回っているのでござる」

酒井忠勝
「その話が真実であれば
由々しきこと極まりない暴挙しゃ」

松平信綱
「そうですとも、断じて許される事ではありません」

酒井忠勝
「ところで、一億両もの借款
詳しき内容を知りたいのだが?」

松平信綱
「先ずは、一億両は大坂淀屋からの借款であります」

酒井忠勝
「淀屋?」
「淀屋は親藩身内ではないか?」
「これは借款ではなくて、ただの借金じゃ」

松平信綱
「しかし、一億両もの借り受けですぞ」

酒井忠勝
「んーーーー
ところで、その淀屋とやらが
この貸し付け金利を請求しておるのか?」

松平信綱
「そ。。。 それは存じぬこと」

酒井忠勝
「んーーーー
大事と思うたが早とちりじゃたのぉ」

松平信綱
「いや あ!
そうです!
その借款は諸大名に貸し付けているとのこと
淀屋には利子を払うこと必至にございますぞ」

酒井忠勝
「んーーー
しかし、幕府の財政は逼迫しておるのじゃ
淀屋とやらの融資は有難き事として
受け取っておけばよかろーぞ」

松平信綱
「いいえ、これは一大事に御座います」
「一億両もの借款があって
七分の利子ですぞ
恐ろしい膨大な負債ですぞ」
「これは一大事ですぞ」

酒井忠勝
「まぁ 土井利勝殿が責任で進めていることゆえ
事態を見守る方が良いと思うのぉ」



松平信綱は江戸家中に見切りをつけて、松平忠明に会うため
大坂に向かった。

大坂の町は大商業地になっており、江戸の物流拠点として
重要な地位をもっていた。
この地の豪商である淀屋も本来は町年寄として
地域の世話役の代表であったものが、
地域復興や当時の有力者の都市計画を
いち早く取り入れて大きくなった一商人なのです。
大坂の町が発展することにより
商売人が財力を持ち、
その財力を使って更に大きく発展していったのだ。
そして、この大阪の大商業地の基礎を築いたのが
今回登場した松平忠明なのだ。

松平忠明
「老中信綱殿、大阪の繁盛ぶりは満喫されましたかな?」

松平信綱
「いや、それどころでは御座いませんぞ」
「大変な事に御座います」

松平忠明
「ほー 何にございますかな?」

松平信綱
「実は大老土井利勝殿が淀屋より
一億両もの貸し付けを受けたのでございますぞ」

松平忠明
「何と 一億両とは驚いた」
「淀屋とは親身であるから今度事情を聴いてみよう」

松平信綱
「いいえ、そのようにのんびりとしてはおれませんぞ」
「江戸家中は全く危機感が無く
驚くべき無関心で御座いますれば
将軍家光公直々の後見役の貴公殿に
直々に意見を頂かなければ
大変な災いとなりまする」

松平忠明
「おーおー 大変な剣幕じゃのぉ」
「よほどのことじゃ」
「確かに、急がねばならぬが
今、何とする?」

松平信綱
「先ずは、一億の貸し付けを返済することじゃと思うぞ」
「一億の貸し付けに金利が七分じゃ。
とても返済できんわ」

松平忠明
「確かに、返済はできんのぉ」
「しかし、そのくらいのこと大老土井様とて
分かっておると思うぞ」
「きっと、何か策略がある筈じゃ」
「あのなぁ 話は変わるが 
ちと、今頃のぉ
可笑しなことが起き始めておる
今、大阪の町は盆と正月が一緒に来たようにあってのぉ」
「異常な盛況じゃ!」
「淀屋に至っては日に日に大きくなっているのが垣間見れ
実感できるぞ!」
「まるで入道雲がニョキニョキと大きくなっているようじゃ」
「今、大阪の町は急成長を遂げようとしているんじゃ」
「お主も暫く此処にいれば実感出来る筈じゃ」

松平信綱
「ちょと待って下さい」
「大老土井様の暴走は貴公様にしか止められないのですよ」
「儂はこのまま江戸に手ぶらで帰るわけにはいきません」
「助けて貰えないでしょうか?」

