Belle Epoque

美しい空間と、美しい時間

ラブレー独り芝居「借金礼賛」

2009-05-23 | art... bijutsu
京都大学人文科学研究所アカデミー関西日仏学館共催の、ラブレー独り芝居「借金礼賛」を観に行きました。
場所は、関西日仏学館。
京大構内の『ラトゥール』で早めの夕食をとってから(学生でさえ存在を知らない人が多い穴場です。居心地良く&おいしかった)、道路を渡って会場へ。

フランスの演劇は、意外と歴史が浅い。以下、夫からのレクチャーです。

フランソワ・ラブレー(1483-1553)は、フランス・ルネサンス期の医師であり作家でした。
(同時代にはかのノストラダムスがいます。彼も医師でした)
ラブレー以前のフランス語は書き言葉としては市民権を得ておらず、ラテン語・ギリシャ語の書物が常識でした。
フランス語を話し言葉から書き言葉にした画期的な活躍。ラブレー以来、「フランス語ができた」といえる功績です。

それまでは、カトリック教会によって思想・芸術がコントロールされていました。
フランス演劇に500年しか歴史がないのは、そういうわけです。
キリスト教の「神中心」教義から、ルネサンスの「人間(中心)主義=人文主義」に文化が動いた大きな過程に、ラブレーの痛烈なキリスト教批判の作品が加担していました。
この精神活動が、後にフランス革命への導火線になってもいます。

ちなみに、「人道主義」と「人間(中心)主義=人文主義」は全然違うとのこと。
人道主義humanitarianismとは自己中心主義egoismの対極にあり、
人間主義humanismは神中心主義theismの対極にあります。


さて、ラブレー『パンタグリュエル』他からテキストを抽出し、三部構成にて独り芝居を演じたのは、ディディエ・ガラス(←クリックで演目の動画が見られます)
フランス演劇においては映画俳優を目下に見て舞台役者を実力者であるとする空気がありますが、
(フランスにいた時分に役者のたまごさんたちと話しているとき、そんな話をよく聞いてました)
ディディエ・ガラス氏はその演劇界のトップを極めた人。
10年前の日本滞在中は、能や狂言の魅力にはまったりもしています。

鎌倉時代~室町時代に完成している能にくらべたら、フランス演劇500年は、あまりに若い・・・。
自国の演劇界で頂点を極めた彼が日本伝統芸能にはまるのも必然だったのかも。

それにしても、16世紀のフランス語テキストの演劇。
聴いて理解できるのかな?
と不安でしたが、意外と問題なしでした。
流麗なフランス語の発音と発声、目を見張るくらい素晴らしかった。
豊かな音域と声量、明瞭な発音、まあ正直いって判らない名詞も多かったのですが、とても聞き取りやすかった。
テンポは、まるで音楽でした。素晴らしい舞台でした。

(本日5月23日16時から、大阪のアリアンス・フランセーズで同じ演目があるそうです。お近くの人はぜひ)

ラブレーの『パンタグリュエル』は、岩波文庫で和訳が買えます。
わたしも持っていますが、まあなんとも荒唐無稽なお話で・・・。
「訳は不可能」といわれた由来がよくわかります。

その作品を最初に訳したのは渡辺一夫氏。
大江健三郎氏、加藤周一氏らが彼に学んでいます。渡辺氏は弟子をとらず、「私の若い友人」と呼んで、若者と親交を持ったそう。
彼が『パンタグリュエル』を訳したのは、日本の軍国主義(神道を基盤とする)への強烈なアンチテーゼとしてでした。キリスト教を批判するラブレーの著作を和訳することによって、その姿勢を表明するという、知的な曲芸技。

そういうことを解っていないと、ラブレーの芝居を観ても意味がないんだ、
とわたしはレクチャーを受けました。
ぜんぜんわかっていなかった。
良い学習ができました。京都の文化度の高さにまたまた感動、の体験でもありました。
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