シュガークイン日録3

吉川宏志のブログです。おもに短歌について書いています。

校門前の桜の歌

2013年01月25日 | インポート

体罰でバスケットボール部の部長が自殺した事件の後、校門前に置かれていた花束に、短歌が添えられていたらしい。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130124-00000005-asahi-soci

さくら咲く春待つこころしぼみけりみやこに落つる涙おもへば
(キャプテンへ捧ぐ)

という一首で、学校に通う生徒か、その父母がつくったものだろうか。

歌としては、特に何も言うことはないのだが、このような場で、じつに古風な短歌が用いられたことに、衝撃を受ける。

おそらく、この歌の作者の心の中ではさまざまな感情が渦巻いているのだろう。
亡くなった生徒を悲しむ思い。自殺を止められなかった悔しさ。
入試中止の騒動になり、静かに死者を悼む環境でなくなってしまったことへの怒り。
あるいは自分の将来への不安も含まれているかもしれない。

しかし、今、何か言葉で語ってしまうと、きっとバッシングされたり、好奇心の目で見られたりしてしまうだろう(実際、記者会見した生徒が「死の重みを受け止めていない」という理由で厳しく批判されたりした)。だから、何も言えない。

「何も言えない」ということを、この短歌は語っている。
この歌の意味的な内容はほとんどゼロに等しい。しかし、何も言っていないことが、逆説的に、言いたいことが無限にある、ということを暗示しているのである。
この歌には「桜宮」という高校名が織り込まれているのだが、そこに密かに、自分の通う高校への愛情が込められているのかもしれない。今、この高校が好きだ、と言ったら、世間から袋叩きにされてしまう。だから、ひそかに名前を詠み込んで、死者と学校という場を鎮魂しようとしたのであろう。
「さくら」という花が詠まれているのも、不思議な暗合で、太平洋戦争のとき、多くの兵士が桜の花を詠んだ短歌を残して、戦死していったことが思い出される。
たぶん、作者にはそんな意識はなかったはずだが、無意識のうちに、そうした鎮魂の儀礼をなぞるように行ってしまう。そこに、短歌という形式の恐ろしさがある。

「何も言えない」ときに、桜や紅葉などの自然をまとって、意味のない呪文のような言葉が湧き上がってくる。そして、そうした言葉から、私たちは「言えなかった何か」を無限に汲み出すことができる。
これを作者と読者の共感のシステム、あるいは共犯のシステムと言ってもいいと思うのだが、
美しくもあるし、ある意味では不気味でもある。「何も言っていない」にも関わらず、人々の心を煽動していくからだ。この短歌を、新聞記者が写真に収めて、記事に掲載したのは、何か多くの人の心を揺さぶるものを、ここに感じたからだろう。

そんなナイーブな共感のシステムは、短歌の本質であると同時に、危うさにもつながっている。私たちは、それを受け入れつつ、同時に批判的にとらえていかなければならないのだろう。

校門前に置かれていた桜の歌を、私はしばらく憶えておくようにしたい。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 短歌と天皇制について | トップ | 祇園の桜、詩客 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Gw340GEJ (かぐや)
2013-01-27 20:06:16
Gw340GEJ
かぐやと申します.。.:*・゜从n0^~^)η゜・*:.。.ミ

☆えっちな話が苦手なので、男の人の友達がいません(つд∩)
よろしくしてほしいです( ´∀`)σ)∀`)
かぐやは本名です。歳は、19歳と53ヶ月です(〃▽〃)
身長は149で、重さは内緒です(  ̄ー ̄)40キロ台ですけど~。
仕事はホームヘルパーをしてて、休日は不定期です。
好きな食べ物は、お肉です♪
お野菜よりも、お肉がたいそう好きです゜・*:.。.
こういうの初めてで、とても緊張してて、何を書いていいのか
わかりません。なので、お歌を歌いますね♪川n・-・)η゜・*:.。.ミ ☆
きいてください。堂本光一がよく歌う事で有名な、
宇宙刑事ギャバンです♪

男なんだろう、グズグズするなよ♪
胸のエンジンに火を付けろ♪
~~♪

お肉を食べながら、連絡待ってますヽ(°▽°)ノ
仲良くなりたいです゜・*:.。.(´ー`) .。.:*・゜
53xvl4t7。you-stream。net/53xvl4t7/
返信する
> このような場で、じつに古風な短歌が用いられ... (通りすがりの名無し)
2013-01-28 00:26:09
> このような場で、じつに古風な短歌が用いられたことに、衝撃を受ける。
> 「何も言えない」ということを、この短歌は語っている。
> この歌には「桜宮」という高校名が織り込まれ(略)高校への愛情が込められている
まったく同感です。
“キャプテンへ捧ぐ”とあるので在校生が書いた歌でしょう。
歌としての良し悪しはわかりませんが、これほど悲しい気持ちにさせる春の歌はない
と思います。
返信する

コメントを投稿

インポート」カテゴリの最新記事