洋楽を聴きはじめたのは、やはりビートルズからだった。高校1年のころ、クラスの結城君から初期の曲をカセットにダビングしてもらったのだった。まだCDも無い時代で、私の家にはレコード・プレーヤーも無かったから、友達にダビングをしてもらうしかなかったのである。まあ、友人たちもカセット・テープを買うお金にも苦労していることが多かったし、今と比べればずいぶんつつましい高校時代だった。
あのころ、テレビの音楽番組はまだ、アイドルと演歌が中心だったように思う。今でもおぼえているのだが、TMネットワークと村田英雄がいっしょに出演したこともあった。
それだから、当時の高校生には、日本の音楽をちょっと馬鹿にしていたところがあって、洋楽を聴かない奴はカッコ悪い、という雰囲気があった。あのころはマイケル・ジャクソンやマドンナなど、80年代の洋楽が全盛期を迎えようとしていたころだった。A-HAの「テイク・オン・ミー」やスティービー・ワンダーの「パート・タイム・ラバー」など、街ではしょっちゅうかかっていて、洋楽に興味がない人でも、メロディはいつのまにか覚えている。そんな時代だったのだ。やはりアメリカへの憧れはすごく強かったのではないか。浜田省吾が「アメリカ」という曲で、金も無いし行くことのできないアメリカへの思いをせつせつと歌っていた。
私が住んでいたのは宮崎で、まあ田舎なのだが、それでも、高校の文化祭の打ち上げではマイケル・ジャクソンの「スリラー」の真似をやったりしていた。最近、30年ぶりにクラスのIさん(女性)に会って、
「あのときの打ち上げではビールとか飲んでて、怖かったな」
と言うと、
「そんなことがあったっけ? しょっちゅうだったから忘れたなあ」
とおっしゃっていた。
私は当時は真面目な高校生だったので、すごくビビッていたので、よく覚えていたらしい。
だって、飲み会のあと、ボウリングに行ったら、そこに高校の先生が来ていて、あのときはずいぶん冷や冷やしたのである。
さて、私はビートルズは聴いていたものの、そのころ流行っていた洋楽にはまだあまり関心はなかった。YMOとかオフコースとか浜田省吾を聴いていた高校生であった。つまり、カッコいいほうの高校生ではなかったのである。マイケル・ジャクソンなどは、よく理解できなかったし、すでに流行に遅れているから、今更聴こうという気にはなれない、ということもあった。
ところが、高校の文化祭で、3年のある男子生徒が、「ホワット・イズ・ラブ?」という曲を、キーボード一本で歌ったのである。当時(約30年前)は、キーボードはそうとう高価な楽器だったはずで、よく入手したものだと思うが、リズムパターンも自動演奏させて、非常にみごとにパフォーマンスしたのである(と、私の耳には聞こえた)。
不思議に哀感がある曲で、同級生の戸高君(一番詳しかった)に、あれは誰の曲?と尋ねると、「ハワード・ジョーンズだね。今度貸してあげるよ」ということで、私は『かくれんぼ(ハイド・アンド・シーク)』というテープを入手したのであった。
『かくれんぼ』は、メロディ・ラインが非常にくっきりとした曲が多く、私にとって、80年代の洋楽入門として最もぴったりだったように思う。これを聴いたために、80年代の洋楽の世界にずっぽりとはまっていった気がする。デッド・オア・アライブとかフィル・コリンズ、TOTO、ペットショップボーイズとか、わかりやすいアルバムを、戸高君はいろいろと教えてくれた。
あのころ、高校の近くに貸しレコード屋ができて、何人かでお金を出し合って1枚のレコードを借りてきて、全員分ダビングする、ということもよくやっていた。なんとも涙ぐましいことをしていたものである。友人の家の弟が帰ってきて家の中で暴れ、レコードの針が飛んでしまい、録音やり直し、ということもあったりした。レコードは傷がつきやすいので、貸しレコード屋に返すと、店長さんがじっくりとチェックする。あの瞬間の緊張感も怖かった。
今では、ブックオフに行くと、当時はとても買えなかったレコードが、CDになり、500円くらいで売っていることがある。そんなときはもちろん買うのだが、懐かしいような哀しいような変な気分になる。
息子の話では、最近の高校生はあまり洋楽を聴かないそうである。
J-POPで十分満足であるらしい。または韓流を聴く。
それだけ、アメリカに対する憧れも薄れてきたということなのかもしれない。
(洋楽の大ヒット曲は最近ほとんど無いですしね。レディ・ガガくらい?)
私が高校生のころは、〈日本の音楽は遅れている〉という妙なコンプレックスがあったのだが、そんな変な思い込みがなくなったのは、たぶん良いことなのだろう。
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