米トランプ大統領による世界の秩序の破壊が相互関税により次の段階に進んだ。4月2日に署名した大統領令によれば、ほぼすべての輸入品に10%の関税をかけるほか、米国への関税が高かったり「非関税障壁」があったりする国には個別により高い税率(中国34%、日本24%、EU20%など)を適用するというものだ。だが「相互関税」算出の根拠となった各国が米国に対して課しているとされる関税率は「洗練された分析に基づくもの」とされていたが、ジャーナリストのジェームズ・スロウィッキ氏が、各国に対する米国の貿易赤字をその国の対米輸出(?)額で割っただけであることを突き止めた。政権側は数式を示したが、複雑そうに見える数式のうちε×φという部分が実は1になることに気づけば、結局、米国の貿易赤字を米国の輸入(!)額で割っただけのものであることがわかる(朝日新聞2025-4-5)。たとえばUEの場合、実質的な関税率が39%だとされたが、平均関税率は3%にも満たない。欧州の付加価値税(VAT)20%を加えたとしてもとうてい39%にはならない。トランプ政権による算定が全く根拠のないものであることは明々白々だ。
日本は相互関税からの適用除外を求めているというが、そもそもの相互関税の不当性をなおざりにして適用除外を求めるというのはおかしいのではないかとかねてから指摘している(過去ブログ)。
トランプ政権との交渉のやりにくさを示す記事が興味深かった(朝日新聞2025-4-4、同9面)。トランプ政権は要求を突き付けてくるのではなく「何ができるかを考えて提案しろ」という感じなのだという。米商務長官は訪米した経済産業相に「大きな話を持ってこい」と突き放され、事務レベルの協議でもトランプ大統領の意向はつかめないのだという。だがここで相手の手に乗って軽々に譲歩を申し出ることはありえない。「こちらからカードを切っても『ごちそうさま』と全て取られかねない」というのが実情だろう。石破首相はトランプ大統領との電話協議で日本政府としての交渉案を「パッケージとして示したい」と言うが(asahi.com)、間違っても一方的な譲歩案のみを示すことのないようにしてほしい。安倍政権の失敗を忘れてはならない。第一次トランプ政権では日本車に高関税をかけると脅されて牛肉などの関税を引き下げたが、見返りとして得たはずの自動車関税の関税撤廃は空約束だった(過去ブログ)。
そのいきさつを思えば、今回の「相互関税」への報復として、トランプ大統領が「米国の農家の偉大な勝利」と自賛した安倍政権での農産物の関税引き下げを撤回するのが妥当な報復ではないかと思う。中国は早速、米国と同率の34%の追加関税で報復した。他にも報復関税を明言している国はある。だが先日の報復に触れたときにも(過去ブログ)関税のかけ合いが必ずしもいいことではないと留保はつけた。報復関税をかければ国内の消費者も物価上昇に苦しむことになる。果たしてそれが賢明なのかどうか、慎重に見極める必要がある。(トランプ大統領は、相手側が報復関税を課したら税率をさらに上乗せすると言っていた(朝日新聞2025-4-3)が、対中国ではどうなったのだろう?)