松平忠明
「んーー土井殿が考えが分からぬ故、難しいのぉ」
「お主、土井殿が何か申しておらなんだか?」

松平信綱
「秘密が守れるか?と言っておったが
このような暴挙の手先は無用と思うたから
上様に裁断願うこと申し伝えた」

松平忠明
「これは、一筋縄ではいかぬな」
「お主の真正直は分かるが
土井殿の心意が分からぬば対処出来ぬぞ」

松平信綱
「如何いたしましょうか?」

松平忠明
「消息を認めよう」
「貴殿が必要な時に認めるがよい」
「それから、
土井殿に伝言して欲しいのじゃが」
「最近の大坂の町は急速に賃金や物価が上がっており
天井知らずだ」と
「必ずお伝えしてくだされ」



ついに、松平信綱は家光との謁見が許された。

将軍家光
「今回の、お披露目は特別じゃ」
「何度も言うが、三大老の合意のみ将軍は披露することを確認するぞ」

土井利勝
「上様! 三大老合意は御座いませんぞ」
「政務が先に進まず、様々な支障が出ております」

将軍家光
「だから、任せておるのじゃ」
「忖度せよ利勝殿」

「それ信綱殿 何じゃ!」

松平信綱
「恐れ入ります、今回は幕府の権威に関わること
取り急ぎの謁見をお願い致しました」

将軍家光
「権威とな?」
「由々しきことじゃ」
「如何なることぞ」

松平信綱
「今回、信綱の知らぬことにつき対処が遅れましたこと面目ありません」
「詳しきことは、大老土井利勝様より説明が御座います」

土井利勝
「上様快諾の件でございます」

将軍家光
「ん?」

土井利勝
「豪商の蓄えし資産が身分不相応であること」
「資産の差し押さえの件に御座います」

将軍家光
「そうじゃ 商人は自らの身分をわきまえるは必至じゃ」
「身分不相応な資産は没収すればよい」
「して、何が幕府の権威に関わるのじゃ 信綱殿」

松平信綱
「信綱が聞きましては、資産没収ではなく、
資金の借り入れとのことで御座います」
「何故天下の将軍様が一商人に頭を垂れて
金を貸してもらわねばならぬのか理解に苦しみます」

土井利勝
「信綱殿!」
「これは聞きづてなりませぬぞ!」
「上様に対して、無礼ではないか!」

将軍家光
「これこれ 利勝殿」
「大きな声を出すではない」
「信綱殿に申すが、余は頭を垂れた覚えは無いぞ」

松平信綱
「恐れながら申し上げます」
「世間では金を借り受けたことを笑いものとするかもしれません」
「上様がそのような辱めを受けてはなりません」

将軍家光
「んんんーーーー」
「そうじゃな では信綱殿」
「余は利勝殿と話がある」
「のぉ 少の間 信綱殿は席を外してくだされ」



実は、三大老が合意のみ将軍とのお披露目を許すという約束は
土井利勝が提案したものであった。
これは、大老土井利勝が政務をする上で
将軍からの直接指示が不要になるものであった。

実質の幕府の政務は大老によってなされており、
将軍家光にとって政務のことは大老に任せることが
長い間の約束事になっていたのだ。

松平信綱が席を外してから暫くして、
将軍家光が涙をこらえて
嗚咽し始めた。

土井利勝
「上様!」

将軍家光
「ううううぅぅぅ・・・」

土井利勝
「如何なされました?」

将軍家光
「いや、思い出しておった」

土井利勝
「上様は、立派になりましたぞ」
「そのような涙は不要にございますが、
悲しき事あれば、大いに涙を流されたら良いと存じ上げますぞ」
「恥ずかしきことでは御座らん」
「大いに泣くことじゃ」
「恥ずかしければ儂も殿と同じく
大いに泣く。悲しければ泣けばよいのじゃ」
「一緒に泣こうぞ」
「うううううぅぅぅ・・・」

