アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編 二

2020-01-22 14:44:15 | 漫画


土井利勝に見切りをつけた松平信綱は大老の井伊直孝に相談した。

井伊直孝は赤牛と恐れられた武闘派の代表格であった。
大坂冬の陣では勇み足で大敗北を期すが、
家康の加護の元で秀忠からの処罰を免れている。
将軍家光も家康の加護の元、父秀忠の無慈悲から免れているため
井伊直孝と将軍家光とは家康の取り計らいという共通点から
不思議な信頼関係が強く働いていたのだ。

松平信綱
「老中首座信綱に御座います」

井伊直孝
「なにやら一大事とのこと」
「また、将軍家に逆らう輩が出没したのか?」

松平信綱
「いいえ、そうではありません」
「勘定方の借款に御座います」
「幕府の財政がひっ迫しておりますが、
勘定方がそれを理由に商人どもから多額の借款をしております」

井伊直孝
「財政のことは大老の土井様に伺い立てるがよい」

松平信綱
「いいえ、御直孝様は御将軍様といつでも話ができる立場でありますがゆえ、
お願いしているのでございます」

井伊直孝
「財政の事は大老の土井利勝さまじゃ」
「儂は将軍家光様の後見役だからお目見えは許されておるが」
「財政をとやかく言われても困るぞ」




ついに、松平信綱は酒井忠勝に進言した。

松平信勝の生真面目と酒井忠勝の絶対忠義は合間見えれば
心が通じそうなものであるが、
何故かすれ違っていた。
ただ、将軍家光は自らの右手を酒井忠勝とし、
左手は松平信綱と言うほど頼りにしていたのである。

酒井忠勝の忠義は家光が幼少の頃からのものであった。
家光の弟君の忠長公は聡明で健康な優秀男児でありましたので、
父秀忠をはじめ多くの者は家督を継ぐのは忠長公と考えておりました。
また、戦国の世では優秀な者が兄を差し置いて家督を継ぐことは
全く当たり前のことでもあったのです。
幼少の家光はよく病気で寝込んでいました。
しかし、見舞いに来る客人は殆どありませんでした。
更にそのとき、事件がおこりました。
弟君の忠長公に豪華な食事が運ばれようとしていた時に、
酒井忠勝は「兄(家光)が苦しんで床に伏して居る時に弟(忠長)公が
食事など出来る筈は無い」と言ってお膳を下げさせたと言います。
当然のように家光の父(秀忠)は酒井忠勝のもとに来たのですが、
そのとき酒井忠勝は「忠長様に対する無礼討ちを覚悟で行いました」
と言ったそうです。この忠義に秀忠は感服して
徳川家の第一の補佐の臣であると褒めたたえたそうです。
また、徳川家への忠義のため土地拝領を辞退、
また、若き家光の夜遊びを暖かく見守り、
家光を改心させたり、と
その忠義は数知れない。

松平信綱
「老中首座信綱に御座います」

酒井忠勝
「一大事とのこと、早急に対処いたせ」

松平信綱
「大老土井利勝様の責任によってなされていること」
「私どもには手出し出来ませんので
御忠勝様に御すがり申す次第に御座います」

酒井忠勝
「なにやら、面倒なことのようじゃな」
将軍家光の時代には幕府の蓄財が酷く貧窮したため、
財政収入の確保、拡大は急務であった。

幕府の蓄財が減った理由としては、
家光が家康から受けた恩に報いるための日光東照宮の大規模改築や
莫大な費用を使った大掛かりな参拝を繰り返したことから始まり、
更には京の天皇や公卿に将軍自らの力を誇示するために
大規模な上洛を繰り返し、献金や祝儀を惜しみなくばらまき、
更には、親藩、諸藩、恩義のある家臣の禄(給与)を大幅に引き上げて
大盤振る舞いをしたためである。

松平信綱
「そうでございます」
「とても面倒で重要なな問題があり
直ちに対処する必要がございます」

酒井忠勝
「それでは、急ぎ対処せよ」

松平信綱
「大老土井利勝様が責任を取り
対処するとの事、
信綱は困っておりまする」

酒井忠勝
「しかし、大老土井殿の責任で対処しておるものに
いちいち、横やりをいれるから
事態が滞るのではござらんか?」

松平信綱
「いいえ、このまま放置しておりますと大変なことになります」

酒井忠勝
「そうか、ではこれから何が起こるのじゃ」

松平信綱
「実は土井様は幕府の借款を一億両もっておりました」
「そして、その借款には七分もの利子が約束されていることが分かりもうした」
「一億両の借款に七分もの利子は幕府の年貢収入を上回っているのでござる」

