けいはんな文化学術協会ブログ

私達は2001年6月に認証されたNPO法人でけいはんな文化学術協会と称します。

第2回「けいはんな国際中学生キャンプ」開催

2013年09月24日 | 活動報告
「けいはんな文化学術協会」は好評であった昨年12月の第1回に続いて第2回中学生のためのグローバルキャンプを8月9日から8月11日の2泊3日で開催しました。

 開会式みんな少し緊張気味


今回は初めて京都府立大学の地域貢献プログラム(ACTR)との共催として行うとともに、前回同様(公財)関西文化学術研究都市推進機構、(株)けいはんなの協賛及び生駒市ならびに精華町・木津川市・京田辺市・城陽市・交野市・生駒市の各教育委員会の御後援を得て素晴らしいキャンプを開催することができました。

このKeihanna Global Camp 2013「けいはんな国際中学生キャンプ」の主旨は「グローバルな視点を持ち、明日の世界を力強く生きるために中学生が考えるべきことは何だろう?」です。英語のタイトル“Explore the Invisible; Feel, Touch and Explore the World” の通り、昼間の星は見えないが、存在しないわけではない。目に見えるデータだけで思考し、行動してはいけない。いろいろなデータを統合して、新しい知を生み出せるような総合的な人間力を涵養して欲しい。「グローバル化とは、異文化を尊重しながら自らのアイデンティティーを保ち、自国の文化を語れる人間力を備えることです。語学力も大切だが、外国語を使って語るに足ることを自らの中に持つことが大切なのです。」に気付いてもらうよい機会となったと思います。

発表したり聞いたり、和気あいあい


今回は13名のキャンパーが集まりました。前回より少し増えましたが、募集定員の25名に対してはまだまだ少なかったです。その分キャンパーはゆっくり過ごすことができたと思います。留学生カウンセラーはVictor(ビクター、ロシア、Chief Counselor)、Tharaka(タラ、スリランカ)、Lina(リーナ、シリア)、Dewi(デウィ、インドネシア)、Zizo(ジーゾ、リビア)、Ricardo(リカルド、グァテマラ)と世界の6か国から参加してくれました。皆さん周到な準備と臨機応変の対応で大いに盛り上がりました。また、今回は特別講師として京都府立大学生命科学研究科の織田昌幸准教授と、カウンセラーとして大学院生の小道信孝さんと稲葉理美さんの2名の方がACTRプログラムのメンバーとして参加して下さいました。皆さんの協力で期待以上の成果がありました。

美味しそうなものがいっぱい!


 第1日目は親子で参加していただいた開会式、オリエンテーションの後、ホテルのチェックインを済ませ、最初のプログラムとして、6人の留学生のうちまず3人のカウンセラーから「自己紹介・お国自慢」を紹介してもらいました。初めて聞く外国の様子にみんな驚いたり感心したり興味深い時間でした。次のプログラムは「ブレイン・トレーニング」で、まずチーフカウンセラーが「100人の村の話し」として、デモを交えて世界の人口や言語や宗教や文化について説明してくれました。

楽しく留学生さんと


第2日目は、まず前日紹介できなかった残りのカウンセラー3人から「お国自慢」の続きを聞きました。前日同様キャンパー達には珍しい話に大いに興味を持ちました。次に、ACTR「生命科学の話し③」として、京都府立大の2名のカウンセラーにリードしてもらいながら、前日の生命体のエネルギーの話しを更に深めることができました。太陽エネルギーの恩恵で物質が循環して生命が維持されているなど、自然のメカニズムの神秘に触れることができました。午前中の最後に「100人の村の話し」のまとめとして素晴らしい詩を皆で読み、地球に住むという意味を考えました。午後、キャンパー達は3つのグループに分かれ、「世界の中学生・学校制度」「留学」「みんなの将来」の3つのテーマについてそれぞれ担当のカウンセラーグループを訪ねて詳しく話を聞き、積極的にディスカッションすることができました。どこの国も教育を大切にしていることや、留学生たちの留学の動機や将来の計画も聞くことができて、キャンパー達もいろいろ考える機会になったと思います。

留学生カウンセラーの話 興味津々


夕食はけいはんなホテルのレストランラ・セーヌでみんな仲良く話をしながら戴きました。夕食後、明日の発表会に向けて、Power Pointを使って「キャンプの感想」や「将来の夢」などについて自分の考えをまとめました。

第3日目は昨晩作ったPower Pointをみんなに披露しました。ご覧いただいたご父兄にも印象深い発表会になったと思います。閉会式では修了証をカウンセラーから授与されとてもいい雰囲気でした。サインを交換したり、記念写真撮ったりして素晴らしいフェアウェルパーティーを最後に今回のキャンプが終了しました。

国を超えて親しく


 第2回「けいはんな国際中学生キャンプ」も素晴らしい内容だったと思います。是非次回も大勢のキャンパーが参加してくれることを期待しています。参加者の皆さん、ご父兄、そして留学生カウンセラーの皆さん、京都府立大ACTR関係者の皆様にスタッフ一同感謝です。

また参加したい!