ではどうすればいいのか。そもそもの相互関税の誤りを指摘しても聞く耳はもたないだろうから、やはり「相互関税」の算定の根拠を追及し(日本は実質関税率が46%とされた)、それが間違っていることを説明していくことが本筋だろう。
だがトランプ政権が「何を交渉したいのかもわからない」というのは、やはり今回は第一次政権のときと違って、関税をかけること自体が目的であり、交渉を目的とはしていない(前掲朝日新聞2025-4-4)ということなのだろう。そんな相手に何をもちかけても限界がある。
最大の希望はトランプ大統領自身の無定見だ。中国企業の動画投稿アプリTikTokの米国内での利用禁止を就任直後に猶予していたが、米国企業による買収が相互関税のせいで滞ると、さらに75日間猶予することにしたという(朝日新聞2025-4-5夕刊)。日本製鉄によるUSスチール買収にしても、USスチールのために日本製鉄が必要だることがわかると「投資なら認める」と軌道修正した。今回の相互関税にしたって、相手が報復関税を課したら税率を上乗せすると言っていたわりに、中国の34%の報復関税に対する税率上乗せという話は出てきていないと思う。
ことほどさように、トランプ大統領は威勢のいいことを言っても、まずかったと悟ればあたかも最初からそのつもりだったかのように平気で軌道修正する。今回の相互関税だって世界中で株安を引き起こしている。負の影響は短期的なものとの立場らしいが、じわじわと米国経済をむしばんでいくことがわかれば、きっと何事もなかったかのように撤回するはずだ。
もちろんそれまでには何か月も世界中が苦しむことになるだろう。チキンレースのようでつらいが、ここは軽々にトランプ大統領に譲歩を差し出したりすることのないよう、くれぐれも石破首相にはお願いしたい。
日本は相互関税からの適用除外を求めているというが、そもそもの相互関税の不当性をなおざりにして適用除外を求めるというのはおかしいのではないかとかねてから指摘している(過去ブログ)。
トランプ政権との交渉のやりにくさを示す記事が興味深かった(朝日新聞2025-4-4、同9面)。トランプ政権は要求を突き付けてくるのではなく「何ができるかを考えて提案しろ」という感じなのだという。米商務長官は訪米した経済産業相に「大きな話を持ってこい」と突き放され、事務レベルの協議でもトランプ大統領の意向はつかめないのだという。だがここで相手の手に乗って軽々に譲歩を申し出ることはありえない。「こちらからカードを切っても『ごちそうさま』と全て取られかねない」というのが実情だろう。石破首相はトランプ大統領との電話協議で日本政府としての交渉案を「パッケージとして示したい」と言うが(asahi.com)、間違っても一方的な譲歩案のみを示すことのないようにしてほしい。安倍政権の失敗を忘れてはならない。第一次トランプ政権では日本車に高関税をかけると脅されて牛肉などの関税を引き下げたが、見返りとして得たはずの自動車関税の関税撤廃は空約束だった(過去ブログ)。
そのいきさつを思えば、今回の「相互関税」への報復として、トランプ大統領が「米国の農家の偉大な勝利」と自賛した安倍政権での農産物の関税引き下げを撤回するのが妥当な報復ではないかと思う。中国は早速、米国と同率の34%の追加関税で報復した。他にも報復関税を明言している国はある。だが先日の報復に触れたときにも(過去ブログ)関税のかけ合いが必ずしもいいことではないと留保はつけた。報復関税をかければ国内の消費者も物価上昇に苦しむことになる。果たしてそれが賢明なのかどうか、慎重に見極める必要がある。(トランプ大統領は、相手側が報復関税を課したら税率をさらに上乗せすると言っていた(朝日新聞2025-4-3)が、対中国ではどうなったのだろう?)
ではどうすればいいのか。そもそもの相互関税の誤りを指摘しても聞く耳はもたないだろうから、やはり「相互関税」の算定の根拠を追及し(日本は実質関税率が46%とされた)、それが間違っていることを説明していくことが本筋だろう。
だがトランプ政権が「何を交渉したいのかもわからない」というのは、やはり今回は第一次政権のときと違って、関税をかけること自体が目的であり、交渉を目的とはしていない(前掲朝日新聞2025-4-4)ということなのだろう。そんな相手に何をもちかけても限界がある。
最大の希望はトランプ大統領自身の無定見だ。中国企業の動画投稿アプリTikTokの米国内での利用禁止を就任直後に猶予していたが、米国企業による買収が相互関税のせいで滞ると、さらに75日間猶予することにしたという(朝日新聞2025-4-5夕刊)。日本製鉄によるUSスチール買収にしても、USスチールのために日本製鉄が必要だることがわかると「投資なら認める」と軌道修正した。今回の相互関税にしたって、相手が報復関税を課したら税率を上乗せすると言っていたわりに、中国の34%の報復関税に対する税率上乗せという話は出てきていないと思う。
ことほどさように、トランプ大統領は威勢のいいことを言っても、まずかったと悟ればあたかも最初からそのつもりだったかのように平気で軌道修正する。今回の相互関税だって世界中で株安を引き起こしている。負の影響は短期的なものとの立場らしいが、じわじわと米国経済をむしばんでいくことがわかれば、きっと何事もなかったかのように撤回するはずだ。
もちろんそれまでには何か月も世界中が苦しむことになるだろう。チキンレースのようでつらいが、ここは軽々にトランプ大統領に譲歩を差し出したりすることのないよう、くれぐれも石破首相にはお願いしたい。