家光と大老は二人で暫くの間泣いていた。

将軍家光
「このような姿を他の者には見せられんな・・・」

土井勝利
「気になさることは御座いません」
「勝利は上様の為に一緒になって
泣くことは名誉にございます」

将軍家光
「跡目は必要か?」

土井勝利
「上様には家綱公がおられます」
「心配は無用に御座います」

将軍家光
「大老忠勝がのぉ」
「跡目は一人ではなく」
「兄弟が必要と申すのじゃ」
「余は弟をあやめた」
「兄弟が争うのは見たくないのじゃ」

土井利勝
「家綱公は大きくなりましたぞ」
「例え弟君が生まれたとして
乳飲み子の弟君では御座らんか」
「心配は無用じゃ」
「御家騒動は大老が政務を握っておれば
決して起こることはありませんぞ」
「上様は安心して気持ちを強く持つことじゃ」
「強くなれぬときは、
儂も一緒に泣いて上様を御慰めいたす」

将軍家光
「いろいろ思い出すのぉ」
「其方は他の家臣から疎まれていて平気なのか?」

土井勝利
「儂も殿と同じ、平気は装いじゃ」
「平気に生きられるは戦国の世」
「平安の世では正気ではおれなくなる」
「思い出すことで悲しくなる」
「皆、同じにござる」

将軍家光
「そうか、土井殿も同じなのか」
「そうか。。。そうか」



松平信綱は自分の政務に確かな手応えを感じ
井伊直孝と酒井忠勝に進言した。

松平信綱
「上様の直々の謁見許されたおり、
今回の幕府の貸り受け金の事をお伝えいたしましたところ、
将軍家光公におかれましては
「んんんーーーー」
「そうじゃな 」
とのことで御座いました。

井伊直孝
「憂慮されたのじゃな!」

酒井忠勝
「曖昧な返事にござるな」
「今一度確認をする必要があると思うが、
異存ござらんな?」

松平信綱
「早急に対処せねばなりません」
「何度も確認することは敵いませんぞ」

酒井忠勝
「上様が曖昧なお言葉
そのままにしておくことはできませんぞ」

松平信綱
「上様は大老に政務を任せるとおっしゃっています」
「ですから、お二方に了承を貰えれば
土井利勝殿の無謀な借り受けを阻止できるのです」

井伊直孝
「ところで
土井利勝殿は何処に居られる?」

松平信綱
「上様が残し、
話があると申しておりました」
「話の流れから推測すれば
利勝殿の失策を厳しく非難されているものと思われます」
「上様は利勝殿に恥をかかさぬように配慮されたのでしょう」

酒井忠勝
「それも、上様に確認せねばなりませんぞ」
「推測で決めつけては後で困りますぞ」

松平信綱
「上様は大老に政務を任せておられます」
「そして、忖度するように
これも、申し受けておりますゆえ、
これ以上の特別なお披露は敵いませんぞ」

酒井忠勝
「とにかく、儂が様子を見て来るから
早まったことは無しじゃ。
良いな!」

井伊直孝
「しかし、お主は島原から旺盛なことじゃなぁ」
「もし、今度なにかしらの事があれば儂が行くからな」



将軍家光
「そうよなぁ
乱世が終わって平安が訪れておるのじゃ」
「日本中の者どもは楽しんでおろうのぉ」

土井利勝
「上様に感謝していますぞ」

将軍家光
「いま、儂が若い頃の事を思い出していた」

土井利勝
「上様 あまり深刻にお考えせぬ方が宜しいかと」

将軍家光
「若い頃、町娘に恋していたのじゃ」

土井勝利
「町娘でございますか?」

将軍家光
「意外か?」

土井利勝
「いいえ、宜しい事にございます」

将軍家光
「しかし、この恋はある者によって終わらせられ」
「そのある者によって葬りさられた」
「儂は、本当はあの町娘と一緒になって
小さな一大名として穏やかに暮らしたかった」

土井利勝
「上様・・・」

将軍家光
「この話は非常に危険な話じゃ」
「この話が外に漏れれば
幕府の存亡に関わるやもしれん」

土井利勝
「上様・・
そのようなお話をするものではありません」

将軍家光
「いいや
儂は話したいのじゃ」

土井利勝
「上様が話したい事であれば
利勝の責任を持ってお伺いいたします」
「命に代えて秘密をお守りいたす」
「ただ、そのような話は
上様の胸の中に留めておくが得策と・・・」