第12回子ども科学キャンプを開催しました

2013年08月24日 | 活動報告
第12回けいはんな子ども科学キャンプ開催

日 時: 2013年7月28日(日)~30日(火)(2泊3日)
場 所: けいはんなプラザ・ラボ棟3F 子ども科学実験室
参加者: 24名(小学4~6年生)
定員の約3倍の応募があり、抽選により選抜した
指導者: 当協会スタッフのほか7名のキャンプカウンセラー
キャンプカウンセラーの内訳は、エクワドル、イギリス、スリランカ、ハンガ
リー、ブラジルからの各1名と日本人2名

新しい友達できるかな


共 催: (独)宇宙航空研究開発機構
その他: 本事業は京都府山城教育局のスタンプライー事業の一環として開催した


   
光ファイバーはどうして遠くまで情報を伝えられる?

テーマ: 
①鏡のはたらき、②光通信、③酸素の発生とはたらき、④バルーン・ローバー、
⑤葉っぱのひみつ、⑥力としごとの科学、⑦ラウンド・ロビン実験(参加者を5~6名の実験グループに分け、実験テーマで順に回るもの)

僕60キロの鉄の塊持ち上げられるよ



ラウンドロビンの実験テーマは以下のもの 7-1 顕微鏡による植物細胞の観察、7-2 太陽光発電パネルの実験、7-3 食塩の放射能強度の測定、7-4 葉緑素の光吸収スペクトル、7-5 各種食品のpH、塩分濃度、糖分濃度の測定
好きな料理を何回もおかわり

☆キャンプ終了後の受講者の感想
 ・非常に楽しかったようだ
 ・あっとゆう間の3日間でもっと長くやりたかった。  
  身近なテーマを測定器や顕微鏡で測定や観察するラウンド・ロビンは特に興味をもっうだ
ラウンドロビンはおもしろい実験を5種類も

☆カウンセラーの感想
 ・子ども達の熱心さ、理解力に驚いていた。
 ・子ども達との交流を通じて彼らも楽しかったようだ
   
もっと何日もやりたかった!

☆アンケートから
・その他のテーマについては特に偏りがなく、個々で興味の対象は異なっていた。
・子ども達のキャンプ後様子について、保護者の感想では非常に楽しかったようで、また参加させたいとの要望が多く寄せられました。

☆主催者から
・我々としては事故がなく、無事に終了したことをうれしく思った。
・今回の受講者は宿泊先のホテルでマナーもよく、注意事項をよく守ってくれた。
・熱心に講師の話に耳を傾け、鋭い質問をしていた
・参加者が鳥取や東京などの遠方からあり、喜んでいる。
・さらによりわかりやすく、内容も深めるべく努力をしなければと、身が引き締まる思いである。

第3回自然観察会開催

2013年08月09日 | 活動報告
第3回自然観察会」をけいはんな記念公園で7月27日(土)午後1時から3家族7人の参加者で開催しました。



スタッフの紹介の後、さえずりの小道をみんなで散策。先ず「イタチ萩」が出迎えてくれました。「この木はアメリカから来て日本へは砂防用、護岸用として大正時代に渡来した。」と瀬崎さんから説明を聞きました。



名前の由来となった暗紫色でイタチのしっぽを想像させる花は残念ながら5~6月に咲いてしまっていました。



山道を進んで行くとセミの抜け殻一杯あってその抜け殻から「ニイニイゼミ」「クマゼミ」「アブラゼミ」「ヒグラシ」「ツクツクボウシ」の見分け方を習いました。





抜け殻はいっぱいあってみんな1~2個採って観察しました。




次に記念公園のスタッフの位田さんが準備して下さった栗の幹をのこぎりで切る体験を全員でしました。


意外にも女の子が一番上手で驚きました。その後は切り取った幹を観察していろいろ説明を聞きました。



休憩の後ビジターセンターに移動して、森で採集した「ヤブツバキ」「サザンカ」「ヤマモモノ葉」「クマザサ」でクラフトをしました。



最後にレプリカ法で顕微鏡観察の操作を習って「細胞」や「気孔」を見ることが出来て大人も子供もみんな大喜びでした。暑さを忘れるぐらいおもしろかったです。



感想として多かったのは
「蝉の抜け殻で種類が分かるのはびっくりしました。」「丸太切りを体験できて楽しかった。」




「顕微鏡を操作する機会を頂き有難うございました。」「自然観察会は初めて参加しましたがとても有意義でまた参加したい。」




公開シンポジウム「科学者の社会的責任について考える」開催

2013年05月30日 | 活動報告
去る3月29日(金)午後2時~午後5時、公開シンポジウム“科学者の社会的責任について考える”が「けいはんなプラザ・交流棟」を会場に開催されました。これは昨年、京都大学が中心になり発足させた ≪けいはんな文化・科学コミュニケーション推進協議会≫ (代表:京都大学大学院教育学研究科 高見 茂教授)が主催するものであり、委員の一人である筆者がそのコーディネーターを務めましたので、その概要についてご紹介します。
シンポジウムのオーガナイズを命じられたのは、過去に文部科学省委託の「サイエンス・メディエーター制度の推進」という政策提言プログラムを調査研究代表者として担った経緯があるからです。お引き受けするに当り、(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター長で政策研究大学院大学教授の有本建男氏をメインスピーカーとしてお呼びすることとして、さらに学研都市域で活躍されているNEC中央研究所C&Cイノベーション推進本部長の山田敬嗣氏、同志社大学心理学部教授の内山伊知郎氏のお二人をお迎えしてシンポジウムを構成することにしました。
春休みの学会シーズンでもあり、大学を中心とする研究者の参加は期待できないため、あらかじめ主旨を説明したメールを各分野12名の方に送り、事前に意見を伺った上、討論の経過をみながら、それらを紹介する準備もして臨みました。当日の参加者は78名で、一般市民ならびに地元教育研究機関の方々(学研都市推進機構をはじめ、国際電気通信基礎技術研究所、日本原研関西研究所、国会図書館、地球環境産業技術研究所、奈良先端科学技術大学院大学など)が約半数ずつという構成でした。

