舟の中に横たわる若い娘の裸体。
それを見下ろす死神は、顔は髑髏でありながら、不思議と表情を感じさせる。まるで、愛しているとでもいうような。
墓石や死の象徴の歴史的な流れにそぐわない墓標に魅せられた大学助教授は、その彫刻の作者を調べ始めるが、その矢先、重要な手がかりをもたらしてくれるはずだった墓標の主の子孫が自殺。
けれども、その死には他殺の疑いが…。
芸術史家スウィニーは、1900年代の終わりに建てられてた墓標の謎と、芸術家達が集っていたという歴史を持つ静かな村で起きた殺人の真相を探っていきます。
狡猾なる死神よ
著者:サラ・スチュアート・テイラー
訳者:野口百合子
発行:東京創元社
Amazonで書評を読む
シリーズの第1弾というのは、けっこうどきどきします。
これで終わるのか、それとも続くのか。
翻訳ものは1冊目の段階で、すでに第2作、第3作があることがわかってしまうことが多いので、そのどきどき感は若干薄れますが、その後が気になるような登場人物がいるかいないかは、やはり気になるところ。
この作品の主人公、スウィニー・セント・ジョーンズ。
なかなか変わった雰囲気です。
変わり者の主人公というのはさほど珍しくなく、その変人っぷりが魅力でもあるでしょうけれど、そういう感じともちょっと違う雰囲気です。
仕事での実績と、見事な赤毛で人目を惹きつける容姿とを合わせ持つ彼女は繊細で、魅力的。
ただ、なんとなく馴染めない。
それは主人公自体が、人の中にどこかうまく馴染めていない、その気分がうつるからだろうと思います。
人の内側に入り込まない。自分の内側に入り込ませない。
それでいながら、妙に人恋しげな様子でもあるのが、この主人公の気になるところです。
物語の舞台となる村、ビザンティウムも方向は逆ですが、似たような雰囲気。
季節ごとにたくさんの客人が訪れていた芸術の村は、来訪者を屈託なく受け容れ、楽しませようとすることで、奥の奥まで入り込まれることを封じてしまうのです。
ある者にとっては意識的に、ある者にとっては無意識に演じられる、楽しげで華やかな休暇の日々。
そんな調子ですから、村で起こった殺人事件については、すべてのシーンが思わせぶりに怪しい気がしてしまいます。
犯人ではないと確信できるのはたった一人、自分だけ。
かつて、芸術家が集い暮らした村で、彼らの残した作品に囲まれながら、「芸術のために、人を殺すことは許されるか否か」が語られる、おそらくは犯人もついているだろう食卓。
遺された美術品への思い。
寝室の窓から見える人影。
夜更けのリビング。
昔を思い出させるパーティ。
かなり後半になるまで派手なことは起こらず、じわじわと物語は進んでいきます。
スウィニーは少しずつ真相に近づき、それと同時に彼女の首も少しずつ絞まる。
この感じと、華やかだった村の、今は亡霊と化した村の重苦しい雰囲気がたまりません。
スカっとしないところがいいというか。
この調子でシリーズが進むのならば、先も読んでみたい気がします。
スウィニーがどう変わるのか、それとも変わらないのか。
この先に出てくる死にまつわる芸術はどんなものなのか。
ただ、なんとなく大切なことを読み落としている気がする作品でした。
登場人物たちがあれこれと引用する詩になどにとんと馴染みがないせいかもしれません。
たくさんあるはずの楽しみを拾い損ねているようでものすごく残念。
この本は、ブログで書評をネットワーク『本が好き!』のプロジェクトでいただきました。
ありがとうございます。
本屋でみかけたら、ぱらぱらと読んでみます!
ただ、1作目のせいか、その部分は案外さらりとしているのですよね。それが2作目が気になる理由でもあります。
近くだったら、本、差し上げられるのに。