酒井忠勝
「その話が真実であれば
由々しきこと極まりない暴挙しゃ」

松平信綱
「そうですとも、断じて許される事ではありません」

酒井忠勝
「ところで、一億両もの借款
詳しき内容を知りたいのだが?」

松平信綱
「先ずは、一億両は大坂淀屋からの借款であります」

酒井忠勝
「淀屋?」
「淀屋は親藩身内ではないか?」
「これは借款ではなくて、ただの借金じゃ」

松平信綱
「しかし、一億両もの借り受けですぞ」

酒井忠勝
「んーーーー
ところで、その淀屋とやらが
この貸し付け金利を請求しておるのか?」

松平信綱
「そ。。。 それは存じぬこと」

酒井忠勝
「んーーーー
大事と思うたが早とちりじゃたのぉ」

松平信綱
「いや あ!
そうです!
その借款は諸大名に貸し付けているとのこと
淀屋には利子を払うこと必至にございますぞ」

酒井忠勝
「んーーー
しかし、幕府の財政は逼迫しておるのじゃ
淀屋とやらの融資は有難き事として
受け取っておけばよかろーぞ」

松平信綱
「いいえ、これは一大事に御座います」
「一億両もの借款があって
七分の利子ですぞ
恐ろしい膨大な負債ですぞ」
「これは一大事ですぞ」

酒井忠勝
「まぁ 土井利勝殿が責任で進めていることゆえ
事態を見守る方が良いと思うのぉ」



松平信綱は江戸家中に見切りをつけて、松平忠明に会うため
大坂に向かった。

大坂の町は大商業地になっており、江戸の物流拠点として
重要な地位をもっていた。
この地の豪商である淀屋も本来は町年寄として
地域の世話役の代表であったものが、
地域復興や当時の有力者の都市計画を
いち早く取り入れて大きくなった一商人なのです。
大坂の町が発展することにより
商売人が財力を持ち、
その財力を使って更に大きく発展していったのだ。
そして、この大阪の大商業地の基礎を築いたのが
今回登場した松平忠明なのだ。

松平忠明
「老中信綱殿、大阪の繁盛ぶりは満喫されましたかな?」

松平信綱
「いや、それどころでは御座いませんぞ」
「大変な事に御座います」

松平忠明
「ほー 何にございますかな?」

松平信綱
「実は大老土井利勝殿が淀屋より
一億両もの貸し付けを受けたのでございますぞ」

松平忠明
「何と 一億両とは驚いた」
「淀屋とは親身であるから今度事情を聴いてみよう」

松平信綱
「いいえ、そのようにのんびりとしてはおれませんぞ」
「江戸家中は全く危機感が無く
驚くべき無関心で御座いますれば
将軍家光公直々の後見役の貴公殿に
直々に意見を頂かなければ
大変な災いとなりまする」

松平忠明
「おーおー 大変な剣幕じゃのぉ」
「よほどのことじゃ」
「確かに、急がねばならぬが
今、何とする?」

松平信綱
「先ずは、一億の貸し付けを返済することじゃと思うぞ」
「一億の貸し付けに金利が七分じゃ。
とても返済できんわ」

松平忠明
「確かに、返済はできんのぉ」
「しかし、そのくらいのこと大老土井様とて
分かっておると思うぞ」
「きっと、何か策略がある筈じゃ」
「あのなぁ 話は変わるが 
ちと、今頃のぉ
可笑しなことが起き始めておる
今、大阪の町は盆と正月が一緒に来たようにあってのぉ」
「異常な盛況じゃ!」
「淀屋に至っては日に日に大きくなっているのが垣間見れ
実感できるぞ!」
「まるで入道雲がニョキニョキと大きくなっているようじゃ」
「今、大阪の町は急成長を遂げようとしているんじゃ」
「お主も暫く此処にいれば実感出来る筈じゃ」

松平信綱
「ちょと待って下さい」
「大老土井様の暴走は貴公様にしか止められないのですよ」
「儂はこのまま江戸に手ぶらで帰るわけにはいきません」
「助けて貰えないでしょうか?」

松平忠明
「んーー土井殿が考えが分からぬ故、難しいのぉ」
「お主、土井殿が何か申しておらなんだか?」

松平信綱
「秘密が守れるか?と言っておったが
このような暴挙の手先は無用と思うたから
上様に裁断願うこと申し伝えた」

松平忠明
「これは、一筋縄ではいかぬな」
「お主の真正直は分かるが
土井殿の心意が分からぬば対処出来ぬぞ」

松平信綱
「如何いたしましょうか?」

松平忠明
「消息を認めよう」
「貴殿が必要な時に認めるがよい」
「それから、
土井殿に伝言して欲しいのじゃが」
「最近の大坂の町は急速に賃金や物価が上がっており
天井知らずだ」と
「必ずお伝えしてくだされ」