まず、コーディネーターを務める筆者が、現在、大学教授をはじめとする科学者が如何に市民から信頼されていないかということと、それが風評に代表される様々な社会的歪を生んでいることを具体的なデータで示した後、スピーカーからの話題提供をして頂きました。
メインスピーカーの有本氏は2004年、文部科学省科学技術・学術政策局長時代に科学技術白書を初めて「科学と社会との関係」を軸にまとめられた方ですが、1999年のブダベスト会議(ユネスコとICSU主催)の「21世紀のための科学世界宣言」の中の「社会における科学と、社会のための科学」をベースに、科学と社会の関係が新しい局面を迎えている国際的な流れを意識して議論が進められました。
大学や学協会が内閣府や文科省からの「街へ出ていって市民に説明しなさい」という通達のもとに実施している「アウトリーチ活動」もその一環ですが、その現状を受けて、山田氏は企業におけるCSR活動(Community Service Responsibility活動)が市民に対して何かをするということでなく、市民から企業が教えて貰うのだという姿勢に移行しつつあり、そうでなければもはや社会的イノベーションは進まないと表現され、学研都市で具体的に実践している内容を紹介されました。また、内山氏は心理的な側面が新しい科学・技術が社会的に受容される過程で重要であることを発達心理学の研究を例に紹介されました。これらの話題の中で、会場の女性研究者(食品科学)から保健栄養食品を開発する場合に、美味しさから入って行くという発言もあり、共感を呼ぶとともに、あらためて各スピーカーによる話題提供の意図を理解した人も多かったように思います。

コーディネーターの方針として、メインスピーカーと言えども壇の上にあげず、参加者は全て同格という考え方で、講演途中でも質問が許されるように運んでいましたので、はじめから活発な質疑が交わされました。このような運びをほかで体験された方は少ないと思われますが、そのお一人から「重要なテーマについて、多様な視点から貴重なお考えを伺うことができ、本当に勉強になりました。また、あのようにフラットな形で運営されるシンポジウムを聴講するのは始めてでしたので、その点でも良い経験をさせていただきました」というメールを頂戴しました。
参加者の市民の中から「科学・技術のことを市民が全部知るのは無理だ」だという発言がありましたが、少し趣に差があるものの同じニュアンスのご意見が市民(女性)ならびに大学関係者から寄せられたことも紹介させて頂きました。これはもちろん、アウトリーチ活動やCSR活動は意味がない、ということを意味しているわけでなく、科学・技術に対する意識の持ち方が問題だということです。
参加者の発言が相次いだことを先に書きましたが、このような場の有効性は参加者の発言数や発言の誘発率で評価されます。その点、今回の発言率はゲストと主催者を除いて18%で、実に参加者の5.3人に1人が発言されたことになります。また、定量的評価は難しいものの、発言の誘発率もかなり高いものでした。行政や大学等が主催するものでは、形式を整えて、実施したという記録を残すためだけにやっているものが多いのですが、本シンポジウムの主旨から言ってもこのあり方を是非見習って頂きたいと考えています。
全体としては、有本氏の発言の中にもありましたが、科学と社会の関係が新しい局面を迎えているとして、科学×人文・社会科学という国際的な流れ(トランス・サイエンス時代の科学技術)を念頭において討議が展開されました。
また、真面目な大学の研究者の平均的な姿勢として「責任を感じるがそれを果たせないもどかしさを抱えている」という面があり、それが「良い方法があれば教えて欲しい」という声もありました。ここで討議の内容を全てお伝えすることはできませんが、内容は実に濃く、重いし、有本氏の講演の基調であり、国際的流れである「科学技術と社会・政治・政策をむすぶ (Bridging Science and Society)」 において一般市民もまた重要な役割を期待されていますので、真面目な科学者の悩みも含め、あらゆる階層をこえて前に歩を進めるべきであり、この辺りが今後の主催者である協議会の活動の進むべき方向であるようにも思いました。
このシンポジウムは映像も含めて京大の高見教授のもとで記録されており、主催者である推進協議会の今後のあり方を検討する材料にさせて頂くことになっています。なお、各スピーカーが準備された配布用の資料に若干の残部がありますので、ご希望の方は当協会までご請求下さい。

補足: けいはんな文化・科学コミュニケーション推進協議会は京都大学大学院教育学研究科の高見 茂教授を代表にこれからの科学コミュニケーションの新しい形の創造を目指してその社会的仕組み、方策を考えるために2012年度に設立されたもので、京都大学のほか、京都府、周辺自治体の教育委員会、学研都市に所在する主要研究機関から選出された委員が定期的に会合を開いて協議をすすめています。
以上、けいはんな文化学術協会のブログの場を借りてご紹介させて頂きます。
        2013. 4. 25 けいはんな文化学術協会理事長 高橋 克忠

第166回けいはんなサロン「大規模スーパーにおける食品の品質検査」開催

2013年05月21日 | 活動報告
第166回けいはんなサロン - 暮らしの中の科学を考える -「大規模スーパーにおける食品の品質検査」が次の通り開催された。
日 時:平成25年4月12日(金) 午後2時~4時30分
場 所:けいはんなプラザ・ラボ棟2F交流室「天の川」
話題提供者:(株)生活品質科学研究所 中央研究所 主席研究員 黒瀬 直孝 氏