将軍家光
「儂は大御所家康公に恩を受け
その恩に応えるべく耐えてきた」
「しかし、もう限界なんじゃ」
「頼むから、この話を聞いてくれ」



将軍家光
「その町娘のことじゃが・・・・」

土井利勝
「上様」
「もう少し奥の部屋にてお話し願います」

将軍家光
「いや、この部屋が良いのじゃ」
「この部屋には酒井忠勝以外は近づけない」
「むしろ奥の部屋の方で話せば疑念が起こる筈じゃ」
「奥でこそこそでは如何にもおかしかろぉ」

土井利勝
「秘密の話を堂々とですか?」

将軍家光
「その町娘を葬ったのは誰だと思う?」

土井利勝
「まさか!」

将軍家光
「そうじゃ そのまさかじゃ」

土井利勝
「では、上様はその者に愛する娘を処分され、
代わりに小姓があてがわれたと?」

将軍家光
「世継争いのさなか、儂と町娘との仲を懸念したのだ」

土井利勝
「もしや、その娘に上様の・・」

将軍家光
「儂は何も分からんのじゃ」
「知っておるのは、あの者だけ・・・・」

土井利勝
「まさか?」
「もしや、上様が大奥に近づかぬはそのためで御座いましたか?」

将軍家光
「しかし、無駄であった」
「あの者の圧力に屈し家綱が生まれたのじゃ」
「あの者は、これに満足せず弟も必要だと・・・・」

土井利勝
「上様、
これは大変なことに御座いますぞ」

将軍家光
「そうじゃ」

土井利勝
「しかし、何ということじゃ」
「上様はその者を自らの右手に準えるほどの信頼を示しながら
最大の懸念を持っていたので御座いますか?」

徳川家光
「そうじゃ 余はその者に逆らうことはできん」
「その者は大御所家康公の化身であって余の最大の恩師なのじゃ」
「しかし、絶対に抵抗できぬ、恐ろしき者でもある」
「そして、このことは絶対に口外無用なのだ」

土井勝利
「上様は もしかして 
その者にワザとこの話を聞かそうとしているのでは御座いませんか?」

徳川家光
「あの者はいつもそうであった」
「儂はいつも操られておったんじゃ」
「あの者の背後には家康公がおられる」
「儂は絶対に逆らえない恐ろしき運命に悩まされていた」
「きっと、今、あの者がこの話を盗み聞きしておろう」
「盗み聞きしている其方! 良く聞くが良い。 
もう余は其方の操り人形ではないぞ!」

 


将軍家光
「余はこれから真の将軍になる」
「従って、お主ら大老の政務の権限を大幅に縮小し 将軍の命に従い忠義をはたせ」

土井利勝
姿勢を正し「ははぁ」 「謹んで上様に従う所存に御座います」

将軍家光
「土井殿・・・・ お主には嫌な役目を押し付けたのぉ」
「そして、道半ばでお主の権限を奪い取った」 「さぞかし無念で御座ろうな」

土井利勝
「上様 暖かき心使い利勝痛み入りまする」
「これより、上様は真の将軍に有らせられまする」
「今まで格別の御摂受賜りましたこと有難き幸せにございますれば
今後大いなるご健勝をお祈りいたします」

将軍家光
「まぁ このように申したが まだまだ、帥にも役目はござろう」
「ただし、あの快諾の件は無効じゃ」 「あのようなことは無効にせよ」

土井利勝
「承知致しました」

将軍家光
「実はな 先ほどの老中じゃ」
「あれは何といったか?」
「ああ、そうじゃ信綱じゃ」
「あの者が書状を持っておった」
「松平忠明じゃがお主も知っての通り あ奴は大政参与、無視は出来ん」
「あの者の書状を見るが良いぞ」
「お主が計略の淀屋の働きがある」
「淀屋は潰してはならぬ」 「心得よ」

土井利勝
畏まり「ははぁ」 「承知致しました」