ついに、松平信綱は家光との謁見が許された。

将軍家光
「今回の、お披露目は特別じゃ」
「何度も言うが、三大老の合意のみ将軍は披露することを確認するぞ」

土井利勝
「上様! 三大老合意は御座いませんぞ」
「政務が先に進まず、様々な支障が出ております」

将軍家光
「だから、任せておるのじゃ」
「忖度せよ利勝殿」

「それ信綱殿 何じゃ!」

松平信綱
「恐れ入ります、今回は幕府の権威に関わること
取り急ぎの謁見をお願い致しました」

将軍家光
「権威とな?」
「由々しきことじゃ」
「如何なることぞ」

松平信綱
「今回、信綱の知らぬことにつき対処が遅れましたこと面目ありません」
「詳しきことは、大老土井利勝様より説明が御座います」

土井利勝
「上様快諾の件でございます」

将軍家光
「ん?」

土井利勝
「豪商の蓄えし資産が身分不相応であること」
「資産の差し押さえの件に御座います」

将軍家光
「そうじゃ 商人は自らの身分をわきまえるは必至じゃ」
「身分不相応な資産は没収すればよい」
「して、何が幕府の権威に関わるのじゃ 信綱殿」

松平信綱
「信綱が聞きましては、資産没収ではなく、
資金の借り入れとのことで御座います」
「何故天下の将軍様が一商人に頭を垂れて
金を貸してもらわねばならぬのか理解に苦しみます」

土井利勝
「信綱殿!」
「これは聞きづてなりませぬぞ!」
「上様に対して、無礼ではないか!」

将軍家光
「これこれ 利勝殿」
「大きな声を出すではない」
「信綱殿に申すが、余は頭を垂れた覚えは無いぞ」

松平信綱
「恐れながら申し上げます」
「世間では金を借り受けたことを笑いものとするかもしれません」
「上様がそのような辱めを受けてはなりません」

将軍家光
「んんんーーーー」
「そうじゃな では信綱殿」
「余は利勝殿と話がある」
「のぉ 少の間 信綱殿は席を外してくだされ」



実は、三大老が合意のみ将軍とのお披露目を許すという約束は
土井利勝が提案したものであった。
これは、大老土井利勝が政務をする上で
将軍からの直接指示が不要になるものであった。

実質の幕府の政務は大老によってなされており、
将軍家光にとって政務のことは大老に任せることが
長い間の約束事になっていたのだ。

松平信綱が席を外してから暫くして、
将軍家光が涙をこらえて
嗚咽し始めた。

土井利勝
「上様!」

将軍家光
「ううううぅぅぅ・・・」

土井利勝
「如何なされました?」

将軍家光
「いや、思い出しておった」

土井利勝
「上様は、立派になりましたぞ」
「そのような涙は不要にございますが、
悲しき事あれば、大いに涙を流されたら良いと存じ上げますぞ」
「恥ずかしきことでは御座らん」
「大いに泣くことじゃ」
「恥ずかしければ儂も殿と同じく
大いに泣く。悲しければ泣けばよいのじゃ」
「一緒に泣こうぞ」
「うううううぅぅぅ・・・」

家光と大老は二人で暫くの間泣いていた。

将軍家光
「このような姿を他の者には見せられんな・・・」

土井勝利
「気になさることは御座いません」
「勝利は上様の為に一緒になって
泣くことは名誉にございます」

将軍家光
「跡目は必要か?」

土井勝利
「上様には家綱公がおられます」
「心配は無用に御座います」

将軍家光
「大老忠勝がのぉ」
「跡目は一人ではなく」
「兄弟が必要と申すのじゃ」
「余は弟をあやめた」
「兄弟が争うのは見たくないのじゃ」

土井利勝
「家綱公は大きくなりましたぞ」
「例え弟君が生まれたとして
乳飲み子の弟君では御座らんか」
「心配は無用じゃ」
「御家騒動は大老が政務を握っておれば
決して起こることはありませんぞ」
「上様は安心して気持ちを強く持つことじゃ」
「強くなれぬときは、
儂も一緒に泣いて上様を御慰めいたす」

将軍家光
「いろいろ思い出すのぉ」
「其方は他の家臣から疎まれていて平気なのか?」

土井勝利
「儂も殿と同じ、平気は装いじゃ」
「平気に生きられるは戦国の世」
「平安の世では正気ではおれなくなる」
「思い出すことで悲しくなる」
「皆、同じにござる」

将軍家光
「そうか、土井殿も同じなのか」
「そうか。。。そうか」



松平信綱は自分の政務に確かな手応えを感じ
井伊直孝と酒井忠勝に進言した。

松平信綱
「上様の直々の謁見許されたおり、
今回の幕府の貸り受け金の事をお伝えいたしましたところ、
将軍家光公におかれましては
「んんんーーーー」
「そうじゃな 」
とのことで御座いました。

井伊直孝
「憂慮されたのじゃな!」

酒井忠勝
「曖昧な返事にござるな」
「今一度確認をする必要があると思うが、
異存ござらんな?」

松平信綱
「早急に対処せねばなりません」
「何度も確認することは敵いませんぞ」

酒井忠勝
「上様が曖昧なお言葉
そのままにしておくことはできませんぞ」

松平信綱
「上様は大老に政務を任せるとおっしゃっています」
「ですから、お二方に了承を貰えれば
土井利勝殿の無謀な借り受けを阻止できるのです」

井伊直孝
「ところで
土井利勝殿は何処に居られる?」

松平信綱
「上様が残し、
話があると申しておりました」
「話の流れから推測すれば
利勝殿の失策を厳しく非難されているものと思われます」
「上様は利勝殿に恥をかかさぬように配慮されたのでしょう」