誰もが関心を寄せる身近なテーマであり、50人近い市民の方々が参加された。黒瀬氏の所属される研究所は大型スーパーの代表であるAeon (イオン)の一部門で、そこで販売されている商品の安全性を検査しているところである。食に関する安全と安心を届けるのが責務であるとの立場から、消費者ニーズに応えるために他ではなかなか真似のできない独自の検査体制や設備、企業内での商品規格設定、さらに固有の商品(トップバリュ)を開発する部門を整え、大変な努力をしておられることを示された。

まず、検査すべきものとして、(1)食中毒菌などの微生物検査、(2)添加物や残留農薬、アレルゲンなどを分析する理化学検査、(3)セシウムに代表される放射性物質の検査、(3)表示の検査、の4種の項目に分類して実施していることを述べられたが、社会的責務という立場を常に意識されていて、現行法のもとできちんと責任を果たすということが良く伝わってきて、参加者に非常に好感をもって迎えられたという印象である。講演では昨今の関心事であるアレルゲンならびに放射性物質の検査に話題を絞って紹介された。いずれも前置きとして最低限の科学的解説をされたのが聴衆にとって非常に理解の助けとなり有益であった。また、参加者にとっては実際にスーパーの「イオン」ではではこんなことまでやっているのかという驚きとともに、安心感を与える契機になったと思われる。

話の中では、国の基準があるにも拘わらず、アレルゲンや残留農薬等についてさらに厳しい条件を企業基準として課し、それをクリアーしたものだけを販売するという体制をとっておられることを述べられたが、これは筆者はもちろんのこと始めて聞かされた人が多かったのではないだろうか。
アレルゲン検査はELISA法やウエスタンブロット法などの最新の化学的および生化学的手段を用いて行われている。そうでなければならないのは当然としても、こうした検査を他の小売店も実施しているかどうか気になるところである。しかし、個人商店など設備投資に余力がないところでは到底実施できないほどに多数の項目があることを実感させられた。もし、これが自主規格でなく法的に義務づけられた場合には自営業などの小規模商店ではもはやついていけないのではないかと危惧される。
なお、アレルギーは成長とともに治癒する場合も多いが、このような検査をしていることがアレルギー疾患で苦しむ人に強い安心感を与えている半面、検査で不合格のものを販売からはずすということが、アレルギー症状の自然治癒を妨げていることにならないかという良心の痛みも抱えておられることを正直に話されたのは印象的であった。この種の講演ではこれだけやっていますよというPR的な側面が強調されがちだか、その点については研究者らしく謙虚な姿勢が聴いていてとても清々しい気分にさせてくれた。

ただし、筆者には二つの気になる点があった。一つは遺伝子組換え食品ゼロを目指すというポリシーが社内で有力だということである。たしかに一般市民の遺伝子組換え食品に対する不安感は払拭されていないが、この姿勢は極論すれば、「この豆腐は原料として遺伝子組換え大豆を使っていません」と商品に記載する設け最優先の悪徳業者に類するものになりかねないことを心配する(現行法では遺伝子組換え大豆を使った豆腐はそのように表示する義務があるが、不使用のものは表示義務はない)。もう一つは企業の方針として放射性物質が含まれないもののみを扱うという考え方があるという点である。講演の中では丁寧にカリウム40に由来する自然放射能が海藻など種々の食品に含まれることを紹介されたが、もし、「当社では放射性物質を含む食品は販売しておりません」と市民に対して言えば、誰もがそれは危険だからそのようにしているととるはずである。
上記の二点はいずれも最近の市民におけるゼロリスク志向の意識を反映していることで共通している。近年このゼロリスク志向は様々な社会的歪を生み、場合によってはパニックを惹き起こすかもしれないということで問題視されている。ここで筆者が危惧するのは遺伝子組換え食品、放射性物質のいずれであっても、上記の姿勢が消費者ニーズに沿ったものといいながら、一方でこのゼロリスク志向を助長するのではないかという想いである。
スーパーのイオンあるいは(株)生活品質科学研究所にそのような意図はないはずであるが、真の企業における社会的責任(CSR:Community Service Responsibility)とは市民と一体になって未来社会を建設する責務を果たすことにある。折角の真摯な取り組みが単に消費者ニーズに迎合するようにとられたら、却って企業のイメージを悪くしてしまうのではないか危惧する。
3月29日に当協会と京大教育学部の共催で開いた「科学者の社会的責任について考える」というシンポジウムは実はこのことを中心的なテーマとして問うたものであり、ゆがんだ教育政策を指摘してその是正を図ろうというものであった。容易に風評に流される市民を育てる教育のゆがみに無批判に追随し、利益を最優先するのではなく、ゼロリスク志向が様々な社会的歪を生んでいることを重くみて、市民と手を携えてよりよい社会を建設することこそ企業に求められる社会的責任であり、こうした感想を想い抱いたのは筆者だけではないと考える。
(けいはんな文化学術協会 理事長 高橋 克忠)



第11回けいはんな子ども科学キャンプ開催

2013年05月11日 | 活動報告
第11回けいはんな子ども科学キャンプ開催
 春休みの3月27日から2泊3日、参加者21名で小学生高学年を対象に開催しました。会場はいつものように「けいはんなプラザ・ラボ棟」の子ども科学実験室で、「けいはんなプラザ・ホテル」に宿泊しました。
新しい友達と仲良くなれるかな?         みんな真剣に実験始まり!

