リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

犯罪被害者の実名報道は何のためか

2019-09-10 | 一般
「京都アニメーション」の放火殺人事件の犠牲者35人の氏名が公表されたことに関し賛否両論の意見がある(朝日新聞2019-9-10)が、被害者のプライバシーを抑えて公表を是認する根拠は弱いように思えてならない。

京都府警は実名公表を原則とすることで一貫しているそうだが、京アニ側は、ネット社会の現状に鑑み、被害者名が報じられるとプライバシーが侵害され、遺族が被害を受ける可能性があるとして実名公表を控えるよう府警に要望した。身内を亡くした遺族にメディアの取材が殺到する「メディアスクラム」はたしかに問題で、今回の公表に当たっては代表社が遺族に取材の意向を尋ねるなど配慮を重ねたようだ。一方、公表を拒否する意向だった遺族の理由には「真蹟や近所の人らに亡くなったことを知られたくない」というものもあるそうだが、こちらは私には理解できない。日ごろつきあいもないのに「あのお宅…」みたいに思われるだけでもいや、ということなのだろうか。

メディアも公表された実名を報じたが、「事件に巻き込まれた方々の支援や、再発防止のあり方を社会全体で考えることにつながるのではないか」(朝日新聞)、「事件の全貌を社会が共有するための出発点」(毎日新聞)、「性別と年齢だけでは失った存在の大きさは伝えられない」(産経)、「事件の重大性や命の重さを伝えるため」(NHK)、「社会で犠牲者がどのような人だったのかを共有し、死を悼むため」(被害者学の准教授)、「どういう事件が起き、誰が亡くなったのか後世に残すため」(メディア論の教授)といった理由は、遺族の反対を押し切ってまで実名報道する理由としては漠然としすぎているように思える。「再発防止」に関しては、たしかにメディアが背景を掘り下げることで再発防止に役立つことはあるかもしれないが、重要なのは加害者の背景ではないか。「今回は業績を伝える意味もあった」(メディア論の教授)との指摘には同感だが、あくまでも読者の関心に応えるということにすぎないともいえる。
一方、「検証や再発防止につなげるため」(日経)の「検証」ならわかる。読売新聞はより明快だ。「実名を基にした取材によって、警察発表の事実関係をチェックし、正確性を高めることは、報道の使命でもある」という。
たしかに政府や警察が事件をでっちあげて…といった可能性まで考えればやはり実名報道が大切だとはわかる。だが京アニが最初から指摘していたように「ネット社会」という現在の動向を考えたとき、果たして実名報道が正しいのか、いまだ納得できないでいる。警察はメディアに対して実名を発表し、メディアは(被害者のプライバシーに配慮しつつ)取材するが、実名は報道しない、ということではだめなのだろうか。

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