酒井忠勝
「それも、上様に確認せねばなりませんぞ」
「推測で決めつけては後で困りますぞ」

松平信綱
「上様は大老に政務を任せておられます」
「そして、忖度するように
これも、申し受けておりますゆえ、
これ以上の特別なお披露は敵いませんぞ」

酒井忠勝
「とにかく、儂が様子を見て来るから
早まったことは無しじゃ。
良いな!」

井伊直孝
「しかし、お主は島原から旺盛なことじゃなぁ」
「もし、今度なにかしらの事があれば儂が行くからな」



将軍家光
「そうよなぁ
乱世が終わって平安が訪れておるのじゃ」
「日本中の者どもは楽しんでおろうのぉ」

土井利勝
「上様に感謝していますぞ」

将軍家光
「いま、儂が若い頃の事を思い出していた」

土井利勝
「上様 あまり深刻にお考えせぬ方が宜しいかと」

将軍家光
「若い頃、町娘に恋していたのじゃ」

土井勝利
「町娘でございますか?」

将軍家光
「意外か?」

土井利勝
「いいえ、宜しい事にございます」

将軍家光
「しかし、この恋はある者によって終わらせられ」
「そのある者によって葬りさられた」
「儂は、本当はあの町娘と一緒になって
小さな一大名として穏やかに暮らしたかった」

土井利勝
「上様・・・」

将軍家光
「この話は非常に危険な話じゃ」
「この話が外に漏れれば
幕府の存亡に関わるやもしれん」

土井利勝
「上様・・
そのようなお話をするものではありません」

将軍家光
「いいや
儂は話したいのじゃ」

土井利勝
「上様が話したい事であれば
利勝の責任を持ってお伺いいたします」
「命に代えて秘密をお守りいたす」
「ただ、そのような話は
上様の胸の中に留めておくが得策と・・・」

将軍家光
「儂は大御所家康公に恩を受け
その恩に応えるべく耐えてきた」
「しかし、もう限界なんじゃ」
「頼むから、この話を聞いてくれ」



将軍家光
「その町娘のことじゃが・・・・」

土井利勝
「上様」
「もう少し奥の部屋にてお話し願います」

将軍家光
「いや、この部屋が良いのじゃ」
「この部屋には酒井忠勝以外は近づけない」
「むしろ奥の部屋の方で話せば疑念が起こる筈じゃ」
「奥でこそこそでは如何にもおかしかろぉ」

土井利勝
「秘密の話を堂々とですか?」

将軍家光
「その町娘を葬ったのは誰だと思う?」

土井利勝
「まさか!」

将軍家光
「そうじゃ そのまさかじゃ」

土井利勝
「では、上様はその者に愛する娘を処分され、
代わりに小姓があてがわれたと?」

将軍家光
「世継争いのさなか、儂と町娘との仲を懸念したのだ」

土井利勝
「もしや、その娘に上様の・・」

将軍家光
「儂は何も分からんのじゃ」
「知っておるのは、あの者だけ・・・・」

土井利勝
「まさか?」
「もしや、上様が大奥に近づかぬはそのためで御座いましたか?」

将軍家光
「しかし、無駄であった」
「あの者の圧力に屈し家綱が生まれたのじゃ」
「あの者は、これに満足せず弟も必要だと・・・・」

土井利勝
「上様、
これは大変なことに御座いますぞ」

将軍家光
「そうじゃ」

土井利勝
「しかし、何ということじゃ」
「上様はその者を自らの右手に準えるほどの信頼を示しながら
最大の懸念を持っていたので御座いますか?」

徳川家光
「そうじゃ 余はその者に逆らうことはできん」
「その者は大御所家康公の化身であって余の最大の恩師なのじゃ」
「しかし、絶対に抵抗できぬ、恐ろしき者でもある」
「そして、このことは絶対に口外無用なのだ」

土井勝利
「上様は もしかして 
その者にワザとこの話を聞かそうとしているのでは御座いませんか?」

徳川家光
「あの者はいつもそうであった」
「儂はいつも操られておったんじゃ」
「あの者の背後には家康公がおられる」
「儂は絶対に逆らえない恐ろしき運命に悩まされていた」
「きっと、今、あの者がこの話を盗み聞きしておろう」
「盗み聞きしている其方! 良く聞くが良い。 
もう余は其方の操り人形ではないぞ!」

 


将軍家光
「余はこれから真の将軍になる」
「従って、お主ら大老の政務の権限を大幅に縮小し 将軍の命に従い忠義をはたせ」

土井利勝
姿勢を正し「ははぁ」 「謹んで上様に従う所存に御座います」

将軍家光
「土井殿・・・・ お主には嫌な役目を押し付けたのぉ」
「そして、道半ばでお主の権限を奪い取った」 「さぞかし無念で御座ろうな」

土井利勝
「上様 暖かき心使い利勝痛み入りまする」
「これより、上様は真の将軍に有らせられまする」
「今まで格別の御摂受賜りましたこと有難き幸せにございますれば
今後大いなるご健勝をお祈りいたします」