このキャンプには第1回の時からのコンセプトとして、日頃疑問に思っていることやまた何気なく見過ごしている現象を観察し、そこにある法則性を見つけ、またそれが普遍的であるかどうかを確認するという科学のあり方を基本にして科学的思考習慣を育んでいただきたいという思いが第一にあります。また2番目は毎回参加してくれる優秀な外国人キャンプ・カウンセラーと共に3日間を一緒に過ごし、実験を楽しみ、出身国についてのプレゼンテーションを聴くことにより国際性を身につけていただきたいことで、今年も5人の優秀な留学生と1名の日本人学生が協力してくれました。そして3番目は初めて出会う友達とホテルに泊まり、協調性と自主性を養うことであり、科学実験をするだけでなく、文字通り寝食を共にすることで有意義な3日間を体験していただきます。なお、今回のキャンプ・カウンセラーはブルガリア、ハンガリー、日本、ケニア、リトアニア、スリランカから各1名、計6名に担当して貰いました
葉っぱで笛を作ってならしたの初めて           顕微鏡の操作って楽しい

実験は90分が単位で、担当スタッフがテーマにそってオリジナルの装置や器具を準備し、それぞれ理解しやすくするための工夫をし、キャンパーたちに与えて実施しています。前半は全員が同じ種目を行うテーマ実験、後半は少人数に別れて行うラウンド・ロビン実験を楽しみました。テーマ実験は年度の始めにスタッフ会議で討議して決めますが、今回は、船や飛行機における浮力と揚力の基本、顕微鏡観察を通して観た葉っぱの構造や生化学的機能の仕組み、簡易な星座早見表の工作をベースにした宇宙科学入門、カイロの発熱を実験器具の中で再現した酸化反応の学習、そして銅線による簡単なモーターの製作とそれをもとにしたリニアモーターカーの科学、を楽しみました。
   なかなかうまく回らないよ            いっぱい美味しいものあってどれにしようかな

後半のラウンドロビン実験は高倍率顕微鏡、ガイガーミュラー放射線量計測器、紫外・可視分光光度計、高感度デジタルマルチメーターなど、実験室の定置器具・装置を用い、3~5人の少人数に分かれて実施するもので、各種食品の塩分・糖分・pHの測定、食塩の放射能強度とカリウム含量の関係、白金と半導体サーミスタにおける電気抵抗の温度依存性の違い、葉っぱから抽出したクロロフィルの可視吸収スペクトルの測定とそれにもとづく光合成の学習など、担当のカウンセラーの指導のもとで行いました。
ハンガリーに行ってみたいな           はい!10秒 何度?

ハードなメニューのようですが、朝は8時から夜は9時前まで誰一人落後するものもなく最後まで楽しむことができたのはキャンプ・カウンセラーの細やかな気配りと担当スタッフの行き届いた準備によるものです。実験の合間の食事はキャンパー、カウンセラー、スタッフも共にホテルで用意されたものをとります。さらに食事後の休憩時間を利用して留学生によるそれぞれの母国の地理・歴史・文化・風俗習慣の紹介があり、キャンパーだけでなく、スタッフも熱心に聞き入っていましたが、子どもたちが積極的に手を挙げて質問をする姿勢がとても印象的でした。
これが飛行機の飛ぶ仕組み?           ガイガーミュラー放射線量計測器初めて見たよ

ペアレンツアワーは開会式の直後のテーマ実験と閉会式(修了式)の直前のラウンドロビン実験を当てましたが、保護者の方々も熱心に見学して下さいました。修了式は「とても楽しかった. 次回も楽しみにしています」、「もっとキャンプの期間を長くしてほしい」などキャンパー全員から感想が一言ずつあり、さらに「スタッフやカウンセラーの質問に的確に答え、自分から活発に質問をしているので感心した」などカウンセラーからも挨拶があり、グループ担当のカウンセラーから全員に英文の修了証(Certificate of Achievement)を授与して終了しました。いつもの光景ながらカウンセラーと抱き合って別れを惜しむ子どもたちの姿がスタッフの労苦をとても癒してくれました。
ジュースって糖分多いんだね            分光光度計で測るといろんな事分かるね

事後のアンケートで保護者からは「人見知りな性格ですが、初めて会った同じ班の子とお話しすることが出来自信がついたようでした」、「見るだけでなく実際に手を動かして行う実験の楽しさを知ったようです」、「刺激をたくさん受けたようで帰ってから積極的にPCで調べたり少し違った事に興味を示すようになった」、「今回3回目ですが毎回大きく成長して帰ってくる姿をとても頼もしく思います」、「プログラムが楽しかったらしく新しい実験にも興味があるようで、また参加させていただきたいと思います」、「積極的になり、顔つきがしっかりしました. 以前から科学が好きでしたが科学好きに拍車がかかりました」、「親から見て変化は感じ取れませんが、良い刺激を受けたと思います. 本人は大変良かったと喜んでいます」、「タラさんに教えていただいたPC操作と熱心に取り組みました」、「カウンセラーの方々の出身国についての話を親子で話し合い、今まで知らなかった国を少し近く感じていつか訪れてみたいと言っています」、「頂いた資料を広げ直し、嬉しそうにノートに張り付けました」、「ノートにはメモや表が書き込んであり、一つ一つの実験に興味を持って熱心に取り組んだ様子が見て取れました」などの回答をいただきました。
多くの要望を受けて次回のけいはんな子ども科学キャンプは7月28日から30日に決定しました。皆様のご参加をスタッフ一同お待ち申し上げます。

      2013. 4. 20.

