リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

衆院選2021:立憲惨敗の背後にある構造的原因

2021-11-07 | 政治
先ごろ終わった衆院選。ふたを開けてみれば、自民は議席を減らしたものの、自公で絶対多数を維持する結果となった。あれこれ論評されているが、野党が「実現可能性と改革性を併せ持つ公約と政権構想を示すほかない」(朝日新聞2021-11-7)などと言ってもしょうがない。それができないから、安倍・菅政権がいかに権柄づくな態度や不誠実な答弁を繰り返そうとも野党の支持率は一貫して低迷していたのだ。そしてそれは必ずしも野党の責任ではなく、今の日本の構造的な問題で、もはや変えがたいのではないかと思われる。
まず有権者のメンタリティーとして、(1)負担を嫌うこと、(2)変化を嫌うことの2点が大きい。このそれぞれについて考えてみる。

(1)長年の自公政権で拍車がかかった格差社会にコロナ禍が追い打ちをかけて苦しんでいる人々が多い中、与党も野党も国民に負担をかける政策は言い出せなくなっている(過去ブログ)。現に与党も野党も財源の裏付けのないばらまき政策を競う状況だった。
ただ、国民が負担を嫌うというのはどこまで本当だろうか。野党の消費減税の公約には反対が多かったという世論調査も見た(朝日新聞2021-11-5夕刊)。あまりに露骨なばらまきに対しては健全な批判意識が残っているとみていいのだろうか。地方選では現金給付をうたう候補が票を伸ばすとも報じられているのだが(過去ブログ)。

(2)野党が低迷し自民党が批判されながらも一定の支持を集めていることに、若者の保守化などと言われることがある。だが「保守」という言葉は誤解を招く(過去ブログ)。不満はいろいろあるがへたに改革して混乱が生じてはかなわない、だから何もしないでくれ、という「諦観に基づく現状維持志向」が根本と見るべきではないか(過去ブログ)。長年の大企業優先の政策で非正規雇用などで生活に苦しむ人が増え、「改革してみてだめなところは改めることにより社会をよくしていく」という健全な発展プロセスすらも受け入れる余裕がなくなっているのだ。
保坂正康氏(朝日新聞2021-11-5)は、今回の選挙で示されたのは、「この国をどこに持っていくのか全く不透明」な「哲理なき現状維持」としてまとめた三項目のうちの第一で、「コロナ後を見据えて、何を最初に変えなければならないか、といった差し迫ったことがない中で、とにもかくにも現状の安定を求めた」と分析しているが、その背後にはこうした切実な理由があると思う。

保坂氏の第三の点は、立法府の無力化が進むのではないか、という懸念。記者の質問に答える形で安倍政権での「行政の独裁」、学術会議問題で現れた「憲法の信任への政権による侵害」(この表現の意味は私には不詳)、岸田首相が敵基地攻撃能力の保有を否定しなかったことに関して「地続きの戦前への逆戻り」、「狂気」、一連の政権による「憲法をないがしろにする政治」などと指摘していくが、このあたりは私にはあたりまえすぎて今さら今回の選挙にからめて論じることでもないと思う。

(3)気になったのは保坂氏の挙げる第二の点、「日本維新の会や公明党、国民民主党など、自民党に考え方や政策などで近接した政党が伸びた」、「逆に距離感がある立憲民主党や共産党が減らした」ということだ。これは選挙直後から言われてきたが、やはり共産党との協力で、逆に従来の支持者が離反したり、少なくとも動きが鈍くなったりした部分が多かったようだ。選挙前から民主党の支持母体である連合の共産嫌いが報道され、気になっていたが、冷戦時ではあるまいに、共産党に対する反感がいまだに残っているというのが驚きだった。(戦術的には、野党共闘で使われた共産党の「限定的閣外協力」という表現はわかりにくく、むしろ「共産党と組んでいるけどそれを隠したい」みたいな意図が見え見えで、イメージダウンにつながったのではないかと思っている。自民党の内部だって、自民党と公明党だって政策が違う人たちが集まっているのではあるのだから、言っていることは同じでも、「連立はしないが非自民の首相選出を支持する」「個々の政策には是々非々で協力」ということでよかったのではないか。今回の惨敗で野党共闘の見直しは必至だが、野党の共倒れを防ぐ候補者調整だけは続けてほしい。)

(4)改めて選挙公報の各党の公約を見てみた。ばらまき政策は与野党同じとして無視すると、野党の公約にあって自民党と公明党の公約にないものは、「原発に依存しないカーボンニュートラル」、「多様性」「ジェンダー平等」だ。今回の選挙結果は、こうした政策は票にはならないということをも示しているのではないか。私もこうした政策はいいとは思うのだが、選挙の争点にするのはそぐわないような気がする。

(5)そして私にとってこれが重要なのだが、日常生活に直結しない安倍・菅政権のさまざまな問題も、有権者は関心がないということらしい。瞬間的に批判が広がることがあってもすぐ忘れられてしまう。共謀罪法や安保法制など、自民党のやってきたことは決して「現状維持」ではないのだが(過去ブログ)、政府批判をする者が弾圧されても、対米従属の形の武力行使が広がっても自分には関係ないということなのだろう。国会でも記者会見でもいい加減な答弁を繰り返したり、説明すべきことを拒み続けたり、野党の国会召集要求を無視したりといった国民に対する誠実さの欠如が何より許しがたいと私は思うのだが(過去ブログ)、正義なんてどうでもいいからとにかく何もしないでくれということなのだろう。
自公政権は格差社会の拡大によって、まったく身動きの取れない状況に国民を追い込むことによって、社会改良への意欲を削ぐことに成功したといえる。

追記:必ずしも野党共闘が成果ゼロだったというわけではないようだ。当選した与党候補との票差が1万票以内だった選挙区は31あり、うち16もが5000票以差内の激戦だったという。下野後の民主党系候補者が小選挙区で勝ったのは中堅やベテランばかりだったが、今回は立憲新顔で7人が当選したという。(朝日新聞2021-11-19

追記2:先の選挙で大敗した立憲民主党の枝野代表は、安倍政権以来の積極財政や量的緩和に代わるアイデアをもっていなかったので、ジェンダーやLGBTQなどに論点をずらして戦わざるを得なかったとの指摘があった(朝日新聞2021-12-14)。「積極財政や量的緩和」をやめることを言い出せない状況はやはり厳しい。国民の意識が変わらないことにはどうしようもない。

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