将軍家光
「まぁ このように申したが まだまだ、帥にも役目はござろう」
「ただし、あの快諾の件は無効じゃ」 「あのようなことは無効にせよ」

土井利勝
「承知致しました」

将軍家光
「実はな 先ほどの老中じゃ」
「あれは何といったか?」
「ああ、そうじゃ信綱じゃ」
「あの者が書状を持っておった」
「松平忠明じゃがお主も知っての通り あ奴は大政参与、無視は出来ん」
「あの者の書状を見るが良いぞ」
「お主が計略の淀屋の働きがある」
「淀屋は潰してはならぬ」 「心得よ」

土井利勝
畏まり「ははぁ」 「承知致しました」

第二十章 アプリコットプリンセス 江戸時代編

2020-01-16 15:34:02 | 漫画


秀吉
「やい、チビすけ」
「儂を覚えてるか?」

アプリコット
「まぁ 天下様」
「如何して此処に?」

秀吉
「儂は悔しいのだ」
「家康の奴は、猫を被って、騙しおったわ」

アプリコット
「家康様は戦を辞めるって。。。平和な世の中を約束してくれたのよ」

秀吉
「奴は豊臣を滅ぼそうとして、戦を始めたぞ」

アプリコット
「また 戦なのね。。。」

秀吉
「儂が苦労して達成した天下泰平は、奴によって潰されたのだ」

アプリコット
「家康様と話がしたいわ」

秀吉
「無駄だ」
「家康はとんだ古狸だったのだ」

アプリコット
「わたし、日の出国に行ってみます」

秀吉
「無駄だ」
「無駄 無駄」



フィクションです。

時は江戸初期 家光の時代である。
時の勘定奉行 伊丹康勝と松平正綱は逼迫する幕府財政を立て直す秘策を考えていた。

松平正綱
「幕府は江戸の繁栄の礎を築いてきたが、自然災害や統治のための費用がかさみ財政は火の車だ」

伊丹康勝
「確かに。しかし、農民からの年貢で財政を立て直すことは出来そうにないのぉ」

「年貢を絞り上げれば絞り上げるほど良いとのお達しであるが
不満は高まる一方じゃ」

松平正綱
「金や銀の改鋳を進めてはどうかのぉ」
「幕府の金庫がかさ上げ出来るでのぉ」

伊丹康勝
「どうも、直ぐには出来そうもないわい」
「たとえ、改鋳したからといってもたかがしれている」

「ところで、お主は変だとは思わんか?」
「天下の金銀は増え続けているのに幕府の金庫は減り続ける
減った金銀は何処に行ったのじゃ」

松平正綱
「知れたこと。町人の懐じゃ」

伊丹康勝
「お主に聞き覚えがあるのか?」

松平正綱
「例えば米問屋の後呂平は大きな倉に金銀を山のように蓄えているそうな」

伊丹康勝
「それは無いぞ。倉改めで帳簿と確認したが適正範囲であった」

松平正綱
「ま。噂話じゃ」

伊丹康勝
「煙の立たない場所には火は出ないか?」

松平正綱
「実はのぉ 試してみたい錬金術があるんじゃ」
「ちと、危険な方法なんじゃけど
年貢を絞り上げて農家を苦しめるよりはマシじゃと思うとる」

伊丹康勝
「どんな?」

松平正綱
「聞きたいか?」

伊丹康勝
「もとろん。。。」

松平正綱
「秘密は守れるか?」

伊丹康勝
「命に代えても。決して他言はありませんぞ」





家継
「幼子が異国からの訪問者とは珍しい・・・・・」
「お主は大御所さまと合ったことがあるとか?
恐ろしきかどわかしか?」

アプリコット
「いいえ。。。
私にも良く分からないのです」

家継
「幼子のこと多くの詮索はすまい」
「して、大御所様に何用だったのじゃ」

アプリコット
「家康様と約束をしていたのですよ」

家継
「ほー」

アプリコット
「戦の無い平和な世の中を約束してもらいました」

家継
「そうよのぉ 豊臣の残党やキリスト教徒の反乱はあるが、
概ね 天下は泰平とあるぞ」

アプリコット
「良かったわ、日の出国は平和になったのね」

家継
「そうじゃ 天下泰平じゃ」

アプリコット
「それでは、家康様は仲直りしたのね」

家継
「何方と?」

アプリコット
「秀吉様よ」

家継
「幼子! 口を慎め」
「未だ豊臣の残党は天下を転覆させんと企んでおるぞ」

アプリコット
「そうなのね、だから秀吉様が怒ってたのだわ」

家継
「幼子! 
お主はあたかも大御所に合ったことがあるかのように話しておるぞ」

アプリコット
「家康様とお会いできないのかしら」

家継
「大御所様は祖父の父親は「曽祖父」であるぞ」

アプリコット
「では、家継様が天下様ですの?」

家継
「バカなことを言うな」
「将軍は父である徳川家光じゃ」

アプリコット
「ごめんなさい」
「私 変な事を言ってたのね」

家継
「可笑しな事を言う 幼子じゃ」
「おもろき 幼子じゃ」
「ははははは。。。。。」
元和9年(1623年)、秀忠は将軍職を家光に譲った。
しかし、秀忠付の大老であった土井利勝は引き続き大老職に収まり
幕政に大きな力を持つことになっていた。