第165回けいはんなサロン開催

2013年05月06日 | 活動報告

第165回けいはんなサロン開催
・日時:平成25年3月15日(金)14時~16時30分 
・場所:けいはんなプラザ交流棟2F「天の川」
・テーマ:人に“やさしい”車とは
      ~車はどこまで安全なのか?~
・話題提供者 松浦 譲氏 大阪産業大学名誉教授
元工学部交通機械工学科自動車性能・特性研究室

<概要>
現在世界中で10億台を越える車が普及している。人類は利器として氏に利便さを享受しているが、反面凶器として車社会に諸問題を惹起している。その主たるものとして次の
4点が挙げられる。①資源やエネルギーの消費、②排出ガスによる大気汚染や温暖化。
③騒音・振動公害や交通事故、④車両やパーツ類の廃棄等である。
これら諸問題への取り組みとして環境と車と人間との調和が必要で、地球に自然に環境に
やさしい車、人にやさしい車が求められている。


まず松浦氏は人にやさしい車とは 1.人に対して思いやりがあり不便を感じさせない心配りの行き届いた車 2.操縦ミスを起こさない、気を遣わない、操作が容易な車 3.人に危害を与えないクリーンで事故を起こさない安全な車であると定義付けられた。
 その上で交通事故の現状や推移のデータを示し特に高齢者の事故増加に焦点を当て解説があった。



交通安全施策として3E:工学(Engineering),教育(Education),規制(Enforcement)の理論をベースに道路環境-車-人間からの安全対策が紹介された。特に人を安全に包むやさしさとして車をぶつけない、ぶつからない運転支援システム、もしぶつかった場合車体の耐衝撃吸収やエアバッグ・シートベルト等人への対策等詳細に説明された。
この数年は多くの安全対策が講じられて車の安全性は格段に向上しております。5年以上前の車を運転している皆さん特に高齢者の方は今すぐ新車に買い替えがお薦めです。



<コメント>
高齢者の多い参加者を目にして開口一番“高齢者に大切なことは「きょういく」と「きょうよう」です”と話されなんだか固い話だなと思った。しかし“今日行く”ところがある、“今日用”がある事が大事です。暇を持て余す高齢者にならないような生活に心掛けて下さいとの主旨だった。見事なアイスブレークで即座に会場の雰囲気が和らいで楽しい話題が提供された。安全対策で詳しい説明があったが例えば如何にシートベルトの機能が向上していても実際に試すわけにもいかず実感できないもどかしさがあった。永年に亘る車に対する氏の深い思いが伝わってきた。





第164回けいはんなサロン「お湯と水で作動するポータブル型小型発電システム」開催

2013年03月04日 | 活動報告
第164回けいはんなサロン開催
  平成25年2月15日(金)14時~16時30分
   場所:けいはんなプラザ交流棟2F「天の川」
   テーマ: お湯と水で作動するポータブル型小型発電システム
   話題提供者:アルバック理工株式会社 五戸 成史市
当システム開発の背景は、化石燃料の枯渇が懸念され、さらにCO2 による地球温暖化が進むなか、新たな発電の仕組みが必要となってきていることにある。話題提供者が代表を務めるアルバック理工株式会社(本社:横浜市)では、未利用で廃棄されるエネルギー、とりわけ200℃以下の低温度領域の熱を回収して、これを電気エネルギーに変えるシステムを開発した。

熱を電気に変える方法の一つに物理学でいうゼーベック効果を利用するものがあり、これはすでに草津温泉でフィールドテストが実施されていることが紹介されたが、今回のものはこれとは異なり、さらに発電効率の良い蒸気発電を基礎技術とするものである。既存の火力発電と原理は同じに見えるが、タービンに代えて小型発電に適したスクロール型の駆動装置を開発し、これを採用したところが特徴とのことである。

まず、未利用で廃棄されている低温熱源にはどんなものがあるかを詳しく述べられた。具体的には工場等の排熱、すなわち製造工程で使用した冷却水は廃棄されるときには70~80℃に達しているし、ゴミ焼却機の炉や煙突はさわれば火傷をする、あるいは温泉で湧き出る湯の大部分は湯船に導かれるのではなく垂れ流しの状態であること、また、太陽光は発電に利用されるものの、そこに含まれる熱は利用されていないこと、などの事例である。



近年かなり普及してきている太陽光パネルは雨天の日や夜間は稼働しないため、1日当たりの平均発電時間は3時間ということである(太陽光発電協会の資料による)。新規に開発した発電装置は日照とは関係ないため、24時間稼働で太陽光発電の8倍、12時間稼働で4倍に及ぶことになる。講演では自動販売機よりも少し小さな発電装置の映像とともに、テレビで放映された鹿児島の焼酎メーカーにおける排熱を利用した6.3kWの発電の模様や菓子工場における発電の実例などが紹介された。


資源のない日本ではエネルギー問題についての関心が高いものの、今回のテーマのように捨てられていたエネルギーを活用しようという発想やその実用化のための取組みが乏しい。参加者の多くからこうした点で今回の小型発電システムに大きな期待が寄せられ、それに関連した質問や提案が続出し熱い議論が展開された。特に小型ごみ焼却炉から出る熱を利用した発電では1時間当たり100kgのごみを焼却すると約3.6kWの発電ができることに大きな注目が集まった。参加者の多くが新しい視点での環境問題への取組みに感動を新たにしたサロンであった。