将軍家光
「其方に留まってもらったわ、其方の計略のため」
「真に心苦しき事」

土井利勝
「上様におかれましては、心痛察し申し上げます」
「ただ、未だ謀反の輩が後を絶ちませんゆえ
騙し打ちも憚りませんぬ」

家光
「儂が大御所様よりの恩を承りしは徳川の繁栄のため、
その恩に応えねば申し上げござらん」

土井勝利
「ご安心くださいませ、
上様の権威を傷つけぬよう
この土井勝利の計らい事として万事取り運ぶ所存でありますゆえ」

家光
「諸大名からは返事が届いているが、
返事無き者がおるそうじゃのぉ」

土井勝利
「いかにも、徳川忠長と加藤忠広にごさいます」

家光
「徳川忠長と加藤忠広を改易」
「そして、其方にも役職を退いてもらう
不服はござらぬな」

土井勝利
「土井勝利は諸大名に謀反を唆した罪人にございますれば
ご存分に処罰くださいませ」

家光
「んんんん・・」
「いや、それはならぬ」
「大老を退くことにだけしておけ」
「実はな、まだ大きな仕事をしてもらわねばならんのじゃ」

土井勝利
「幕府の財政にございますな」

家光
「そうじゃ」
「これといい、それといい お主の忠義は忘れぬぞ」
「ことが終われば、お主は汚名を背負って役を退くことになるやもしれん。。。」

土井勝利
「汚名など滅相もございません」
「大した事ではごぞらん」

家光
「そうか。。。。 」

江戸時代の初期 将軍家光の頃 天下の商業地には町民文化が栄えてくる。
中でも役人の長としての町年寄はその地の奉行の認可のもと
多角的な経営をする商人として大きな経済力を持ち始めていた。
この頃、豪商と呼ばれる大商人が現れるのである。

二代 淀屋言當  
「これは、はるばる大阪の地まで恐縮至極、恐れ多き事でございます」

伊丹康勝
「構わぬぞ、実はな、お主に頼まれごとをして欲しいのじゃ」

二代 淀屋言當 
「公儀の命、なんなりとお命じくださいませ」

伊丹康勝
「いやーぁ 二代目ぇ 先代は忠義でたったぞ」

二代 淀屋言當
「恐れ多きこと、先代の名に恥じぬよう精進する覚悟にございます」

伊丹康勝
「そうか、お主にとっても、淀屋にとっても良き話じゃ」

二代 淀屋言當 
「如何様な話にございますか?」

伊丹康勝
「ん。。。。。。。
本来、年貢は全ての者どもから収穫に比して収めてもらうべきものじゃと思う」
「しかしじゃ、商人は一切に免がなされておらぬ」
「たしか淀屋は長崎奉行じゃのぉ」

二代 淀屋言當
「何にございましょうか?」
「商人は米を作ってはおりませんので免税は致し方ございません」
「そのかわり、御奉行様にはそれなりのご奉仕をさせていただいております」
「まさか、商家よりも年貢を取り立てるとの事でございましょうか?」 