お湯と水で作動するポータブル型小型発電システムに関する精華町への提案:

上記のテーマで紹介されたシステムは小さな事業所が導入するには手ごろな規模のもの(価格は800万円)であるため、参加者の一人(元消防署長の浅田氏)が精華町へとりついで下さり、2月26日に町長室で木村 要 町長と関連部局のお二人に当協会の高橋克忠理事長、当協会技術移転グループの角野建作会員、それに精華地区まちづくり協議会の廣瀬亮二会長(いずれもが精華町環境プラットフォーム・メンバー)がお会いした。



けいはんな文化学術協会は従来から、精華町は国家プロジェクトである関西学研都市の中核ゾーンを擁し、なおかつ人口が36,000人で、何をするにも適切なサイズの街であるため、このことを意識して他の自治体のモデルになるような先導的取組みをすべきであると主張している(将来計画策定におけるヒアリング、環境プラットフォームの会合など)。その具体的な方策の一つとして、(1)上記サロンのテーマである小型発電システムを役場内に設置して、その発電エネルギーで風呂を沸かし「精華温泉」として町民に開放すること、(2)環境保全に関していつも町民から提起されている竹林の繁茂への対応として、これを資源として竹パルプ紙を製造し、役場内で使用する紙を全てこの竹パルプ紙とすること、の2点を提案させて頂いた。


環境問題では「川をきれいに」とか、「里山の保全」とか、はたまた「生ごみの堆肥化」などはどこの自治体でもなされている取り組みである。一方、エネルギー問題については原子力発電や再生可能エネルギーの導入など生活実感とは程遠い次元の議論に終始しているという現状を立ち止まって考えてみる必要があるというのが私たちの主張である。資源の乏しい我が国にあって、一人一人の生活周辺でエネルギーをどれだけ生産しているかということをもっと意識しなければならない、言い換えれば環境ならびにエネルギー問題をいう時になぜエネルギー自給率を考慮しないかという問題提起でもある。ちなみに環境意識が非常に強いドイツでは、国民議会(国会に相当するもの)議事堂のエネルギー自給率がなんと80%にも達する。国が率先して見本を示すわけだから国民の意識も高くならないわけがない。今回の私たちの精華町への提案は、行政が主導してそこに住まいする人々がグローバルな視点での環境意識を持つように仕向ける必要があるということに他ならない。



今回はいつも真摯な対応をされる木村町長の人柄を知っての面談であるが、この日も生活環境部の担当者2人を同席させ、持参した資料や熱電変換装置を用いた実験を見ながら真面目に耳を傾けて下さったことに感謝している。財政状況の厳しい折から容易に実現することは無理としても、同席された担当部局のお二人に適切な検討を指示しておられたこともあり、地方自治体のあり方としての精華町のあらたな展開へつながる一つの契機となることを念じているし、遠くない時期に具体的な策が講じられることを期待している。


次回165回は「人に”やさしい”車とは~車はどこまで安全なのか?~」をテーマで平成25年3月15日(金)午後2時~4時30分
けいはんなプラザラボ棟2階「天の川」で開催致しますのでおそろいでご参加いただきますようお待ち申し上げます。

第10回「けいはんな子ども科学キャンプ」開催

2013年01月26日 | 活動報告

第10回けいはんな子ども科学キャンプを12月27日~29日の3日間、けいはんなプラザ・ラボ棟の子ども科学実験室で開催しました。このキャンプは身近にある材料や現象を通して科学的思考習慣を育むことを目的としています。留学生を中心とするキャンプ・カウンセラーの協力のもとに、2泊3日の会期中、朝8時から夜9時まで、小学4~6年生の男女計25名のキャンパーが誰一人として落後するものもなく予定の実験プログラムをやり遂げました。



全体で1時間30分を単位とする10コマの実験時間を設け、1.船が浮く原理(浮力と圧力の関係)、2.葉っぱの組織と細胞の観察、3.磁石の科学とリニアモーターカーの実験(以上、第1日目)



4.天文科学(星座の早見表の作成)、5.カイロの製作と発熱反応の化学、6.飛行機が飛ぶ原理(揚力の科学と模型飛行機の製作・滑空飛翔実験)、(以上、第2日目)



と楽しい実験が続き、2日目の午後3時からは特定のテーマを3人~5人の少人数で実施するラウンド・ロビンに移りました。これは主として留学生の指導のもとに実施しますが、


今回は7.各種食品の糖分・塩分濃度とpHの測定、8.植物細胞と微生物細胞の顕微鏡観察、9.金属と半導体における電気抵抗の温度依存性、10.市販食塩の放射能強度測定、11.赤インク、葉緑素、お茶カテキン、ぶどうジュースの可視ならびに紫外吸収スペクトルの測定、という種目を全員が楽しみました。>



この間、食事後の休憩時間には各国からの留学生による母国の地理・歴史・文化などの映像を使った紹介があり、キャンパーたちは目を輝かせて聴き入っていました。



最後に保護者の同席のもと、修了式を行い、キャンパーひとりひとりに感想を述べてもらった後修了証をお渡しして予定を終えました。




第163回けいはんなサロン「微生物~小さな命と大きな働き」

2013年01月26日 | 活動報告
第163回けいはんなサロン開催
  平成25年1月18日(金)14時~16時30分
   場所:けいはんなプラザ交流棟2F「天の川」
   テーマ:微生物 ~ 小さな命と大きな働き ~
   話題提供者 小川隆平氏 崇城大学(旧名 九州工業大学)名誉教授・同大学理事