伊丹康勝
「いぁー 早まるな」
「お主にとって良き事と言っておるじゃろーが」
「実はのぉ」

二代 淀屋言當
「実は?」

伊丹康勝
「幕府の金庫役になってほしいのじゃ」

二代 淀屋言當
「おおおおぉ お待ちください」
「それだけは、勘弁してください」
「私共も大所帯にございますれば、淀屋は立ち行かなくなりまする」

伊丹康勝
「いやいや、誤解するな」
「淀屋は金利を得れば良きことじゃ」

二代 淀屋言當
「何と。。。」
「如何ほど入用に御座いましょうか」

伊丹康勝
「高利は約束する」
「その代わり一億両を一度に借りたい」

二代 淀屋言當
「一億でございますか?」
「よろしゅうおす。。。その代わり金利は7分は必要にございますが
如何にございましょうか?」

伊丹康勝
「よし了承した、ここに約束手形がある
そちは幕府に忠義した良き商人として名をのこすことになろう」
松平正綱
「二代 淀屋言當に会いにいったのか?」

伊丹康勝
「いかにも、すんなり契約がととのいましたぞ」

松平正綱
「して、幾らばかりの貸し付けがえられたのじゃ」

伊丹康勝
「聞いて驚くなかれ、一億両じゃ」

松平正綱
「なな何と、幕府の予算の100倍ではないか!」

伊丹康勝
「どうだ、驚いたか!」

松平正綱
「驚いた・・・・」

伊丹康勝
「これで、幕府の財政は100倍になる」

松平正綱
「しかし、2代目の淀屋、溜め込んでおったのぉ」

伊丹康勝
「では計画どおり、闕所処分して資産を没収しましょうか?」

松平正綱
「いいいや・・まて」
「豪商は淀屋ばかりではないぞ」

伊丹康勝
「全ての豪商を闕所処分しますか?」

松平正綱
「そんなことは出来んぞ」
「市場が大混乱になって資産など没収してる余裕はなくなるぞ」
「淀屋だけでも無理だ」
「危険すぎる」

伊丹康勝
「では、とりあえず500万両ほど借りましょうか?」

松平正綱
「いいや、一億両借りたらよい」

伊丹康勝
「しかし、幕府の予算だけでは利息分も返済できませんぞ」

松平正綱
「確かに一億両は膨大な借金じゃが
分割して諸大名に貸し出せば幕府の安定財源じゃ」

伊丹康勝
「大名に貸し出すので?」

松平正綱
「そうじゃ」
「資金不足にあえいでいる大名を借金漬けにしておくのじゃ」
久貝正俊 大坂東奉行 
「个庵、近うよれ」

淀屋言當  
「个庵 いつも恩奉行様にはお世話になっております」

大坂東奉行 久貝正俊 
「いやいや、お世話はお互いさまよ」

淀屋言當
「勘定方よりのお話に御座いましょうか?」

大坂東奉行 久貝正俊 
「おおそうじゃ しかるに个庵!
お主一億両も貸し付け出来るのか?」

淀屋言當
「金利七分であれば可能と申し上げました」

大坂東奉行 久貝正俊 
「一億両を七分金利とな?」

淀屋言當
「はい、そのようにお話しさせてもらいました」

大坂東奉行 久貝正俊
「実はのぉ 公儀では大きな問題になっておってな」
「まぁ 簡単に言えば 淀屋の蓄財は身分不相応とのことじゃ」
 
淀屋言當
「御奉行様 それは大きな誤解に御座います」
「確かに一億両の貸し出しは了承しましたが
淀屋に一億両の蓄財があるのではございません」

大坂東奉行 久貝正俊 
「ほー では偽りの約束をされたのじゃな」

淀屋言當
「いえいえ、そうではございません」
「商売をする場合、大量の商品を扱います都合上
金銀のようなもので直接清算はできないのです」
「例えば米の取引は米券と呼ばれる信用状で取引されるのです」
「ですから一億両の貸し付けは可能なのです
ただし、回収の手間賃などもありますので、
一億両の貸し付けともなりますと七分の金利が必要なのであります」

大坂東奉行 久貝正俊 
「んーーーー
儂には良く分からんのーーーー」
「个庵お主、一億両もの蓄財を疑われて
無事に商売が出来ると思っていたのか?」

淀屋言當
「ごもっともでございますが
幕府の金庫番にはなれませんゆえ
貸し付けには応じたのでございます」

大坂東奉行 久貝正俊
「よし、事情は略分かった
これは勘定方の暴走に違いない」
「これから、大きな問題になると思うが
淀屋のお上への忠義が試されていると思え」

淀屋言當
「个庵 肝に銘じて精進する所存に存じます」

大坂東奉行 久貝正俊
「淀屋は米の品質、価格、流通の完備がなされている
更には多角化による青物、海産物市場の運営、
更には物流構築と堤防の大改修
更には北方交易
更には糸割賦の付与
更には神社仏閣への多額の寄付
更には文化人として町々への貢献と膨大な資金援助
更には物流に欠かせない橋の構築
そして、内々によるお上への膨大なる献上
淀屋と幕府は共存共栄の間柄なるぞ」
 
淀屋言當
「有難きお言葉でございます
御奉行様の期待に応えるべく
これからも身を削って働いてまいります」

大坂東奉行 久貝正俊
「まぁ 勘定方は暴走じゃ
気にするに値なしぞ」 

淀屋言當
「では一億両の貸し付けは如何すれば?」

大坂東奉行 久貝正俊
「それは、儂には分からぬぞ」
「お主の判断じゃ」 

淀屋言當
「今回はご忠告でございましたか?」

大坂東奉行 久貝正俊
「まぁ そういうことじゃ」
「十分に注意いたせ」 

淀屋言當
「わかりました」
「ご丁寧に、有り難うございました」

大坂東奉行 久貝正俊 
「また、何かあれば呼び出すこともあろう」
「詳細を待っておれ」

淀屋言當
「それでは、これから仕入れの商談の約束がございますので」
「失礼いたしたいのですが?」

大坂東奉行 久貝正俊 
「おお 仕事の邪魔をしたな」
「もうよい 早々に商談いたせ」

淀屋言當
「では、また何かございましたらお呼びくださいませ」

土井利勝は大老の地位を確保したまま、伊丹康勝と松平正綱の策略による幕府の財政政策の大規模な実験を考えていた。

伊丹康勝
「二代 淀屋言當は一億両もの蓄財がありましたぞ」

松平正綱
「しかし、当初の予定であった資産の没収は危険すぎるため
策略は変更せねばなりますまい」

土井利勝
「はははは・・・・・」
「二代目は一億両も蓄えておったのか」
「これを利用すれば、
幕府の財産は100倍になるぞ!」

松平正綱
「まず、諸大名に資金を貸し出すことにしております」


1638年 松平信綱は老中首座の地位についた。
松平信綱は演芸、囲碁などを好まず、真面目に政務を行ない、
生真面目に政治を研究する一途な人物であった。

将軍家光は幕府の財政面を大老に任せきりであり、
老中からの意見書は全体会議を得た限られたものを
見聞しており、恐ろしく時間と手間を要していたため
政治経済は大老が一手に仕切っていたのだ。