はじめに、「微生物には人間の為になる善玉菌と、病気の原因になったり、ものを腐らせる悪玉菌がある。本日は、善玉菌に絞って日本人の研究成果を中心にお話します」と判り易いまえおきから始まり、参加者は頷きながら耳を傾けた。
初めてサロンにご参加いただいた方に
 
微生物の定義は人間の肉眼では見えず、顕微鏡によって観察できる程度の大きさの生物をさす。細菌、放線菌、酵母、カビ、微細藻類などで、ウイルスは含めない。大腸菌は約30分で2倍になり、脚光を浴びているiPS細胞の72倍も早い増殖速度を持つと説明があった。実感は沸かないが凄い速度のようだ。(1個の細胞が24時間後には100兆個になる計算)

暮らしと微生物の話題では酒造りを例にとり、火落菌という菌が日本酒の醸造において邪魔をすることが発見されたのを機に、その原因物質である火落酸(メバロン酸)が心筋梗塞の主要な原因となるコレステロールが作られる時の中間体であることがつきとめられ、それがさらにコレステロール合成抑制剤(三共製薬のメバロチン)の発見に繋がったという話が紹介された。これらはいずれも最先端を行く日本の微生物学研究者の成果であり、ペニシリンとともに奇跡の薬と称され、人類の健康に大きく貢献しているとのことであった。

また世界に認められた日本のだし(コンブ、しいたけ、かつお節由来のうまみ成分)は、現在では全て微生物によって生産されていることからも、微生物の働きは素晴らしいことがわかる。小川氏によると、これは Microbes can do anything !(微生物に頼めば何でもやってくれる!)というらしい。さらに環境分野への貢献や光合成微細藻類光合成類にも触れられ多岐にわたる解説があった。氏が30年程前に取組んだ微生物から工業原料としてのエチレンを作る研究の苦労話は、現在の潮流である石油という化石資源に依存しない再生可能エネルギー資源の開発につながるものであり、大いに参加者の興味を惹いた。

最後は「これやこの ちさき生きもの ありてこそ この世はつねに 栄えきにけり」と先輩の歌を披露されて品格のある話題提供で締めくくられた。この間活発な質問や意見が交わされ熱い雰囲気で活気に満ちた楽しいサロンであった。40名超の参加者の多くは「小さな命の大きな働き」に改めて感銘を受けた様子であった。


次回のご案内
・日時:平成25年2月15日(金) 午後2時~4時30分
・場所:けいはんなプラザ交流棟2F「天の川」
・テーマ:お湯と水で作動するポータブル小型発電システム
・話題提供者:五戸成史 氏
  アルパック理工株式会社代表取締役



1月18日の第163回サロン「微生物 - 小さな命と大きな働き - 」で、参加者のお一人から「自然農法の田んぼでとれたお米と化学肥料を施した田んぼでとれたお米とどちらがうまいか?」という主旨の質問がありました。話題提供者の小川氏の回答を補足するかたちで、もう一度そのご質問に対する回答を書きおきます。


「自然農法で栽培したお米はおいしいか?」
標記の質問に対して小川隆平氏は、まず「その質問には科学者はお答えできないだろう」と言われました。それは質問の中にある「うまいか?」という言葉は、講演の中で述べられた「グルタミン酸ソーダ」(昆布の成分)、「グアニル酸」(シイタケ)、「イノシン酸」(かつお節)に由来する「うまみ」のみを指すのでなく、それ(a.うまみ成分の量)に加えて、未知物質による味の作用(相乗、相加および減殺効果)や歯ごたえなどの感覚(b.官能試験)的なものを含むおいしさを指しており、実はそこまでの学術的な研究はなされておらず、まず科学者は答えられないと言う意味です。さらに上記できちんと答えを出そうとすれば、最低2年の実験期間が必要で、1年目は自然農法栽培を「田んぼA」で、化学肥料施肥栽培を「田んぼB」で行い、2年目には逆に自然農法栽培を「田んぼB」で行い、化学肥料施肥栽培を「田んぼA」で行い、両方法で収穫したお米の味を調べて始めて比較ができるとも答えられました。つまりこれが科学的立場に立った最低限の方法です。
したがって、「科学者には答えられない」というのは、田んぼAとBを入れ替えた栽培も含め、上記(aとb)の方法できちんと味を調べた科学者はいないということで、これに関して現在の科学はそこまでは進んでいないということです。したがって、私が申し上げたように、消費者(市民)が自分の判断でうまいかまずいかを決めるしかないわけです。

なお、a.のうまみ成分の含量を調べることは容易なことです。化学分析法は精度が高くごく微量でも検出できますから、きちんと分析すればその違いを数値で正確に表示できます。
問題はb.にあります。b.の官能試験というのは「感じ」という主観的な要素を含むものであり、それは科学の方法論にはなじまないものです。もうけ主義の補助食品業者が販売するあるサプリメントについて、ある人は「効いた」といい、別の人は「効かなかった」というのと同じです。自分で判断しないとすれば判断を他人に委ねることになりますが、それが風評や過信を生むもとになっていることに気づいてほしいわけです。自分で判断できる市民が育つように支援するというのが主催者である当協会の使命であり、このサロンの目的です。
以上、表題にある前回のサロンにおけるご質問に対する回答を、話題提供者の小川様の了解を得て補足しました。
引き続き、このサロンで皆様とお会いできることを楽しみにしております。
  けいはんな文化学術協会  理事長   高 橋 克 忠