土井利勝
「信綱殿、緊急の用事とは何事じゃ」

松平信綱
「大坂奉行からの消息に恐ろしい計画が有りましたゆえ
大老様に確認に御座います」

土井勝利
「ほー 何じゃ?」

松平信綱
「淀屋よりの借款が一億両とありますは
真に御座いますか?」

土井勝利
「確かに、淀屋より一億両を借金しておると聞き及んでおるが
如何した?」

松平信綱
「如何したではありませんぞ!」
「勘定方を問い詰めて厳しく吟味し、老中間に申し立てくださるように
お願い致しまする」

土井勝利
「何故じゃ」

松平信綱
「何故?」
「幕府が一億両もの借款があるのを
老中首座の信綱が知らぬ存ぜぬでは、
申し開き出来ぬではありませんか」

土井勝利
「儂が全ての責任を取る」
「よって、信綱殿の申し開きは不要じゃ」

松平信綱
「ん・・・・」
「いや、そうでは御座らん」
「一億両に御座いますぞ」
「一億両も借り受けて利子が七分では、とても返済はできませぬぞ」

土井勝利
「其方の心配は分かるが
一億両は大名に貸し付けておるのだから
幕府の借金は無いと思わんか?」

松平信綱
「いいえ、大有で御座います」
「それであれば、諸大名が返済できなくなりまする」
「借款が雪だるま式に膨れ上がり
手に負えなくなりまする」

土井勝利
「あのなぁ」
「借款ではないぞ」
「身内から借りた借金だ!」
「何で手に負えなくなるのだよ」

松平信綱
「借款も借金も返済しなければなりません」
「同じ負債ではありませんか!」

土井勝利
「同じではなかろーに」

松平信勝
「いいえ 同じに御座います」

土井勝利
「まぁ これでは、きりがないのぉ」
「お主にも 計略を知っておいてもらわねばなるまい」
「内緒に出来るか?」

松平信勝
「いいえ、上様にご報告させて頂きます」

土井勝利
「上様は快諾なされておるぞ」

松平信勝
「そんな?」
「嘘でしょう?」

土井勝利
「ホントじゃ」

松平信勝
「嘘じゃ!嘘じゃ!」

勘定奉行は徳川御金蔵より100万両を用意して今後の作戦を練っていた。

松平正綱
「大坂奉行からの消息では二代 淀屋言當は
資産を一億両持っている訳ではないとのことじゃ」

伊丹康勝
「そうですなぁ、考えてみれば、一億両もの金銀を動かすことは難しいからのぉ」
「大きな取引は信用状が交換される事になる筈じゃ」

松平正綱
「そこで、作戦を変更することにした」
「知りたいか?」

伊丹康勝
「ああ、早く教えてくれ!どうするんだ」

松平正綱
「今、一億両の金(手形)は諸大名が持っているわけだが、
諸大名は財政難じゃから、先ず米の買い付けをすると思うぞ」
「しかし、一億両もの買い付けが一度に有れば、
米の価格は高騰するな」
「まぁ、ざっと100倍にはなるじゃろーな」

伊丹康勝
「まさか用意した100万両で高騰前に米を買い付けるのでございますか?」

松平正綱
「そうじゃ、米が高くなる前に買い付けするのじゃ」

伊丹康勝
「それから、どうする?」

松平正綱
「米が高くなったら直ぐに売ってしまえ」

伊丹康勝
「大儲けですな」

松平正綱
「それから、米の価格が高騰したときに
米券を買うのじゃ」

伊丹康勝
「んーーー」
「それでは儲かりませんぞ」

松平正綱
「言い値では儲からん」
「米券は原価の1/100で買い取るのじゃ」

伊丹康勝
「売ってくれますかのぉ」

松平正綱
「必ず買える」
「紙きれの米券と現物の金銀の交換であるから」
「物価が高騰していれば可能なんじゃ」

伊丹康勝
「しかし、この作戦が成功すれば
往復で二億両の儲けですなぁ」

松平正綱
「そうじゃ、この百万両が
二億両に変わるのじゃ」

伊丹康勝
「大儲けですなぁ」

松平正綱
「そうじゃ」

伊丹康勝
「あははははははは」

松平正綱
「いひひひひひひひ」

伊丹康勝
「むふふふふふふ」